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日産、新型SUV「キックス」に搭載される“e-POWER”の進化について、開発陣がプレゼン

スッと加速する「レスポンス」、スーっと車速が乗る「伸び」をブラッシュアップ

2020年7月20日 実施

 日産自動車は7月20日、メディア向けにオンラインにてプレゼンテーションを行なった。プレゼンテーションは2回に分かれていて、この日は「企画・開発」についてのプレゼンテーションが催された。

 まず登壇したのは、日本戦略企画本部 日本商品企画部の後藤裕氏。車名の「キックス」は、Kick(蹴る)がベースとなるが、SUVということもあり、今まで挑戦したかったけれどできなかったことや、新しい自分を発見するなど、新しいことに向かって蹴り出していく力強さを表現しつつ、これまでよりも、もっともっと遠くに行きたくなるようなクルマという意味が込められていることを改めて紹介。また、6月30日の発売からすでに8000台以上の受注があり、とても好調な立ち上がりだということも語られた。

実はキックスは、2016年にブラジルで発売、その後メキシコ、中東、中国へと展開しているクルマで、ブラジル、メキシコ、チリ、UAE、台湾では、セグメントにおけるNo.1セールスを記録しているという世界戦略車になる

 日本ではSUVの市場が10年前の約3倍。さらにSUVをLクラス、Mクラス、Sクラスと分けた場合、コンパクトSUV(Sクラス)は43%まで膨らみ、今やSUVの中核を担うシリーズとなっていることが解説された。日産としてジュークの後継がなく、市場の巻き返しを狙っての日本投入となった。

 とはいえ、日本の市場は激戦区のためさらなる開発を行ない、アジア向けにフロントを中心にデザイン変更を行なったほか、ノートやセレナで培ってきたe-POWERをさらに改良して搭載。また、先進安全技術であるプロパイロットの標準装備、さらにナビの機能やボディカラーの追加などを実施して競争力を高めたという。

日本市場向けに改良されたキックス
日本市場におけるe-POWERの搭載はキックスで3台目。プロパイロットの搭載は6台目となる
プロパイロット以外にも先進安全装備は多数ある
あおり運転対策にもなる「SOSコール」も標準装備
カラーリングは若者や女性も乗りたくなるような選択肢を用意したという

キックスe-POWERを生み出す新技術

キックスは進化した新しいe-POWERを搭載

 ここからの解説は開発チームにバトンタッチ。まずは第一製品開発部の山本陽一氏が、キックスに搭載されているe-POWERは、日々の運転でも家族や友達との遠出でも、いつもワクワクを感じられることを目指し、より磨かれているというポイントを強調。さらに、その磨かれたポイントの詳細は「上級小型車向けプラットフォーム」と「進化したe-POWER」の2点にあるという。

上級小型車向けプラットフォームとは

 続いて車両プロジェクト統括部の迹見武司氏による車両レイアウトの解説が行なわれた。キックスはコンパクトとはいえSUVなので、ノートよりはひと回り大きなボディとなり、広い後方空間とラゲッジスペースを実現できたという。さらに、大径タイヤになったことと、ボディ幅もワイドになったことで、スタイリングと走行性能をより高められたという。

キックスはノートよりも全長、全幅、全高ともにひと回り大きい
付け根がしっかりすることで、サスペンションもしっかり動くようになった
骨格がしっかりしたことでねじれにくいボディに。また衝撃吸収性能も高められている

 さらに車体の主要部位とサスペンションメンバーに高剛性構造を採用するなど、骨格の作り直しを実施。太いメンバーでタイヤを支えることでより走行安定性が向上したという。部品に至っても、これまでよりワンランク上の部品を使用し、高い乗り心地と操縦安定性も実現できたと説明した。

進化したe-POWER

 続いて、外見はノートやセレナに搭載されているe-POWERとあまり変わらないが中身の制御に「さらに磨きをかけている」のが、キックスに搭載されているe-POWERの開発コンセプトであることを、e-POWERプロジェクト推進グループの羽二生倫之氏が語った。

e-POWERの強み

 e-POWERに磨きをかける=強みを伸ばすことであり、まずアクセルを踏んだらスッと加速する「レスポンス」と、その後スーッと車速が乗って行く「伸び」、この2つを実現する力強い加速に磨きをかけたと羽二生氏。続いて高い静粛性については、ノートでもあまりエンジンがかからないようにしていたが、キックスでは「これでもか」というくらいエンジンが始動しないように突き詰めたという。

