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誰でも乗れる無人運転バス「ロボットシャトル」試験運行開始

イオンモール幕張新都心で8月1日~5日、8月7日~11日に実施

2016年8月1日 開催

記者説明会で握手する株式会社ディー・エヌ・エー オートモーティブ事業部の辻口敬生氏(左)とイオン株式会社 地域エコシステム プロジェクトリーダーである齋藤岳彦氏(右)

 イオンモールを運営するイオンは、8月1日~8月11日の期間に千葉県千葉市のイオンモール幕張新都心に隣接する「豊砂公園」内の舗道の一部を利用して、無人運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」の試験運行を開始。運行初日に試乗コースで「地域エコシステム『無人運転バス』発表会」を開催した。

イオンモール幕張新都心に隣接する「豊砂公園」内を走る無人運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」
ロボットシャトルの取り組みや車両解説などを行なう辻口氏(左)と齋藤氏(右)

 この試験運行は、イオンなどが進めている「地域エコシステム」という取り組みの1つである「地域内の交通や移動の進化」の実証実験として開始されたもの。発表会では地域エコシステム プロジェクトリーダーである齋藤岳彦氏から「この幕張新都心は非常に大きな街であります。将来的にはこの無人運転バスを使いながら、お客様の利便性をとにかく高めていきたいというのが今回の主眼です。今回の実証実験では、このバスがお客様にとって便利であることと、安全であることを証明していきます」と語られた。

 続いて、ロボットシャトルの運行面で関わるディー・エヌ・エー オートモーティブ事業部の辻口敬生氏から、車両に関する基本事項の説明が行なわれた。

 このロボットシャトルはフランスの小型車製造メーカーである「EasyMile」の製品で、EasyMileとディー・エヌ・エーが契約することで、ロボットシャトルの日本導入が実現できたという。ちなみに、EasyMileは過去にF1グランプリに参戦していたリジェグループと、フランス国立情報学自動制御研究所を母体とするロボット開発企業「Robosoft」の合弁企業だという。

 ロボットシャトルの正式な名称は「EZ10」となり、車体構造はフレームとシャシーがアルミニウムでボディがファイバーグラス、ボディサイズは3928×1986×2750mm(全長×全幅×全高)となる。軽量な素材を使用しているため、車重は1750kgに抑えられている。車両の前後が分かりにくいデザインだが、進行方向に対してドアが右側になるほうが前となる。

車体の前後は同デザインだが、進行方向に対してドアが右側になるほうが前という設計

 乗車定員は最大12名で座席は6名分を用意。低床設計なので路面とフロアの段差が少なく、お年寄りや小さい子供にも乗り降りしやすいようになっており、さらにベビーカーや車いす利用者用のために電動でせり出す可動式スロープも組み込んでいる。乗車時のドアの開閉は車外、および車内のドア操作ボタンで操作する。そのほかに車内の装備は、行き先などを表示するインフォメーションディスプレイとエアコン、さらに乗客の状態をモニターするためのカメラと、非常時に管制室と通話できるインターカムなどをも装備する。走行には4輪それぞれに独立した電動モーターを使用する4輪駆動で、最高速は40km/hまで出せる仕様だ。バッテリーは最大10時間もつという。操舵輪はリア2輪なので小まわりが効き、最小回転半径は4.5mとなっている。

定員は12名で座席は6名分を用意。室内高があるので圧迫感はない。天井と壁に立ち乗り用の手すりを備える
運行中は右上にある横長のランプが点灯する。グリーンが自動運転中、イエローが手動運転中、レッドが緊急停止時にそれぞれ点灯する。ヘッドライトは道を照らすよりも自車の存在を周辺に知らせるための装備
4つのモーターを各タイヤに備える4輪駆動で、バッテリーは最大10時間もつ。充電は100Vでも可能だが、メーカーからは200Vの専用充電器が推奨されている。Robot Shuttleと書かれたリッドの下に充電用のソケットを配置する。丸形のランプは乗降中などの停車中に点滅するハザードランプ
ベビーカーや車いす利用者のための可動式スロープ。利用時には角度を緩やかにするため、合わせて車高も下がる
車内にはエアコンを装備するが、今回は日当たりのよい公園での運行となるため、車内の温度管理用にサーキュレーターも追加されていた
車内には行き先表示などを行なうディスプレイが3カ所に設置されていた
車内記録用のカメラも付くが、現状は管制室などでこの映像をリアルタイムでモニターするものではないとのこと。トラブルがあった場合はインターカムで通話する
ドアの開閉は人間がボタン操作で行なう。低い位置にあるので子供でも操作が容易
非常停止ボタンを車内の3カ所に設置。万が一、電源が落ちて閉じ込められたときの脱出用にウィンドウハンマーも用意されている
悪天候やセンサーの故障などで自動運転が作動しなくなったときや、車庫入れなどのシーンはこのコントローラーで人間が手動操作する

