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マクラーレン、“公道走行可能なレーシングカー”新型「620R」を日本初公開

「マクラーレンの中でもかなり尖った“究極のレーシングオリエンテッドなモデル”」と日本支社代表の正本氏

2020年7月31日 発表

「620R」を日本初公開

 マクラーレン・オートモーティブは、幕張メッセで開催中の「AUTOMOBILE COUNCIL 2020」において最新モデルである「620R」を日本初公開した。グローバルで350台限定のうち、日本割当て台数はすでに完売だという。

モータースポーツ全般で活躍するマクラーレン

 AUTOMOBILE COUNCIL 2020のマクラーレンブースは、マクラーレンの卓越したテクノロジーとその世界観をテーマに、“マクラーレンに魅せられる”がコンセプトだ。全体的には一切の無駄を省いた清潔感のあるマクラーレンファクトリーのイメージを踏襲しており、マクラーレンのCIを基調としたシンプルかつ力強いエッジの利いたデザインは、マクラーレンの持つ先進性とスピード感を表現しているという。

 マクラーレン・オートモーティブ・アジア 日本支社代表の正本嘉弘氏は、620RのポジションとAUTOMOBILE COUNCILのコンセプトを踏まえ、同社のモータースポーツの歴史、特にツーリングカー選手権に絡めて説明。

 そもそもマクラーレンは、1967年に創業者であるブルース・マクラーレンが、マクラーレン・モーターレーシング・リミテッドというレーシングコンストラクターを結成したのが始まりだ。「それ以降、50年以上にわたって第一線のモータースポーツで活躍をしてきた伝統的な一流ブランド」と述べ、多くの人が思い描くマクラーレンのイメージとして、「F1で、特に1988年、マクラーレン・ホンダで16戦中15勝するという圧倒的な強さを誇った年だろう」という。

多くの人が思い描くマクラーレンのイメージ

 しかし、「マクラーレンは決してF1だけで活躍しているブランドではなく、グローバルにおいてモータースポーツ全般で活動しているチームだ」と正本氏。「特にモータースポーツのトリプルクラウンと呼ばれるF1のモナコGP、インディ500、ル・マン24時間の3つのレースにチームとしてすべて優勝を飾っている唯一のブランドがマクラーレン」と話し、多くのレースにおいて活躍しているサラブレッドであることを強調。

 その上で、1990年代にマクラーレン・カーズとして初めて導入した市販モデル、3シーターのF1ロードカーはもともと公道での使用のみを考えて作られたモデルであったが、「1995年のル・マン24時間レースに初参戦して優勝。しかも3位、4位、5位と上位を独占したという衝撃的なデビューを飾ったクルマでもある。つまりマクラーレンは決してレーシングカーだけではなく、その技術を市販車に投入し、それが今度はレースにおいて戦闘力があるということを実証したいい例だ」と話す。さらにその2年後の1997年には、F1ロードカーのエボリューションバージョン、GTRロングテールがFIA GT選手権の中で11戦中5回優勝。加えてその年のル・マン24時間レースでは、GT1クラスにおいて第3位に30周もの圧倒的な差を付けながら1-2フィニッシュを飾っている。

1995年のル・マン24時間レースに初参戦して優勝。1997年にはGT1クラスにおいて1-2フィニッシュを飾った

 マクラーレン・オートモーティブが2010年に立ち上がって以降、積極的に参戦しているツーリングカーとしては、12C GT3とその後継モデルの650S GT3があり、720S GT3は2019年の日本のモータースポーツ界でもSUPER GT、ブランパン・アジア、スポットで鈴鹿10時間耐久レースなどに参戦。

 GT4カテゴリー、いわゆるジェントルマンレースの登竜門と呼ばれるカテゴリーにおいても「マクラーレンは積極的にビジネスを展開している」とし、570SをベースにしたGT4でグローバルでさまざまなカテゴリーに参戦。このGT4については、「2017年に投入以降、全世界で67勝、88回のポディウム、プライベーターを含めて25チームがこのクルマで参戦しており、マクラーレンの中では最も成功したツーリングカーモデルでありながら、レース界においても最もポピュラーなモデルでもある」と述べた。

570SをベースにしたGT4でグローバルでさまざまなカテゴリーに参戦。2017年に投入以降、プライベーターを含めて25チームがGT4で参戦し、全世界で67勝、88回のポディウムを記録

ドライビングエンゲージメントの究極の結晶

 今回発表した620Rについて、正本氏は「出で立ちも含めて分かりやすくいうと、570S GT4というレーシングカーの公道バージョン」と述べるとともに、「マクラーレンは50年にわたる実績と知見をベースにしながらトップノッチのレーシングカーを作る技術と知見を持ったブランド。つまり、自動車メーカーではなくレーシングコンストラクター」と位置付ける。そのレーシングコンストラクターが、「一般のお客さまに最高のドライビングエンゲージメントを体感してもらえるためにどういったことができるのか。その究極の結晶がこの620R」とした。

