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池内克史東京大学名誉教授「これからのAIは“ターミネーター型”ではなく“ドラえもん型”」と解説
ITS Japanの2017年度総会シンポジウムで特別講演
2017年6月20日 07:00
- 2017年6月19日 開催
ITS Japanは6月19日、東京都千代田区の経団連会館で2017年度の通常総会を開催し、合わせて最新の取組状況などについて紹介する総会シンポジウムを開催した。
総会の冒頭では、ITS Japan 会長の佐々木眞一氏が挨拶を行ない、関係する各省庁や会員企業などに対して日ごろからの支援に対して感謝の言葉を述べたあと、2016年度の総会で会長に就任して以降の1年間について振り返り、「この1年だけでも、日本を取り巻く環境や国際情勢にはさまざまな変化が起こってきました。日本には天然資源や農業に適した土地が多くあるというわけではありません。これからも技術立国、産業立国として国際競争を続けていかざるを得ません。しかし、今までのように『よいものを作っていれば買っていただける』という考え方は、多くの国が保護主義に舵を切る傾向が強まった国際情勢のなかでは通用しない時代になってきたのではないかと考えております。これからは、日本ならではの『お客さま価値』『社会的価値』を創出し、世界から必要とされる、いわゆる『コトづくり』が必要となってきています」。
「少し我田引水ですが、その1つの方法として、ITS技術と日本型の未来交通社会のモデルをセットで広めていくことが鍵になるのではないかと考えています。すなわち、ITSの新技術や社会システムで世界に先駆けた研究をリードし、技術立国、産業立国を実現していくため国を挙げた戦略を確立していくため、お役に立てるITS Japanを目指したいと考えるようになってきております」とコメント。
今後について佐々木氏は「ITS世界会議・東京2013において、今後の社会システムの鍵になるテーマとして『自動運転』『ビッグデータ』『オープンデータ』を提示しました。昨年のメルボルン、本年のモントリオールのITS世界会議では『スマートシティ』の領域をテーマにする動きがいっそう加速してまいりました。『協調型自動運転』の技術では、車両技術の議論から、地図・道路情報に関する同業種・異業種間の協業、共通基盤の多様な活用、新たな技術の採用にあたっての社会的受容性、法制度の整備などに議論が広がりを見せ、さらに自動運転の技術を活用した高付加価値ビジネスの創出を模索するような動きも活発になってきております」と語り、「都市交通の効率化を狙った、あらゆる交通手段と運賃の支払いを統合する『モビリティ アズ ア サービス』という概念も実用化の時代に入ってきました。斬新なサービスや、それらに伴う劇的な構造変化は、むしろ従来からのITS関係者の外側で進展しつつあるというのが実情ではないかと考えています。産業構造の大変革の兆し、ITSが大きくパラダイムシフトしていると感じております」と現状について分析した。
また、来賓を代表して登壇した総務省 総合通信基盤局 局長の富永昌彦氏は、6月9日に閣議決定された成長戦略「未来投資戦略2017」の5つの戦略分野の1つで「移動革命の実現」が掲げられていることを紹介。このなかでは無人の自動走行による移動サービスを2020年に実現することを目指しており、これまでの活動で培ってきた知見やノウハウを活用して物流の人手不足、地域の高齢者などを対象とした移動手段の欠如などの社会的課題に寄与することが期待されていると語った。
また、日本政府が進めているSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)では今秋を目処に公道での自動運転の大規模実証実験を予定していることを明らかにし、実社会で一般ユーザーが参加する形での実証実験を行なう記念すべき都市になると述べている。これに加え、自動運転やコネクテッドカーを支える情報通信基盤として、5G(第5世代移動通信システム)を2020年に実現するための実証実験も今年度からスタート。東京だけでなく、地方都市でも実施していくとコメントした。
富永氏の挨拶に続き、総会の具体的な議案について審議されることになり、2016年度の収支決算について、そして2017年度の予算案を審議するにあたり、2016年度の事業報告などについて事務局からスライド資料などを使った報告が行なわれた。
AIはターミネーター型の「Artificial Intelligence」からドラえもん型の「Augmented Intelligence」に
総会後に行なわれたシンポジウムでは、東京大学 名誉教授の池内克史氏による特別講演が行なわれた。
このなかで池内氏は、1956年の「ダートマス会議」からスタートしたAI(Artificial Intelligence)の歴史を解説。「目」「頭」「手足」の3つの要素に分けられて開発が進められていったものの、システムは「インテリジェンス」と呼ばれるが、実際にはプログラムの知性はそれを構築した人間の入力情報を反映したものに過ぎなかったことから、システム自体が自らプログラムを生成していく方向に変化し、人間が生まれながらに一定の「ひな形」を持っていることを応用して、人間の行なう動作をひな形を通してシステムが理解、動作生成に活用していくというこれまでのAI研究について解説。ダートマス会議から60年が経過した2016年を「ロボティクスにおけるカンブリア爆発」と紹介した。
しかし、一方で池内氏は、AIの研究開発で要素還元論が行き過ぎており、全体論にもとづいて見直すパラダイムシフトが必要ではないかと語り、現在の要素技術の寄せ集めであるロボット技術を、必要とされる環境、つまり人間がいる環境にあてはめて最適化することにより、「環境としての人間を考慮した全体論=人間のためのAI」として定義。AIがさらに進化して人間に最適なシステムになったとき、しかしそれが自らの意思で動き、自我を持っていないことから“疑似生命体”が完成したとは言えないと語る。
人間のために疑似生命体として「本当のAI」になるためには“疑似魂”が必要だと指摘し、2種類の“魂のタイプ”を紹介。1つは「人間と競争し、人間に置き換わるような“ターミネーター型”」で、これが「Artificial Intelligence」であると語り、もう1つを「人間と協調、共存する“ドラえもん型”」の魂であると定義して、人間の活動を知的に支える「Augmented Intelligence」として、今後の研究の方向性としては“ドラえもん型”を目指すことになるだろうと述べた。