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トヨタとスバルがeSportsでコラボ。オンラインの「e-ニュルブルクリンクレース」レポート

“モリゾウ選手”ことトヨタ 豊田章男社長は謎の「Safety_Car_M_」を走らせる

2020年5月24日 開催

“モリゾウ選手”ことトヨタ自動車株式会社 取締役社長の豊田章男氏が「e-ニュルブルクリンクレース」にゲスト参戦

 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)とスバルは、5月24日の14時から両者のYouTubeチャンネルにおいて、ソニーのPlayStation 4のゲームタイトル「グランツーリスモSPORT」を利用したeSportsイベント「e-ニュルブルクリンクレース」のライブ配信を行なった。

 これは、本来であれば5月23日~24日にドイツ・ニュルブルクリンクサーキットにおいて決勝レースが行なわれる予定だったが、9月24日~27日(現地時間)に開催延期が決まった「ニュルブルクリンク24時間レース」をeSportsに置き換えたイベント。このレースに参戦する予定だったTGR、スバル、そしてプライベーターチームとして参戦する予定だったKONDO RACING、そして2019年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦したRACING PROJECT BANDOHも参戦することが決定し、4チームのドライバー、9名が参加して2つのレースが行なわれた。

 このうち、レース1には“モリゾウ選手”ことトヨタ自動車 取締役社長の豊田章男氏もゲストとして参戦し、実際にニュルブルクリンクのコースをプロのレーシングドライバーと一緒に駆け抜けた。

e-Nurburgring Race(TGR、2時間58分36秒)
e-Nurburgring Race(スバル、3時間3分58秒)

メーカーの垣根を越えてTOYOTA GAZOO RacingとSUBARUがeSportsでコラボ

 ニュルブルクリンク24時間レースは、毎年5~6月ごろの初夏に行なわれている伝統の24時間レース。ドイツ・ニュルブルクリンクサーキットで行なわれるVLN(VLN Langstreckenmeisterschaft Nurburgring)という耐久シーズの一戦として行なわれる24時間レースで、ニュルブルクリンクのフルコースとなる北コース(ノルトシュライフェ)を利用して行なわれる。

 このニュルブルクリンクのノルトシュライフェは、自動車メーカーが市販車のテストコースとして使うことが多く、特にスポーツカーの開発にはよく使われている。このため、各メーカーともに「ノルトシュライフェで何分何秒」というタイムをマーケティングに使うことも少なくなく、スポーツカー開発にとっては聖地のような場所になっている。

ニュルブルクリンクサーキット、北コース(ノルトシュライフェ)

 日本メーカーもノルトシュライフェを開発コースとして使っており、よく知られているエピソードとしては、トヨタ自動車の開発ドライバーで2010年に亡くなった成瀬弘氏が、まだ社長に就任する前の豊田章男氏にドライビングを教えるコースとして使われたことなどがある。そうしたことがあり、豊田章男氏が率いるTGRチームでニュルブルクリンク24時間レースへの参戦を開始し、現在はTOYOTA GAZOO Racingとして毎年参戦を行なっている。

 また、同じようにスバルも参戦を続けているメーカーの1つで、メーカーとしては2008年に初参戦し、そこから11年連続で参戦。2019年のニュルブルクリンク24時間レースでは、2年連続SP3Tクラスの優勝(通算6度目)を果たしている。

 そうしたニュルブルクリンク24時間レースだが、今年は5月23日にスタート、5月24日にゴールの予定が組まれていた。しかし、ご存じの通り新型コロナウイルス(COVID-19)の欧州での感染拡大により、モータースポーツを始めとしたスポーツイベントは全て中止や延期を余儀なくされている状況。その影響はニュルブルクリンク24時間レースにも及んでおり、9月24日スタート、9月25日ゴールという予定が新たに組まれている。なお、TOYOTA GAZOO Racingの今年の参戦は見送ることがすでに発表されている。

TGRアンバサダー 脇阪寿一氏

 この点に関して、TGRアンバサダーを務める脇阪寿一氏は「TGRとしての参戦は今の状況からして難しいという判断になった。現地に行くのも難しく、クルマの開発にかかる時間が足りないということで見送りになった。TGRとしてはニュルブルクリンク24時間レース参戦は重視しており、2021年にニュルに戻れるようにしたい」と説明し、来年以降の再挑戦を誓っていた。

スバル STI総監督 辰己英治氏

 スバルに関しては現時点ではどうなるのかは明らかにされていないが、今回のイベントに登場したSTI総監督の辰己英治氏は、「一緒に走れると思っていたので残念。われわれに関しては、今の時点では(行くとも行かないとも)まだ決定をしていない。すぐ動けない厳しい状況にモータースポーツは置かれており、もう少しお時間をいただいて、スポンサーなどの支援いただいている方々とも相談しながら判断していきたい」と述べ、現時点でスバル/STIの参戦については何も判断されていないと説明した。

