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三菱電機、準天頂衛星「みちびき」を利用する自動運転も発表した「アドバンストソリューション2017」
“超スマート社会”を目指すための最新技術を展示
2017年11月10日 07:00
- 2017年11月8日 開催
三菱電機は11月8日、東京都千代田区丸の内にある三菱電機本社で「Society5.0“超スマート社会”を目指す三菱電機の取り組み」をテーマにした顧客向け展示会「三菱電機アドバンストソリューション2017」を開催した。
この展示会では最新の製品やシステムを、「社会」「ビル」「くらし」「ものづくり」という4つのカテゴリーに分けて展示。本稿ではクルマに関係する展示物をピックアップして紹介する。
開会にあたり、まずは三菱電機 常務執行役 営業本部長の萩原稔氏から概要説明が行なわれた。
萩原氏からは「現在、世界各国で産業面における変革の取り組みが行なわれています。それらのキーテクノロジーとなっているのはAIやIoT、ビッグデータの活用ですが、これは産業面のみにとどまらず、社会全体に変化をもたらしています。この社会というものは狩猟から始まり、農耕、工業、情報へと進化してきましたが、今後はより高度なスマート社会として5番目の社会変化(Society5.0)へと進んでいきます。このSociety5.0は現実社会とサイバー空間を高度に融合させて社会的課題を解決しつつ、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、快適に暮らすことができる社会のことを指すもので、これを“超スマート社会”と言います」。
「過去のアドバンストソリューション展では、低炭素社会の実現、AI、IoTを加えた情報社会の高度化など、そのソリューションを展示してまいりました。今回はAI、IoTの進化とともにSociety5.0を実現する三菱電機のソリューションを展示しております」と語られた。
高度道路交通ソリューション/センチメーター級測位補強サービス
自動運転を行なう際には高精度な地図と高精度な測位が必要になる。そこで用いられるのがセンチメーター級測位補強サービス(CLAS)というものだ。これは三菱電機が内閣府から受託して開発した技術で、GPSの測位だけだと数mの誤差が出てしまうところを、その誤差を打ち消すためのデータを生成。それを先ごろ打ち上げられた準天頂衛星「みちびき4号機」を含む4機体制(準天頂衛星3機+静止衛星1機)の準天頂衛星システムを介し、地表を走るクルマに送ろうというシステム。これが実現することで、誤差は静止体では水平方向で6cm、垂直方向で12cm、移動体では水平方向に12cm、垂直方向で24cmの精度に収めることができるとのこと。
センチメーター級測位補強サービスは日本だけでなく、海外でもサービスを行なうことを予定している。そのためにボッシュ、ゲオプラスプラス、三菱電機、ユーブロックの4社が出資して作った「Sapcorda(サップコルダ)」が衛星回線、地上配信などを使い補正情報を活用していくという。
CLASから降りてくるデータを受信する端末として三菱電機が開発しているのが高精度測位受信端末「AQLOC(アキュロック)」だ。この装置の「まだモックアップ」という展示物もあったが、サイズに関してはアンテナとも言えるものだけに大きい方がより受信しやすいのかと思うところだが、そうではないとのこと。むしろCLASの導入を検討しているユーザーからは、さらなる小型化が望まれているという。
高度道路交通ソリューション/三菱モービルマッピングシステム
次は「三菱モービルマッピングシステム(MMS)」について。これは「自動運転には自車位置を高い精度で把握するための高度な3次元地図が必要になる」という観点から開発されているもの。
マッピングを行なうために、クルマにGPSやカメラ、レーザースキャナーなどを搭載。このクルマで実際に道路を走行することで、建物、白線、標識などの道路周辺情報を3次元レーザー点群とカメラ画像で取得し、AI技術も用いて自動運転用のダイナミックマップに必要な要素を自動的に抽出して図化するものだ。
この方法ではおよそ8割程度のマップデータをスムーズに作成できるとのことだが、例えば標識が反射の光や逆光で読めなかったり、道路上の白線がかすれていたり、道路の形状によって白線の太さが途中で変わったりということもあると、そこは別のノウハウでつなげていく必要があるとのことだった。
また、道路は工事などでドンドン状況が変わっていくこともある。そこでそういった変化に対応するため、作成したマップと同じルートで再計測を行ない、再計測データと過去データと照らしあわせて差分があった点のみを自動で抽出し、素早く地図データを更新する「差分抽出技術」も開発を進めているとのことだ。
高度道路交通ソリューション/予防安全・自動運転
三菱電機では世界で初めて、準天頂衛星から配信される高精度な測位補強信号を利用した自動運転の実証実験を高速道路で開始しているので、その技術説明のパネル展示もあった。
現在、世の中に出ているレベル2の自動運転では、主にカメラ、レーダー、センサーなどを取り付けてクルマの周辺をモニターしている。将来的に自動運転がレベル3以降になってくると、例えば濃霧や降雪などで車線が見えない状況でもきちんと自動運転ができなければいけないが、現在の技術ではそこに対応できない。
