紅葉の木が生い茂る隠れ家的キャンプ場でアウトドアテレワークをしてきた 普段、ホンダ「N-VAN」に乗っている身として、N-VANと同じくホビー要素を強めに感じるスズキ「ジムニー」には大いに興味があったが、じっくりと乗る機会はなかなかなかった。まあ、撮影でちょっと動かす程度はあるがそれじゃあね、でしょう。
「試乗的な機会はないなぁ」と思っていたら、Car Watch編集部から「ジムニーでアウトドアテレワークしませんか?」との連絡が! なんとここに来て試乗の機会が訪れたのだ、ということで今回、ジムニーにじっくり乗せてもらうことにした。
直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載する「ジムニーシエラ JC」。副変速機付きパートタイム4WDでトランスミッションは5速MTと4速ATがあり、試乗車は4速AT。ボディカラーはジャングルグリーン さてさて、改めて筆者のことを。Car Watchでも連載していたように2018年からN-VANに乗っていて当時からN-VANに机とイスを積み、出掛けた先でクルマを止め、車内で仕事をするのは日常だった。都内の駐車場ということもあれば海沿いの公園、山の中の駐車場といろいろなところで即席の仕事場を展開してきた。
このスタイル、普段の仕事部屋での作業と比べると机が狭い、モノが足りないとか多少の不便はあるのだけど、例えば山の中とかでパソコンを開いて作業すると、開放感や非日常感からのスッキリワクワクが得られて気持ちがいいのだ。最初は急ぎの入稿に対応するための手段として始めたことだけど、やってみるとクセになる要素がある行為だった。
ということで、必要な道具をジムニーシエラへ積み込む。行き先は知り合いに聞いて気になっていた隠れ家的キャンプ場。デイキャンプ枠で予約をしてのアウトドアテレワークである。
ジムニーシエラ JC。エクステリアで軽自動車のジムニーと大きな違いは幅広の前後バンパーとオーバーフェンダー。ボディサイズは3550×1645×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2250mm いまや希少な丸型ヘッドライトを採用。ターンランプも丸型。そして5つの縦スロット形状のグリルの組み合わせ 背面に装着されたスペアタイヤには専用ケースが付く。リアゲートは横開き式 サスペンションは前後とも3リンクリジッドアクスル式コイルスプリング。タイヤサイズは195/80R15。最低地上高は210mm キーレスエントリー付き。リモコンのボタン操作で施錠/解除ができるほか、リモコンキーが各ドアから約80cm以内にある状態でドアのボタンを押すと施錠、解除もできる。いちいちリモコンを出さなくて済むし、夜間のアウトドアフィールドではドアのボタン操作のほうが使いやすいかも 大型で視界のいいミラー。Aピラーが立っていることに加えてミラーの一部が視界のジャマにならないようえぐられた形状になっていた。このおかげで運転席に座ったときに右斜め前方の視界もよかった 左側ミラーはアンダーミラー付き。写真に写っていないがアンダーミラーの側面には車体側を向いているもう一面のアンダーミラーも付いている。ミラーはヒーター内蔵 スズキ セーフティサポート装備。レーザーレーダーと単眼カメラがフロントウィンドウの上部に付いている。機能はデュアルセンサーブレーキサポート、誤発進抑制機能、車線逸脱警告、ふらつき警告、先行車発進お知らせ機能、標識認識機能 ルーフには可倒式アンテナが付き、ルーフサイドには雨どいがある。アウトドアフィールドでタープを張る場合はここにタープを抑えるアタッチメントを付けられるので、この手のクルマだと雨どいがあるのは便利 ジムニーシエラは直列4気筒DOHC 1.5リッター「K15B」型エンジンを搭載し、最高出力は75kW(102PS)/6000rpm、最大トルクは130Nm(13.3kgfm)/4000rpmを発生。WLTCモード燃費は15.0km/L トランスミッションは5速MTと4速ATが選べる。試乗車は4速AT 副変速機付きパートタイム4WD。パートタイム4WDの場合、4WD状態では走行フィーリングに独特のクセがあるので舗装路では2WDに手動で切り替えて走行するのが基本。いろいろとオートな機能が当たり前の現代で、こうしたアナログな面はかえって新鮮で楽しいと思った インパネまわりは軽自動車のジムニーと同じくシンプルな作り。