GTC2015

NVIDIA、自動運転車開発キット「DRIVE PX」で自動駐車やADASのデモ

5月発売で1万ドル。自動運転を実現するディープラーニングソリューションも展示

2015年3月16日~20日開催

San Jose McEnery Convention Center

GTC2015の基調講演で、自動運転車開発キット「DRIVE PX」の価格や発売時期を発表した、NVIDIA共同創設者、社長兼CEOジェン・スン・フアン氏

 GPUソフトウェア開発者向けイベント「GPU Technology Conference 2015」(以下、GTC2015)の基調講演では、NVIDIAの最新車載用SoC(System On a Chip)「Tegra X1」を2基搭載する自動運転車開発キット「DRIVE PX」の価格や発売時期が発表された。

 基調講演の模様は別記事を参照いただきたいが、DRIVE PXはディープラーニング(深層学習)により構築されたディープニューラルネットワークを実行する性能を持ち、5月に1万ドルで発売される予定だ。

DRIVE PXのスライド。Tegra X1を2基搭載し、左下に12chのカメラ入力を、右下にCANやイーサネットなどの信号入出力を備える
DRIVE PXではディープニューラルネットワークにより、さまざまな画像認識や音声認識が行える

 GTC2015の展示会場では、そのDRIVE PXを中心とした展示を実施。NVIDIAの提案する自動運転車開発ソリューションが一堂に見られるようになっていた。本記事では、その展示内容をお届けする。

Unreal Engine 4による4つの仮想世界映像を処理して自動駐車

Unreal Engine 4で生成された映像をDRIVE PXで解析。環境を把握し、自動で駐車する

 Tegra X1を2基搭載するDRIVE PXの処理能力は2.3TFLOPS、1.3Gピクセル/sと発表されており、スーパーコンピュータ並の計算能力と高度なグラフィックス処理機能を持つという。それを活かして、4つの映像入力を同時に処理して自車の環境を判断、サラウンドビュー映像を生成しつつ自動駐車を行うデモを実施していた。

 とはいえ、実際に実車を使ってのデモを行っていたわけではない。フロントカメラ、右側方カメラ、左側方カメラ、リアカメラ、追従カメラの映像を、GeForce GTX980を搭載したPC 5台でそれぞれ生成。この映像の生成には、シネマクオリティの世界を描き出すゲームエンジンとして著名な「Unreal Engine 4」が使われており、右側に用意されていた5枚のディスプレイには仮想の駐車場が広がっていた。

NVIDIA DRIVE PX用のシミュレーション環境作成

 その映像出力から、フロントカメラ、右側方カメラ、左側方カメラ、リアカメラの4つの映像信号をDRIVE PXに入力。DRIVE PXはそれぞれの映像を解析し、3Dマップを生成すると同時に、クルマの真上から見たいわゆるサラウンドビューを生成。さらに、解析結果から自動で駐車位置を導き出し、米国らしくフロントから駐車していた。

NVIDIA DRIVE PXによる自動駐車

 この開発ソリューションのメリットは、自由な設定で駐車空間を作り上げ、何度でも何時間でもクルマの動きを検証できることにある。DRIVE PXの移動状態が信号として出力され、その移動量を受けてUnreal Engine 4で仮想世界の風景が生成される。その風景がカメラ入力からDRIVE PXに入り……といったようにデスクトップ環境で自動駐車の走行実験を進めることができる。

 実際のデモでは、駐車場に駐車車両やカラーコーンのオブジェクトを自由に置き、自動駐車などを繰り返させていた。

開発ソリューション図
駐車までの環境認識や経路を表示させたところ
こちらは別の解析画面。色のついた点はオブジェクトが存在することを示し、色の違いはカメラの違いを表す。どのカメラで何が認識されているか分かる

 その近くではDRIVE PXを使い、ディープラーニングによって構築されたディープニューラルネットワークによるADAS(Advanced Driver Assistance Systems、先進運転支援システム)のデモ展示を実施。ディープラーニングよって学習したDRIVE PXが、車載映像から車種などを判別する様子を上映していた。

