ニュース

軽量&高剛性ホイールに換えたら走りに違いはでるのか? 「レイズ製4×4鍛造ホイール比較検証」レポート

レーシングドライバーがステアリングを握り、本気の比較テストが行なわれた

タイヤは同じままホイールだけ交換して性能差をチェック

 日本のアルミホイールメーカーであるレイズには、SUPER GTなどトップレベルのモータースポーツ参戦で得たホイール開発のノウハウを投入した「VOLK RACING(ボルクレーシング)」という鍛造アルミホイールブランドがある。このボルクレーシングは主にスポーツカーオーナーやサーキット走行を行なう層から高い支持を受けているが、近年、盛り上がりを見せているSUVやオフロード4WD(以下4WD)の世界でも「軽さ」や「剛性の高さ」を武器に存在感を増している。

 とはいえ、サーキットユースやスポーツカーへの装着と比べると4WDに対してボルクレーシングの強みである「軽さ」と「剛性の高さ」のメリットが想像しにくい面もあったりするのではないだろうか?

 そこで開催されたのが「レイズ製4×4鍛造ホイール比較検証」と銘打たれた取材会だ。概要はトヨタ「ランドクルーザープラド(以下プラド)」とスズキ「ジムニー」をテスト車両として用意して、それぞれのクルマにて純正ホイール×TOYO TIREの組み合わせと、鍛造ホイール×TOYO TIREの組み合わせの走行フィールの違いの比較だ。

 純正タイヤとアフターのタイヤとの比較はよくあるものだが、ホイールに的を絞って行なう内容は興味深いものだけに、Car Watchもこの取材会に参加してきた。

比較検証に用意されたトヨタ「ランドクルーザープラド」。2.7リッターガソリンモデル。タイヤはTOYO TIREのオープンカントリーA/Tプラス。サイズは265/70R17
同じく比較検証用に用意されたスズキ「ジムニー」。タイヤはTOYO TIREのオープンカントリーA/T EXの215/70R16を装着
評価ドライバーとして参加したのは、クルマやアフターパーツの評価では斟酌のない意見が特徴のレーシングドライバー井入宏之氏

 比較検証用に用意されたホイールは2種類で、プラド用に「ボルクレーシング TE37XT」、ジムニー用に「ボルクレーシング TE37XT for J」。ともに純正ホイールとの比較なのでサイズは純正に合わせた(近い)ものとしている。

 各ホイールのデータはこちら、プラド純正ホイールのサイズが17×7.5J(+25)、重量13.45kgで、プラドに装着したTE37XTのサイズは17×8J(+20)、重量8.3kgとなっている。タイヤはどちらのホイールにもTOYO TIREのオープンカントリーA/Tプラスを装着してイコールコンディションとしていた。サイズは265/70R17だ。

 ジムニー純正ホイールのサイズは16×5.5J(+22)で、TE37XT for Jのサイズが16×5.5J(+20)。重量は純正ホイールが6.58kgでTE37XT for Jが6.25kg(ブロンズ)となっている。ジムニーもタイヤで評価に差ができないよう、どちらもTOYO TIREのオープンカントリー A/T EXを装着。

プラドに装着されるボルクレーシング TE37XT。サイズは17×8J(+20)、純正のサイズは17×7.5J(+25)。タイヤは純正ホイールと同じくTOYO TIREのオープンカントリーA/Tプラス。サイズは265/70R17を履かせてある
ジムニーにはボルクレーシング TE37XT for Jを装着。サイズは16×5.5J(+20)、純正は16×5.5J(+22)。タイヤは純正ホイールと同じTOYO TIREのオープンカントリーMT/Rの215/70R16を装着

 今回の比較検証では計測器などを使用せず、ドライバーの評価が中心となる。それに対して加速タイムや制動距離の計測を目安として用いている。

 走行パターンは3種類。まず「加速性能」は静止状態から急発進を行ない、その後もフル加速して計測ラインまでのタイムを計測する。同時に発進、加速時のフィーリングの違いもチェックする。

 次に「制動性能」ではスタート位置から加速し、停止線でフルブレーキ。そしてクルマが静止するまでの距離を測定。このときもドライバーはクルマの挙動の違いを探る。

 最後に「旋回性能」では直線的に、等間隔に配置されたパイロンの間を加速状態で縫って走る抜けるスラローム走行での旋回フィーリングのチェックとなる。

発進加速の比較を行なう。エンジンパワーやギヤ比に関わらないホイール交換で、加速の違いを見るというのは興味深いこと
フル加速からの制動性能。速度はだいたい70km/h前後まで上がるようだ。制動距離と制動時のフィーリングの違いをチェック
最後はスラローム走行での旋回性能比較。タイム計測はせずにドライバーの評価のみとなる
「レイズ製4×4鍛造ホイール比較検証」は、ストレートのコースを3本取っても広さに余裕があり、安全性をしっかりと確保できる大阪湾沿いにある多目的広場で行なわれた
実際に現地でホイール交換を行なった
制動距離はメジャーを使用して計測

