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三菱自動車の新型「デリカD:5」に込められた想いを聞く
「女性にも受け入れられたらデリカはすごいクルマになるんじゃないか」
2018年12月13日 13:44
11月21日に予約が開始された三菱自動車工業のオールラウンドミニバン「デリカD:5」。パワートレーンに2.2リッターのクリーンディーゼルエンジンを採用し、新開発の8速スポーツモードATを組み合わせて走りをパワフルかつ滑らかなものに進化させたほか、フロントマスクに新しいデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用するとともにインテリアデザインを刷新。予防安全技術「e-Assist」を採用するなどビッグマイナーチェンジが施された。
ビッグマイナーチェンジの詳細は関連記事「三菱自動車、ビッグマイチェンした新型『デリカD:5』の予約開始。約385万円から」「写真で見る 三菱自動車『デリカD:5』」「三菱自動車、縦型マルチLEDヘッドライトなど採用した新型『デリカD:5』説明会」で紹介しているので、こちらを参照いただきたい。
開発者に話を伺うと、今回のビッグマイナーチェンジはすべて“これまで強かったオフロードのイメージをジェントルな方向に寄せる”という狙いがあったという。
“ディーゼルの4WD”という“個性”を強めるためのビッグマイナーチェンジ
まず、三菱自動車工業 商品戦略本部 CPSチーム(C&D-seg)商品企画 担当マネージャーの鴛海尚弥氏、同社 製品開発本部 プロジェクト開発マネージメント部 主任の尾﨑行信氏、同社 商品戦略本部 CPSチーム(C&D-seg)商品企画 主任の渡邉伶子氏の3人に話を伺った。
2007年に初めて登場したデリカD:5。今回、なぜフルモデルチェンジではなくビッグマイナーチェンジになったのか理由を聞いたところ、「国内の専用車ということもあり、限られた範囲でどれだけの代わり映え感を出して、それを新型として売り出すかというせめぎ合いの中で、フルモデルチェンジではなく、ビッグマイナーチェンジという位置付けになりました」と理由について語られた。
そのビッグマイナーチェンジでは、「これまでのデリカD:5で評価されていた悪路走破性や走行安定性というところはきちんと踏襲して進化させました。デリカD:5は、ディーゼルでトルクがあってガンガン進んでいくというところをいいポイントとして挙げていただいていますので、ディーゼルの4WDというのはしっかりと継承しました」と、デリカD:5の特徴をさらに強める改良を行なったという。
これまでのデリカD:5の販売割合でもディーゼルの4WDが8割~9割とのことで、「ディーゼルの乗り味が評価されておりますので、新しいパワートレーンの追加は今のところ考えていません」と、新しいデリカD:5では“ディーゼルの4WD”というコンセプトを貫くという姿勢が見られた。
また、今回新しく追加されたAdBlueについて伺うと「大幅にボディ骨格を変えることができないということもあって、追加するAdBlueのタンクレイアウトが難しかったです。タンク容量は16Lなのでクルマの使い方によっても変わりますが、1年に1回、点検の時にディーラーで補給いただくというようなイメージでお使いいただけるかと思います」ということだった。
加えて、「もともと油圧だったパワーステアリングを、電動パワステ、しかもコラム付けタイプではなくて、デュアルピニオンタイプのものを使っているので、ステアリングがダイレクトに操舵できるようになりました。これは、女性の方も軽く操作できるというところを狙っていきました」と、女性ドライバーに向けた改良も行なったと説明。
さらに、これまで「改良の要望が多かった」という内外装の質感や安全装備を強化。静粛性については「吸音材や遮音材をしっかり入れ、エンジンも低圧縮化や低フリクション化をして、少しでも静かになるようにしています。さらに、今回新しく8速ATを採用して多段化することで、高速域でのエンジン回転数を抑え、高速クルージングを非常に静かにさせました。これまでのお客さまが“ここはいまいちだったよね”というところを改良して、今乗っているお客さまにも買い換えていただこうと考えました」と、現在デリカD:5を所有しているユーザーに向けた改良も行なわれた。
シートレイアウトは「8人乗りが7割ぐらいの販売比率を占める」とのことで、「他社さんのミニバンだと7人乗りが多いのですが、デリカは使い方がちょっと違うのかなと思っています。外にアクティビティに行くミニバンと捉えたときに、セパレートシートよりもベンチシートの方が5人乗れますし、サードシートは跳ね上げた状態で荷物を積む。5人+カーゴという使われ方が多いのかな、と推測しています」と、デリカD:5ならではの使われ方についても語られた。
女性目線にもこだわったインテリア
続けて、三菱自動車工業 デザイン本部 プロダクトデザイン部 デザイン・プログラム・マネージャー 大石聖二氏に伺った、デリカD:5のデザインについてのインタビューを下記に紹介する。
──今回は大幅にフロントデザインのイメージを変更しましたが、女性に対してはどのようなアプローチを意識したのでしょうか?
