日下部保雄の悠悠閑閑

三菱ふそうのEVトラック

三菱ふそう デッペン社長のプレゼンから始まった発表会

 カーボニュートラルへのハードルは高いが、自動車業界はCO2削減に全力を挙げているのはご承知のとおり。乗用車の世界ではBEVやPHEV、水素、あるいはマツダのように現実解を求めて大排気量、多気筒エンジンの開発を行なうメーカーもあり、日本は百花繚乱だ。

 一方、トラックメーカーは重い荷物を積載する関係で燃費がよく低速トルクの大きなディーゼルエンジンが当たり前。ライフが長く過酷な環境に置かれるとあって、次世代のパワートレーンを開発するのは難関が多い。しかし自動車全体でCO2の削減を進める上で商用車は欠かせない存在だ。

 しかし困難だが確実に商用車の開発は進んでおり、燃料電池の大型トラックやカーボンニュートラル燃料仕様などの開発が聞こえてくる。

 ダイムラー傘下の三菱ふそうは中小型トラックの分野でバッテリEVのキャンターを5年前から発売しており、トータル450台が世界中を走りデータを収集してきた。このeキャンターのフルモデルチェンジ発表会が行なわれた。

フルモデルチェンジしたeキャンターのデビュー。外観ではなかなか新旧の区別がつけにくい。デイライトがそれらしい

 新しいeキャンターは、現行型ではディーゼル車の流れでフロントにあったモーターを駆動輪の後軸に統合した。いわゆるeAxleを採用してシンプルな構造にすることでプロペラシャフトがなくなり、バッテリ搭載の自由度が大きくなった。結果としてホイールベースに応じて、搭載できるバッテリを1パックから3パックまで自在に選べるようになった。使用状況や充電タイミングなどに応じて最適な組み合わせのeキャンターを選定できる。またePTO(Electric Power Take Off)を装備した車両の架装も可能だ。

後軸と110kWのモーターを一体化したeAxle

 eキャンターは標準幅と幅広ボディの2種類のキャビンと、2500mm、2800mm、3400mm、3850mm、4750mmの5種類のホイールベースにバッテリを1パックから3パック搭載する組み合わせで、日本では28種類のバリエーションの中から選べ、海外では80型式におよぶeキャンターが展開される。

 バッテリは1パックの定格容量は41kWh。これを1個積むS、2個積むM、3個積むLと分かれている。

41kwhのバッテリパック。搭載数は3つまで選べます。標準幅キャビンでは2500mmと2800mmのホイールベースで1つ、3400mmのホイールベースでは1つないし2つのバッテリ搭載が選択できます。3つ搭載のLは3.5t積載クラスで4750mmの超超ロングホイールベースを持つ幅広キャビン車が選択の対象。ちなみにこちらのフロントサスペンションはリーフスプリングになります

 航続距離はボディと積載状況によっても変化するが、例えばショートホイールベースの2tクラスのSで約80km、3tクラスの幅広ボディにロングホイールベースにMを組み合わせると約140km、さらに3.5tクラスの超超ロングホイールベースのLでは約200kmが目安だ。積載量は半分程度、ACを使用しない条件での想定で、ご存知のようにBEVは使用要件によって大きく変わるのであくまでも目安だ。

 ディーゼルに比べるとBEVは航続距離が短く、バッテリも高価だ。稼働が利益と結びつく商用車では解決するべき問題はあるが、使い方では疲労の少ない乗り心地をはじめ、管理しやすいなどメリットを見出すことができる。

 複雑なユーザーのニーズを満たすために、三菱ふそうではFUSO eモビリティソリューションズというサポート体制を展開し、例えば決められたルートを走ることが多いBEVの商用車にとっての最適なルート提案なども行なう。このほか購入助成金などを含めた導入サポートや、充電機器の設置、バッテリ管理などこれまでの蓄積したノウハウを活かしたトータルサービスを行なう。これらサポートが密接に情報共有されるとユーザーに取ってもかなりメリットの大きなものになりそうだ。

 回生ブレーキは強さを選べるのでトラックにとって安定性の面でもメリットは大きい。ドライバーへの負担は軽減されに違いない。

 また、eキャンターでは先進安全技術も進化して被害軽減ブレーキ+巻き込み防止機能、歩行者検知機能、電動パーキングブレーキやバックアイカメラなど、乗用車では当たり前になりつつあるシステムも標準装備になっている。プロドライバーのものと思われていた小型トラックもハードルが低くされることで、幅広いドライバーへの普及も促進される。

グンとモダンになって、ステアリングホイールのスイッチから操作できることも多くなっています

 本格的なeトラックの販売は2023年の春から予定されている。普段あまり知ることができなかった中小型トラックが身近になった発表会、そして旧知の友人に会えたのが収穫でした。

最新のeキャンターは2023年の春発売予定
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。