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【インタビュー】新型「キックス」のインテリアデザインについて、チーフデザイナー入江慎一郎氏に聞く
2020年8月5日 09:02
日産自動車からしばらくぶりに発売された新型SUVの「キックス」。e-POWERを搭載しているので、2016年に海外で登場したクルマとは多くの点において違いがある。
そこでチーフデザイナーを務めた日産自動車 グローバルデザイン本部 プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎氏に変更点などを聞いてみた。
海外仕様のキックスとの違い
――今回日本で発売された日産キックスは、新たにe-POWERを搭載するなど日本向けに開発されています。そこでインテリアでは、e-POWER専用のシフトまわりを除いて、海外仕様との違いはどういったところにありますか。
入江氏:海外向けキックスのサイドブレーキは手引きですが、日本仕様は電動パーキングブレーキを採用していますので、海外には設定していない大型のアームレストが取り付けられました。また、インストルメントパネルのナビのモニターまわりの柔らかいパッド部分も、新規で作成しています。細かい話ですが、メーターの中のグラフィックも新規で、e-POWERとしてより液晶が大きく見えるような工夫を至る所にしています。
このように日本市場向けにかなりアジャストしている部分があります。そして全車e-POWERが標準ですので、電動化という付加価値のイメージを元のクルマに対して付けていけるかにこだわってデザイン開発しています。
――アームレストは若干高い位置にあるので、その辺りはSUV的な印象もありますが、全体的にはSUVのイメージは感じられません。そのあたりは意識したのでしょうか。
入江:そうです。どちらかというと快適に運転できるコンパクトカーというイメージでデザインしています。
視覚的に広さを感じさせるインテリア
――インテリアのデザインコンセプトはどういうものですか。
入江:コンパクトでありながらも視覚的に広さを感じてもらえるように、インパネの造形も左右にクルマの外側に突き抜けて行くようなムーブメントを狙っています。また、乗った時にわくわくするようなマテリアルの入り方、グラフィックを感じさせるようにしました。
さらに、ドアトリムに入っているラッピング(色を変えている個所)の入り方や、黒とオレンジのタンカラーのシートのコンビネーションなどで、ハイコントラストでグラフィックが結構目立って見えてくるような遊び心を、日本向けに少しアジャストしています。
――フロントウィンドウからドアトリムに向けて線で弧を描いているのも面白いですね。
入江:これも広さ感の演出です。前方、カウルトップぎりぎりまでラウンドしている線の動きで、かつ線が長いのでとても広く見えるのです。
職人泣かせのステッチ
――インテリアにおいても広々感とともにエクステリア同様上質さを狙っているのでしょうか。
入江:はい、そこはすごくこだわったところです。このクルマはタイ工場生産で、タイでは高級車です。ですからタイ工場の人達もすごく頑張ってくれて、高級車感を損なわない作り込みをしています。例えばステッチはほとんどよれておらず、きちんと縫われています。実はこのクルマではステッチをふんだんに使っていますので、とても気になっていました。インストルメントパネルなど、特にナビゲーションのモニターのまわりのラッピングに施してあるステッチなどは、ちょっとアクロバティックな3次元的な作りで走らせていますが、ここもきれいに縫われていて、現地の人たちの思いの強さを感じ、よい相乗効果が生まれたと思います。
――そのステッチはシート座面のサイド部分にも入っていますね。
入江:まさに職人泣かせ(笑)。真っ直ぐに入れるとつまらないですし、また手が触れるところですから、より人に近いところにステッチを施したいという思いがありました。乗り込むときにしか分からないクルマもありますが、そうではなく、室内にいながらステッチの存在をちゃんと感じるために、外側から内側に向かってダイブしていくような流れを作っているのです。1つひとつの造作がプレミアム感につながりつつ、元々あるアクティブなSUVとしてのコンセプトを生かしているという相乗効果を狙っているのです。
――このインテリアで一番こだわったデザインのポイントはどこですか。
入江:ラッピングをいかに施すかということです。その分量やそこに織り込んでいくステッチの数や入り方に非常にこだわりました。
全体的な造形のテーマは、当初から割ときびきび走るスニーカー的なもので、若い人たちを狙ったアクティブな造形になっています。そこをベースにしながら、プレミアム感をどう出していくかというところに非常にこだわったのです。
そのラッピングとはドアアームレストの部分やインパネ部分の茶色いところを指します。またセンターコンソールのシフトの両サイドのニーパッド部分などは、通常ここはキックスが属するセグメントだとカチカチな樹脂でできているクルマが多いですが、ここはあえてこだわって(ソフトパッドの)巻物にしています。
実は今回の開発は皆結構“ノリノリ”でやりました。デザインをはじめ多くの人たちが(こだわりに)ついてきてくれたのが嬉しかったですね。