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トヨタの足踏み式消毒スタンド「しょうどく大使」 感染対策として工場従業員が自発的に開発

価格8000円(税別)で12月1日より発売

2020年11月25日 発表

2020年12月1日 発売

8000円(税別)

トヨタ自動車の発売する足踏み式消毒スタンド「しょうどく大使」がトヨタ自動車 高岡工場で公開された。写真では消毒液や上部にボードが付いているが、販売される製品にこれらは付属しない

 トヨタ自動車はかねてから製造現場の力やTPS(トヨタ生産方式)を活かし、マスクやフェイスシールドの生産、飛沫循環抑制車両の開発、医療用防護ガウンの生産向上支援などを行なっていた。そんな活動のなか新たに生まれたのが「しょうどく大使」という足踏み式消毒スタンドだ。

 こちらは12月1日より全国のトヨタ車販売店およびトヨタレンタリースの各拠点で販売される。商品サイズは330×430×1169mm(幅×奥行き×高さ)で重量は約3.2kg。価格は8000円(税別)となっている。

足踏み式消毒スタンドのしょうどく大使。カラーは5色展示されていたが、当面はシルバーとブラックのみが発売される。消毒液は付属しない。商品サイズは330×430×1169mm(幅×奥行き×高さ)で重量は約3.2kg。価格は8000円(税別)

 足踏み式消毒スタンドのしょうどく大使は、新型コロナウイルス感染症の影響で稼動停止を余儀なくされたトヨタの各工場で働く従業員が「この状況に対して自分たちは何ができるのか?」「トヨタで働く仲間から感染者を出さない」という想いを持って作り出したものであり、その動きは誰かの指示ではなく各工場の自発的な行動から生まれたものである。

 そうした流れに対して従業員から「現場のおやじ」という呼び名で親しまれている河合執行役員がそれぞれの活動をリード。そして各工場ごとのアイデアで作りあげた消毒スタンドを、生産現場の作業効率や安全性などを高めていくために現場の人員が中心となって進めるトヨタ独自の活動である「カイゼン」を手がける部署がまとめて、さらにブラッシュアップした製品ということだ。

トヨタ自動車高岡工場で行なわれたしょうどく大使の説明会では、各工場がそれぞれのアイデアで製作した消毒液スタンドが展示されていた
サービスパーツ物流部 課長の磯部氏からしょうどく大使の特徴が紹介された

 次に、しょうどく大使の特徴を紹介していこう。手消毒用の消毒剤スタンドには手をかざすと液が出る自動式もあるが、しょうどく大使が採用したのは足踏み式だ。

 この方式を採用した理由について、サービスパーツ物流部 課長の磯部氏は「ペダルを足で踏むことで消毒液が出るという、シンプルですが自分の意志で“消毒をする”という動作を行なう部分にこだわりました。また、液を出すために足を使うと、両手の消毒に対してスピーディに適量を出すことが可能です」と説明した。なお、これらはトヨタのものづくりにて掲げられている「ムリ、ムダ、ムラを防ぐ」という考え方に沿ったものだという。

 こうした器具は設置されている建物に入るすべての人が利用するものなので、それぞれの身長に合わせた使いやすい高さというものがある。そこで、しょうどく大使では消毒液ボトルを置くテーブルおよび、プッシュ用のトリガー部分の高さが無段階で調整できるようになっている。

 また、一見では分かりにくいが、老若男女、健常者、障がい者誰にでも使いやすさを感じてもらうために、足踏みペダル、ボトル置き、プッシュノズルの位置が一直線になるよう設計されている。また、手を無理に伸ばすことなく身体の近くで使用できるよう安定感を確保できる範囲で奥行きを詰めているというので、自然な姿勢で使うことができるという。

しょうどく大使の特徴。さまざまな身長に対応できる
使用する人の手の位置に合わせた調整ができるだけでなく、車いす利用者など足踏み式では対応できない人向けとして、手の甲を台の部分に載せて引き下げることで手のひら面にしっかりと消毒液が掛かるようにした仕様も作っていた
しょうどく大使を紹介するスライド
開発時は大病院やトヨタのレンタカー営業所などに試作機を設置。実際に運用してもらい意見を集めながら使い勝手を改善していったという
シンプルな構造で手頃な価格設定を実現。また、衛生面でもしっかりとした手消毒ができるような工夫が随所に盛りこまれている
こちらはサービスパーツ部門の紹介資料。商品はトヨタ車用の部品や用品を扱う物流ルートにて全国のトヨタ車販売店および、トヨタレンタリース各拠点へ展開する。なお、現状ネット販売や大手カー用品店などでの販売予定はないという

 さて、今回の取材会はトヨタのものづくりの現場から生まれた製品を紹介するものだったので、通常の新車発表会等とはまるで違った構成になっていた。その一環が現場で作業する方が登壇してのプレゼンだ。しょうどく大使の概要紹介が終わったあとは、実際に製造を手がける方々による製造上のポイントが紹介された。

