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英国のテクノロジー・センターを彷彿とさせる「マクラーレン東京サービスセンター」を見学してきた

本国と密に連絡を取り、修理・修復に即対応

東京 有明にあるマクラーレン東京サービスセンターを見学

 2017年1月~11月に149台、2018年同月期に201台(JAIA調べ)と大きく販売台数を伸ばしているマクラーレン。当然、その数が増えればその分メンテナンスする台数も増えてくる。さらにハイパフォーマンスカーがどのように整備されているかも気になるところ。そこで、東日本をカバーするマクラーレン東京サービスセンターを訪問し、その現状と特徴などを取材してきたのでレポートしたい。

 東京 有明にあるマクラーレン東京サービスセンターは、2016年7月にオープン。2056m2(約600坪)の敷地を持ち、開放感のある8mの吹き抜けを有するエントランスには複数台の認定中古車が展示されているほか、ファクトリーには同時に8台まで作業が行なえる専用リフト(整備リフト7基、検査&アライメントリフト1基)や、車両専用エレベーターといったファシリティを備えており、英国のマクラーレン・テクノロジー・センター(MTC)を彷彿とさせる施設となっている。

マクラーレン東京サービスセンターのエントランス。商談スペースが備わるとともに、アパレル・グッズ販売のスペースもある
エントランスには複数台の認定中古車が展示される

清潔なファクトリーは特注と最新機器で作業効率化

 日本はスポーツシリーズで世界第3位、またマクラーレン全体でも世界第4位と重要な市場だ。そこで、よりよいカスタマーサービスをオーナーに提供するとともに、タイムリーに最新技術を提供することを目的に、現在この有明を含め品川、名古屋、大阪、福岡と5つのサービスセンターが設立されている。

 有明では38台の屋内駐車スペースと既述の専用リフトを備え、5人のメカニックの手で年間約800台がメンテナンスされている。その入庫期間は、車両の不具合状態にもよるが3日から2週間ほどだという。

取材当日は年末ということもあり、駐車スペースはぎっしり

 できるだけ短期間かつ安全に作業を進めるために、このサービスセンターではさまざまな工夫が凝らされている。まず1つはパーツのストックだ。その在庫量は豊富で6000アイテムほど。中にはゴム類もあることから、しっかりと湿度管理がなされた空間に保管されている。

真っ白な床と広々とした空間が特徴的なサービスファクトリー内

 サービスを行なうファクトリー部分は真っ白な床と広々とした空間から、まるで清潔な生産ラインのような印象を見るものに与える。極力柱の本数を減らし、クルマの障害になるようなものを排除。それはリフトも同様で、柱部分やアーム部は床下に収納されている。そのリフトのアームも特注で、通常より薄いものが採用された。これは、「車高が低いので通常のアームが入らないからです。一般的にはジャッキで上げてからリフトのアームを入れるのですが、安全性の問題もあります」と、その理由を教えてくれたのはマクラーレン東京サービスセンターのセンター長だ。これが可能なのは、マクラーレンのいずれのモデルも他社モデルより軽量だから実現できているのだ。

特注のリフトアーム

 ここでサービスセンター長はこんな話をしてくれた。「多くのメーカーにオープンモデルはあり、当然マクラーレンにも各モデルにオープンがラインアップされています。他メーカーのモデルをリフトで上げると、その多くがドアを開けることができないのですが、マクラーレンの場合はまったく問題なくドアの開閉ができるのです」。これは通常はモノコックなので、ボディ全体で強度を保っているため、リフトアップするとボディにゆがみが生じ、ドアが開きにくくなる。一方、マクラーレンの場合はコクピットまわりをカーボンで成形し、バスタブ化することで強度を確保している。その結果、たとえオープンであろうとボディがゆがむといったことでドアが開かなくなることはないのだ。まさにサービスセンターでなければ聞けないエピソードだろう。

