イベントレポート

小糸製作所、世界初出展の「融雪ヘッドライト」は2028年市場投入を目指す

創業110周年に、加藤充明社長「光の力で世界を照らし、一歩踏み出す勇気を社会に届ける」

2025年10月31日~11月9日開催(一般公開)
小糸製作所は、ヘッドランプへの融雪機能の搭載拡大に向けて、車両のスタイリングを損なわない薄型の「融雪ヘッドランプ」を新たに開発し、世界初出展した

 小糸製作所は東京ビッグサイトで開催されている「ジャパンモビリティショー2025」に出展。世界初出展となる「融雪ヘッドランプ」など、同社のライティング技術を紹介している。

 ジャパンモビリティショー2025において、小糸製作所ブースでは、2030年に向けたテーマ「KOITO VISION~人と地球の未来を照らす~」に基づき、次世代のモビリティ社会の安全、安心に向けた「ライティング」「センシング」「コミュニケーション」の3つ軸で「光」の可能性を追求する展示を実施。また、現在進めている宇宙空間で使用するランプに使われる最先端技術が紹介されている。

東京ビッグサイトの西3~4にある小糸製作所のブース

小糸製作所が創業110周年、加藤充明社長は「光の力で世界を照らし、一歩踏み出す勇気を社会に届ける」

 10月30日に小糸製作所ブースでは、同社の代表取締役社長 加藤充明氏によるプレスカンファレンスが行なわれた。加藤氏はスピーチの中でブースの展示物の紹介も行なっていたので、その内容に沿ってブース内の様子も紹介していこう。

小糸製作所 代表取締役社長の加藤充明氏

 登壇した加藤氏は小糸製作所が今年、創業110年を迎えたことに触れた。加藤氏は「当社は今年、創業110年を迎えました。企業メッセージ『安全を光に託して』のもと、これまで一貫して光をテーマに、モビリティ社会の安全・安心に貢献してまいりました。現在、モビリティ社会は大変革期にあります。未来が見えない時代だからこそ、光の力で世界を照らし、一歩踏み出す勇気を社会に届ける。そんな使命を私達は胸に秘めております」と切り出した。

小糸製作所は創業110周年を迎えた

 今回の小糸製作所ブースではライティング、センシング、コミュニケーション、この三つの軸で光の利用を紹介する展示となっていて、加藤氏はそれらの技術を順に紹介した。

 1つ目はドライバーに最適な夜間視界を提供するライティング技術である高精細ADB。ここでモニターには交通死亡事故のデータが表示された。それによると重大な事故は朝方に比べて夕方の通勤時間帯に発生する割合が1.5倍になっていることが分かる。これは暗くなることによる視界の狭さが原因である。

2019年~2023年での通勤時間帯の交通死亡事故件数データ。朝より夕方のほうが圧倒的に多く発生している

 小糸製作所は暗くなる時間帯にドライバーの視界を確保するこのランプの役割はますます重要だと考え、2012年に日本で初めて複数個のLEDを点灯制御し、前方のクルマに眩しさを与えずにハイビームの明るさを提供できる「ADB」を量産化。夜間の視界を一層拡大することに貢献したとのこと。

 このADBの効果は高く、様々なクルマに実装されていたが小糸製作所はこれをさらに進化させた。

 加藤氏によると従来のADBは12分割が主流であり、光が照らすエリアが縦に広く照射範囲の最大化には制限があったという。そこで1万6000分割の配光制限が可能な高精細ADBを2026年に市場投入することを決定したという発表を行なった。

高精細ADBの解説
従来のADBの配光
模型を使った実験機も置いてある。これは従来のADBの配光
1万6000個のLEDを緻密に制御する高精細ADBの配光。複数の対象ごとに配光を変えられる
クルマ単体での配光の具合。従来のADBよりピンポイントになっている
高精細ADBは1万6000個のLEDを緻密に制御することで、テラス範囲を最大化し、すべての交通参加者に配慮した眩しくないハイビームとなる。加藤氏は「これをすべてのクルマに搭載することで、夜間の視界を守り、交通事故ゼロの社会を目指して参ります」と語った

 次に紹介されたのはドライバーモニター連動AFS。これは2023年より手がけているもので「1秒先を知る」から「目線の先を知る」と言うコンセプトにおいてデンソーと強業している技術である。