 次に自動運転させるための手順だが、まず最初に運行予定ルートの試走を実施。このときに、ルーフに取り付けたGPS、それとライダーと呼ばれる2つの装置、さらに前後のウィンドウに付いているカメラなどを使い、自動運転用に適した地図を作成。その地図にエンジニアが専用ソフトを使って道路のカーブ、路面の起伏や段差などの詳細設定を追加し、さらに速度設定を行なって安全に運行できるように仕上げていく。最後にバス停などの必要な要素を盛り込むことで、ようやく自動運転用の地図が完成するのだ。

 ただ、地図データに沿って走行できるというだけでは、進行ルート上に人が飛び出したり障害物があったときに対応できないので、車体の四隅に障害物検知用のレーダーセンサーを取り付けている。このセンサーは1つが270°のセンシングエリアを持ち、なおかつ比較的遠くの対象まで検知できるもので、障害物を検知した場合は第1段階の安全装置として、まず車両の速度を減速して徐行状態にする。それでも対象物が回避するといった動きがない場合は、今度は完全に停車させることで安全を確保する。なお、急な飛び出しなどに対しては減速ではなく急停車をさせる機能も備える。

ルーフにはGPSとレーダーセンサーである2つのライダーが装備される。車体前後のウィンドウにはカメラを設置。事前の地図作成だけでなく、通常の走行でもこれらの機器を使用しているが、豪雨や霧、そして雪という天候ではセンサーやカメラがそれらを「障害物」として感知してしまうため、悪天候時は運行ができなくなる
車体の四隅には走行中の障害物を検知するレーダーセンサーを設置。車体にも加速度計なども積み、カメラやGPSのデータと合わせて車体を制御。また、ホイール部にも走行距離計やエンコーダーを内蔵する。ただ、AIではなく専用のCANバスでつないだECUによる制御とのこと。ブレーキに関してはとくに厳重で、電源が落ちた状態でも制動できるようタイヤの回転を物理的に止める緊急ブレーキも搭載する

 発表会の最後には、5分ほどではあるが報道陣向けの試乗も行なわれた。まず、乗車時にはドア開口部が広く、全高も2.7m以上あるので圧迫感はない。座席は前後に3名分を設定するが、車幅は約2mなので大人が3人座ると隣同士の隙間はほぼない感じになる。ただ、座席前方は開放感があるので狭いという印象はない。

 走行中はモーター駆動音がそれなりに聞こえるが音質、音量共にうるさいというほどのものではない。乗り心地はクルマと言うよりゴルフ場のカートのようなややダイレクト感を感じるものだが、そもそもロボットシャトルは特定の敷地内で運用するために作られているので、クルマのようにあらゆる路面に対応する足まわりを持つ必要はないだけにこれで十分とも言える。

試乗では片道250mのコースを往復。速度は10km/h程度のゆっくりとしたペースだった。視界が広いデザインなので、小柄なボディながら車内に圧迫感はない

 そして肝心の自動運転の精度についてだが、今回の試乗は片道約250mのコースを往復するもので、発進と停止はそれぞれ2回ある。乗り物において発進と停止の挙動をいかにスムーズに行なうかは大事なポイントだが、ロボットシャトルはそのどちらもスムーズ。今回は着席での試乗だったが、この挙動なら手すりを持たずに立ち乗りしていてもふらつくことはないだろう。

 また、コースの追従性も良好のようで、試乗では両サイドをフェンスで仕切ったおよそ3mほどの道幅のコースを使用していたが、車両は常に道のセンターを走行。カーブ区間でも同様にセンターを走るので、フェンスに近寄って危ないように感じることは皆無だった。

常に道のセンターを走り、カーブでも走行ラインが乱れることはないのでかなり安心感がある運行だった

 このように、非常にスムーズな運行だけに「自動運転の車両に乗っている」と身構えていると、逆に普通すぎて拍子抜けするような感じだ。しかし、そんな普通さこそ自動運転の完成度を示すものだと思うので、期間内にイオンモール幕張新都心に行く機会がある人は、ぜひロボットシャトルの自動運転を体験してほしい。

 運行日程は8月11日までとなり、試乗時刻は10時~17時。天候によっては運行休止になることもある。料金は大人200円、子供(小学生以下)100円で、2歳未満は無料となる。WAON POINTAカードを提示すると10WAON POINTが付く。なお、8月6日は幕張地区の花火大会があるので、この日のみ運行は終日休止となる。

ロボットシャトルは海外ではすでに実用化されていて、大規模ショッピングモールだけでなく、大きな工場や大学などでも使われているという。まだ日本国内では簡単に乗る機会はないので、興味がある人は自動運転を体験する絶好のチャンスだ。また、小学生などの夏休みの自由研究でもロボットシャトルはよい題材になるだろう