ニュース
佐藤琢磨選手、レース会場に持ち込む秘密兵器は“炊飯器と白米” グリコの「with Glicoファンミーティング」に出演
インディ500で2勝目を挙げた佐藤琢磨選手がファンからの質問に答える
2020年12月3日 07:00
- 2020年12月2日 開催
2020年8月24日に、アメリカ合衆国インディアナ州インディアナポリスにあるインディアナポリス・モーター・スピードウェイで行なわれた「第104回 インディアナポリス500」で2度目の優勝を果たした佐藤琢磨選手。現在日本に凱旋帰国し各種のイベントに出演するなど、ファンに優勝の報告を行なっている。
12月2日には、同選手のパーソナルスポンサーの1つである江崎グリコが「佐藤琢磨選手とのオンラインファンミーティング」と呼ばれるイベントを開催し、ファンやグリコ関係者からのさまざまな質問に佐藤琢磨選手が答えた。イベントはオンライン会議ソフトのZoomを利用して行なわれ、ファンの質問はZoomのチャット機能で主催者側に伝えられるという形で行なわれた。
グリコは知らない人はおそらくいないと考えられるほど有名な食品メーカーで、「おいしさと健康」をキャッチコピーに「ポッキー」に代表されるような菓子、栄養食、飲料、スポーツサプリメントなどの各種食品を提供しているほか、近年では化粧品や美容食品、さらには「オフィスグリコ」と呼ばれる企業向けの「置き菓子」(企業に菓子などを置いて使った分だけを払ってもらうシステム、置き薬の菓子版)を行なうなど多様なビジネスを展開している。
佐藤琢磨選手とグリコの関係は、古く2010年にインディカーに参戦を開始したときにさかのぼるという。その後2017年に佐藤琢磨選手が優勝したときにもパーソナルスポンサーとしてサポートしているほか、2017年の優勝時にファンから、次に優勝したときには通称“グリコポーズ”(正式にはゴールインマークポーズ)と呼ばれる、大阪道頓堀にある同社が設置しているサイネージ広告のポーズをしてみたらどうかという提案を受けて、今年の優勝でそのポーズをしたことは大きな話題を呼んだ(別記事参照)。
その後、その佐藤選手のゴールインマークポーズが道頓堀のサイネージに掲示され、そちらも大きな話題を呼んだ(別記事参照)。
このように、単なるパーソナルスポンサーという枠を超えて、強い結びつきがある佐藤琢磨選手とグリコということで、今回グリコのコミュニティサイトである「with Glico」に登録しているユーザー向けにイベントを開催。抽選で100名のファンが選ばれて参加できると告知されており、12月2日の午後にはその選ばれたファンが実際にZoomを利用してオンラインファンミーティングに参加した。
これからの夢は、インディ500で“連勝”してシリーズチャンピオンを獲得すること。F1で勝てる後進を育てること
イベントの前半は江崎グリコ コーポレートコミュニケーション部 石河壮太朗氏が佐藤選手に質問する形で進められ、後半はファンから送られた質問に答えるという形で進められた。
――1度だって勝つのが大変なインディ500で2回勝つというのはすごいことだ。レースの魅力とは?
佐藤選手:インディ500はインディカーシリーズという17戦のうちの1戦。その中でもインディ500は他レースとはスケールが違う。2.5マイルのオーバルコースを200周走り、合計500マイルを走る。レースとしての歴史も長く、1911年に最初のレースが行なわれた世界最古のサーキットレース。平均速度は予選で380km/h、決勝では360km/h前後で周回するハイスピードバトル。伝統を大事にするレースだ。35万人があつまり、地球上のいかなるイベントよりも最大規模。伝統を重んじて、世界最速のマシンでレースする。勝者はミルクを飲むという独自のシステムを持っており、そのミルクを飲むために全員が勝利に向かって走る。
――弊社は佐藤琢磨キッズカートチャレンジというイベントを一緒にやらせていただいている。
佐藤選手:2010年に北米に拠点を移して新しいチャレンジするという時に、グリコさんと一緒にやりましょうということになり、2011年の東日本大震災で被災した人たちへの長期的な支援を目指した「with you Japan」という取り組みの時にも一緒に活動いただいた。(キッズカートチャレンジは)その延長線上で過去3年間、全国27か所で1200名弱のドライバーがタイムアタックをして、本戦でレースをするという形で取り組んできた。残念ながら今年はコロナ禍でできなかったが、選ばれたドライバーはアカデミーに行ってもらい、レーシングカートを知ってもらった。グリコさんには、色々な事情で自分ではそうしたことができないという子供たちがステップを踏むことを応援していただいている。アクションを起こしてチャレンジすることは大事なのだが、いろいろな理由でできなかったのが、頑張れば目標を達成できる。短い時間でノーアタック、ノーチャンスを実現できる。子供たちと素敵な時間を共有させていただいている。
――これからも一緒に子供たちの成長支援をしていきたい。次の琢磨さんの夢や挑戦は何か?
