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ホンダ、ケイデンスのCAEツール群を利用した車両開発についてプレゼン

2021年7月16日 開催

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 車両開発三部 動力性能空力開発課 アシスタントチーフエンジニア 川村哲裕氏

 ケイデンス・デザイン・システムズ(Cadence Design Systems)の日本法人となる日本ケイデンス・デザイン・システムズ(以下、両社あわせてケイデンス)は7月16日、日本向けに同社ソリューションを紹介するオンラインコンベンション「CadenceLIVE Japan 2021」を開催した。

 ケイデンスは、半導体開発に必要なソフトウエア(Electronic Design Automation=EDA)としてスタートした企業だが、現在では半導体以外のデバイスや機器などを開発するシミュレーションツールなどを総合的に提供している。今年の1月には、自動車などのCFD(Computational Fluid Dynamics、数値流体力学)による設計に利用されるツールを提供するソフトウエアベンダ「NUMECA International」を買収し、OMNIS /AutoSeal、OMNIS/HexpressなどのCAEソフトウエアを自社のラインアップとして取り込んでいる。

 今回行なわれたCadenceLIVE Japan 2021には、そうした製品のユーザーでもある本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 車両開発三部 動力性能空力開発課 アシスタントチーフエンジニアの川村哲裕氏が、ホンダの自動車設計にOMNIS /AutoSeal、OMNIS/Hexpressなどがどのように使われているかを説明した。

CAEのツール群を積極的に活用する前は時間がかかっていた空力などの開発

講演のタイトル

 ホンダ 川村氏の講演は「CAEによる自動車熱害予測の実用化と今後の展望」という題名で、ケイデンスが買収したNUMECAのツールであるOMNIS /AutoSeal、OMNIS/Hexpressをホンダの車両開発にどのように活用しているかを説明した。

本田技術研究所の説明
川村氏の担当領域

 川村氏はホンダの会社紹介をした後で、自分の担当領域に関して説明。川村氏は「車体目線でパワーユニットの機能保証をする仕事をしている。それは耐熱だったり、冷却だったり、動力性能だったりを車両全体で性能を保証する。そのためにシミュレーションを利用したり、実車で評価している」と述べ、パワーユニットの性能などを保証するためにさまざまな検証を、CAE(Computer Aided Engineering、コンピューターを利用した解析のこと)を利用して行なっていると説明した。

開発の循環モデル
開発の概略

 そして初代、2代目、3代目「フィット」の例を元に世代を経るごとにCd値と呼ばれるドラッグ量が減っているデータを示しながら、デザインとCd値、そして車内の快適さなどと相談しながら設計を進めていると説明した。「設計の初期段階ではまず仕様決定する必要があり、多少精度が低くても速度優先で答えを出していく。開発後期には実車で目標の燃費性能を達成しているかどうかをチェックしていく。それらを実車が出てくる前に高精度で予測していくことが重要になる」(川村氏)と説明した。

10年前の開発

 そして、今から10年程度前の開発と今の開発の違いについて説明し、10年前はCd値を下げていく作業については、スタイリングやパッケージングなどを25%のスケールモデルを作って、後期には実車サイズのモデルを作って最適化していたが、その間に2000ものテストをすることになり、膨大な時間がかかってしまっていたと説明した。

メッシュ作成などにかかる時間をケイデンスのOMNISを利用して大幅に短縮

CFD実用化への課題

 そして現代ではCAEを利用した自動車設計になっているが、以前はCAD(Computer-Aided Design、3Dに部品をコンピューター上に再現していくツールのこと)を利用して設計する場合にも、車体のすべてを設計するにはベースモデルと呼ばれる基本となる部分の構築に3週間以上かかっており、それらはほぼ手動だったと説明した。メッシュ(CADで使われる三角形などで表現される表面のデータのこと)を構築していくときにエラーが発生しても、その修正に時間がかかったりしていたからだそうだ。

CFD実用化、全体の流れ

 そこで、ケイデンスが提供しているOMNIS/Hexpressを利用することで、メッシュの設定などもほぼ自動化できるようになり、精度が向上したことによって作業にかかる時間が大幅に減ったと川村氏は説明した。

キャビンクローズ

 例えば、そのCAD修正の作業である不必要な部分を埋めていくキャビンクローズと呼ばれる必要のない部分の修正作業でケイデンスが提供するOMNIS /AutoSealというツールを利用すると、完全自動化することが可能になったことが大きな効果があったと川村氏は説明した。「以前であれば手作業でそうした作業を行なっていたため、1週間近い時間がかかっていた。しかしAutoSealを利用することでそれが完全に自動化され1時間でできるようになり、作成時間は40分の1になった」(川村氏)と、自動化により大幅に時間を短縮することができたと述べた。

メッシュ作成

 また、そのメッシュの作成でも隙間の再現など、従来人力で行なっていた作業をツール自体が自動で行なってくれるようになり、精度を落とさないで自動化することが可能になったという。また、メッシュの作成そのものも、分散しての並列化処理が可能になっており、従来に比べて7倍高速化されたほか、種類の違うメッシュの作成に手作業で1か月かかっていた作業が自動化できるようになり、1日に作成可能になるなどして大幅に時間を短縮することができたという。

計算

 さらにこうしたメッシュの計算もマルチコアで処理させることにより、メッシュ作成の時間が16コアCPUを利用して6.5時間、そこに1.5時間のデータマッパーの追加作業がかかるので約8時間、さらにANSYS Fluentのシミュレーションに、1008コアのクラスタマシンにジョブを投入してから答えが出るまでに5.5時間(プラスコンバートにかかる時間が2.5時間)で終了すると説明した。

ポスト処理

 そうした結果、空力分野では外部流の可視化、ラジエーターの通過風速、温度分布、さらにはエンジンルーム内部の温度などがシミュレーションとして把握することが可能になったと川村氏は説明している。

効果

 こうしたケイデンスのソフトを利用することで「全体で3週間の削減が可能になった。それにより今までできなかった解析が可能になった」と述べ、自動化により余った時間で他の解析を行なうことが可能になり、開発の加速化が可能になったと説明した。

要望
CR-Vの開発にもケイデンスのツールを利用

 なお、今後ケイデンスのシミュレーションツールに対して望むこととしては、「より大規模なメッシュが作れるようにメッシュ数の制限をなくしたり、他社製ツールに対してもっと柔軟に出力できるようにしてほしい」と川村氏は述べた。