インプレッション

BMW「M550i xDrive」(ドイツ試乗)

5シリーズのMパフォーマンスモデル

 本拠地であるドイツ ミュンヘンで開催されたBMWの国際試乗会でドライブすることのできた、日本にまだ導入されていない何台かのニューモデル。そのなかの1台に、モデルチェンジして間もない5シリーズ セダンのMパフォーマンスモデル「M550i xDrive(以下「M550i」)があった。

 Mパフォーマンスモデルというのは、BMWのトップエンドモデルとMモデルの中間に位置する新しいラインアップで、Mモデルほどとはいかないまでも、パワートレーンおよびシャシーにBMW M社の高い技術に基づくチューニングを施し、内外装も専用デザインとなる。「M550i」は8月21日に本国で発表された新型「M5」の弟分となる。

 Mパフォーマンスモデルのモデルポートフォリオは、本国では「M140i」と同xDriveの3ドアと5ドア、「M240i クーペ」と同xDrive、「M240i コンバーチブル」と同xDriveに加えて「X4 M40i」「X5 M50d」「X6 M50d」「M760Li xDrive」などがあり、うちいくつかは日本にも導入されているのはご存知のことだろう。

 この「M550i」も、てっきり近いうちに日本に導入されるものとばかり思っていたのだが、まだ正式には決まっていないとのこと。ところが実車に触れて、たとえ「M5」が出ても、「M550i」を日本に入れないのはもったいないと思ったというのが率直な第一印象である。

BMWのトップエンドモデルをベースに、パワートレーンやシャシーにBMW M社がチューニングを施すとともに、専用デザインの内外装を与えたMパフォーマンスモデル。今回試乗したのは、現時点では日本への導入が決定していない「M550i xDrive」
「M550i xDrive」のインテリア

462HP/650Nmの4.4リッターV8ターボ搭載

「M550i xDrive」が搭載するV型8気筒4.4リッターターボエンジンは、最高出力340kW(462HP)/5500-6000rpm、最大トルク650Nm/1800-4750rpmを発生

 さりげなく特別に仕立てられた内外装により、Mパフォーマンスモデルはどれもそうだが、まず見た目が魅力的だ。

 そしてエンジンは「S63B44」というすでに実績のある4.4リッターV8ツインターボで、高精度インジェクション、直接噴射システム、バルブトロニック、ダブルVANOS、ツインスクロールターボチャージャーなどBMWが誇る技術を満載している。最高出力340kW(462HP)を5500rpmで発生し、650Nmの最大トルクをわずか1800rpmから引き出す。それをあますところなく路面に伝えるxDriveによる鋭い発進加速も効いて、0-100km/h加速はわずか4.0秒というから、新型「M5」には及ばずともかなりの実力の持ち主だ。

 市街地ではジェントルで快適なサルーンを演じたこのクルマをアウトバーンに持ち込むと、まさしく水を得た魚のごとく、ひと踏みで軽々と200km/hオーバーの世界へといざなってくれる。湧き上がるトルク感とスムーズな吹け上がりはさすがというほかない。エンジンフィールは文句なく素晴らしい。

 ドライブモードを切り替えると、アクセルレスポンスやシフトタイミング、エキゾーストサウンド、サスペンションセッティングなどが切り替わり、クルマの性格が一変。走り重視のモードを選ぶとけっこう刺激的な走り味になる。

 BMWの通常のカタログモデルであればランフラットタイヤを標準で履くところだが、このクルマはMモデルと同じくランフラットではない。標準で19インチ、オプションで20インチも選べるタイヤ&ホイールに組み合わされる、10mmローダウンとなるM Sportサスペンションのチューニングも絶妙で、これ以上は望むべくもないほどの仕上がり。しなやかによく動きながら、余分な動きは瞬時に収束させる。走り重視のドライブモードを選んでもその印象は変わらないまま。より引き締まった味つけとなるものの、まったく不快に感じさせない乗り心地の味付けもさすがである。

ドライと同じ感覚でウェットも走れる

 走りが極めてなめらかで快適なのは、現行5シリーズの美点に違いないが、200km/hでも不安なく走れる直進安定性とスタビリティの高さは、シャシーの基本性能に加えてxDriveも効いてのことだろう。また、ドイツの郊外のワインディングは制限速度が高めで、けっこうなハイペースで走れるところが多いのだが、状況に応じて最適に駆動力を配分してくれて、ちょっと攻めた走りを試みてもハンドリングをまったく妨げることがない。操舵したとおり正確に回頭し、まさしくイメージどおりにラインをトレースしていける。このサイズのクルマとは思えないほど走りは軽快で一体感がある。

 往路は曇りで路面はドライだったところ、帰路はゲリラ豪雨に見舞われたのだが、クルマの善し悪しがより露わになるウエットコンディションにおいても、ドライと変わらない感覚でワインディングやアウトバーンを走らせることができたのにも感心させられた。

 ところで、新型「M5」も600HP/750Nmで0-100km/h加速3.4秒というから相当な速さであることには違いなく、むろん性能を求めるならば「M5」にはかなわない。ただし、現行5シリーズが標榜するビジネスカーとしての資質と、パフォーマンスカーとしての性能をほどよいバランスで持ち合わせているのは「M550i」に違いないし、「M550i」ほどの性能があれば筆者はすでに十分に満足だ。もちろん「M5」にも非常に興味はあるが、アドレナリンが出過ぎてしまいそうなので……(笑)。

 インポーターとしては、日本に導入するクルマをできるだけ豊富に揃えたい半面、なるべく増やしたくない事情があるのもよく分かる。それは仕方がない。だから5シリーズの高性能版については「M5」重視でいくのだろうけれど、「M550i」も非常に完成度の高い魅力的なクルマであったことを、せっかくの機会なのでぜひお伝えしておきたいと思った次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。