大石聖二氏:女性目線もとても意識しました。いろいろな方に意見を聞いていくと、女性が意識しているのはエクステリアでは色、インテリアではシートとインパネ。なので、実はディテールが多少いかついというのはあまり影響しないと考えています。軽自動車などもまさにそうで、例えばある女性が赤いクルマが欲しいと思うと、どんなに好きな形をしていても、赤いクルマがラインアップにないと選んでもらえません。それがよく分かってきたので、ディテールは女性目線を意識しなくていいのかなと。それよりも、すごく細かいところを見てそういうつもりがなくても、「なんかかわいい」と言ってもらえるポイントが1つでもあれば、ちゃんと女性は興味を示してくれるのかなと。
ただ、当社のクルマはフェースアイデンティティが「ダイナミックシールド」という“X”の顔をしたクルマですので、ちょっと怖いと思われる方がいらっしゃるのではないかという心配はしています。何個も顔を持つことはできませんが、そこはボディカラーとシートとインパネでカバーできるのではないかなと思っています。
──インテリアはかなり上質な印象を受けました。
大石氏:今回インパネは特に力を入れました。普通だとビッグマイナーチェンジではインパネを大きく変えることはしないのですが、今走っているデリカD:5のインパネはプラスチックでできていて、女性はそういうのを嫌がります。実際にディーラーに買いに行って「いいね」となっても、「このインパネはこの金額にしては安っぽいよね」と言われた瞬間にもう買ってもらえません。でも、見たときに今回みたいなインパネだったら女性も納得してもらえるんじゃないかなと。本当に女性目線を意識しました。
シートは、女性の目線から見ておかしくない、むしろ自分でこれだったら乗りたいというようなところを、女性目線でデザインしてもらっています。これだけ男臭いクルマなのですが(笑)、シートは女性にデザインしてもらいました。特にブラックレザーのシート表皮はシンプルなダイヤ柄なのですが、すごく上質で触り心地もいいものにしています。そして、オプションとしては値段もお手頃にしています。
これまで上質とは無縁のところで(クルマを)作ってきましたが、今は質も高めないと、金額面でも女性目線でも選んでいただけなくなってしまっていると思います。現在、三菱自動車のシェアはわずか3%で、そこから増やすにはもう少し幅広い年齢層や女性にも受け入れられていくクルマにしていかないといけない。というところで、葛藤ですね(笑)。「パジェロ」だったり、「ランサーエボリューション」だったり、本当は男臭いクルマを作り続けたいという気持ちはありますが……(笑)。
ただ、女性にも受け入れられたらデリカってすごいクルマになるんじゃないかなと。そこの可能性を追求してみたいと思ったのが今回のビッグマイナーチェンジです。塊としてまとまってさえいれば、多少怖い顔をしていようが、面白い顔をしていようが、拒否はされないのではないかなと思っています。実際に、どれだけ女性に受け入れられるかというのはちょっと気になるところではありますね。
──今回、縦型のヘッドライトがインパクトがあると思うのですが、これは設計要件から先に決まったものでしょうか? それとも、デザイン性を優先して決めたものでしょうか?
大石氏:デザインです。デザインから提案して、成り立たせたという感じです。今、国内ではこのデリカD:5から、海外では「エクスパンダー」から新世代のダイナミックシールドデザインを採用しています。それまでは第1世代のダイナミックシールドで、ちょうど今が変化点ということで、第2世代に移行してきています。ヘッドライトは、実際には上にあるよりも下にある方が機能的には優れていることが分かってきました。
最近の開発は、デザイナーだけで突っ走るとか、エンジニアと相談して突っ走るというのではなく、とにかくまわりの意見を聞くと言いますか、調査する、ベンチマークする、インタビューする、女性の意見も取り入れる、そういうところは増えました。遠まわりのように感じるのですが、実際にはそれによって上層部の幹部から「なんでこうなってるんだ」と言われたときに「インタビューしたらこれがいいって言われました」という目線で言うとすごく納得しやすいんです。最近では逆に「これは女性から意見聞いたのか」と社長から言われるくらいになっています。開発の仕方ということがちょっと変化してきているのかなと感じます。このデリカD:5も見てよし、触ってよしというような感じがすごくあると思います。