 さらにワンペダル感覚の磨きについても、サスペンションと協調した開発により、アクセルを抜いてもギクシャクしない、減速度は滑らかにしながらも、ボディはブレないように仕上げたという。この制御技術の進化には、バッテリー能力を限界まで引き出すことについても追及し、ノートとセレナで培ってきたデータを基にシステムを進化させている。

キックスのe-POWERはパワーもトルクもアップしている
充電量重視から車速重視になったe-POWER
ビッグデータを分析することで新たな制御を生み出した

 実際にキックスに搭載されているe-POWERは、従来から最高出力が19%アップ、トルクも254Nmから260Nmへとアップしていて、高速道路での追い越しや合流、レーンチェンジなど、より力強さが求められるシーンで素早い加速が得られるという。特にキックスはSUVなので、荷物を積んでみんなでワイワイ移動するようなシチュエーションでも、シートに押さえつけられるような気持ちいい加速感が持続するように仕上げたという。

充電量重視を車速重視へ変更したことで静粛性がアップ

 また、これまでのe-POWERは充電量を重視していたため、できる限りバッテリー残量を残すことに主眼を置いていた。そのため、低速域でもバッテリー残量が減った場合エンジンを始動し充電させていた。低速ではロードノイズも風切り音も小さいため、結果エンジン音が目立つことになる。

 そこで日産では、ノートやセレナのドライバーの運転を分析したころ、低速域では想定していたよりもバッテリー容量を使うような運転操作は少ないことが判明。低速域でバッテリー残量が減っても、慌てて充電させる必要がないと判断し、エンジン始動タイミングの制御を新たに開発。低速域でのエンジン始動回数を大幅に削減させることで静粛性をアップできたという。同時に低速域での発電(エンジン始動)を減らせた分、新しいe-POWERは車速を重視する方向に設定したという。

進化したe-POWERの魅力

 進化したe-POWERを搭載したコンパクトSUVを開発するにあたり、プロジェクト推進グループの向山高志氏は「大人4人がくつろげる上質な空間」「ダントツに積めるラゲッジ」「運転が楽しくなる」「ロングドライブも快適」という4つのテーマを掲げたという。

 この4つのテーマを実現するために、大きなウィンドウと高いルーフ、さらに膝まわり空間の広さを追求し、後席の解放感を向上。さらにロングドライブ中に前席と後席の会話が盛り上がることで遠出も楽しくなると考え、エンジン作動音の低減に加え、ウィンドウの板厚やドア内側、天井、ホイールハウス、ダッシュパネルに遮音材を追加することで車体の遮音性能をノートの約2倍に高め、2クラス上の静粛性を実現したという。

大きな窓と高い屋根により見晴らしのよい後席を実現
頭上と膝回りに空間を確保し、快適性を向上させた
静粛性向上のポイント

 家族や友人と大勢乗れば荷物も増える。キックスでは奥行900mmのラゲッジスペースを確保し、Mサイズのスーツケースなら4つ収納可能な積載量を実現。また、ちょっとした荷物でもラゲッジで散らからないように「買い物フック」も装備して実用性をアップ。そして荷物を満載にしても車両の後方をしっかり確認できるインテリジェントルームミラーは、従来のミラーと比べてより高画質、より鮮明、よりコンパクトにしたことで大幅に後方視界を向上させている。

 さらに、サスペンション構造と太いタイヤを採用したことで、ノートよりも高い高速安定性を実現。車体の揺れを抑え、コーナリング時もブレーキを自動制御してサポートするなど、トップレベルの操縦安定性も実現できたという。同時に高剛性ボディとサスペンションに大径ダンパーを採用したことで乗り心地もアップ。乗り心地に関してはシートにもこだわり、体をしっかり支えてくれる疲れにくいシートを開発した。

カーブも安心して走れる先進技術
乗り心地も向上されている
疲れにくいシートを採用

 最後に、クラストップレベルの先進運転支援技術も搭載していることを紹介。プロパイロット、SOSコール、インテリジェントルームミラーといった代表的な機能の他にも、踏み間違いによる急発進、衝突防止アシストや、駐車をサポートしてくれるインテリジェントアラウンドビューモニターも完備していることで、キックスの開発コンセプト要件をすべて満たすことができたという。

運転支援技術が満載のキックス