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トヨタGR、ル・マン24時間レース決勝開催前の小林可夢偉選手、中嶋一貴選手、村田久武WECチーム代表オンライン会見

2021年8月21日~22日(現地時間) 決勝レース開催

TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表 村田久武氏

 2021年シーズンFIA世界耐久選手権(WEC)第4戦「第89回ル・マン24時間レース」の決勝スターティンググリッドを決定する「ハイパーポール」において、TOYOTA GAZOO Racingが走らせる新型ハイパーカー「GR010 HYBRID」の7号車がポールポジション、8号車が2番手のタイムをマークし、TGR勢がフロントローを独占した。

小林可夢偉選手が新型ハイパーカー「GR010 HYBRID」でル・マン24時間レースのポールポジション

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1345100.html

 GR010 HYBRID 7号車でポールタイムをマークした小林可夢偉選手、8号車のドライバーで日本人ドライバーとして前人未踏の4連勝を目指す中嶋一貴選手、TGR WECチーム代表 村田久武氏の3人が、8月21日午後4時(現地時間、日本時間8月21日午後11時)にスタートするレースに向けてオンライン会見を開いたのでその模様をお届けする。

TOYOTA GAZOO Racing 小林可夢偉選手

小林可夢偉選手

──ポールポジションを獲得したラップの状況を教えてほしい。

小林可夢偉選手:ポールラップ自体は1回目のアタックラップだったのでとてもコンサバにいった。2セット目があると思っていたので、確実にタイムを出す走り方。タイムを出した後、2周連続でアタックしたかったけど赤旗になってしまった。2セット目でも1周目は同じようなタイムで、2周目はターン7でトラックリミットを越えてしまったがアタックは諦めざるを得なかった。

 そのまま3周目に行きたかったが燃料が足りずにピットに帰ってきた。2周目はちょっと行きすぎてしまったが、ミスなく行きたかったのが本音。チームがいいクルマを作ってくれてここまでこれた。

──例年に比べると寒いようだが、それが影響を与えているか?

小林可夢偉選手:寒いのもそうだが、今回は予選が21時からということで、急激な温度変化を感じた。それもあって2周目でもタイムを上げることができた。

──その後の練習走行でスピンしていたが、その時の状況は?

小林可夢偉選手:タイヤが2スティント目か3スティント目の中古タイヤであるなかで、トラクションコントロールの設定をいじっているときにはみ出してしまいスピンした。クルマが壊れなくよかったと思っている。

──優勝に向けての手応えは?

小林可夢偉選手:毎年手応えはあるので、あんまり参考にはならないかなと思うが、レース前に一番速いクルマをもっているのでポジティブなイメージはもっている。ただし、予選は予選と考えている。24時間のレースにしっかり、気持ちをリセットして挑みたい。

──こんな風に、ぶっちぎってレースを終えることができそうか?

小林可夢偉選手:恐れ多くて言えない、何もなくレースができれば、まずはいいかなと正直思っている。

──今年の変則的なスケジュールに関してはどうか?

小林可夢偉選手:特に問題はないと思うが、ハイパーポールから夜の練習走行の開始までの時間が30分しかなく、記者会見などを終えてガレージに戻ったときにはもう練習走行が始まっていた。そんな短い時間でデータを抜き取ったりもできていなかったので、クルマに戻ったときにはもうタイヤつけていたドタバタしてしまった。ずっとトラコンの設定をやっていたが、そうしたことの打ち合わせもあまりなくそのままクルマに乗るような状況だった。

──ハイパーポール、アタックの周は完璧ではなかった、アルナージュとかで縁石に乗りすぎたと海外メディアに答えていたようだが……。

小林可夢偉選手:大分コンサバにいったので、1周目プッシュしていったという感じではなくもう少しいけると感じていた。それがなければ、コンマ5から6ぐらいは上がっていたのではないか、我々のクルマは1周目にタイムを出せるというのはアドバンテージがある。

──23秒台のタイムがでると思っていたか?