佐藤選手:2つある。1つは自分自身が2021年にインディカーシリーズに挑戦できるというチャンスを得ている。シリーズチャンピオンを目指したいが、インディ500も意識せざるをえない。というのはドライバーの中で自分だけが連勝できるチャンスがあるので、連覇を狙っていきたい。とても難しく、すべてがパーフェクトに揃わないと勝てない。3回目を狙って精一杯頑張っていきたい。
もう1つはキッズカートチャレンジでグリコさんと子供たちをバックアップしている。自分は北米で頑張っているが、F1で勝つというもう1つの夢は実現できなかった。それは次世代に託したいので、次世代に自分たちができなかった夢を実現することを応援していきたい。
――弊社としてもそれはこれからもサポートしていきたい。トップレーサーとして最高のパフォーマンスするために気にしていることは何か?
佐藤選手:体調管理だ。体調を崩さないのが大事になる。パフォーマンスを最大限引き出さないといけない、3月~9月までの期間、安定してトップレベルを維持しないといけない、オフシーズンにもそれを維持しないといけない。具合のわるい日も0ではないが、シーズン中はそれを減らすため、規則正しい生活を心がけている。
――食べ物などでよくとっているものはあるか?
佐藤選手:グリコさんのパワープロダクションで、もれなくビタミンを摂取している。シーズン中は体調がなかなか崩れないのだが、日本に帰ってくると風邪をひくといったことがあったものの、ここ数年はそれもなく、適度な運動と休息が大事。レースでは極度のストレスに晒されているので、レースが連続である週の時は積極的に休み、おいしいものをたくさん食べて心のストレスを減らすようにしている。
――落ち込んだときとかイライラするときに気をつけていることは?
佐藤選手:自分も人間なのでレースでうまくいかないと落ち込む。ベストなリザルトを狙ってそうはならなかった時には落ち込むが、なんでそうなったのかをよく考えみる。そうすると、あんまり落ち込んでる場合ではなくなる。すぐにレースが来るので、1~2日は悔しいなと思うけれど、うまくいかなかったことを克服して次のレースはちゃんとやろうというように考え方を変えていく。1人じゃなくてチームで取り組んでいる、そうなるとチーム一丸となって頑張っていくことができる。次に挑戦する目標がある、フィールドがある、それが大事。発揮するフィールドがないと、いつかやればいいになってしまう。レースはあっという間に動いてしまうので、やってきた機会をベストにするために、チームのメンバーとのコミュニケーションも大事だ。
――フィジカル面、トレーニングにどれぐらい時間を割いているのか?
佐藤選手:どこをトレーニングするかによるが、心肺機能は30分では足りない。若いころに自転車に乗っていたので、自転車に乗るのはリラックスにつながっている。ハイキングもするし、2~3時間バイクライドもやる。ホテルの部屋では、腹筋など自分の体重を利用してできるトレーニングをしている。また、スーツケースにチューブを1つだけ入れておけば、ドアノブで何でもできる。自分の体が思い通りに動くことを意識してトレーニングするようにしている。
――レーサーが鍛えておく部分は?