制動やハンドリングテストでは外から見ても分かるほどの違いが出た

評価ドライバーを務めた井入氏

 では結果をお伝えしよう。最初はプラドで純正ホイール→TE37XTの順から。下にタイムの比較を掲載しているので、見てもらうと分かるように純正ホイールと比較してTE37XTを装着していたときの方が数値がいい。

 このことに関して、ドライブした井入氏からは「エンジンパワーなど変わらない状態での加速力の比較です。ここで注視したのがスタート時のタイヤの転がりの違いでした。その結果、純正ホイールと比べてTE37XTを履いているときの方が走り出し(転がり出し)のときに軽快さを感じました。ただ、速度が載ってからは違いはなかったです。このプラドは2.7リッターエンジンで力が少ないため、重量のある純正ホイールから軽量なホイールに変えたことで慣性が付く前の転がりに違いが出たということでしょう。つまり軽さのいいところが出たということだと思います」というコメントだった。

加速性能テストの模様
重量がある純正ホイールと比較してTE37XT装着時は発進直後の軽快感を感じるとのこと
ランドクルーザープラドでの発進加速比較。軽量なTE37XTを履いた方はすべての走行で数値がいい。終速は約90km/hあたりだった

 次にプラドでの制動力の評価。約70km/hあたりからのフルブレーキングとなったが、ここは外から見ていても純正ホイールとTE37XTでの違いがハッキリと分かった。純正ホイール装着時はフルブレーキ後、車体がバウンドするように上下にハッキリと揺れたのに対して、TE37XTに変えたあとはその揺れが出なかったのだ。そして制動距離は最大で4mほどの違いが出ている。これは予想外の大きな差である。

 井入氏の感想では「TE37XTと比べて純正ホイールを履いているときは、ブレーキを踏んだあと、制動を体感するまでにタイムラグを感じた」と言う。

 ブレーキはペダルを踏んだあとにキャリパーへ油圧がかかり、ブレーキパッドとローターが接触。そしてクルマの重量がフロントタイヤへ載ったところから減速が始まるが、TE37XTを装着したときのブレーキングでは、ここまでのレスポンスが早いというのだ。

制動テストの模様

 とはいえ、ブレーキシステム自体に絡むものではないので想定されるのは「クルマの重量がタイヤに載ったとき」の違い。ここで純正ホイールには多少の変形などタイヤのグリップに影響するなにかが起きていたのに対して、剛性が高いTE37XTはプラドの重量がかかっても変形せず(もしくは変形が少ないので)、タイヤが反応するまでのタイムラグがなかったとも取れる。

 クルマのバウンド状態についてもホイールに変形が影響したと考えられる。ホイールに変形が起こればタイヤの接地面が一定ではなくなる。すると制動に使用するグリップ力も変わるのでロックが起こりやすくなるが、その状態だとABSは小刻みにロックコントロールをするのでクルマの挙動にそれが現われたとも考えられる。また、タイヤのたわみが一定ではないのなら、その動きもあったかもしれない。それにABSの介入が一定でなくなるだろう。

 ちなみにTE37XT装着時はクルマに上下動がなかっただけでなく、ドライブしていた井入氏も「減速感にムラを感じない」とコメントしている。

純正ホイールのときはABSの効きが一定ではなく、そのせいか車体にバウンドするような挙動が出たがTE37XTではそれがない。スロー気味のシャッター速度でもボディにブレがないのもその証拠
プラドでの制動比較。純正ホイールとTE37XTでは大きな差が出た

 最後はスラローム走行での旋回フィーリングを比較したが、ここでも見ていて分かる違いがあった。純正ホイールとTE37XTでは、TE37XTを装着しているときの方が旋回がスムーズでゴールへ飛び込む速度も高いように見えた。

 井入氏のコメントでも違いがハッキリ出ていた。TE37XTを装着したとき特に感じたのはタイヤグリップの横方向でのレスポンスのよさ。切り替えした際の余計な切り足しをせずに済むし、クルマの動きにもムダがない。ゆえにステアリング操作に対してクルマが機敏に反応するという。こうした反応をしてくれるとスラローム走行のように旋回のタイミングが重要な走りにおいても「反応遅れ」が起こりにくいのでリズムに乗って走らせることができるのだ。

純正ホイール装着時はステアリングの切り角が徐々に増えてきて、最後のパイロンを旋回するときにはアクセルを戻さないとはらむほどになっていた
TE37XT装着時はステアリングの蛇角も抑えたまま旋回。最後までアクセルを緩めずに走行できたという

