特別企画

【特別企画】橋本洋平の86/BRZ用ショーワチューニング「EVOLUTION -極(きわみ)-」を試してみた

街乗りとサーキット走行の両立を目指した周波数応答式可変ダンパー搭載サスペンションの実力はいかに?

純正サスペンションを作るショーワ

ショーワ 開発本部 四輪サス開発部 設計BL 指導員の河村哲範氏に、ショーワのラインアップの中でフラグシップモデルとなる「EVOLUTION -極-」についてお話をうかがった

 自動車メーカーに純正採用されているショーワの足まわり。その信頼性は言わずもがなだが、走りも乗り心地においても各方面から高い評価を得ている。だが、その世界はあくまで部品納入先のメーカーがリクエストしたセッティングを反映しているわけで、ショーワの意見がすべて盛り込まれているわけではない。車種のコンセプトやコストといった量産車両が抱える課題を1つ1つクリアした製品が、純正採用されているショーワの足まわりである。

 ここでご紹介するショーワのオリジナルサスペンション「ショーワチューニング」の世界は、ショーワが目指した世界観をとことん追求した製品である。すなわち、コンセプトもコストもショーワが描くまま。足まわりのプロが作った究極の足まわり、それがショーワチューニングというわけだ。

 きっとそんな背景があるからだろうが、ショーワチューニングが発売するトヨタ自動車「86(ZN6)」/スバル(富士重工業)「BRZ(ZC6)」用の商品ラインアップは、すべてノーマル形状サスペンションという成り立ちでありながらも、乗り心地を考慮した「COMFORT(コンフォート)」、高速道路や峠道を気持ちよく走ることに主眼を置いた「SPORTS(スポーツ)」、そして街乗りでの乗り心地からサーキット走行の両立を目指した「EVOLUTION -極(きわみ)-」という3つのブランドを構えている。

 だが、こだわりはそれで終わらない。なんとAT/MTの違い、さらには86とBRZの違いにも注目してセッティング変更を行い、商品をラインアップしているというのだから驚くばかり。スプリングレートや自由長、そしてダンパーの減衰力を1つ1つ吟味し、こだわりの開発が行われているという状況は、素直に脱帽ものとしか言いようがない。こんな贅沢、きっと現代の自動車メーカーじゃ許されないだろう。

「EVOLUTION -極-」は86とBRZ用を用意し、価格は12万8600円(税別)。写真はともに86で、右が6速AT車、左が6速MT車となる。AT車とMT車で自由長(サスペンションに荷重をかけていない状態でのスプリングの全長)が若干異なることから、車高の下がる量が同じになるようそれぞれ専用設定される。減衰力やバネレート(フロント35.0N/mm、リア44.0N/mm)は共通。なお、新型「コペン(LA400K)」用の「EVOLUTION -極-」も現在鋭意開発中で、来春の発売を目指している
AT/MTそれぞれノーマルと比べフロント約10mm/リア約15mmのローダウンを実現。上段の6速AT車のホイールは17インチ、下段の6速MTは18インチを装着している

フラグシップモデル「EVOLUTION -極-」とは

 今回注目するのは、ラインアップの中でもフラグシップといえる「EVOLUTION -極-」だ。この足まわりはショーワチューニングのシリーズ中、もっとも高いスプリングレートを採用するスポーツモデル。ただし、それも乗り心地を犠牲にしない範囲内でのこと。これでサーキットでも通用する操縦安定性を狙っている。

「EVOLUTION -極-」の見どころの1つは、SFRD(Sensitive Frequency Responce Damper:周波数応答式可変ダンパー)を採用しているところだ。SFRDとは欧州高級車群でも使われる高価な特殊技術のことで、メインバルブの先にバイパスバルブを設け、目が粗い路面で発するようなビリビリの高周波振動が入った際には、減衰力を機械的に緩めるようにしたもの。「COMFORT」や「SPORTS」よりも減衰力を高め、走りに特化させようとしながらも、こんな細工を行うことで街乗りでの乗り心地も満たそうとしているのだ。

 このSFRDを装着するために15mm、ダンパー作動性を大幅に向上させるためピストンとロッドガイドの間隔の延長に45mmの割り振りで、フロントストラットの下端を他のモデルより60mm延長。これは写真を見ても明らかだろう。これにより、ストラット下端を支える位置がケースの端ではなく中心寄りとなったため、剛性アップにも効いているようだ。また、ボトムチューブの板厚を2.9mmから3.2mmへとアップ。ここでも剛性アップしている。

写真左が「EVOLUTION -極-」、右が「SPORTS」。比べて見ると一目瞭然だが、「EVOLUTION -極-」ではSFRDを装着するために15mm、ピストンとロッドガイドの間隔の延長に45mmの割り振りで、フロントストラットの下端を60mm延長。これにより86/BRZの基本設計であるフロントストラット長が短く、横力に対する作動性で不利という問題を解決している

 しかし、それだけでは乗り心地がわるくなってしまうため、ショックアブソーバーを他のモデルとは刷新。オイル、オイルシール、ブッシュなどの摺動部品を全面的に見直すことで、微小ストローク領域でのフリクションを低減することに成功したという。これらの新技術を「S-SEES(Showa Super Empowering Efficient Suspension)」と呼んでいる。開発担当の河村氏によれば「S-SEESの採用によって減衰領域ではなく、フリクション領域が大幅に進化しました」とのこと。旧モデルとS-SEES搭載のサスペンションを動作比較した実験動画を拝見させていただいたが、旧型に対しS-SEES搭載サスペンションはスルリとなめらかに動いて見せたのだ。

ショックアブソーバーの各部。「EVOLUTION -極-」ではメインバルブの先にバイパスバルブを設け、目が粗い路面で発するようなビリビリの高周波振動のときはショックアブソーバーの減衰力をソフトに、大きなうねりのあるような路面で受ける低周波振動のときはハードにと、作動周波数ごとに減衰力を自動的に変化させることが可能なSFRD(周波数応答式可変ダンパー)を採用。欧州高級車でも使われる高価な特殊技術を採用しつつ、優れたコストパフォーマンスを実現している

走りを極めつつ、日常の乗り心地も確保

 実際に走ってみると、その剛性は感覚として伝わってくるように感じる。ステアリングを切り始めた瞬間の剛性感が、ノーマルとは違うように思えるのだ。その後は引き締められた足まわりらしく、キビキビとした応答が得られる。操舵に対してクルマ全体が瞬時に反応してみせるのだ。ピッチングもロールも少なく、明らかに走りに振ったサスペンションだ。

 この作りがワインディングでは大きな武器となった。連続するタイトコーナーを難なくクリア。どんな状況でもコントロール下に置きやすい一体感ある走りは、かなりの本格派。スポーティな走りを楽しみたい人にとっては打ってつけだ。これだけシャキッとしているなら、きっとサーキットへ持ち込んでも問題はないだろう。

 それでいてタウンユースでの乗り心地も確保。荒れた路面をあえて走ってみたが、微振動はこの手の足まわりにしてはかなり軽減されている感覚がある。もちろん、「COMFORT」のように“しなやかさ”が際立つわけではないのだが、スポーツカーに乗り慣れている人ならきっと満足できる乗り心地のはず。「EVOLUTION -極-」は走りを極めたい、けれども日常の乗り心地も確保しておきたいというユーザーにオススメのサスペンションだ。

写真のような荒れた路面でも微振動が抑制され、スポーツカーに乗り慣れているような人でも満足できる乗り心地を実現。その一方でサーキット走行にも対応するという、懐の深いサスペンションが「EVOLUTION -極-」となる

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:深田昌之