佐藤選手:1つだけてはダメだ。スタミナもないとだめだし、首は鍛えないといけない。4.5GのGフォースがかかるインディ500のコーナーでは、それに耐えられる能力が必要になる。特に首がやられてしまうとクルマの感覚も分からなくなる。なのでドライバーは首を鍛えている。
日本人は「白米」だ!! シーズン中のモーターホームにも炊飯器を持ち込んで炊いているという佐藤選手
イベントの後半は、Zoomのチャット機能を利用してファンから主催者に対して送られた質問に対して、佐藤琢磨選手が答える形で行なわれた。
――ストレス発散はどのようにしているのか?
佐藤選手:よく食べてよく眠って遊ぶ。全部本気でやる。機械いじりが好きなので自転車を調整してサイクリング、映画をぽっと見る、インターネットを見る。おいしいものを食べて眠るというのがストレスには一番効く。
――オフの時の食事はどうしているのか。和食中心なのか?
佐藤選手:ケースバイケースだ。食材が手に入らないときは現地のもの。日本人でよかったのは白米が好きだということ。それに日本の味付けをしたおかずと漬物とお味噌汁でおいしい食事が食べられる。レース前にうどんとお餅とかで力うどんにして、それをしっかり食べてパワーを出す。お米から離れてはいけない。レース会場へえ行くときに、モーターホームには炊飯器を置いている。トレーナー兼フィジオが作ってくれて2時間前には食べ終わる。あとはフルーツをよく食べている。
――お米は日本から持って行くのか?
佐藤選手:日本から持って行けるがベストなのだけど、すぐになくなってしまうので北米で日本米を買う。ステーキも食べるけれど、基本的には白米が好きだ。
――心の疲れを回避して集中力を上げるには?
佐藤選手:メンタルとフィジカルは表裏一体。体が健康でないと心も健康ではない。1日中コンピュータの画面を見ているとストレスがたまる。そのため、ちょっと散歩に行くだけで随分軽くなる。あとは疲れたらもう寝る。目覚ましがなったりするけど、それを何十回とか繰り返して、結局10時間ぐらい寝てしまう(笑)。ゆっくり休むのが大事で、そこは無理をして起きないで、寝ることができるだけ寝る。
睡眠をしっかりとっておけば、集中力も上がる。自分の場合はレース前にマッサージをして、瞑想する時間がある。徐々に徐々に集中力が上がっていって、ウォームアップをして乗り込む。ちょっとした時にストレッチをしてみる、瞑想とかの時間を作るだけでも集中力が上がる。一番よいのは寝てしまうことだ。
――歳をとってもなぜそんなにずっと素敵なのか? なにか意識してやっていることはあるか?
佐藤選手:コメントに困る(笑)。そんなことはなくて、昔の写真を見たら子供みたい。何かしているかと言われると、まったく意識していなくて、本当に自分がやりたいと思っていることをやる。クルマを運転してレースをするのは本当に好き。とても幸せな環境でやれているので、そのエネルギーが大きいのかなと思っている。
――健康管理で必ず食べているものは何か?
佐藤選手:野菜は欠かさない。体のためにというよりは野菜が好き。小学生の時から野菜ボックスを開けて野菜をかじっている子供だった。野菜は食べてもこれっぽっちにしかならないけど、野菜がない食事というのはほとんどない。野菜は生が好き。サラダとか。日本ではカリフラワーを茹でて食べるのが当たり前だが、米国では生で食べる。日本人は胡瓜に味噌をつけて食べるけど、生のカリフラワーに味噌をつけて食べるとてもおいしいのでぜひ試してみてほしい。
――ウェイトコントロールで気をつけていることはあるか?
佐藤選手:ほとんど意識していない。高校の時から体重はほとんど変わっていない。僕らは週末のレースのために体重を量らないといけない。体重ではもっとも軽いドライバーの1人で、40kg近いバラストをクルマに載せている。重いドライバーだと乗せない人もいる。オフシーズンに自分が重くなると、バラストを1~2kg外す。シーズン中にはそれを乗せるとか……クルマがウェイトコントロールをやってくれている。
――毎朝のルーティーンはあるか?
佐藤選手:特にないが、水で顔を洗うぐらい。さっぱりしたいので。
――グリコの商品で1番好きなのは?