ドアにスイッチ類はなく、ミラー系スイッチはインパネ右下、パワーウィンドウ系スイッチはセンターコンソールに付いている。ステアリングにはオーディオとメーター内のインフォメーションを切り替えるスイッチがある ジムニーシエラ JCのインテリア。シートを含めてシンプルな作りだけど、オフローダーなのでむしろこうでなきゃという印象 助手席側にはアシストグリップが付く。ドアトリムに加飾や布張りなどないが、そのぶん汚れたらサッと拭ける感じでここも納得 リアシートは足下を含めて広くはないが、背もたれはリクライニングできる。ヘッドレストも上に伸ばすこともできるので乗車姿勢の調整は可能 リアシートは左右分割の可倒式。これは全て倒した状態 いまはアウトドアブームなので多くの用具、用品が発売されている。それだけにモノを欲しがったらキリがないけど、今回のような「デイキャンテレワーク(長い名前だけど新しい表現?)」ではテーブルとイス、そして手元に水をキープしておくためのボトル類、カップ、お湯を沸かしたり簡単な調理のためのバーナー類、そしてクッカーがあればこと足りると思う。あと森林フィールドでは虫よけスプレーと夕方あたりまで滞在するのためにランタンあたりか。
そもそもテレワークでは道具の展開に時間をかけないことも大事だと思うので、これくらいがちょうどいいのではないだろうか。また、この程度の道具数なら収納スペースもほどほどで収まるのでクルマの車内はもちろん、自宅へしまっておく際にも負担にならないだろう。
ちなみに筆者は今回、70Lのカーゴボックス(780×390×357mm)にポータブル電源を含めて使うモノを入れていった(テーブルは別)。
70Lのボックスに使うモノを入れていった。キャンプチェア、ポータブル電源を入れてもスペースにはまだ余裕がある。アウトドア用のアイテムは物欲が湧くモノが多いが「このボックスに入るぶんだけで抑える」という意識を持っていれば買いすぎなくてすむかも? 大きめのボックスだがリアシートを倒せば余裕で積める。片側を倒す状態でも収まるだろう。キャンプもしたいときでも、このボックスに加えてテント、寝袋、そのほかの用具を積むスペースはある 行き先は静岡県富士宮にある「anothaplace」というキャンプ場。富士宮というと東名高速道路、新東名高速道路から行くのが一般的だが、今回は中央自動車道 河口湖線の河口湖IC(インターチェンジ)経由で行った。このルートでは富士の樹海や朝霧高原あたりを抜けるので、個人的に海側の景色よりも好み。筆者は富士宮方面の取材があるときはたいていこのルートを使用しているが、道中の景色を見ていると仕事に行く感覚ではない。ストレートに言うと運転しているのが楽しいのだ。クルマで行くテレワークは現地での非日常感だけでなく道中も楽しんだ方がいいと思うのでルートの選び方も大事なのだ。
ジムニーシエラは、FRと4WDをドライバーがレバー操作で切り替えるパートタイム4WD方式。パートタイム4WDはカーブや細い道、駐車場内、駐車場から道路に出るときなどステアリング蛇角が大きい場合、構造上の特性でステアリング操作感が重くなったり、内輪差の影響でステアリングが戻るときのセルフステアが効かなかったり、軽くブレーキがかかったような状態になるので舗装路ではFRに切り替えて乗るのが基本。このことはクルマの取扱説明書にも明記されている。
出発日の朝、夜の間にまとまった雨が降ったようで大きな水たまりができていた。でも、朝は曇りでこの状態でなんとか持ってくれた。
普段乗っているのもN-VANなので、高速道路は左車線を走るのが身に着いている。そこでジムニーシエラも左車線キープで速度は80km/h近辺。Dレンジでこの速度だとエンジンは2500rpmくらいで100km/hで3000rpmくらい。エンジンルームから音が聞こえてくるが音量が大きいわけではない。また、思っていたよりタイヤを含む外からのノイズが聞こえてこないので、筆者にとっての「いつものペース」では静かな車内環境と感じた。
乗り心地は特徴的だ。基本的にけっこうソフトな乗り心地だけど、ジムニーシエラ(ジムニーも)は路面からのキックバックを受けにくくする意味でステアリングの機構としては古めかしいボール・ナットを使っている。そのため、いまの標準のラック&ピニオン機構と比べるとステアリング操作に対して独特のダルさがあるのだ。だから慣れないうちはふらつきに対して修正舵を入れたときの自分の想像する動きとクルマの動きが一致せず違和感を抱くことがある。乗り心地がソフトなだけに、この感覚は目立った印象だ。だけど前記した4WDの特性と合わせて「そこがジムニーの面白さ」なので、ジムニーを選んだ人なら「楽しみながら慣れるべき」という部分だと思う。