 今回のe-ニュルブルクリンクレースは、そうしたニュルブルクリンク24時間レースに参加する予定だった、あるいは2019年に参加していた日本のチームが集まって行なわれたeSportsイベント。4月29日に行なわれた「第1回 TGR e-Motorsports Fes」)に続くイベントとして開催されたもので、前回はTGR主催となっていたが、今回はスバル/STIが合流する形で行なわれ、配信はTGRのYouTube、SUBARUのYouTubeサイトである「SUBARU On-Tube」の2つで行なわれた。

 また、2019年のニュルブルクリンク24時間レースに日産自動車の「Nissan GT-R Nismo GT3」で参戦し、初挑戦にして9位というひと桁台の順位で完走したKONDO RACINGも参戦したほか、同じくLexus RC F GT3で参戦したRACING PROJECT BANDOHも参加することが決まり、TGR、スバルと合わせて2つのメーカー、2つのプライベートチームが参戦するという充実したラインアップの中で行なわれた。

もしかしてモリゾウ選手の出場あり? トヨタ 豊田社長が電話出演で思わせぶりな発言

ニュルブルクリンクのノルトシュライフェでレースが行なわれた

 レースに参戦したのはTGR、スバルという2メーカーと、KONDO RACING、RACING PROJECT BANDOHで、今年参戦予定だった、ないしは2019年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦したドライバー。具体的には以下の通りだ。

参戦ドライバー
チームドライバー
SUBARU/STI井口卓人選手
山内英輝選手
TGR石浦宏明選手
佐々木雅弘選手
大嶋和也選手
蒲生尚弥選手
RACING PROJECT BANDOH吉本大樹選手
KONDO RACING松田次生選手
高星明誠選手
山内英輝選手
井口卓人選手
佐々木雅弘選手
蒲生尚弥選手
石浦宏明選手
大嶋和也選手
松田次生選手
高星明誠選手
吉本大樹選手

 レースで利用されたのは、「第1回 TGR e-Motorsports Fes」と同じくPlayStation 4の「グランツーリスモSPORT」で、レース1、レース2の2レースが行なわれた。コースはもちろんニュルブルクリンクサーキットのノルトシュライフェ。レース1は1時間の耐久形式のレースで、途中ピットインがあり、かつピットインした時にはコメンタリー陣からのクイズに答えて正解しないとピットイン作業ができないという特別ルールで実施。

 レース2は1周だけのスプリントレースで、「ビジョン グランツーリスモ」(自動車メーカーがデザインした架空のGTカーのデザインで競われるグランツーリスモ)を使ってレースが行なわれた。なお、通常のニュルでは1台の車両を複数のドライバーがシェアする形になっているが、今回は複数の車両が登場する形で行なわれた。

 レースルールとしては、車両による性能差を吸収するBOP適用、他者に対してサイドプレスを行なった場合のみペナルティ。スリップストリーム、ブーストは強めの設定という形になった。これにより、大きく引き離されてしまっても、ブーストが効いてすぐに上位に追いつけるようになっており、実質的にレースは最後の最後が勝負という形になった。

脇阪寿一氏の携帯が鳴るというお約束(?)のアクシデント

 レースに先立っては、TGRアンバサダーの脇阪寿一氏が挨拶をしていると、脇阪氏の携帯電話が鳴るというまさかの(演出?)ハプニング。そして電話に出てみると、そのお相手は予想通りモリゾウ選手こと、トヨタ自動車 取締役社長の豊田章男氏だった。

 その豊田氏としばし話した後、脇阪氏はKONDO RACINGの近藤真彦代表にいきなり電話をし、三者通話をそのまま流す。豊田社長は「去年は酔った勢いでご挨拶してしまってすみません(笑)。ニュルのよさはメーカーはメーカーなりにいいクルマを作ろうと頑張れるし、プライベーターも参加できるところにある。TGRもトヨタとしてワークス参戦しているというよりも、プライベーターのつもりで参戦していて、それをよりよいクルマ作りにつなげていきたいと思っている」と述べ、近藤監督とレース後に飲みに行って盛り上がった話を暴露したりしながら、トヨタ自動車としてはよりよいクルマ作りのためにニュルに参戦しているのだという想いを説明した。

 それを受けて、近藤監督も「章男社長に言われたのはニュルはクルマと人を育てると言うこと。KONDO RACINGは初めて参戦したので、それこそホテルの予約というレベルからトヨタさんやスバルさんにメーカーの垣根を越えてお世話になった。本当に日本のチームでよかった」とコメント。2019年のニュルでは日産の車両を使って参戦したのに、メーカーの枠を超えて助けてもらえたことに感謝の意を表明した。それに対して豊田社長は、「バーの時と口調が大分違うね(笑)」と厳しいツッコミを入れると、YouTubeのコメント欄はとても盛り上がっていた。

 また、豊田社長が「バーチャルの世界でニュルのレースが見れるのは特別感がある」と話すと、脇阪氏が「このあとレースに参加しませんか?」とお約束の水を向けると、豊田氏は「準備が整えば参戦したい。プロとジェントルマンの差を感じてもらえれば。間に合うか分からないけど……」と期待を持たせる発言で、レースへの期待を高めて電話を切った。

