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Intel傘下のMobileye、ADAS後付けビジネスの日本での成果を説明
タクシー会社では導入前に比べて交通事故を85%削減という効果
2019年9月18日 10:20
半導体メーカーIntelが、2017年に買収したイスラエルの企業がある。「Mobileye(モービルアイ)」というその企業名は今や自動車業界では知らない人はいないのではないだろうか。同社は画像処理を利用して運転支援を実現する半導体やカメラモジュールなどを、自動車メーカーに供給している。
日本のメーカーでも、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車工業、マツダといった自動車メーカーと取引があり、よく知られているところでは日産のレベル2の運転支援を実現するカメラモジュール「プロパイロット」にMobileyeの技術が採用されている。
そのMobileye 副社長 兼 インテリジェントモビリティソリューション事業部 副事業本部長 リオル・セゾン氏が来日し、同社のビジネスの現状や日本でのADAS(advanced driver assistance system:先進運転支援システム)の後付けビジネスなどについて説明を行なった。
イスラエルで起業し、2017年にIntelに買収されて子会社となったMobileye
Mobileyeは1999年にイスラエルで創業したベンチャー企業で、コンピュータを利用した画像処理技術を開発し、それを半導体に落とし込んで自動車メーカーなどに提供している。具体的には自動車のカメラで撮影した映像を、Mobileyeのチップで画像認識を行ない、前方に障害物があるか、クルマはレーンの中を走っているかなどを判別してドライバーに通知することができる。そしてそれが発展すると、自動車自体を制御して自動運転に発展させることができる技術として、Mobileyeは注目を集めるようになった。
2007年にボルボに採用されたのを皮切りに、2016年には日産のADAS機能となるプロパイロットに採用されて、日本の自動車メーカーにも採用が進んでいる。現在では日産のほか、ホンダ、三菱自動車、マツダなどで採用されている。
そのMobileyeが大きな注目を集めるようになったのは、2017年に自動車事業に力を入れ始めたIntelが買収してからだ。それまでMobileyeは自動車業界では知られた存在だったが、半導体メーカーとしてはまだまだ小さい会社だった。しかし、Intelに買収されたことで、Intelのリソース(資金や工場など)が使えるようになり、NVIDIAなどと並び、自動運転時代の半導体メーカーとして一目注目されるようになったのだ。
同社の主力製品はEye-Q(アイキュー)のブランド名で提供している半導体で、レベル2やレベル2+、そして将来的にはレベル3~レベル5の自律運転を見据えた製品が提供される計画になっている。
ADASが全部のクルマに普及するまでは時間がかかるため、その隙間を埋めるのがレトロフィットADAS
セゾン氏によれば、そうしたMobileyeの日本市場での取り組みは大きく2つあるという。1つは日本に多数ある自動車メーカーへの売り込みだ。すでに述べたとおり、すでにMobileyeは日産のプロパイロットなどに採用されており、今後もそうした採用事例を増やしていくことが重要になる。
Mobileyeがもう1つ日本で力を入れている事業が、同社が「レトロフィットADAS」と呼んでいる後付けのADASだという。「日本では商用車の車両は7年の寿命と言われており、バスなどは15年以上の場合もある。そうしたADASが元々付いていない車両でも、ADASのような機能への注目が高まっている」とセゾン氏は説明する。
セゾン氏が指摘するとおり、現在日本の社会では安全運転を実現するADASを搭載した車両への注目が高まっている。警視庁の統計によれば、ここ数年、交通事故による死亡者数は減る傾向にあるが、池袋で高齢者が母子を跳ねた事故のように、悲惨な事故への注目度はむしろ上がっている。そうした悲劇を防ぐためのデバイスとして、自動ブレーキなどのADASへの注目は高まっている。
しかし、ADASが市場に投入されてから数年という現在では、まだADASの装着率は高いとは言えない。というのも、自動車の寿命は数年ではないため、すべてのクルマがADAS装着まで数十年かかる可能性が高い。そこで、現在ADASが装着されていないような車両にADASの一部機能を持つものを取り付ける、それがMobileyeのいうレトロフィットADASとなる。
導入前に比べて交通事故は85%削減。保険料の削減という副次的なメリットも
セゾン氏によれば、すでにその効果は出ているという。Mobileyeが日本で提供しているのは「モービルアイ570」と同社が呼んでいる後付けの衝突防止補助システムだ。衝突防止補助システムという名称が示しているように、レベル2やレベル2+のADASのように、ハンドルやブレーキを操作をアシストするドライバーの運転に介入するシステムではない。あくまで、危険な状況をMobileyeのカメラが確認したときに、警報音を鳴らすことができるというシステムになる。
具体的には前のクルマにぶつかりそうなとき、車間が詰まったとき、人と接触しそうな時などに音と表示でドライバーに警告するのだ。長時間運転していると、ふとした瞬間に注意力が散漫になって「危ない」となったことがあるだろう。そうしたいわゆる「ヒヤリハット」と呼ばれるような、ドライバーの注意力が散漫になった瞬間に起きる事故を防ぐためのデバイスだと考えればいいだろう。
そして、もう1つの機能としてはITURUNというオプションのモジュールを接続すると、携帯電話回線などを通じて運転データをクラウドにあるサーバーにアップロードすることができるようになる。そのアップロードされたデータは運行管理者のPCなどから閲覧でき、誰が危ない運転をしているかを確認して助言することができる。もちろんドライバー本人がそれを確認して、自分の運転を改善することにも役立つ。
このシステムをすでに導入している愛知県のタクシー会社のヨシダ交通では、実際にこのシステムを導入した当初はシステムが危険と判断していた運転や、要改善運転が少なくなかったそうだが、徐々にデータなどで可視化されていったことで、ドライバーの意識も改善され、徐々に安全運転が増えていたという。現在では新人のドライバーが入社した直後に危険運転があったりするそうだが、それも時間共に改善されていくという。
言うまでもないことだが、こうしたタクシー会社にとってドライバーが安全運転を行なうことは死活的に重要だ。昨今では、プロのドライバーが大きな事故を起こしてしまうと、その運営会社も社会的に非難されるという傾向が強い。そうした時に、打つべき手を打っていたのと、そうではないのとでは事故が起きてからの社会への説明という時に大きな差が出るのではないだろうか。
ただ、それよりも重要なことはドライバーの安全運転に対する意識を変えさせたことではないだろうか。Mobileyeによれば、ヨシダ交通のドライバーはMobileyeのシステムをつけてから意識が変わったという。危ない運転を警告音で知らせることは、ドライバーにとって意識を変えるきっかけになっている。その結果が安全運転で、事故の減少につながったのだという。ヨシダ交通によれば導入前の年には14回あったという交通事故はなんと2回にまで減り、実に85%の事故の減少につながった。その結果としては保険料の削減という思わぬメリットもあったという。これだけの効果があるとすれば、交通サービスを提供する企業にとっては導入を検討する価値があると言えるだろう。