 内容は室内に取り付けられたドライバーモニターで顔の向きや目線を検知し、それに合わせて「目線の先を照らす」ということを行なう機能だ。

 小糸製作所では右折時や左折時にステアリング操作に合わせてロービームの配光を動かす機能を実用化させているが、今回の技術では、ハンドルを操作する前に、ドライバーの視線や頭の動きなどを検知して1秒前に曲がる先を照らすドライバーモニターと連動したAFSとなるとのことだ。

ドライバーモニター連動AFSの解説
ドライバーをカメラで見ていることで、視線の移動に合わせた光の向きの調整ができるようになる

 その次に紹介されたのは、冬のドライブの安心をサポートする融雪ヘッドランプ。加藤氏によるとLEDヘッドランプやテールランプでは寒冷地ではランプに雪が付着してしまうことで、走行中の前方視界が悪化したり、後続車からテールランプやブレーキランプなどの標識等が見えづらくなったりするという課題があると語られた。そこでこのことを解決するための技術が融雪ランプであると紹介された。

 融雪ランプはレンズの中にヒーター線を這わせることでレンズに付いた雪を溶かし、レンズのクリアを保つというもので、2022年にはリアコンビネーションランプで量産化しているとのことだが、今回はヘッドランプに搭載して2028年の市場投入を目指していると語られた。

融雪ランプの解説
レンズの表面に貼るタイプのヒーターもあったが、過酷な場所で使われるだけに1年ほどで張り替えになることもあった。融雪ランプに使用する熱線は高い耐久性と耐候性を持つものとなる。製品化に時間がかかっているのも使用する部材の選定が難しいからである
上段にあるのが試作品の融雪ランプで、下段はトラック用のリア融雪ランプ。こちらは製品化されているとのこと

 今回、初出展となる「シグナルロードプロジェクション搭載のヘッドランプ」は、ターンシグナル(ウインカー)の点灯に合わせて路面にシェブロンと呼ばれるV字型のサインを投影することで、周囲に自分の存在やその動きを伝えるもの。こちらの技術は2025年5月に発売されたトヨタの「カローラクロス」に日本で初めて搭載されている。

シグナルロードプロジェクションの解説

 現在、小糸製作所では、バックランプと連動したシグナルロードプロジェクションの実用化にも取り組んでいるとのことで、さらに今後の展開としては、さまざまなシーンでコミュニケーションを行なうランプというものも検討されている。例えば自動運転車では自動運転中であることをランプで周囲に表示したり、EV車の充電状況などもランプの色で分かるようにするということだ。

 加藤氏は「次世代のモビリティー社会におきましては人とクルマ、クルマとクルマがコミュニケーションしていくことが大変重要になってくると考えます。そこでライティング、センシング、コミュニケーションの3つの光の力を追求して、人と地球の未来を照らしていきます」と語った。

ターンシグナルに連動するランプはシェブロンにすることが法令で決まっている。また現在は夕暮れにならないとシグナルが見えないので、現状よりも10倍ほど明るい光にできるように法制化されることが先週決定したとのこと
バックランプに連動するシグナルは四角いものであることも法律で決まっている
ランプによるコミュニケーションの例
加藤氏の紹介はランプ以外の製品にも行なわれた。こちらは小糸製作所のLiDARの紹介。短距離用、中距離用、長距離用の3タイプがある。ホンダがアメリカ市場に導入する電動自動芝刈り機に採用された
こちらはLiDARを活用した人やクルマの数や動きを正確に把握し、可視化する「イルミエル」という製品
トヨタと小糸製作所がJAXAと研究開発を進める月面探査用の有人与圧ローバー(トヨタ名称はルナクルーザー)向けの船外照明モックアップも展示された
月面環境で使われるということで、特殊な作りが施されている
真空の状態であり、放射線も強いのでそれらに対応する作りとしている。また、宇宙空間では修理ができないので、もしLEDが点かなくなっても対応できるようにバックアップのLEDも搭載されている
宇宙空間は太陽熱の影響も受けやすく、そのために本体温度が上がらないよう放熱用の作りも必要。風がないのでフィンではなく、ディンプル形状としている
ルナクルーザーに搭載される宇宙向けLiDARも小糸製作所のもの
宇宙向けLiDARの解説
深田昌之