そこで次の段階で必要になるのが、準天頂衛星みちびきからの測位補強信号を受信する高精度ロケーターや、対応機材同士による車車間、路車間通信を行なうV2X車載器、それにDSRC通信ができるETC2.0車載器などの情報通信デバイス。カメラでは捉えきれない情報を補うことで、安全で快適な自動運転が可能になるという。
なお、交通密集状態でも正常に通信できるのかという疑問を持つ人もいるだろうが、その点についてはまだ答えはなく、今後の実証実験で試しながらノウハウを蓄積し、課題解決していくとのことだった。
こちらはハイエンドオーディオ&カーナビゲーションシステムの紹介。製品型式はNR-MZ300PREMIで、この機種には特徴が3つある。1点目は音声認識率の向上と認識する言葉を大幅に増やすため、クラウドサーバー(三菱電機のサーバー)と繋がる機能を持っている点である。機器内にも従来と同じく内蔵型の音声認識を持っているので、Wi-Fiで通信できないエリアでは内蔵型の音声認識を使用できる。このようにクラウドと本体の両方で音声認識が行なえるのは、市販カーナビではNR-MZ300PREMIのみということだ。
2点目はクラウドサーバーとの通信を生かしたニュースリーダーという機能。これはネット配信されているニュースを読み上げてくれるものだが、長いニュース記事ではすべての内容を読まれてしまうと聞く時間も長くなる。そこでこの機能で扱う記事は三菱電機独自のAIを活用した文章要約技術で、およそ200文字程度に要約して読み上げるという。
そして3点目も世界初となる機能。NR-MZ300PREMI本体に加えて、オプションとして用意される準天頂受信機(2018年春発売予定)を接続することで、準天頂衛星みちびきからの測位補強サービスに対応するというもの。これが使えるようになると高速道路ではレーンレベルでの高速道路案内が実現し、車線が正確に分かるので高速道路の逆走も検知できるなど、最も進んだカーナビに進化するというものである。
双方向ワイヤレス電力伝送技術
ワイヤレス充電に関しても開発は進んでいるが、こういった技術は市場に売り込むというより、社会がその技術を必要としてきたときに普及していくものだという。つまり数年後、自動駐車の機能を搭載したEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)が増えたときに需要も出てくるのではないだろか。
というのも、現在開発している双方向ワイヤレス充電は、コイル同士の「ズレ」が最大15cmあっても充電効率が低下しないレベルにある。そして自動駐車技術では駐車位置に対する実際のクルマの位置の誤差が約10cmといわれているので、現在のワイヤレス充電の性能でも充給電への影響はないと言える。また、人間が駐車をしても駐車場の枠に対してそれほど大きいズレはないとの検証結果があるので、15cmの許容範囲は人間の運転にも対応が可能だろう。
ワイヤレス充電はスマートフォンなど家電製品ではすでにおなじみの機能だが、EV用になると電力が大きくなり、充電中にはコイル間に磁界を発生させるので、その間に生体が入りこんだり金属などがあるのは好ましくない。生体に関しては直ちになにかあるわけではないが、長時間浴び続けると影響が出る可能性はある。また、磁界の部分に金属が入ると加熱され、火災の原因になる危険性もある。そのため、クルマではワイヤレス充電の技術と合わせて異物感知を行なうセキュリティシステムも必要になるとのこと。
EV連携EMS
EVが増加した時代を想定するエネルギー活用の技術がEV連携EMS。これはEVを建物の蓄電池として活用するEMS(エネルギーマネージメントシステム)だ。現在、建物には電力会社からの買電のほか、太陽光発電、定置蓄電池、発電機などの分散電源をCO2削減や電力コスト削減の目的で利用しているケースもある。これらの分散電源の最適利用に加えて、複数のEVが建物の駐車場を利用した際に、EVからの給電によって建物で使用する電気を補うのだ。
とはいえ、常にEVから電気をまかなうのではなく、建物の電力使用状態に合わせた利用法が基本。そのため給電はEVの運行計画を考慮。事前に申請することで駐車時間に合った制御、例えば短時間の駐車なら給電を行なわないなど、EVの利便性を落とさないようにしていく。
また、状況に応じて給電だけでなく充電も行なうようにする。そういったマネージメントをEMSによって行なうのだ。これが実現することにより、建物とクルマが協調してエネルギーを使っていける、あるいは作った電気を貯めていくというような社会が進んでいくと予想している。
では、EVに搭載している電池で建物の電力をどれぐらいカバーできるのかということだが、例えば駐車場に日産自動車の「リーフ」が駐まったとする。このクルマの電池の容量は30kVAあるということだが、現在、三菱電機が発売している家庭用システムのPCS(パワーコンディショナー)は6kVAずつ送電できるので、このレベルで考えてもリーフが1台あれば6kVAの電気を約5時間使えることになる。駐車するEVの台数が増えれば並列で容量が増えていくので、かなりの電気をまかなえるようになるのだ。