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NASVA、2015年度の自動車アセスメント結果発表。最高得点はマツダ「CX-3」

対象11車種のうち5車種が「ファイブスター賞」を獲得

2016年5月27日 発表

 国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)は5月27日、平成27年度(2015年度)の自動車アセスメントの結果を公表。最高評価となる5☆(ファイブスター)を獲得した車種に与えられる「JNCAPファイブスター賞」の表彰式を東京都千代田区の東京国際フォーラムで実施した。

ファイブスター賞を獲得したクルマの開発者に送られた大型メダル

 1995年度から実施されている自動車アセスメントは、衝突試験などによる乗員保護性能、車両にテスト用のダミーをぶつけたときの加害性などによる歩行者保護性能、シートベルトリマインダー評価などを総合的に評価して、自動車の安全性能を評価する試験。現在の「新・安全性能総合評価」は、昨年度までと変わらず208点が満点となる。試験結果を公表することで、ユーザーがクルマを購入するときにより安全なクルマを選択できるような指針となり、自動車メーカーには安全なクルマ作りの研究開発をうながすことを目的に行なわれている。

 2015年度は前期試験5車種、後期試験6車種車種の計11車種で評価が行なわれ、トヨタ自動車「シエンタ(サイドカーテンエアバッグ付き)」、本田技研工業「ジェイド」「シャトル」「ステップワゴン」、マツダ「CX-3」の5車種がファイブスター賞を獲得。このうち最高得点はCX-3の188.2点となっている。この数字は2013年度の試験で189.7点を獲得した「クラウン アスリート/ロイヤル」の得点を上まわるものではないため、最高得点を更新した車種に与えられる「JNCAP大賞」は、前回に続き今年度も選出されていない。

「シエンタ(サイドカーテンエアバッグ付き)」
シエンタの開発に携わったトヨタ自動車株式会社 TC製品企画 ZP 主査 伊藤政信氏は、表彰式で「このファイブスター賞の受賞に値するような高い衝突安全性能を実現するため、コンピューターによる解析、あるいは実車による衝突試験を積み重ねてきました」とコメント
「ジェイド」
ジェイドの開発に携わった本田技研工業株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL室 主任研究員 印南泰孝氏は、表彰式で「(ジェイドは)弊社のシビック並みのコンパクトなエンジンルームを使いながら非常に重量が増加しており、これに対してのエネルギーマネジメントに開発中は大変苦労しました。このような賞をいただきまして、非常に報われた思いです」とコメント
「シャトル」
シャトルの開発に携わった本田技研工業株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL室 主任研究員 磯貝尚弘氏は、表彰式で「このクルマはステーションワゴンなので、荷物を積んで家族と遠くまで出かけてほしいと開発しました。その移動の際に、安全に現地まで行っていただきたいと開発陣全員で気持ちを込めて開発してきた結果として、このような形で賞をいただけたのかなと考えています」とコメント
「ステップワゴン」
ステップワゴンの開発に携わった本田技研工業株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 第10技術開発室 技術企画ブロック 主任研究員 齋藤葉治氏は、表彰式で「ステップワゴンの開発では家族のみんなが『行ってきます』と毎日のお出かけに出て、『ただいま』と安全・無事に家に戻ってくる。そんなシーンを思い描きながらクルマと技術の開発に臨みました。安心・安全なクルマ造りに終わりはないと考えており、さらなる安心・安全の進化、お客さまの期待にお応えできるような自動車開発に努めていきたいと思います」とコメント
「CX-3」
CX-3の開発に携わったマツダ株式会社 商品本部 主査 冨山道雄氏は、表彰式で「マツダは非常に小さい会社ですが、お客さまと一番近い会社になりたいと願っています。そのために、お客さまから『信頼してつきあっていける会社だ』と思っていただけるよう、さまざまな取り組みを行なっています。その1つが安全性能の向上で、CX-3の高い安全性能をもって、お客さまの人生の豊かさや活性化に貢献できるよう願って止みません」とコメント
各受賞車両の担当者に、自動車事故対策機構 理事長 鈴木秀夫氏(左の写真 左側)から大型メダル、タレントの眞鍋かをりさん(右の写真 左側)からトロフィが手渡された