 機器についても最新式のものが用いられている。例えば、アライメントリフトについても光学式カメラを用いたものを使用しているので、セットアップも即可能だ。さらにホイールのバランサーに関してはユニフォーミティバランサーを採用。サービスセンター長によると、「通常はタイヤの重いところと軽いところを判断してウエイトを貼り付けます。しかし、タイヤに負荷をかけながらまわすと、タイヤの柔らかいところと硬いところが必ず存在しますので、その硬いところはそこを通過するときに必ず振動を伴います。そこで、ユニフォーミティバランサーではタイヤを装着して、硬いところと柔らかいところを判断しながらウエイトバランスを取るのです」と説明。そうすることでバランスウエイトを少なくするという大きなメリットがあるのだ。

 そのほか、ツールボックスも壁際にまるでシステムキッチンのように収納されており、簡単な整備はこのキャビネットの上でも作業が可能となっている。

システムキッチンのようなツールボックス

本国と密に連携

 さて、メンテナンスについて気になるところを聞いてみよう。マクラーレンのオーナーでも、実際に自分で手を汚してオイル交換くらいはやってみたいと思う人もいるだろう。しかし、「アンダーフロアはエアロダイナミクスのためにすべて覆われており、何も見えないのでお客さまが何かをしようと思っても難しいのが現状です」と、どうやら任せたほうが無難なようだ。「われわれは必ず新しいモデルが出る前にテクニカル的な部分を含めたトレーニングを受けます。過去、P1ではハイブリッドモデルでしたから、電気的な部分を含めたハイブリッドのトレーニングも行なわれました。さらに常にWebで細部にまで渡るeラーニングが行なわれます」とし、メンテナンスに関してはマクラーレンのエキスパートに全面的に任せてほしい様子だ。

マクラーレンのモデルはアンダーフロアが覆われており、何か作業をしようとしても容易にできない

 トラブルに関しても、日本固有のものはとくになく、昨今の酷暑であっても問題はなかったという。「ユニークなのは、ギヤボックスなどを冷やす回路とエンジンを冷やす回路が別に存在していることです。前側にあるラジエターはギヤボックスなどを冷やす回路で、後ろ側にあるラジエターはエンジンを冷やす回路と分けているので、熱に対する問題はありません」とサービスセンター長。

 そして、最も気になるクラッシュした場合だが、「カーボンのタブまで影響を及ぼした事故はまだ見たことがありません。たとえフロントまわりをクラッシュさせたとしても、そこの部分を交換して終わります。基本的にはタブ交換以外はすべて日本で修復が可能と考えてください。もっともタブ自体が強固なので、割とハードなクラッシュでも直せないなというのは意外とありません」とのこと。また、「整備において不明点があった場合には本国と密に連絡を取り即対応します。具体的にはメーカーサイトからテクニカルチームに問い合わせをするのですが、昼間起きた出来事を夕方近くに連絡をすると翌朝には返事が返ってきています」(サービスセンター長)と、素早い対応が可能であることを述べた。

人気の認定中古車も

 前述のとおり、エントランスにはユーズドカーギャラリーとして複数台のマクラーレンが展示されている。取材当日も「650S スパイダー」をはじめ、いくつかのモデルが展示されていた。ここでは年間40台ほどを販売しており、「すぐに欲しいという方にとっては手が出しやすくとても人気です」。また、「過去のモデルはユーズドカーでしか手に入りませんから、そこを狙うお客さまもいらっしゃいます」という。いずれにせよ、「われわれが扱うクルマはお客さまが大事にしてきたクルマですから、新車なのか中古車なのか分からないと言っていい状態でお客さまに納車しています。初めてここに来たお客さまは、『本当に中古車なの?』と思われる方もいらっしゃいます」と、認定中古車の程度に自信を見せた。

 今回マクラーレン東京サービスセンターを見学し、感性や情熱に訴えるのではなく、理詰めでテクニカル、論理的なクルマ作りをするマクラーレンというクルマと見事に合致した印象だった。その分、シビアでクールな面も併せ持っており、それはメカニックへの厳しいトレーニングにも表れている。だからこそ、オーナーは安心してクルマを任せられるのだろうし、その性能に見合った緻密なメンテナンスをしてくれるのだ。

各問合せ先

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