CES 2018

【CES 2018】Intel傘下となったMobileyeの今後を、ダン・グラベス上級副社長 兼 CCOに聞く

NVIDIAとの違いは「我々のEyeQ5は25TOPS/sの性能を10Wで実現し、市場に出荷ずみ」

Mobileye 上席副社長 兼 CCO(Chief Communication Officer、最高コミュニケーション責任者) ダン・グラベス氏

 2017年の自動車向け半導体業界で最も大きなニュースと言えば、Intelがイスラエルの車載コンピュータビジョンベンダであるMobileye(モービルアイ)を153億ドル(当時のレートで、約1兆7442億円)という巨額のコストをかけて買収したことであることに疑いに余地はない(関連記事:Intel、イスラエルの自動運転向け画像処理のトップ企業Mobileyeを153億ドルで買収)。

 そのMobileyeは、すでにIntelの傘下として運営を開始しており、「CES 2018」ではIntelの一部門として、Intelブースで展示を行なったり、記者説明会を行なったりしている。

 Mobileye 上席副社長 兼 CCO(Chief Communication Officer、最高コミュニケーション責任者) ダン・グラベス氏は、各国の報道関係者の質疑応答に答え「我々はIntelの一部となりIntelの半導体を使ったソリューションとの取り組みも加速していくが、引き続き自動車メーカーやティア1の部品メーカーが必要とするなら他社製品との組み合わせも喜んで提供していく。例えば、アウディのレベル3自動運転車になるA8は、Mobileye、NVIDIA、AlteraそしてInfineonという組み合わせで自動運転のシステムが構築されている」と述べ、Mobileyeが引き続きオープンにソリューションを提供していく存在であり続けると説明した。

Intelに買収されたMobileye。製品ロードマップの統合などは進むが、他社との組み合わせも引き続きありだと説明

グラベス氏:Mobileyeは1999年にイスラエルで創業したメーカーで、ADAS向けのカメラユニットを自動車メーカーに提供している。これまで25の自動車メーカー、900万台に製品を供給してきた。2017年は特に成功した年となり、30のデザインウインを獲得し、27の自動車メーカーとの取引が行なわれている。

 我々がIntelに買収されることを決断したのは、今後レベル5の自動運転時代を迎えてさまざまな開発をしていくには、もっとコンピューティングパワーが必要だし、消費電力もさらに下げていく必要であり、テクノロジー界の巨人のバックアップが必要になってきたからだ。

 Intelとの統合は進んでおり、製品ロードマップの統合も進んでいる。Intelは巨大なリソースを持っており、彼らのエンジニアがMobileyeに来て作業するということが進んでいる。また、我々の製品であるEyeQ5 SoCとIntelのプロセッサを利用したレベル5の自動運転を実現するプラットフォームを開発し、自動車メーカーに提案を開始している。また、高精度マップのソリューションは、フォルクスワーゲン、日産自動車などの自動車メーカーに採用されており、今回中国の自動車メーカーであるSAICが採用決めたことを明らかにした。

1月8日(現地時間)に行なわれたIntel CEO ブライアン・クルザニッチ氏の基調講演では中国の自動車メーカーSAICとの提携が発表された

──現在MobileyeのシステムからのデータはMobileyeが管理すると聞いている。これを顧客自身が管理するようなシステムにするつもりはないのか?

グラベス氏:我々の顧客は差別化を望んでいる。そのため、弊社の製品を利用してどのようなコードを書くかはオープンになっており顧客自身がプログラムを作ることができる。データに関しては顧客との関係で決まってくる。例えば、異なる言語、異なる地域をサポートしていくとなると、パートナーとなって協力していただき、必要なデータを提供して頂くことで、システムをより強固にすることができる。そしてその成果はパートナー各社がシェアすることができる。

 次の時代ではデータは新しい石油になると言われている。その中でも自動運転車は重要なデータのソースになると考えられる。それを利用して高精度マップを作るし、クラウドに送られてくるカメラデータもそうだ。今後それがレベル3、レベル4、レベル5の自動運転車を実現する上での助けになるだろう。

──現在の自動運転のフィールドではNVIDIAの存在感が非常にある。MobileyeとNVIDIAの違いは?

グラベス氏:自動運転車を実現するには3つのパートがある。それがSense(認知)、Plan(計画)、Act(行動)だ。Mobileyeはこれまで認知分野でのリーダーだった。我々のソフトウェアとハードウェアを組み合わせたパワフルなコンピューティング技術がOEMメーカーに評価されてきた。

 それに対してNVIDIAはハードウェアのベンダであり、確かに彼らのハードウェアは優れているが、誰かがソフトウェアを書かないといけないということは指摘しておかないといけない。

 もう1つの消費電力についての違いだ。我々のEyeQ5は25TOPS/sの性能を10Wで実現している。NVIDIAのXavierは30TOPS/sだが30Wの消費電力を必要とする。かつ彼らはまだそれを市場に提供できていないのに対して、我々はすでにEyeQ5を出荷している。

──MobileyeがIntelに買収された結果、今後のコンピューティングプラットフォームはIntelのプロセッサとの組み合わせだけになるのか?

グラベス氏:アウディが発表したレベル3の自動運転機能を搭載したA8は、4つの会社の半導体を使って自動運転が実現されている。それがMobileye、NVIDIA、そしてもう1つのIntel傘下の企業であるAltera、そしてInfineonです。顧客がそれを望むのであれば、もちろん弊社としては大歓迎だ。もちろん、お客さまがIntelのプロセッサとの組み合わせを望まれるならそちらを提供することもしていく。

──自動運転車のコストは重要だと思うが、Mobileyeの考え方は?

グラベス氏:非常に重要だ。我々はレベル5に向けた開発を行ない投資をしている。重要なことは我々はレベル2、そしてレベル2+、レベル3で多くのデザインウインを獲得しており、レベル4やレベル5はその延長線上にある。現在のレベル4やレベル5のソリューションのコストは高く、ボリュームビジネスにはならないレンジになっており、それを低価格化していく必要がある。カメラ、LiDARなどのローコストなセンサーパッケージと、高精度マップなどの技術を組み合わせて低価格に提供していく必要がある。

 我々のレベル5のソリューションは2つのEyeQ5と1つのAtomプロセッサで実現することができる。システム全体で数十Wと低い消費電力で実現されている。それに対してNVIDIAのDRIVE PX Pegasusは彼らの発表によればシステム全体で400Wのボードが必要になるという。我々の具体的なチップコストに関してはお話しすることができないが、消費電力からそれが違うことは想像していただけると思う。

──Mobileyeが行なっている高精度マップのビジネスとIntelが昨年出資を決めたHereとの関係は?

グラベス氏:それは非常によい質問だ。高精度マップには複数のレイヤーがある。高精度マップには、カメラやレーダー、LiDARなどが検知できる色やレーンマーキングなどのデータのレイヤーもあれば、ナビゲーションマップのレイヤーもある。HEREとの提携では彼らの強みであるナビゲーションマップを使わせてもらう、そういう意味合いになる。

笠原一輝