小林可夢偉選手:エンジニアたちと話していた時も23秒台は無理だと笑っていたぐらいだ。実際計算してもそこまで上がらないという設定だったので、自分たちでもびっくりしているのが本音。

──練習走行の3回目で中嶋選手がスピンしてリアのセクションを壊していたけど、それは回生ブレーキとの兼ね合いなのか?

小林可夢偉選手:中嶋選手がどういう状況でそうなったのかは自分には分からないので本人に確認してほしい。ただし、今年のクルマは前はモーターによる回生ブレーキだが、後ろはメカニカルブレーキ。カーボンブレーキは温度でバイトポイントが変わってくるし、前の回生ブレーキとの組み合わせは難しい。その調整を今シーズンの初めからずっとやってきたが、なかなか仕上がらない。

 ブレーキ的にはこうすればいいというのは分かっているが、温度やドライバーとの組み合わせなどでフィーリングが変わってブレーキのかけ方が変わってくる……などいろいろな要素がある。止めるだけならそんなに問題ないが、100%使うところで安定してブレーキングを効かせたいと思って、非常に難しい操作をやっているというのが本音だ。

TOYOTA GAZOO Racing 中嶋一貴選手

中嶋一貴選手

──予選はル・マンといえば、中嶋選手がドライバーかと思っていたが、今回はアタッカーではなかった経緯を教えてほしい。

中嶋一貴選手:みなさんにそう言われるけど、自分としては自分でなければとは思っていない。ブレンダンが今シーズンのレースでもモンツアなどいくつかのレースでアタッカーを務めており、僕が傍目で見ていてもよい予選ができると思っていたので、どうするという話をして相談して決めた。

──決勝に向けて、周回数は増えそうか?

中嶋一貴選手:具体的なことは言えないが、去年よりは多いだろうと考えている。基本は3スティントずついく予定。

──練習走行3でのインディアナポリスでのクラッシュの状況を教えてほしい。

中嶋一貴選手:このクルマにはブレーキの難しさというのがあったが、ル・マンに向けてはよくなってきている。ただ、それでも温度的によくないとフロントがロックしやすくて、それを起こすとクラッシュしてしまうコーナーでそれを出してしまった自分のミスだ。タイヤに関しては3スティント目を走り出す距離を走ったほどほどの中古タイヤだった。

──ボディワークにダメージがあったと言っていたが、実際にはどんなダメージがあったのか?

中嶋一貴選手:ちょっとフロントロックしてしまって止められるかなと思っていたが、グラベルを突っ切ってしまい後ろから当たってしまった。ただ、エンジンとか足まわりなどにはダメージがなく、カウルなどのボディワーク以外にダメージはなかった。

──ブレーキが鍵になりそうか?

中嶋一貴選手:いろいろ試していて、温度変化に対応できるようにしている。カーボンブレーキなので温度管理は難しい。難しさはあるが、ある程度走ってきているので、状況状況で、察知をしてそれに対応していくしかない。ブレーキングは大事な部分ではあるので、より一層気をつけて臨まないといけない。(ブレーキの)バランスなどは走る状況により変わっていくので、テレメタリーでみながらその都度変えていく形になる。

──予選を走ってみて、アルピーヌやグリッケンハウス大きな差はついたと思うが?

中嶋一貴選手:練習走行などではアルピーヌと差がないのかと思っていたので、予選のタイムを見ると思っていたよりも差があったというのが正直な感想。ただし決勝に向けてのペース差が大きいわけではないので、ちょっとしたタイムロスでレースを失ってしまう状況。24時間近くにいられるよりはマージンがある方がいいのでポジティブに捉えている。

 ただ、不確定要素に対する不安はまだあり、レースを通して何かがあればひっくり返る程度の差ではあると考えている。

──ブレーキなどは前と比べて難しいか?それにより疲労度があがったりするか?