「人間を信頼するということがマツダの考え方の中心」とCX-3の冨山主査

国土交通省 自動車局 次長 和迩健二氏

 表彰式ではファイブスター賞の受賞車両の発表と表彰状やトロフィーなどの授与のほか、国土交通省とNASVAの担当者から自動車アセスメントの概要や社会的意義などについて解説が行なわれた。

 初めに登壇した国土交通省 自動車局 次長の和迩健二氏は、交通事故による死者数が2015年は4117人となり、15年ぶりに前年から増加したことを紹介。負傷者も減少傾向にはあるものの絶対数が多い状況であると語り、この現状を受けて政府が3月に策定した第10次交通安全基本計画では「平成32年(2020年)までに死者数を2500人以下として『世界一安全な道路交通を実現する』」という目標を掲げていると解説。また、この基本計画の策定にあたり、安倍総理大臣から「不注意等のヒューマンエラーや身体機能の低下といった人に起因する事故を未然に防止するため、先端技術によって運転をサポートするさまざまなシステムの開発と普及に取り組むことに重点を置く」との発言があったことを明かし、自動車の先進技術開発に期待が高まっているとした。

 また、自動車アセスメントのほかにも、2014年から衝突が避けられない場合に自動でブレーキを作動させる技術など、事故を未然に防ぐ技術を評価する「予防安全アセスメント」を導入。今年度からは歩行者に対応した被害軽減ブレーキを評価項目に追加して、さらなる交通事故削減に取り組んでいるとした。最後に和迩氏は「自動車アセスメントの事業開始以降、今年で22年目になりますが、評価結果を見ると自動車やチャイルドシートの安全性は向上し続けています。国土交通省と自動車事故対策機構では、今後も自動車アセスメントをつうじて『より安全な自動車』の普及に努めてまいります」とコメントしている。

国土交通省 自動車局 技術政策課 国際業務室長 久保田秀暢氏

 続いて登壇した国土交通省 自動車局 技術政策課 国際業務室長の久保田秀暢氏からは、自動車アセスメントの概要などに加え、今年度の評価内容についての解説が行なわれた。このなかで久保田氏は「アセスメントの衝突試験結果を見ると、昨年度は少し下がりましたが、評価導入によってメーカーさんの開発が促進されて平均点では『より安全なクルマが造られるようになってきた』という状況。また、昨年度から自動ブレーキなどの予防安全性能の評価も加えており、ここで満点を取るクルマも一気に出てきました。自動ブレーキの装着率も飛躍的に増え、アセスメントの導入と公開によって評価され、より安全なクルマを選ぶという認識が広がってるという状況です」と分析した。

自動車事故対策機構 理事長 鈴木秀夫氏

 このほか、表彰式の前に挨拶した自動車事故対策機構 理事長の鈴木秀夫氏は、「自動車アセスメントは、自分がどんなに注意しても防げないような事故に遭遇したときに、クルマそのものが乗っている人、あるいは歩行者をどれだけ守れるかを評価するものです。これから表彰する最高評価のファイブスター賞を獲得するには、非常に優れた成績を収める必要があります。近年はメーカー各社の取り組みにより、受賞車種は確実に増えていますが、開始から5年が経過した現在でも、ファイブスター賞の受賞は限られた車種だけのものになっております。今後、各自動車メーカーで安全に関わる技術陣のみなさんのご努力により、衝突安全性能において高い評価を受けるクルマがさらに増加することを期待しています」と述べている。

マツダ株式会社 商品本部 主査 冨山道雄氏

 表彰式の実施後には、今年度の評価で最高得点を獲得したCX-3の開発主査であるマツダの冨山道雄氏による「CX-3の安全の取り組みについて」と題するプレゼンテーションも用意された。

 このなかで冨山氏は「マツダはクルマ、人、道路インフラという3つの領域で、事故のない安全なクルマ社会を実現したいと考えています。将来的には本当に事故のない、死傷者がゼロという社会を造りたいと願っています。クルマの領域では、マツダ車を購入していただいたすべてのお客さまに『優れた環境・安全性能と走る喜びをご提供する』ということで、中長期の開発ビジョンにそのような考えをまとめています。これに基づいて技術開発を進めた結果、昨年の『デミオ』、今年のCX-3のようにコンパクトクラスの小さなクルマにおいても自動車アセスメントで高い評価をいただきました。マツダは4年連続でファイブスター賞を獲得しております。CX-3で目指したのは、『どんなシーンでも運転を楽しめる、安心の走りを高い安全性能が支えていく』というコンセプトで、このクルマを造っていきました」。

