イベントレポート 東京オートサロン 2020
「マクラーレンと日本は親和性が高い」。マクラーレン飛躍の理由を日本代表の正本嘉宏氏に聞く
車両を貸し出すモニターキャンペーンなどでブランドが浸透
2020年1月20日 08:00
- 2020年1月10日~12日 開催
幕張メッセ(千葉市美浜区)で1月10日~12日に開催された「東京オートサロン 2020」。マクラーレン・オートモーティブは今回から東京オートサロンに初参加し、「マクラーレン GT」「720S Spider」の2台を展示した。
このマクラーレンブースで開幕初日に行なわれたプレスカンファレンスでも登壇したマクラーレン・オートモーティブ・アジア 日本代表の正本嘉宏氏に、より詳細な話を聞いてみた。
飛躍的な台数向上の理由
――先ほどのプレゼンテーションでは、2019年の販売は353台と非常に好調だったと伺いました。少しさかのぼると2014年が88台でしたから、この5年で素晴らしい飛躍と言っていいと思います。この要因はどういったものが挙げられますか。
正本氏:まず、商品ラインアップがしっかり充実してきたということがあります。当時はまだスポーツシリーズもありませんでした。その後、スポーツシリーズが入った段階で100台規模から180台規模まで倍増していきますので、その流れが大きいのが1つ挙げられます。
次にネットワークを構築しました。東は東京都で関東までですが、南については福岡県までのネットワークを作りました。また、ラグジュアリービジネス、特にクルマに関しては50%を占める首都圏に2拠点目を出しました。
3つ目として、特に2017年から日本でも各種メディアを通じて積極的なマーケティングとPR活動を行なっています。細いことですが、PRカー(広報車)も以前は2台しかありませんでしたが、現在は4台から5台あり、積極的にそれらを貸し出して体感してもらうようにしました。さらに一般のお客さまに対しても、以前は触れるのもちょっとという傾向があったのですが、モニターキャンペーンなどを通じて貸し出しを行なって実際に体感してもらい、理解してもらう活動を地道に続けてきたことが大きいかなと思っています。
――元々考えていたターゲットユーザーに対して、ブランドイメージが浸透してきたということですか?
正本氏:そうです。商品の導入タイミングでしっかりとしたローンチをして、コミュニケーション活動を行なう。それによって徐々にマクラーレンに対しての注目などが広がってきたことが大きくあるでしょう。
もう1つは、リテイラーも含めてマーケティング活動の積極的な展開を、ここ2年し続けてきていますので、その蓄積効果もだいぶ出てきています。
マクラーレンと日本は親和性が高い
――マーケティングについてですが、モニターキャンペーン以外でどういったことを行なっていますか。
正本氏:例えばメディアで言うと、これまでは雑誌のみだったのですが、近年はそれ以外のマスメディア、特に新聞やデジタルなどにも展開しています。また、イベントなどでお客さまとのタッチポイントを作ることも積極的に進めています。これまでは純広告中心だったものから、マクラーレンのバリューをしっかりと理解してもらえるようなタイアップ記事などのコンテンツにどんどん変えてきています。この背景には、やはりいくら写真だけ見てもスーパーカーで終わってしまうことがありました。他メーカーと何が違うのかが伝わらず、表面的に判断されて終わってしまうという残念なことになっていたのです。そうではなく、“マクラーレンとはこういうクルマだ”ということを、まずしっかりと認識してもらうことが大事だということを踏まえての活動です。
――具体的に、マクラーレンとはどういうメーカーだと伝えたいのでしょう。
正本氏:これは私がマクラーレンに入社したときから感じているのですが、特に日本のお客さまとマクラーレンというブランドはすごく親和性が高いと思っています。それは何かというと、マクラーレンというブランドは「一点突破」「フォーム・フォローズ・ファンクション」というコンセプトにも表れているように、無駄なことをしないのです。最高のものを徹底的に妥協せず追求するという姿勢は、まさに日本の職人堅気、伝統文化などに似ているところがあるのです。そういったことを知れば知るほど日本人のメンタリティにすごく近いブランドだなと確信しています。
しかし、悲しいかなそういう部分が全然伝わっていません。そこで、これはちゃんとしたストーリーを作って、そういう軸で日本のお客さまにマクラーレンをプレゼンテーションすることで、もっともっと共感を得られると思いますし、もっともっと理解してもらい、ファンになってもらえる素養があると考えています。