 この反応遅れが如実に表れたのはコースの後半。旋回性能の走行時、井入氏はスタート後からアクセル全開のままスラロームをしていたが、純正ホイール装着時は徐々に「クルマの振られる量」が大きくなり、後半の旋回では一度アクセルを戻さないと曲がりきれない状態になっていた。これは挙動だけでなくアクセルを戻した「音」でも確認できた。対してTE37XT装着時のエンジン音はゴールまで一定だったのだ。

ハンドリングテストの模様

ジムニーでも同様のテストを実施

 ジムニーでの結果もプラドとほぼ同じものになった。ジムニーの結果は画像と数値でお伝えする。

ジムニーの加速性能比較。ジムニー純正ホイールの重量は6.58kgとかなり軽量。たいしてTE37XT for Jは6.25kgなので、プラドのような転がりの差はほとんど出なかったようだ
ジムニーの制動比較。こちらもプラドほどの差はなく、挙動にも見て分かる差はなかった。しかし、それでも平均で約1m短縮している。止まるまでの距離は短縮されたが体感的な差はないという
ジムニーの旋回性能。純正ホイールのときはプラドと同じく最後のパイロンをまわる際に挙動が乱れるシーンがあったが、ホイールを換えたあとはそれが起こらない
テスト結果がまとめられたホワイトボード

 以上で検証はすべて終了。走行前にはホイールを変えただけで違いが出るのか? と思っていたが、しっかり出たことには正直驚いたところがある。井入氏は最後に「軽量で剛性の高いホイールはスタビリティに関する電子デバイスをより生かせる効果があった」とコメントしたが、まさにそのとおりだ。

 この結果を受け、純正ホイールに対してTE37XTが持つアドバンテージにはどんなものがあるかをボルクレーシング企画開発のトップである山口浩司氏に質問したところ、「軽さはもちろんのこと、剛性の違いが結果に出た」と語る。

レイズの山口氏。ボルクレーシング企画開発のトップ

 続けて山口氏は「TE37XTは名前のとおりロードスポーツでは絶対的な支持を受けるTE37シリーズなので剛性の高さは4×4用も引き継いでいる。加えて、車重の重さやオフロード走行を想定した設計によりロードスポーツ用のTE37にはない形状も盛りこみ、4×4車に対して最適な剛性を実現している」と言う。

 こうした作りはハブとの結合面の強度も高めるのだが、そもそもタイヤメーカーがタイヤを開発する際はホイールの歪みは想定していない。だから高性能を謳うタイヤであっても組み合わせるホイールによって性能が発揮できないこともある。しかし、リムやスポーク部、そしてハブとの結合面の強度があるホイールであればタイヤ本来の性能が発揮できるということだ。

 また、今回の検証では発進加速、制動性能、旋回性能すべてで純正ホイール装着時よりデータがよくなったわけだが、それぞれの項目に対して同様の結果を引き出すには、燃調コントローラーやスロットルコントローラーなどで加速力を高めたり、ブレーキパッド交換で制動距離を縮めたり、サスペンション交換で旋回性を上げたりする必要がある。ところが、ホイールを換えることでそのすべてが実現できているのだ。個別のパーツ交換と比べると得られる効果は少ないだろうが、1つのパーツ交換でいろいろなベクトルの恩恵を受けられるのはうれしいポイント。

TE37シリーズなのでTE37らしい剛性の高さや軽さは同様。そこに対して4×4車に適した特徴を与えている。オンロード用TE37にはないリブなどがそれだ

 SUVやオフロード4WDでのホイール交換はファッション性の要素がほとんどだと思っていたが、高性能なホイールを選ぶことで加速性能が向上し、さらには安全や安心に直結するタイヤのグリップ性能の発揮、車体のコントロール性までよくなることが見えたこの検証、なかなかに興味深いものであった。もちろん、最近は純正ホイールもオールラウンドな対応ができる優れたものになってきているが、今回はレイズ製がそれを上回ったようだ。

テスト協力:TOYO TIRE株式会社/スズキアリーナ須磨 芦屋中央/一般財団法人 泉佐野みどり推進機構

こちらは展示撮影用に用意されていたレイズの鍛造ホイール「A-LAP-07X」。サイズは18×7J(+8)と18×8J(+20)がマッチする。装着タイヤはTOYO TIREのオープンカントリーA/Tプラスで、サイズは265/60R18。カラーはブロンズ(上)のほかにブラック/リムダイヤモンドカット(下)がある
ジムニーに「A-LAP-J」を装着。サイズは16×5.5J(+20)。カラーはブラック/リムダイヤモンドカット。ほかにブロンズアルマイトも設定している
ジムニーシエラにTE37XT for Jを装着したイメージ。ジムニーシエラにもジャストフィットなサイズを設定している