佐藤選手:1番はポッキーだが、愛用というとパワープロダクション、CCDドリンク(パワープロダクション エキストラハイポトニックドリンク)は特にレースで常に飲んでいて、脱水症状を起こすことなくレースできている。
――F1とインディ500はどっちらがドライブしていて興奮するのか?
佐藤選手:どちらもだ。F1はテクノロジーが日々開発されており、週末ごとにアップデートされ、毎戦エキサイティングだ。ただ、レースそのものはインディカー。レースの最終ラップの最終コーナーまで誰が勝つか分からない。インディ500に勝るものはない。
――アメリカでもグリコ製品が販売されているが、アメリカで販売する商品を開発するなら?
佐藤選手:それを食べていたら元気になる商品を開発したい。例えば、サプリメントは別においしくない。グミでもチョコでも、おいしくて免疫システムを高くするようなものがいいかもしれない。あるいは原点に帰ってキャラメルもいいかもしれない。
――息子が反抗期でストレスが溜まっているのだが、子供時代に反抗期はあった?
佐藤選手:軽い反抗期はあった。レースが好きだったし、クルマが好きだったので、夢中になるものがあったのはよかった。自転車レースもやっていたので、そんな時間はなかった。煙たい時期はあったけど両親には感謝している、そういうのはそのうちなくなるのでご心配なく。
――キッズカートチャレンジで楽しかったことと、難しかったことは?
佐藤選手:子供たちが挑戦するのを見るのは楽しい。ウィナーは称えられるけど、負けた子たちも悔しいという気持ちを前面に出す。そう感じたことを前面に出すのは嬉しいし、刺激を子供たちからもらう。自分ももっともっと頑張らないといけないと思う。
――ご自身の中でプチ贅沢はあるか?
佐藤選手:飛行機のビジネスクラス、協賛していただいている航空会社(筆者注:ANA[全日本空輸]のこと。佐藤選手の活動に協賛している。別記事参照)さんがいらっしゃるので、プチ贅沢でなくて大分贅沢かな(笑)。移動の疲れは最小限にしたいというのもあるし、おいしいワインを飲んだりなど贅沢な時間だ。移動の時間を大切にしている。現地ではもっとも効率がよければ電車にするけど、クルマで移動して好きな音楽などを聴きながら移動するのも好きだ。
――自身で料理はするか?
佐藤選手:あんまり料理はしないけれど、せざるを得ない。得意な料理はないが、強いて言うならパスタや生姜焼きなどを作る。
――今この歳になって感じる、昔は若かったという部分は?
佐藤選手:若いときも今も、レースに勝ちたいという気持ちは変わらない。しかし、若いころは自分中心ですべてがそれであたり前だと思っていた。でも今はサポートしてくださっている方への感謝の気持ちを常に忘れてはいけないと思っている。そこが若いときと今と違うところ。自分1人でできることは小さい。他の人のサポートがあって初めて成り立つ。若いころにはそれを本当には理解していなかった。
――落ち込んだり、自信をなくしたときの対処方は?
佐藤選手:うまくいかないときは、自分のイメージと違うとき、そういうときこそチャンスだ。落ち込むときは今自分が必要なことに取り組んで克服すれば、次には怖いモノはない。そこはチャンスと捉えて取り組んでいただきたい。
――コロナ禍で大変だったと思うが、アメリカ滞在で苦労したことは?
佐藤選手:ステイホームで、ずっと家にいたことだ。それまでは、数日おきに移動があったけれど、それがなくて家にいないといけないのは辛かった。トレーニングしつつ、新しい発見をした。家も綺麗になったし(笑)。アメリカのマネージャと一緒に住んでるのだけど、庭作業も一緒にしたり、いままでにはない方向でトレーニングできた。
――これまでで1番緊張したときは?
佐藤選手:毎週緊張している、レースの時もそうだけど。今まで1番緊張したのは、大きな大会の予選前とか、いつもストレスを感じている。だが、それも楽しむようにしている。自分ではそれが分かっているから、緊張の先には楽しいことがあるのでワクワクしていて、それが大事だ。この先、どうなるか分からないときに緊張する。いい意味でも緊張感、センサーというか捉え方がさらにシャープになっていく。心臓がバクバクしたりというのも楽しんで、次へのいいステップになると思う。