【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第2回:第2戦菅生でいきなり優勝が見えた!? の巻
(2013/8/8 00:00)
レースウィークの木曜日夕方にカッティングシートによるカラーリング作業が終わり、ようやく完成の姿が見えてきた我が「86Racing」。最後の仕上げはいよいよタイヤ&ホイール、そしてブレーキパッドの交換である。86は設計当初から走り込みに行く人々のことを考えた造りになっており、タイヤ4本が積載できるスペースが確保されている。トランクスルーを採用しているのも、それを狙った結果なのだ。
とは言え、公道を走る用のいわゆる“転がしタイヤ”(納車時に装着されていたタイヤ)を装着し、本番用のタイヤを室内に積むだけでは足りない。金曜日に行われる練習走行用のタイヤがどうしても必要になるのだ。そこで公道を走るタイヤと練習用のタイヤを共用とし、レースの予選&決勝(1セットしか使用が許されない)を室内に積むという作戦で準備を進めた。
タイヤは「RE-11A 2.0」をチョイス
選んだタイヤ&ホイールは、ブリヂストンのポテンザブランドが新たに登場させた「RE-11A 2.0」とプロドライブ製の「GC-05N」。ホイールは鍛造1ピース構造によってかなり軽量に造られている。タイヤやホイールのサイズはレースのレギュレーションで決められているが(タイヤは205/55 R16、ホイールは16×7.0J インセット+48のみ)、ブランドは自由となっているところがこのレースの面白さの1つだ。
今回採用したRE-11A 2.0は、ケース剛性を高めることで運動性能を高めたというタイヤ。発売されたばかりでその性能は未知数だが、これは武器になりそうだと賭けてみることにした。
実際に公道を走ってみると、RE-11Aのようにワンダリングを吸収してくれるような能力は薄まったが、その分ステアリング操舵感がしっかりとしている。ライフやウエット性能に関して心配なところだったが、あらゆるシーンで乗ってみても不満ナシ。サーキット走行のようにタイヤ温度が上がらなければ、タイヤはそれほど減らない。後にウエットも走ってみたが、RE-11Aと同様のトレッドパターンを採用しているため、不安な感覚は一切ないのだ。これなら十分に公道走行もこなせそうだ。
そんなことを確認しながら訪れた第1戦の会場、富士スピードウェイには、全国各地からエントラントが押し寄せていた。参加台数はナント82台! 予選は2組に分けて行われ、決勝に進めるのは約半数の45台。これはなかなか厳しそうだ。そして何より他車のカラーリングやらドライバーのメンツが凄いことに驚いた。「まるでスーパー耐久?」なんて思えるほどの派手なカラーリングを施し、ドライバーはどこかで見た名前ばかり。中には現役プロドライバーもいたりして、意気消沈しそうなくらいに圧倒された。この「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は近年稀に見る大盛況ぶりだ。
だが、まわりを気にしている余裕はない。まずはセッティングを行わなければ……。許された時間はたったの25分! そこでショックの減衰力くらいは何とか決めておきたいところだ。あらかじめ僕の86を仕上げてくれたG’SPiCEのセッティングをベースに、自分好みに仕立ててみる。コース1周をアタックする余裕もなく、ピットイン、ピットアウトを繰り返し、何とかソコソコのセッティングを見つけ出すことに成功した、……ような気がした。
予選日には新品タイヤを装着していよいよアタック開始! コース上には40台はいるはずだから、空いているところを探すだけでも大変な作業。G’SPiCEのワークスドライバー松原亮二選手(ヴィッツレースのチャンピオン!)に先導してもらいながら予選の戦い方を教わることに。
