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高齢ドライバーの運転傾向とは? 交通事故の原因は“人間の行動”にあると語られた「ボルボ・セーフティ・セミナー」レポート

2019年11月13日 開催

ボルボの新型「S60」とヤン・イヴァーソン氏

 ボルボ・カー・ジャパンは11月13日、東京・北青山のボルボスタジオ青山で「ボルボ セーフティセミナー」と題したワークショップを開催した。演題は、ボルボが3月にスウェーデン本国で発表した「死亡・重傷事故ゼロ達成に対する課題とその対応策及び自動車安全に関する社内研究資料の共有プロジェクト」「昨今の高齢者ドライバーへの危険性についての見解」「自動運転や電動化における安全面」という3つだ。

 登壇したのはボルボ・カーズセーフティセンターのディレクターおよびシニアセーフティテクニカルアドバイザーを務めるヤン・イヴァーソン氏。ボルボが掲げる安全な未来への指針「Safety Vision」の提唱者でもあり、同センターのナンバー2。入社から30年に渡って安全性に関わる研究開発や安全運転技術の開発に関わってきたスペシャリストだ。

ボルボ・カーズセーフティセンターのディレクターおよびシニアセーフティテクニカルアドバイザーを務めるヤン・イヴァーソン氏

「ボルボは今から60年前の1959年に3点式シートベルトを発明しました。当時は第2次大戦が終わって車両の数も増え、死亡事故も増える状況にあって、ボルボは航空業界から技術者を招聘し、2点式から進化した3点式というものを作り出しました」とイヴァーソン氏が語ってプレゼンが始まった。

 3点式シートベルトには3つの特徴があり、1つ目は人体の中で強度の高い胸部、腰骨を支えることができる点、2つ目は車両の中でも強度の高い位置で支持されている点、3つ目は片手で簡単に装着できる点とした。ボルボでは1959年に特許を取得したが、同時にオープンにしたので他メーカーも使用でき、その効果は如実だったことが証明されている。

 ボルボは1970年からの体系的な調査を行ない、安全面での深い洞察が可能になった。その結果が後ろ向きチャイルドシートや側面衝突吸収システムであるサイドエアバッグ、そして近年の衝突回避・被害軽減ブレーキなどに活かされたのだという。また、これらのデータは人間の体の大小や性別などさまざまなサンプルを細分化することで、より多くのユーザーに適用できるようになった。さらにこれをデータベース化して「E.V.A(Equal Vehicles for All)」プロジェクトとして世界に向けて発信しているという。

3点式シートベルトやそれ以降の安全システムについて説明するイヴァーソン氏
E.V.Aプロジェクトの説明

 データによると、事故の原因は「スピードの出し過ぎ」「飲酒や薬物使用による酩酊」「注意散漫」の3つで、つまり人間の行動であるという。これに対してボルボは、2020年以降に市場投入する新型車は最高速を180km/hに設定するとし、「いずれは速度制限のないクルマはなくなるだろう」とした。具体的には、ボルボが開発した「Care Key」と呼ばれるアイテムを利用し、キーによって自分独自の上限速度を設定し、誰が運転するかによって設定を変えることもできるようになる。注意散漫や酩酊についても大きな問題で、車内カメラで運転者を監視することなどで対応できるとした。

 高齢ドライバーの問題については、「そもそも現在は世界人口が高齢化し、日本は最も高齢化が進んでいる国の1つ。先進国では顕著にみられる現象です」と解説。死亡・重傷事故は若年層と75歳を超える年齢で増加しており、その現場は交差点が最も多いというデータを紹介した。

 とくに高齢ドライバーは車両に位置を特定するのに時間がかかる半面、車外のものを観察することに時間をかけていない。複雑な状況を把握する時間が取れず、「通常の運転をしていると思いたい」「他のクルマをじゃましていると思いたくない」という傾向があるとした。これに対しては、運転支援・衝突回避といった機能に理解を深めてもらうことで対応が可能になる。例えばボルボの「XC40」で言えば、車線維持機能、居眠り防止(車内カメラ)・道路標識読み取り(スピード抑制)機能、シティセーフティ(交差点での衝突回避機能)などがそれだとした。

事故の原因は「スピードの出し過ぎ」「飲酒や薬物使用による酩酊」「注意散漫」の3つとする説明
高齢者の事故増加についての分析

 続いて“未来のモビリティ”については、「出発点はやはり人で、ボルボの創業以来のDNAです。モビリティの話をすると、いつもインフラに関することになりますが、インフラは非常に投資規模が大きく、時間もかかります。一方、車両での対応は、迅速でよりよい回答が出せるかもしれません」とした。

「昨年立ち上げたコンセプトカーの『360c』は、誰も運転していない、乗っている人は車内で睡眠を取ったりそれぞれやりたいことをしている。将来はこういったクルマになるであろうというものです」と説明。ボルボが設定するクルマの将来像については、中・長距離の移動で列車や飛行機に取って変わるものになり、しかもドアtoドアが可能でシームレスに移動できるようになる。一方、短距離の移動は「ロボタクシー」と呼ばれるようなドライバーレスの車両が使われるようになるという。

 その実現には、自動運転とそうでない車両の混在環境に対応できるレベルの技術が必要で、車外のクルマや人との関係を克服でき、人間とコミュニケーションが取れる仕組みが必要とした。さらに自動運転と手動運転の切り替えができる「エン・パワー」が求められ、運転支援と自動運転は異なるものと認識し、「現状ではリスクが大きいものの、人間の方が常に主導権を持つ仕組みが必要だ」とした。また、手動運転と自動運転を切り替える場所の区別や環境設定が求められ、自動運転では注意深く運転する人間よりも優れた衝突回避能力があるものが要求されるという。また、「ドライバーレスのクルマのリアシートに乗る際は、十分に信頼できるという安心や確信を与えることも必要」と語っている。

未来のモビリティについてのボルボの回答