まるも亜希子の「寄り道日和」

ボディが長~い「高岡RAV4リムジン」

はるばるトヨタ自動車高岡工場まで会いに行った、ボディが長~い「高岡RAV4リムジン」! 仕事の合間に各部署の有志が協力しあい、4か月かけて製作した貴重なクルマです。全長が80cm長く、車重は約100kgアップで、インテリアや塗装などにもチャレンジの跡が盛りだくさんでした

 出会いは昨年末でした。見た瞬間、「あれ? このRAV4なんかヘン!?」と思ったのもそのはず。なんとなんと、普通のRAV4よりボディが長~い、リムジンになっていたんです! もちろん、正式なラインアップにリムジンモデルなんてありません(笑)。一緒にいたカーライフ・エッセイストの吉田由美さんと2人して、「なんですかコレは~?」と思わず前のめりで食いついてしまったのです。

 そしてついにこの度、念願叶ってこのリムジンが製作されたトヨタ自動車・高岡工場まで取材に行くことができました。名古屋駅からレンタカーで1時間弱、到着するともうスタッフの皆さんが準備をして待っていてくださり、大感激。まずはこのリムジンが生まれた背景から、お聞きしてみました。

 高岡工場では約5000人のスタッフがいらっしゃって、「カローラ」や「RAV4」「ハリアー」が主な製造モデルです。RAV4の生産がスタートするにあたり、「なにか自分たちでも、トヨタを盛り上げる活動をしたいよね」という話が自然発生的に持ち上がったんだそうです。そこで、どんなことができるのかアイデアを出し合って議論した結果、リムジンに決定したとのこと。正式名称「高岡RAV4リムジン」プロジェクトがスタートしたのでした。

 とはいえ、業務としてやるわけではなく、あくまで仕事の合間の時間を見つけて、やりたいという意欲のある有志によってコツコツと作業をしてきたそうで、関わった人数は延べ200人にのぼり、制作期間は4か月あまり。その様子をまとめたドキュメンタリームービーも見せていただいたのですが、若いスタッフさんが多く、皆さん和気あいあいと部活動のような雰囲気で取り組んでいたのが印象的でした。

延べ200人超のスタッフが関わって完成したという「高岡RAV4リムジン」のプロジェクト。私たちの取材対応にも温かくご協力いただき、感激しまくりでした。この模様はYouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でも公開していますので、ぜひチェックしていただけたら嬉しいです

 このプロジェクトのまとめ役を務めたトヨタ自動車の男沢祐二さんによれば、3つの目的があったとのことで、その1つ目は、挑戦。普段、工場では決められた作業を完璧にこなすことが求められる皆さんですが、1人ひとりが持つ技術・技能を使ってどこまでできるのか、どんな素晴らしいものが生み出せるのか、というチャレンジです。

 2つ目は、可能性の追求。このプロジェクトを通して得た経験をもとに、何か現場の自分たちから新しい提案ができるかもしれない、ということです。

 3つ目は、人材育成。トヨタは常に「モノづくりは、人づくり」と訴えていますが、新しいことを成し遂げる際の困難は、最高の学びになりますよね。また、普段はあまり交流のない部署のスタッフ同士が交流することで、新たな気づきや絆が生まれ、それが人を育てるということなのだと思います。

 そしていよいよ、実車を見ながら試行錯誤のエピソードを伺ったのですが、まぁ次々と出てくること出てくること(笑)。最初に驚いたのは、この高岡RAV4リムジンには図面がなく、全て手作業、フリーハンドで行なわれたというところ。そんなことが、できるんですね??

 全長は、ちょうど前のドアと後ろのドアの間の部分が80cm延ばされているのですが、ボディを切断して追加部分を継ぎ足し、溶接・板金・パテ仕上げが行なわれています。いちばん苦労したのはやはり強度だそう。完成した暁には、社内の駅伝大会で映えある先導車を務めることになっていたため、その途中でボキッと折れたりしないよう(というのは謙遜だと思いますが)、ボディをリフトで吊り上げてドンッと落とすテストも繰り返したということでした。

後席の足下は、通常のRAV4でも拳4つ分くらいのゆとりがあったのですが、こちらはもうガラーンとした広さです。展示中はここにテーブルやオットマンが置いてあり、リビングのような空間になっていましたが、試乗する時はおろしていました(笑)。この手作り感もいい味ですよね

 そして後席に座ってみると、なんと目の前にテーブルとシャンパングラスが(笑)。ただでさえRAV4の後席は広々していますが、足をいっぱいに伸ばしてもまだ余裕なくらい、優雅な空間になっています。ルーフや壁は私の目には違和感のないブラックインテリアに見えたのですが、ご担当の方としては目隠し程度の簡易作業とのことで、「あんまりじっくり見ないでください」と恥ずかしそうにされていました。

 さらに、この高岡RAV4リムジンにはいろんな文字や模様があしらわれていて、まずボンネットとフェンダーに、カッコいいロゴマーク。これ、カッティングシートかなと思ったら、なんと彫り物で描かれているんです。あまり深く掘ると塗装を越えて鉄板が見えてしまうし、浅すぎると何が書いてあるのか分からない、ということで、これも失敗を繰り返してようやく完成したものなんだそう。また、インパネが市松模様、ダッシュボードにはオリーブのモチーフがあしらわれていたんですが、市松模様は1つひとつ、マスキングして手作業で色をつけたと聞いてビックリ! 細かい作業も丁寧にやると、こんなに素敵なものが生まれるんですね。何年後かに、市販車に採用されていたらいいなぁと思いました。

ボンネットとフェンダーにカッコいいロゴが彫られていたのですが、これも手でボンネットを押さえながら慎重に彫っていくのがかなり大変だったそうです~。よく見たら、左側にRAV4の開発トップを務められた佐伯禎一さんのサインも入っていました

 さて、今度はテストコースに移動して、ありがたいことにメディアとして初めて、後席で試乗させていただいたんです!

 まず感じたのは、段差を乗り越えるときにまるで四つ足の動物が歩いていくような感覚だったこと。そしてロードノイズや風切り音が想像よりもずっと静かで、穏やかな乗り心地なんです。速度は最高でも70~80km/hくらいでしたが、ひっかかりのないなめらかな加速や、背中がシートから離れない自然なブレーキングを実感。そこに時折、低速になるとノシノシと四つ足動物が歩くような感覚が加わって、なんだかとても不思議。ちょっとクセになりそうな乗り味でした。

インテリアでは後席ばかりに気を取られがちでしたが、このインパネ&ダッシュボードも見どころの1つ。さりげなく浮かび上がるオリーブ模様や、手でマスキングしながら色をつけていったという市松模様にビックリです

 すべて手作業で丁寧に仕上げ、「レクサスを超えた!?」と自負するツヤツヤの塗装や、キャラクターラインをつまんだように際立たせる高度なプレス技術など、高岡工場としてのチャレンジも盛りだくさんな高岡RAV4リムジン。知れば知るほど、勢いあるトヨタの原動力ここにアリ、と感じさせてくれたのでした。

 当初はメディアに出す予定すらなく、残念ながら販売する予定もないとのことなんですが、きっと今後どこかで、皆さんの目に触れる機会を作ってくださることを期待しています。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。