その究極の例としてLT(ロングテール)の大好調が挙げられます。ここまで徹底して造っているということに対し、日本人はすごくアプリシエイトしたのです。また、ストーリーに対しても興味を持っていただき、そのバックボーンにあるマクラーレンの歴史と実績、また、MTC(マクラーレン テクノロジー センター)やカーボンファイバー。それらのファクトをきちんと理解した上で、確信を持っていただいた人がオーナーになってもらえているケースが多いのです。
私が最近思っていることをお話しします。マクラーレン・オートモーティブが設立され、MTCがスタートし、「12C」を作りました。その時は新たなビジネスの立ち上げですから相当なコストをかけて大々的なキャンペーンを行ない、MTCの現地に行った日本のメディアやジャーナリストもたくさんいました。しかし、悲しいかなそれ以降の情報発信があまりにもプアで、まだそこから(情報が)アップデートされておらず、最新のマクラーレンというものがちゃんと伝えきれていないのが現状です。その間にもマクラーレンは進化を続けており、そこをしっかりとアップデートするのが自分の仕事だと思っています。
ユーザーからのお叱りを受けることも
――入社されて2年半ですが、振り返ってみてどうですか。
正本氏:早かったですね。時間の密度も濃くて、でも面白かったですよ。やりがいのある仕事です。マクラーレンという世界でも超一流のブランドの日本代表ということ自体がすごく光栄なことでもありますし、知れば知るほど開発のポリシーや実際の開発の力、ケーパビリティはすごいものを持っています。そのアウトプットとなる商品も最高のレベルで、レーシングドライバーやジャーナリストから、いかにマクラーレンがすごいかということを教えてもらってもいます。そういったところからも改めてすごいブランド、すごい商品を扱っているんだなと感じて、それらについて興味を持ってもらえる可能性のある人にしっかりと伝えていく責任を感じています。同時に、すでにファンになってもらったお客さまによりよいサービスをお届けしていきます。
正直に言うと、新しいブランドなので上手くできていないこともたくさんあり、お客さまからお叱りを受けることもあります。そういった点をできるだけ早く解消して、もっと喜んでもらえるような環境を作っていきたいのです。そのために、私がこれまでに各メーカーやインポーターで経験してきたことが生きてくる部分もたくさんあります。そこで粛々と信じる道を行くという感じです。
――ユーザーからのお叱りに耳を傾けるのは大切なことですね。
正本氏:その通りです。自分が気付かない部分をしっかりと指摘してもらえることは非常に大事なことです。ただ、怖いのは、マクラーレンのお客さまにはマチュアな方たちも多いので、ともすると口には出さずに去っていってしまう方もいらっしゃいます。これが一番辛い。できるだけそういったことが起きないよう、例えばお客さま向けの調査などの体制もしっかりと整備しようとしていますし、未定ですがコールセンターを立ち上げることも含めてお客さまの声がしっかりと届くような体制にしていこうと取り組んでいます。
基盤を再度整備する年
――2020年の展望を教えてください。今年はどのような活動をしていきますか。
正本氏:正直に申し上げますが、2012年にこのビジネスを立ち上げた時にはここまでのレベルに、しかもこれだけ短期間で達成することは想定していませんでした。ですから、端的な例でいうとサービスのキャパシティが溢れてしまった。そういったところをもう1回しっかりと手を入れて、お客さまにご不便をお掛けしない、ご迷惑をお掛けしない体制を作っていきます。そのためのトレーニングは欠かせませんし、ワークショップのキャパシティを上げ、さらに製品のクオリティも上げていく。それからパーツを含めた納期を短縮するなど、地道なことをしっかりとやっていきます。台数も大事ですが、それよりもこれから2年、3年先を見据えた上での基盤を、もう1度きちんと整備することを念頭に置いています。
――販売店を増やす計画もありますか?
正本氏:それも考えてはいます。中古車に関しても東京の状況をモニターしながら判断します。おかげさまで有明のクオリファイドセンターは順調に推移しており、販売台数も増えてきていますので、同じようなことを別の場所で展開するということも当然視野に入っています。