620Rの特徴点

 正本氏は、この620Rの特徴は大きく4つあるといい、「1つはモータースポーツ直系のピュアなレーシングカーであり、レーシングテクノロジーに基づいて開発されたクルマであるということ」。次に「レーシングカーの場合、レースレギュレーションに規制されてしまうが、このクルマはそのレギュレーションを取り払い、最高のサーキット体験ができるパフォーマンスを有したクルマであること。しかもナンバープレートを取得し、合法的に公道を走らせることができる。つまり、公道を走ってサーキットに行き、スリックタイヤに履き替えてそのままサーキットを走れるという最高の体験ができるクルマ」。最後は、マクラーレンのラインアップにはトラックエディションに近いLTシリーズがあるが、この620Rは600LTと比べても「さらにスパルタンな、まさに生粋のレーシングカーといえるキャラクターを有しているクルマといえる」と話す。

 最高出力は600LTから20PSアップの620PS(最大トルクは同じ620Nm)で、「これは主にECUやブーストコントロールのチューニングでプラス20PSを捻出。もう1つ注目したいのがダウンフォースだ。大型のカーボンファイバー製リアウイングを搭載しているので、250km/hの段階で600LTよりも1.85倍と極めて強力なダウンフォースが得られるセッティングとなっている」と説明した。

600LTと620Rのパフォーマンス比較

公道を走ることができるレーシングカー

 ここからはもう少し詳細に語ってもらおう。エクステリアでは、フロントは「GT4のレーシングカーをベースに作られているので、フロントのスプリッターや大きいエアダクトはほぼGT4に沿ったデザインだが、公道走行が可能なように、歩行者保護の観点で若干形状が変更されている」という。それに加えて、レーシングカーならではのダイブプレーンもとても小さいが、これだけでダウンフォースが40kg向上するという。

 さらに、新たにフルカーボンで作成されたボンネットは、歩行者保護の観点から「万が一、歩行者の頭部がボンネットに衝突した場合でもしっかりダメージを最小限にする配慮がなされている。エアロダイナミクスの観点でも、車両上部のエアフロ―除去のためにノーズ部分にツインホールが設けられている」と述べる。

620Rは570S GT4のレース仕様から発展したモデル

 サイドで目を引くのはセンターロッキングのレーシングホイールだ。これは鍛造製で、公道走行が可能なようにダブルのセキュリティがかかっており、「より日常走行でも安心して使ってもらえるような配慮がなされている」という。また、カーボンセラミックブレーキは標準で、「レーシングカーなので、バネ下重量をどれだけ低減させるかがロードホールディングとドライビングダイナミクスの観点で特に重要」と、その採用理由を説明する。同時にレーシングダンパーも装着することで、バネ下重量を6kg通常モデルよりも低減させたとのこと。このレーシングダンパーは、「マニュアルでバウンドとリバウンド両面で合計32のセッティングの変更が可能となっており、それを四輪独立制御することで、世界のどのサーキットでも、そのサーキットに応じた効果的なサスセッティングを行なうことができる」と語る。

 冷却の観点では、サイドにあるメインのエンジン用ラジエーターは、より吸入量が上がるように拡張されたデザインが採用された。

 リアで最も目を引くのが、マニュアルで3段階調整することが可能なカーボンファイバー製の大型リアウイングだ。「ユニークなのはこのエアロダイナミクスの性能を損なうことなく、センター部分にハイマウントストップランプをインテグレートしている。これも公道走行のための法規対応だ。サイドのプレートも突起物になるので、若干レーシングカーよりもマイルドなデザインを採用。エンジンカバー部分はカーボンファイバー製になっている」とのことだ。

620Rのエクステリア

インテリアも最高のドライビングエンゲージメントを

マクラーレン・オートモーティブ・アジア 日本支社代表の正本嘉弘氏

 インテリアに目移すと、そこはブラックの軽量アルカンターラでまとめられており、カーボンモノコックのタブによって車両重量が大幅に軽減されるとともに、「レーシングカーなので1g単位の軽量化が随所に施されている」と正本氏。フロアカーペットやグローブボックスはすべて撤去され、レーシングシートはGT4から変更。「公道で乗りやすい、フルバケットのスーパーライトウエイトカーボンファイバーレーシングシートで、マクラーレン セナと同じスペックのものを搭載している」という。

 そこに6点式のハーネスベルトを装着し、ハーネスで固定された場合、手のリーチが限られることから、ドアを閉めるときにはプルストラップを追加で装備。さらにセンターコンソールは各種パワートレーンやサスペンションのセッティングを変更するスイッチが配され、これらによって「ドライバーはそのポジションを動かすことなく、最高のドライビングエンゲージメントを楽しんでもらえるだろう」と正本氏。

「このように、620Rはマクラーレンの中でもかなり尖った“究極のレーシングオリエンテッドなモデル”である。いってみれば公道走行可能なレーシングカーを超えた、レースのレギュレーションよりもさらにパワフルでエキサイティングなレーシングカーだ。2019年に発表し、全世界350台限定で発売して日本のアロケーションは完売。マクラーレンは今後もこういったエキサイトメントを与えるような、最高のスーパーカーを出していくので注目してほしい」と語った。

インテリアではフルバケットのスーパーライトウエイトカーボンファイバーレーシングシートなどを採用