期待に応えてモリゾウ選手がeSportsに参戦。プロと一緒にニュルを走る

 レース1は1時間のレースとなり、途中ですべてのドライバーが燃料給油とタイヤ交換で1回のピットストップが入る。その時にはRACING PROJECT BANDOHの坂東正敬監督からクイズが出され、それに答えられないとピット作業ができないという特別ルールが適用されていた。ただし、ゲーム的にはブースト(後ろを走るドライバーにエクストラパワーが追加される)が有効になっていたので、かなり遅れてしまってしまってもブーストが効くため、あっという間に追いつける形に。利用された車両はTGR勢が「GRスープラ」、スバルが「WRX STI」、KONDO RACINGが「Nissan GT-R Nismo GT3」、RACING PROJECT BANDOHが「Lexus RC F GT3」で、それぞれのカラーリングは視聴者から募集したものが利用された。

レーススタートシーン。KONDO RACINGの2台が序盤トップに
RACING PROJECT BANDOH 坂東正敬監督
ピットに入ると坂東監督からクイズが出され、それに正解しないとピット作業ができないトラップが
ブーストが有効になっているため、ピットインしてもすぐにトップグループに追いつける

 そうした中、レース後半にはトップを走る車両に謎の「Safety_Car_M_」という車両が登場。脇阪氏の前振りから考えれば、当然モリゾウ選手の登場だと思われたが、そこは期待を裏切らずモリゾウ選手が登場し、YouTubeのコメント欄は再び大いに盛り上がることになった。

 しかし、これに困惑したのは石浦宏明選手や大嶋和也選手といった、トヨタワークスドライバーの面々。ビッグボスを抜いていいのか、抜いてはいけないのか……という「忖度」(モリゾウ選手)が繰り広げられながらも、モリゾウ選手が本気で走っていると「本当に追いつけない」(石浦選手)という堂々たる走りを披露した。

トップの前方に周回遅れとして登場する謎の車両が
「Safety_Car_M_」の正体はモリゾウ選手
かなり真剣な表情で走るモリゾウ選手
後ろのドライバーは日本を代表する大企業のトップをぶち抜いていいのか悩む?
ビックボスを抜いていいのか悩む石浦選手
ニュルを爆走するモリゾウ選手
時々こんなシーンも。それを見てうける石浦選手
カウンターを当てての熱い走り

 最後の1周では各ドライバーとも本気モードになり、モリゾウ選手を大嶋選手と石浦選手が抜いていき、それを合図にして最後の1周を本気で走った。そしてレースは、最終コーナーまでトップだったRACING PROJECT BANDOHの吉本大樹選手にまさかのペナルティが出されて失速、それを最後のストレートでオーバテイクしたKONDO RACINGの松田次生選手が大逆転で優勝した。

最後の1周でプロドライバーは本気モードに
熱いバトルが展開された
最後の最後に吉本選手にペナルティ
松田次生選手が大逆転で優勝

レース2はナイトレースのスプリント

 レース2は1周のスプリントレースで、現地時間22時30分をイメージした夜のコンディションで行なわれた。使われたのはビジョン グランツーリスモの車両で、TGR勢は「TOYOTA FT-1 ビジョン グランツーリスモ」、スバルは「スバル VIZIV GT ビジョン グランツーリスモ」、KONDO RACINGは「ニッサン コンセプト2020 ビジョン グランツーリスモ」、RACING PROJECT BANDOHは「レクサス LF-LC GT “Vision Gran Turismo”」を利用していたと見える(筆者の目視による確認)。

 1周だけで行なわれたレースは8分近いスプリントレースで、やはり最終コーナーの勝負になり、最終コーナーでトップになったRACING PROJECT BANDOHの吉本大樹選手が今回はペナルティなくそのままゴールし、見事優勝を飾った。

第2レースのスタート
暗闇の中をレーシングカーが走る
こちらのリバリーは視聴者から募集されたもの
密集のレースが続いた
TOYOTA FT-1 ビジョン グランツーリスモ
スバル VIZIV GT ビジョン グランツーリスモ
第2レースは吉本大樹選手が優勝

 レース1終了後に行なわれた振り返りで、モリゾウ選手は「ニュルを走っている感覚で見ていても楽しいし、参加しても楽しい。プロの皆さんに忖度させて申し訳なかったが、ウインカーがなくてどっちから抜いていいよと言えなかった」と場を盛り上げた。なお、脇阪氏によれば、豊田社長が実際にドライブしていた場所は愛知にある研修所で、ソーシャルディスタンスなどを確保しながら参加されたとのことだと説明があった。

 最後に豊田社長は「それぞれの想いを持ってニュルへの挑戦を続けられるような環境作りこそ、われわれがしっかりやっていくことだと再認識した。部品メーカー、タイヤメーカーなどもとも協力してポディウムを狙えるようにしたい。競争するからこそ強くなれるのだ」と述べ、今年はさまざまな事情があってニュルへの参戦は叶わないことになってしまったが、2021年以降の再挑戦の環境構築を、TGR/スバル合わせて最大時には1万人となったYouTubeを視聴していたファンに約束した。

【お詫びと訂正】記事初出時、山内英輝選手と井口卓人選手の写真が入れ替わっていました。お詫びして訂正させていただきます。