中嶋一貴選手:ブレーキに関してはより繊細な部分があると考えている。正直ル・マンに前には不安もあったが、ここに来てからは以前よりもよい状態で戦えるようになっている。疲労に関してはそんなに変わらないと思う。ル・マンは肉体的な不安というのは長く乗っている以外にはあまりないからだ。ただ、トラフィックの処理の雰囲気は変わっている。

──予選タイムは想定よりも遙かに上がっている、重いときと軽いときの差は大きいのか?軽くなってきたスティント後半にタイムが出しやすいか?

中嶋一貴選手:燃料搭載量の影響は大きい。スティントの後半がタイムを出しやすいと思っている。普通のGTカーなどでは10kgの重量差でコンマ3秒、フォーミュラでコンマ2秒などと言われているが、今回のル・マンではそれよりも差はあるかもしれない。

──グリッケンハウスとの差に関してはどうか?

中嶋一貴選手:どっちのグリッケンハウスに遭遇するかで違ってくると思う、彼らも車両で若干の違いがあるようだし。特にストレートが速いのでスタート直後などには来るかもしれない。ただ、ほかを見て戦うというよりは、自分たちがやるべきことをやるレースになる。常に自分たちがやるべきことに集中する、それを忘れないようにして最後までやっていく。

小林可夢偉選手のポールタイムは想定外で「可夢偉マジック」だとTOYOTA GAZOO Racing WECチーム 村田代表

TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表 村田久武氏

──両ドライバーともに回生ブレーキが前だけになったことの難しさを語っていた。

村田久武代表:去年までのフルハイブリッドでは、回生ブレーキを利用する前後のブレーキバランスはオートマチックだったが、今年の車両ではリアはマニュアルの部分がある。テスト日数は限られており、台上実験である程度できるが、実際に走らないと分からない部分があった。

 結局クルマを停めるには制動のときに、トルクで前と後ろのブレーキの効きを決めないといけない。フロント油圧でオイルの量で調整するが、リアはマスターシリンダーからの制御。ドライバーの意思と電子制御の調整に時間を要したということだ。

──モンツアでのWEC第3戦では、燃料系、足まわり、スローパンクチャーなどいくつかのトラブルが出た。そのあたりのトラブルの原因、心配されている箇所は?

村田久武代表:燃料系のトラブルは、燃料タンクをル・マンに向けて一新したのだが、新しいメーカーを選定して入れたなかに、若干異物が残ってフィルターが目詰まりした。原因がハッキリしたので、対策は打てている。

 足まわりに関してはサスペンションのトラブルではなく、ナットを締め付ける部分が緩んできたああいうトラブルになっている。なぜ緩んで来たかの原因を掴み、このレースに向けて対策を打った。

 スローパンクチャーはデブリがあるので、大きいデブリはエンジニアからドライバーに注意喚起がいくけど、小さい分からないのは踏んでしまう。注意するようにがんばりたい。

──来年の燃料はトタル(Total)が提供する環境に配慮した燃料になると発表されたがそのは影響は出てくるか?

村田久武代表:詳細は言えないが、今後テスト燃料を受領して台上開発をしていくことになる。トタルとは過去にコラボレーションしているので、上手いこと開発していけると思っている。

──グリッケンハウスとアルピーヌとの差は?

村田久武代表:今年はBOP(バランスオブパフォーマンス、主催者などが車両ごとにウェイトハンデなどを設定して性能調整を行なうこと)がかかっているので、どこまでほかの陣営の本当の実力なのか読めずにきた。今週ここで一緒に走ってみることで、競合がどれくらい速いのか、夜のセッションでのタイヤのコンパウンドとのマッチングがどうかを見てきた。今エンジニアとドライバーが他車の分析をして戦略を練っている最中だ。グリッケンハウスさんはル・マンにターゲットを絞ってきたのだなと思うし、アルピーヌさんは信頼性には問題なくという状況だと思う。

──今年の車両の温度変化へのタイヤへの影響はどうか?