夜のうちにまとまった雨が降ったようだけど、朝は曇り。このまま1日持ちそうだ 一般道と高速道路を合わせての燃費は約13km/L。使用ガソリンはレギュラーでタンク容量は40L 河口湖ICから富士宮方面へ向かう途中は富士山に由来の史跡が多い。鳴沢あたりで国道から少し入ったところにある「国指定特別天然記念物 鳴沢の溶岩樹型」というもの。クルマを止めて歩いて見られるものもある 道の駅 なるさわにある富士山博物館。入場無料。朝早く到着したので開館前 わき水が汲めるところもある。朝早い時間は出水を止めていた わき水エリアの後ろにある花木盆栽山野草溶岩鉢植物の販売所。以前、コケの盆栽が欲しかったこともあって見せてもらったことがある。売り場の人にいろいろ教えてもらったが、東京の気温では育てることが難しいとのことだったので断念した 道の駅なるさわには日帰り入浴ができる温泉施設もある。ここは朝10時よりオープンなのでキャンプ場に昼ごろ到着すればゆったり朝風呂付きテレワークになる!? 139号線を富士宮へ向かう途中「ひばりヶ丘」という信号から左へ折れると県道71号線に入る。少し走ると富士箱根伊豆国立公園であり、天然記念物でもある青木ヶ原(青木ヶ原樹海)の中を抜けるのだけど、森の中に見える風景は神秘的。ただ、野生の鹿の飛び出しもあるので注意。この日も道路脇に1頭いた 展望台から見える風景。展望台はカーブの途中にあるので、入退場時は通行車に特に注意したい しばらく行くと朝霧高原を通る。進行方向に対して左手に富士山、右は牧場という風景が続くエリアもあって仕事に行く感覚が薄れる anothplaceに到着。表の道路から奥まったところにあり看板も出ていない。こちらは静かに過ごせる場所を提供することに大いにこだわっていて、1つのサイトに大人2人、子どもは3人までという規制がある。グループキャンプも不可だ。そのため表立ったPRはせず、インスタグラムからのみ連絡が取れるというシステムになっている。 サイト内の風景。サイトは17個あり、サイト内へのクルマの乗り入れは不可なのでテント泊用のキャンプ場と思っていい。サイト内の主な樹木は紅葉なので秋に行くと最高の光景だろう 炊事場とトイレ棟。こちらのキャンプ場が気になった方はインスタグラムで「anothplace」と検索してほしい 取り付け道路から駐車スペースへは多少段があった。乗用車の車高だと気になるところだろうが、ジムニーシエラではまるで気にならない。不要だと思うがせっかくなので4WDに切り替えた(笑) パソコン、ポータブル電源とバーナーと水ボトル、カップ。キャンプ場にWi-Fiがある場合はそれを使うが、anothplaceにWi-Fi設備がまだないので今回は自前。ちなみにテレワークでキャンプ場を借りるときはスマホの電波が入るか、Wi-Fi設備はあるかを事前に確認することは大事なポイント とりあえずお湯を沸かしてコーヒーを入れる。こうしたクッカーであれば炒めものなどもできるので、荷物を増やさずにいろいろやりたいと思う人向きかも 最近、キャンプ場で問題になってるのが炊事場のマナー悪化。油でもなんでも流してしまう人が増えているとのこと。anothaplaceではスプレーして拭き取るだけで初期の汚れが落とせるクリーナーを貸し出している。アウトドアテレワークの現場では水場がない、遠いこともあるのでこの手の用品を自前で用意しておくのもいいだろう こうしたスタイルのテレワークはジムニーシエラ(ジムニ-)でなくてもやることができるけど、テレワークには「ほかの現場」もたくさんあるだけに訪れたいところが出てくるだろう。そしてそれがアウトドアフィールドであるならば「ジムニーでないと行きにくい」という状況が出てくるかもしれない。となると、アウトドアテレワーク派を目指す人は現場の状況に幅広く対応できるクルマに乗っていたほうがいいということになる。
ジムニーと言えばアクティブなレジャーを楽しむ人が選ぶクルマのイメージだったけど、これからはそれに加えて「テレワーク派の人が選ぶクルマ」と言われるようになる……かな? まあ、とにかく、ジムニーシエラでのデイキャンテレワークは楽しかったし、ジムニーというクルマの面白さが味わえた1日だった。こんな仕事がたくさんあるといいなぁ。