「マツダは人間を信頼するということを考え方の中心に置いています。ドライバーが危険を認知して、自ら未然に危険を回避できることが、クルマを楽しむための前提条件という考えで、そのためにも、ドライバーが状況を正しく認知、判断、操作できるようサポートすることが重要だと考えています」。

「しかし、ドライバーも人間ですので、ときにミスを犯してしまいます。あるいは、複雑な交通環境のなかでドライバーが回避できない周囲からの外乱も発生します。そのようなときにはクルマが危険を察知して、ドライバーに警告を発して事故を未然に防止します。また、万が一にも衝突が避けられない場合は、自動制御によって事故の衝撃や被害を最小限に止めてドライバーをサポートします」と解説し、具体的な技術などと合わせてCX-3に与えられた安全性能を紹介した。

冨山氏のプレゼンテーションで使用されたスライド資料。一部の図版はアニメーションとなっており、衝突時にエネルギーを効率よく吸収していく様子などが紹介された
タレントの眞鍋かをりさん、CX-3開発主査の冨山道雄氏なども参加したトークショーの様子

 終盤に行なわれたトークショーでは、クルマを購入するときにどのようなポイントを重視して選ぶかについて質問された眞鍋さんが「私もクルマを運転するのがとても好きなので、最初はどうしてもデザインなどの見た目や、燃費などが気になってしまうのですが、これまで安全性は買う側にとっては見えにくいものだと思っていました。でも、今回の場で自動車アセスメントの評価があるということを知って、メーカーのみなさんがすごく努力されていることや、結果としてのデータを見せていただいたので、安全性能がどんどん高くなっていると分かりました。消費者としては、安全評価の情報を手に入れて参考にすることが大切だと感じました」とコメント。

 また、NASVAで行なっているチャイルドシートのアセスメントについて、昨年子供が生まれたばかりの真鍋さんは「実際にISO FIXのチャイルドシートを自分で使っていて、シートベルトで固定するタイプを使ったこともあるのですが、断然ISO FIXは取り付けの簡単さが違いますよね。ただ、これまで知らなかったんですが、チャイルドシートは基準を満たしていればどれも同じように安全なのかと思っていました。でも、いろいろあるなかで、安全性の高いもの、そうではないのもとあるということで、これはちゃんと情報を入れておかなければと思っています」と語った。

自身で使っているクルマにも先進安全機能が装備されていると語る真鍋さん。「気をつけて運転するほうなんで被害軽減ブレーキが作動するようなことはこれまでないですけど、“ちょっと前のクルマに近づきすぎていますよ”とか、“まだ車線変更は早いですよ”という警報でクルマが教えてくれたことはあります」と語る
「お客さまに運転を楽しんでいただきたいというのがマツダの基本。お客さまが主体的に自ら運転しながら、でも、万が一にお客さまがミスしたときにしっかりとクルマがサポートする。そのようなクルマを造っていきたいです」と語る冨山氏
自動車事故対策機構 理事 碇考浩氏
自動車アセスメント評価検討会 座長 宇治橋貞幸氏

 このほかに会場では、自動車アセスメントで実際に使用された車両や、チャイルドシートアセスメントで高い評価を受けた製品などを展示。衝突テストで前方や側面などが大きくダメージを受けた車両を間近に見学できるようになっており、通りがかった人の多くが足を止め、潰れたエンジンルームやエアバッグが展開した車内などを興味深げに眺めていた。

会場にはファイブスター賞を獲得した5モデルの試験車両が並べられた
フルフラップ衝突試験に利用されたステップワゴン
フルフラップ衝突試験に利用されたCX-3
側面衝突試験に利用されたジェイド。サイドカーテンエアバッグが展開している
オフセット衝突試験に利用されたシャトル。アルミハニカムバリアとぶつかった運転席側はリアフェンダー近くまで衝撃が伝わり、変形によってエネルギーを吸収している様子が分かる
オフセット衝突試験に利用されたシエンタ。衝撃で運転席側ドアは変形しているが、キャビンはしっかりと守られている
チャイルドシートアセスメントで評価されたISO FIXタイプのチャイルドシートも製品展示された

(編集部:佐久間 秀)