だが、1アタック目のAコーナーでやや突っ込み過ぎてアウト側のタイヤを脱輪。これじゃタイムは期待できないと思ったが、クルマもタイヤも1アタック目がオイシイはずだと1周走り切ってしまった。だが、松原選手は同じような状況で、さらに前を走るクルマに引っ掛かったためにアタックをやめたのだ。この引き際こそが上手さ。焦らずチャンスを見逃さない予選の戦い方が必要だと感じた。肝心要の僕の1番時計は、その後行った2アタック目のタイムだった。結果はA組の6番手。総合で11位という結果に終わってしまった。ハッキリ言って失敗である……。
まあ、それでも準備不足ながらここまでこれただけイイじゃないかと仲間内に励まされて挑んだ決勝戦。目の前には服部尚貴選手や片岡龍也選手が立ちはだかり、一筋縄ではいかなそうな雰囲気。さらに前にはワンメイクレースを制したことがあるツワモノばかりが並んでいる。順位を上げるのは相当に難しそうだ。
入れたばかりのクラッチがもったいないからと、ロクに練習もしなかった割には上手く行ったスタート。その後の1コーナーは衝突しそうになるわ、土煙は上がるわで修羅場だったが、ソコをなんとかクリア。残り80回のローンがあるクルマ、絶対ぶつけるわけにはいかん! という気合いがよかったのかもしれない。すると、どうやら9番手につけているようだ。ポイントが狙えるかも、なんてスケベ根性が湧いてきた。だが、そうは上手く行かず、周回を重ねるごとにクルマは曲がらない止まらない! ドライビングがわるいのか、それとも空気圧選択をミスったのか。原因は定かではないが、乗りにくくてキレのないドライビングになってしまった。
結果としてゴールラインでは11番手でフィニッシュ。予選と順位は変わらずで終わってしまった。けれども正式結果では上位にペナルティが課せられ、2台に対して1周減算やタイム加算があったため、9位を獲得することに成功した。シリーズポイントも2点もらうことができた。まずまず、ですよね?
だが、反省材料はかなりある。タイヤの空気圧選択は間違いなくハズしているし、決勝へ向けてタイヤローテーションを行ったことも失敗だった。事実、それらを上手くこなしたBSユーザーは上位を独占。そんなタイヤを装着できているのにこんな結果は不甲斐ないの一言。これじゃ、本番がテストみたいだ。セッティングする時間がもっと欲しいところだ。
けれども第2戦・スポーツランド菅生は第1戦の2週間後に行われる。そこまでに何かできないかと悪あがきを開始。現在施してあるアライメントや車高調のプリロード、さらには減衰力設定をもう一度見直してみようと考えた。
それを行う前にアライメントをチェックしてみると、なんと右リアだけトーアウト方向に狂っていたことが発覚(縁石に乗り上げすぎたか?)。どうりでストレートが遅いわけだ。最終コーナーがヘタなのかと思い込んでいたのだが、車載カメラの映像をチェックしてみても問題ナシ。いやはや、こんな小さなところで差が付くとは。86で富士スピードウェイを走る場合、コントロールライン付近でスピードリミッターにあたってしまうため、そこまでの到達時間を短くする必要がある。にも関わらず、こんな状態では話にならないのだ。
まずはそこを改め、さらにプリロードを前後ともに増してみることに。さらにフロントのトーをややインに振ることで、初期の応答を高めてみることにした。
予選トップ!と思いきや?
こうした対策を施した車両で第2戦が行われるスポーツランド菅生に乗り込んだ。だが、まるで梅雨に逆戻りしたかのような天候が続き、練習日はほとんどの時間がウエット。その路面に合わせるために再び減衰力などを微調整してみた。さらにブレーキが効きすぎて前のめりな姿勢になることを嫌い、フロントのブレーキパッド(エンドレス「MX72」)を一段効きの弱いもの(エンドレス「タイプR」)にしてみることにした。こんなことをコツコツとやって行くと、クルマはみるみる乗りやすくなっていく。するとどんどんアクセルが踏めるようになるから面白い。
だが、最後に気に入らなかったのはコーナーへのアプローチである。ブレーキングを残しながら進入するようなコーナーで、どうも曲がりすぎてしまうのだ。そこで第1回でご紹介した整備モードを試してみると、懸念材料が一気に解消されるほどによくなった。これでウエットはイケる!
