日下部保雄の悠悠閑閑
三菱ふそうのEVトラック
2022年9月12日 00:00
カーボニュートラルへのハードルは高いが、自動車業界はCO2削減に全力を挙げているのはご承知のとおり。乗用車の世界ではBEVやPHEV、水素、あるいはマツダのように現実解を求めて大排気量、多気筒エンジンの開発を行なうメーカーもあり、日本は百花繚乱だ。
一方、トラックメーカーは重い荷物を積載する関係で燃費がよく低速トルクの大きなディーゼルエンジンが当たり前。ライフが長く過酷な環境に置かれるとあって、次世代のパワートレーンを開発するのは難関が多い。しかし自動車全体でCO2の削減を進める上で商用車は欠かせない存在だ。
しかし困難だが確実に商用車の開発は進んでおり、燃料電池の大型トラックやカーボンニュートラル燃料仕様などの開発が聞こえてくる。
ダイムラー傘下の三菱ふそうは中小型トラックの分野でバッテリEVのキャンターを5年前から発売しており、トータル450台が世界中を走りデータを収集してきた。このeキャンターのフルモデルチェンジ発表会が行なわれた。
新しいeキャンターは、現行型ではディーゼル車の流れでフロントにあったモーターを駆動輪の後軸に統合した。いわゆるeAxleを採用してシンプルな構造にすることでプロペラシャフトがなくなり、バッテリ搭載の自由度が大きくなった。結果としてホイールベースに応じて、搭載できるバッテリを1パックから3パックまで自在に選べるようになった。使用状況や充電タイミングなどに応じて最適な組み合わせのeキャンターを選定できる。またePTO(Electric Power Take Off)を装備した車両の架装も可能だ。
eキャンターは標準幅と幅広ボディの2種類のキャビンと、2500mm、2800mm、3400mm、3850mm、4750mmの5種類のホイールベースにバッテリを1パックから3パック搭載する組み合わせで、日本では28種類のバリエーションの中から選べ、海外では80型式におよぶeキャンターが展開される。
バッテリは1パックの定格容量は41kWh。これを1個積むS、2個積むM、3個積むLと分かれている。
航続距離はボディと積載状況によっても変化するが、例えばショートホイールベースの2tクラスのSで約80km、3tクラスの幅広ボディにロングホイールベースにMを組み合わせると約140km、さらに3.5tクラスの超超ロングホイールベースのLでは約200kmが目安だ。積載量は半分程度、ACを使用しない条件での想定で、ご存知のようにBEVは使用要件によって大きく変わるのであくまでも目安だ。
ディーゼルに比べるとBEVは航続距離が短く、バッテリも高価だ。稼働が利益と結びつく商用車では解決するべき問題はあるが、使い方では疲労の少ない乗り心地をはじめ、管理しやすいなどメリットを見出すことができる。
複雑なユーザーのニーズを満たすために、三菱ふそうではFUSO eモビリティソリューションズというサポート体制を展開し、例えば決められたルートを走ることが多いBEVの商用車にとっての最適なルート提案なども行なう。このほか購入助成金などを含めた導入サポートや、充電機器の設置、バッテリ管理などこれまでの蓄積したノウハウを活かしたトータルサービスを行なう。これらサポートが密接に情報共有されるとユーザーに取ってもかなりメリットの大きなものになりそうだ。
回生ブレーキは強さを選べるのでトラックにとって安定性の面でもメリットは大きい。ドライバーへの負担は軽減されに違いない。
また、eキャンターでは先進安全技術も進化して被害軽減ブレーキ+巻き込み防止機能、歩行者検知機能、電動パーキングブレーキやバックアイカメラなど、乗用車では当たり前になりつつあるシステムも標準装備になっている。プロドライバーのものと思われていた小型トラックもハードルが低くされることで、幅広いドライバーへの普及も促進される。
本格的なeトラックの販売は2023年の春から予定されている。普段あまり知ることができなかった中小型トラックが身近になった発表会、そして旧知の友人に会えたのが収穫でした。