日下部保雄の悠悠閑閑

MAZDA2で長野~群馬の温泉巡り

燕(つばくろ)岳の麓、裏山は硫黄泉が豊富に出る焼山の中房(なかぶさ)温泉、招仙閣。まだ山道があるのかと思えるほど奥に入ったところに現れた

 長野県にある安曇野は平野をぐるりと山に囲まれた美しい地域だ。2018年まで行なわれていたLegend of THE RALLYの起点になっていたところでもある。このラリーは半世紀前のラリーコースをたどるタイムラリーで、車両は当時のクルマ。ラリーコンピューターは事実上禁止。しかしダートだったルートはすっかり舗装されて格段に走りやすくなっているのでノーマル車でも十分。しかも天気がよければ当時はナイトラリーで味わえなかった絶景も楽しめる。

 その安曇野に行ってきた。当初の目的はLegend of THE RALLYのルートをたどるつもりだったが、計画しているうちに温泉巡りにぶれてきて、どうも当初の行程は難しくなってきた。

 結局最初の目的地は北アルプス燕岳の麓にある中房温泉を選んだ。近くの町は穂高でそこから延々山道を登り、ドン突きにあるのが中房温泉。と言っても宿屋は招仙閣一軒のみだ。しかし源泉が20以上もあり、温泉好きには魅力的な宿。北アルプスへの登山口にあるためにここを起点に本格的な登山をする人が大勢宿泊する。当日も重装備の登山装備の宿泊客でにぎわっていた。

 今回の足は長野で借りたレンタカーのMAZDA2。6速ATの1.5リッター車だ。中房温泉までの山道は途中ですれ違いもできないほど狭く険しい。コンパクトなクルマでよかったとしみじみ思った。

 MAZDA2は低速トルクがそれほど大きくないのでDレンジではギクシャクして走りにくい。マニュアルモードでシフトしながら山道を登ると気持ちがよく、6速のトルコンATと組み合わせるのはマツダらしい。

 嫌というほどシフトを繰り返してソロソロ飽きてきたころ、標高1462mにある招仙閣にたどり着いた。大きく立派な山小屋風宿屋で案内された部屋は3階だった。もちろんエレベーターなどない。この日一番疲れたのはスーツケースを運んだこの階段だった。情けない。

 家人は温泉巡りに満足そうだったし、夕食も望外のメニューで感心するばかり。昔はここまで物資を上げるのが大変だったろう。

 翌朝も朝から温泉巡りをした後はジャガイモとソーセージを持って裏の焼山に登った。たった15分でも登山のように疲れ果ててしまった。またもや情けない。たどり着いた小さな広場で硫黄砂の中に食料を埋めて15分ほど待つと立派に調理できる。それほど地熱は高いのだ。ちなみに宿屋の裏では生卵を100℃の源泉に漬けておくと、やはり15分でいい感じのゆで卵ができていた。いずれも野趣あふれ、おいしくいただきました。

15分ほど登山(僕にとっては登山でした)すると、焼山の中腹に出る。硫黄の匂いが立ち込める白い広場で、砂場に穴を掘り、ジャガイモなどを入れておくと15分ほどで地熱調理が完成。野趣あふれるおやつだった
うっかり触ると大やけどする100℃近くある源泉に15分ほど漬けておくと半熟卵ができあがる。宿屋の裏にあります。

 中房温泉からの帰路はほぼ下りで、がぜん気楽だ。次はここもラリーとは縁が深い草津温泉を目指す。約1時間でお昼には祭礼だった穂高神社に着いた。立派な神社で山車も物語性が強く、見入ってしまった。つまり当初予定していたビーナスラインを通っていたら草津にたどり着かない。いい加減に組んだ予定は未定だ。

穂高神社では祭礼で山車が準備されていた。2台出ており、河童を題材にした山車と猿鬼を題材にした山車で、それぞれストーリー性があり写真は猿鬼伝説のもの。凝った話で面白い

 次のプランは若かりしころ、雪の降る直前に開催されていた志賀高原ラリーでなじみ深い万座道路を目指す。が、連続する山道に何となく元気がなくなった家人と、そもそも夕食に間に合わなくなりそうでここもショートカット。あたりが薄暗くなくなるころ、草津の湯畑に着いた。つまりこの日は昔日のラリーコースを走ることはなかった……。

 温泉マニアではないけれどこんこんと湧き出るお湯に沈んでいると、昔傷めた肩にお湯がジワジワと染みわたるように感じる。さすが郡馬の名湯、草津温泉である。

草津温泉はこの湯畑を中心に広がっている。夜はライトアップされ、湯畑はブルーの光に包まれる。温泉街はコンパクトで狭い道が縦横に走る。泊めてもらった雲龍館は小さいが、湯畑に近く心地よい時間が過ごせた

 温泉街を散策すると残念ながら閉めてしまった旅館も見受けられる。コロナショックなのか、後継者問題なのか。インバウンドも含めて若い旅行者もたくさんいるのに。

 宿泊した旅館はとっても心地よかったが、人手かかるサービスは合理的に切り詰められていたのも時の流れを感じた。

温泉街から長い階段を上っていくと白根神社が祭られており、かわいい招き猫のおみくじをひかせてもらった。階段はもういいかな

 翌日ようやくラリールートらしいコースを走る。志賀草津道路。冬季は雪で閉鎖されるが、絶景ルートだ。勾配はきついものの走りやすくてリズムも取りやすい。しかし、なんと絶景はなかった……。雲が下がってきて景色が見えないのだ……。見えるのは周囲の路面だけ……。なので写真もない。

 またもや満天の星も高い空に連なるアルプスも現れることはなく、ただの旅日記になってしまったけど、貴重な温泉旅行は楽しかった。付き合ってくれたMAZDA2は約320kmを走って燃費は13.5km/L。山道が多かったのでこんなものだろうか。ちょっとラリールートに未練を残してお猿さんに見送られ志賀高原を去るのでした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。