練習日に上向き傾向にあったが、予選はなんとハーフウエット。さらに厄介なことに、路面が少しずつ乾き始めていたのだ。こんな状況で練習したことないから、ギアだって進入スピードだっていまいち分からない。地元の方々に情報収集して、それをコピーするかのように走ってみることに。そして最後はRE-11Aに助けてもらおう!
そんな軽い気持ちでアタックを開始してみると、なんとすんなりとトップタイムをマーク! いやぁ、この結果には自分が驚きました。セッティング、整備モード、さらには地元の方々が教えてくれた貴重な情報が功を奏したのだ。これでポールポジション獲得かと思いきや、B組の予選トップの山野直也選手(BSユーザー)が、僕よりも100分の数秒速く総合では2番手となった。そういえば昔、担任の先生に言われたっけ。「オマエはツメが甘いんだよ」と……。ま、そんなことを言っても最前列に変わりナシ。決勝レースもこれでクラッシュは免れそうだし、一安心である。
服部選手の猛プッシュに心が折れた決勝
決勝日はスケジュールの一番はじめに86/BRZレースが行われた(ポルシェカップやSUPER GTなどが同日行われています)。なんと8時5分スタートだというから厄介だ。雨は朝のうちに上がったものの、コース上はフルウエット。メインレースのSUPER GTが練習走行でもしてくれれば話は変わってきたかもしれないのに……。
そこでセッティングは予選の時と変わらず、自分の中のウエットセッティングで行くことに決定。だが、それが失敗の始まりだった。レースがスタートすると路面はみるみるうちに乾き出し、5周目あたりからドライに。すると整備モードでクルマは曲がりにくい状態となり、フロントアウト側のタイヤに相当な負担がかかりだした。さらにはウエットを睨んでいたブレーキパッドは後半フェードをはじめ、コーナー脱出時には目視できるほど煙を上げていたのである。13周あるレース、これでもつのか?
そんな状況で3位へ転落。その後、2位を走行中のクルマがトラブルによってリタイヤしてしまったため、単独2位で周回することに。だが、それで終わらなかったのが悔しいところ。なんと3位を走行中の服部尚貴選手がファステストラップを連発しながら追い上げてきたのだ。かつてはレースの応援にも行ったことがある、あの服部選手である。そんな人とバトルできていることに喜びを感じつつも、相当なプレッシャーがかかる。
だが、そんな時に限ってクルマは止まらない、曲がらない、時には曲がり過ぎ……。テールの振り出すスピードもかなり速くなってきた。最終コーナーではスナップオーバーステア状態! これはヒヤヒヤだ。慎重に、けれども大胆にいかなければ、服部選手に追い付かれてしまう。
後ろとの差を見てみると、どうやら最終コーナーだけは負けていないようだ。4速ノーブレーキで突っ込むコーナーだから、ここならブレーキの心配もない。ここで一気にアドバンテージを!
……そんな欲を出したラスト1周ちょっとの最終コーナーだった。テールは一気に流れ、フルカウンターステアを当てながらダートまで飛んでしまった。一瞬、“廃車”の文字が頭をよぎるほどの流れ方だった。ラッキーにも立て直すことに成功したが、菅生の登り勾配でそれほどのカウンターを当てれば失速するのは当然のこと。結果、2台に抜かれ4位でフィニッシュすることになってしまった。
これは冷静さを欠いたことが一番の要因。服部選手を行かせて3位をキープすることだってできたはずだ。クルマの状況を把握し、そこで最善の走りができているなら仕方ないと諦めていれば、こんなことにはならなかったのだ。レースは1日にしてならず。テクニックだけでなく、精神面も磨くべき課題はありそうだ。さらにプロドライバーのしぶとい走りがとても勉強になった。
次回はお寺での精神修業を中心にリポートします(ウソ)。