村田久武代表:よいところとわるいところがあって、車重が重くなってエンジンの馬力は上がっている。このため、タイヤを温めるという意味ではよい方向になっている。ソフトよりもミティアムの方が安定するし、ソフトでもより柔らかい方はやや不安定という状況。タイヤの摩耗に関しては、このサーキットは直線が多いので、スティント的にはあまり気にしなくていい。

 タイヤの交換サイクルをできるだけ落として、それでもアベレージのラップタイムを維持することができるか、今まさにそれを分析して作戦を練っているところだ。

──ここまで4回耐久テストやっているが、その効果は?

村田久武代表:過去、より強いクルマを作るというコンセプトでテストプログラムを組んできた。今年に入ってから新しい取り組みをやらないといけないということで、システムを新しくすることでフェールセーフの観点から弱い部分がいくつかあった。事前検討で分かっている部分はテストで潰しにいけたが、テストで走ってあぶり出せるところもあった。

 最初の2回はそうした初期トラブルを潰すのに使い、チームとしてクルマに慣れて部品交換のトレーニングなどは最後の1回でようやくそこに達したという段階。WECの戦績だけを見ると、ずっと勝っているように見えるかもしれないが、これまでのそうしたポリシーを少しずつ改善しながらギリギリ表面上の結果を出しているという状況だ。

──ポルティマオテストに平川選手が参加したが、それについてコメントを。

村田久武代表:平川選手は日本で十分な実績を残しており、トップレベルのドライバーであることに何の疑問も感じていない。ただ、この車両はまったく新しいクルマで、日本では慣れていないシステムだと思う。特にフルハイブリッドから部分ハイブリッドになったということでそのクルマに慣れるまでは時間がかかると考えている。

 実際TS050の時代にフェルナンド・アロンソ選手が乗ったときに、最初のテストのころはやはりほかのレギュラードライバーと比べて遅く、慣れるまでに時間がかかった。今回のテストでは平川選手に自分たちのクルマに慣れてもらうという観点でテストをし、今後のテストでも乗ってもらいたいと考えている。

──2人の日本人ドライバーの状態についてはどうか、2人とも練習走行ではスピンをしていたが。

村田久武代表:今回2人のドライバーともスピンをしていたが、クルマの煮詰めが進む中で部分部分限界に近づいており、その中で起きたという認識。ドライバーのこのクルマへの習熟がようやく間に合ってきたという状況だからだ。

 小林可夢偉選手に関して言うと、前にレコードラップを出したときもそうだったのだが、セクター3がものすごく速い。シケインをまっすぐ走ってきたんじゃないかと冗談を言いたくなるほど速い。「可夢偉マジック」と言ったら失礼かもしれないが、自分たちの予想を超えてくるタイムを出してきた。

 2回目のアタックでも途中までタイムを削ってきており、やっぱり凄いと思う。実際その7号車のトライを8号車にフィードバックしたらブレンダンも勇気づけられた。チーム全体の士気向上にも貢献している。

──バーレーンでセバスチャン・オジェがテストに参加するのではないかという話があるが?

村田久武代表:フランス人のドライバーはル・マンへの想いが強い。彼はラリーではレジェンドだが、ル・マンへの強い想いがあるということで、乗っていただけるように準備しようと思っている。

──発表されたプジョー9x8についてどうみたか? リアウィングレスのユニークなデザインを採用しているが……。

村田久武代表:自分の第一印象では、自分たちの常識を越えてくるフランスのデザイン力は凄いということだ。床下でダウンフォースを出す方が、ドラッグが上がらない、リアウィングでダウンフォースを出すとドラッグが増えてしまうという考え方。あれがクルマとして成立するのかというと、性能調整するときにエアロのターゲットウィンドウがきちんと出てくるのか、それは実際にデータを見ないと分からない。しかし、デザイン的には度肝を抜かれたのと、ぶつかるとデブリが一杯出そうという印象だ。
 このレギュレーションでは一度ホモロゲーションすると、一度のマイナーバージョンアップが許されるだけで5年間はそれで戦わないといけない。来年にプジョー、再来年にアウディなどがやってくるが、そこに向けて自分たちがどう立っていくかは社内で検討していく必要があると考えている。