製造を行なう従業員の方が直接、作り方などを解説した。こちらは足踏み部などの樹脂製パーツについて
工場で使用する部品保管ラックの材料を流用することでコストを抑えた
設計と解析も現場の方々で行なった
角の部分をなくすなどブラッシュアップしていった
工場の設備を使ってパーツを量産していく
仕上げを手作業で行なう
塗装も工場内で行なう。効率よくキレイに塗るための治具も工場で製作したとのこと。治具で塗装後に焼き付け加工を行なう

 しょうどく大使は一般に販売されるものだが、そもそもは社会貢献のための製品だ。そのため低価格化は必須条件となるので、しょうどく大使を構成するパーツの調達や製造コストは抑えなければならない。

 そこで、パーツについてはトヨタの工場で使用している部品保管ラックの支柱を利用するなどしてコストを圧縮。そして足踏みペダルやポンプ台などは樹脂パーツを作るための設計、解析技術を使用し、製造も工場の設備で行なった。さらに組み立ても一人工にて短時間で作れる構造として、「人」に関してのコストも抑えているなどなど、文字どおり「良品廉価」の製品としているのだ。

 年末にかけて、いま以上に感染予防に気を配っていくことが求められるようになるだけに、感染予防の基本であり効果の高い「手消毒」を確実に行なうため、しょうどく大使を使ってみてはいかがだろうか。

作業員1人が効率よく組み立てできるように作られた作業台も公開された
組み立て順に並べてある小物パーツ。各パーツのストック状況もひと目で分かる
縦横どの向きでも作業しやすい姿勢が取れるよう、治具を作ってあった
目の高さに解説ボードを設置。確認のための無駄な動きが必要ない
作業台横には完成見本が置いてあり、組み立て時のポイントが記されている。組み立てにかかる時間は約20分とのこと
組み立て済の完成品として出荷される。全長が約1.2mあるので箱はそれなりに大きくなる。購入時は持ち帰りのためにクルマを使用したい

取材メディアもトヨタの工場でものづくりを体験

カイゼンを行なうための人材を育成する「からくり発想館」という部署をまとめる土屋氏。各工場製の消毒スタンドも、それぞれが自主的に作り始めたというだけでなく、必要なパーツは自分たちで作り、そこに知恵と工夫でカイゼンを重ね、使い壊れてしまったら自分で直すという、ものを大切にする心を持つという「もの作りの心」から生まれた用具であるということだ

 最後にこちらを紹介したい。プレゼンが行なわれたのは高岡工場だが、その前に取材メディアを乗せたバスはトヨタ自動車 元町工場に立ち寄った。前記したように、しょうどく大使はものづくりの現場から生まれたものなので、取材するメディアに「ものづくり」が体験できる場を用意してくれていたのだ。作業する場所は冒頭でも紹介した元町工場内にある「グローバル生産推進センター」だ。ここで解説と技術指導をしてくれたのが土屋氏。2050年までに工場排出CO2ゼロを実現するため、既存の動力や仕組みにとらわれない設備などを考えていくことができる人材(カイゼン人材)を育成するために設立された、からくり発想館の館長を務める方である。

 そして、グローバル生産推進センターの一角にあるからくり発想館のスペースこそ、しょうどく大使が生まれた場所とのことで、新入社員を中心に124の部書から410名の従業員が参加したという。その結果、現在、トヨタ社内の大半に消毒スタンドが行き渡っているとのことだった。

半完成状態の足踏み式消毒スタンドを完成させる。取材メディア全員参加だ
設計図も用意されていたが見ないでも作業できるレベル
支柱に消毒液ボトル置きを付ける
支柱と台座の部分を連結させる

 そんな場所にて体験した消毒液スタンドの組み立て。工具を使うこと自体は慣れているので半完成品の仕上げとなっていた今回の作業内容はすぐに終えることができたのだが、作業して感じたのは「作りやすい」ということ。

 用意されていた支柱やガイドはともにアルミ素材なので、部材を合わせたときの「噛み合い」がよく、女性の力でネジを締めたとしてもずり落ちにくいもの。また、支柱に設けてある噛み合い用の溝は位置決めに自由度があるので、ずり落ちにくいパーツと合わせて仮組みから本締めまで流れがスムーズだった。こうした作業しやすさも「カイゼンをしていった結果」実現していることなのかもしれない。

支柱には溝が設けてあって、ガイドパーツでその溝を加えてステーや台座と連結させるようになっている。ともにアルミ素材
ボトル置きは裏面のパイプに挟み込みガイド付きのジョイントを差し込で連結する
消毒液ボトルの固定は輪ゴムだったが、しっかりしたバンドなどを使うよりもいろいろなサイズのボトルに合わせられる輪ゴムのほうが便利とのこと。そういった理由で輪ゴムを使う仕様になったという
製作体験用に用意されたものなので、製品のしょうどく大使とは別もの。こちらは非売品だ。ジョイント部などは別パーツで構造もシンプルになっていて製品より全高も低かった。実際に使用してみたが両手で消毒液を受けられ、量も足踏みで調整できるのでいつもよりしっかりと消毒ができると感じた