NVIDIA DRIVE PX ADAS

12chカメラ搭載車や、3Dプリンタで作った「DRIVE CX」搭載車など

 会場には、DRIVE PXの能力を分かりやすく見せるため、12個のカメラを搭載したホワイトボディーも展示されていた。フロントまわりやリアまわりなどにカメラが搭載されており、そのカメラ出力を、つり下げられたDRIVE PXに入力。3枚のモニターそれぞれに4分割出力(3×4=12)をしていた。

DRIVE PXと12個のカメラが取り付けられたホワイトボディー
つり下げられたDRIVE PX

 NVIDIAは、自動運転車開発キットDRIVE PX以外に、Tegra X1を1基搭載するIVI(In-Vehicle Infotainment)用開発キット「DRIVE CX」も用意している。こちらの価格と発売時期は公表されなかったが、このDRIVE CXを使ったメーターパネルの展示を実施。3Dプリンタで出力して作ったクルマに搭載していたほか、BMW i8にNVIDIAスタッフが独自に取り付けたものなど、将来あるべき1つのクルマの姿を形にしていた。

Tegra X1を1基搭載するDRIVE CX。車載開発がしやすいよう、DC12Vで駆動でき、1DINサイズのケースに納められている
3Dプリンタで出力したクルマ。DRIVE CXによりデジタルメーターパネルが駆動される
来場者に大人気のBMW i8。こちらはNVIDIAスタッフがi8にデジタルメーターパネルを取り付けたスペシャルカーで、持ち主は社長兼CEOのジェン・スン・フアン氏。取り付け担当者は、上司のクルマをいじくるだけにとても緊張したとのこと

 そのほか変わったところでは、パロットのドローンにカメラを積み、そのカメラが移動することで3D地図を作るというデモを行っていた。Tegra X1などNVIDIAのシステムは、自車が移動することで環境を3Dマッピングしつつ認識しているが、それを空の世界にも応用した形だ。具体的な技術は不明だが、昨年のGTCで記事にしたLucas-Kanadeなどが使われていると思われる。興味のある方は昨年の記事を参考にしてほしい。

パロットのドローンを使った3Dリアルタイムマッピングシステム
【GTC2014】車載動画からリアルタイム3Dマッピングデータを作り出す「Tegra K1」のコンピューティングパワー

http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140402_642344.html

 開発環境としては、GTC2015で発表されたディープラーニングのターンキーシステム「DIGITS DevBox」が展示され、ディープラーニングに関する質問などを受け付けていた。こちらは5月から1万5000ドルで発売される。

ディープラーニングのターンキーシステム「DIGITS DevBox」。発表されたばかりのGeForce GTX TITAN Xを4基搭載する
DIGITS DevBoxでDIGITSを動作させているところ
猫の画像をサーチエンジンで検索
その画像をDIGITSに投入
ディープラーニングが行われ、画像の属性が判定される
これが猫の画像
このような形で学習を実施
データの保管状態。深くなればなるほど、見た目には意味のない画像に見える
画像の判定結果。89%以上で「Cat」
今度は、この猫の画像を投入
TVモニターが50%以上、Catは約3%。人間は猫と判定できるので、この段階では人間の認識が勝っているようだ
NVIDIAブースを案内していただいた、NVIDIA オートモーティブ事業部 事業本部長 ダニー・シャピーロ氏

 これら一連の展示は、今年1月に行われた「2015 International CES」での展示と重複する部分もあるが、微妙に進化している部分もあり、まさに日々開発が進んでいる分野といえる。軽自動車にまで自動ブレーキが搭載される日本はADASの先進国ではあるものの、3Dプリンタで出力した自動車にDRIVE CXやDRIVE PXが積まれ、若い開発者が積極的にIVIやADAS、自動運転をデスクトップPCで研究しまくる現状を見ると、ADASや自動運転が自動車のパラダイムシフトであることを強く感じる。

 ADASや自動運転の1つの実現手段であるディープラーニング、そしてそれに耐えうる計算能力を持つDRIVE PXが、このパラダイムシフトをどう加速させていくのか楽しみな展示内容になっていた。

NVIDIAの展示ブースを見ていると、突然NVIDIA共同創設者、社長兼CEOジェン・スン・フアン氏が登場。3Dプリンタで作られたクルマに乗り込むなど、自社のブース展示を楽しんでいた

編集部:谷川 潔

http://car.watch.impress.co.jp/