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2035年にバッテリEV100%になるレクサス、佐藤恒治Lexus International Presidentは全方位戦略が行なえる背景を語る
2021年12月15日 10:41
100%バッテリEVへと舵を切ったレクサス
トヨタ自動車は12月14日、バッテリEV戦略に関する説明会を開催して16車種のBEV(バッテリ電気自動車)を公開。2030年までに16車種を含んだ30車種のBEVを市場投入。BEVの生産台数も約200万台から約350万台に150万台引き上げ、2030年までの電池への投資も1.5兆円から2兆円へと5000億円増額する。BEV関連の研究・設備投資で約4兆円、BEVを含む電動化投資は約8兆円になることを発表した。
トヨタグループ全体では、約1000万台の販売台数(日野・ダイハツ含む)の中で350万台をバッテリEVとする野心的な計画。さらにアグレッシブな発表が豊田章男社長からなされたのは、トヨタが挑戦するブランドと位置づけるレクサスだ。
レクサスにおいては2030年までにバッテリEVでフルラインアップを実現。欧州、北米、中国でバッテリEV100%、グローバルで100万台の販売を目指す。さらにその5年後となる2035年にはグローバルでバッテリEV100%を目指すという。
レクサスが2021年2月1日に発表した、2020年1~12月の全世界販売実績は71万8715台(前年比94%)。内訳は、北米約29.7万台(前年比91%)、中国約22.5万台(前年比111%)、欧州約7.1万台(前年比81%)、日本約4.9万台(前年比79%)、中近東約2.7万台(前年比82%)、東アジア約3.2万台(前年比92%)となっている。つまり、欧州、北米、中国のトップ3の市場はバッテリEV化することになる。
すでにレクサスは2019年に電動化ビジョン「Lexus Electrified」を発表し、バッテリやモーターの最適配置による慣性諸元の向上、四輪駆動力制御技術「DIRECT4」などを積極採用するとしているが、従来の予定はPHEV(プラグインハイブリッド車)やHEV(ハイブリッド車)を含み2025年に向けて10以上の電動車を投入としていた。そこから5年でオールBEV化することになり、大幅に計画が加速されたのは間違いないだろう。
Lexus International Presidentであり、トヨタ自動車のChief Branding Officerでもある佐藤恒治氏は、「モーターが生み出すリニアな加減速、ブレーキのフィーリング、そして、気持ちのよいハンドリング性能を組み合わせることで、運転そのものの楽しさを追求し、レクサスらしい電動車をお届けしてまいります」と「Lexus Electrified」を紹介。2022年に発売されるであろうレクサス「RZ」を映像で紹介するとともに、マスタードライバーである豊田章男社長との同乗走行を見せ、電動車ならではの楽しさを示した。
そして、その次のステージとしてスポーツバッテリEVを挙げる。「加速タイムは2秒前半、航続距離700kmオーバー、全固体電池の搭載も視野に、ハイパフォーマンスバッテリーEVの実現を目指します」と、全固体電池搭載の可能性についても触れた。トヨタは全固体電池の採用を2020年代前半のHEVからとしており、まずはトヨタブランドでHEVへ展開、その後レクサスのスポーツEVでBEVへ展開というような道筋なのだろうか。トヨタは電気の入出力特性に優れるバイポーラ型ニッケル水素電池も世界で初めて量産実用化しており、今後4兆円も投資するという電池戦略も気になるところだ。
多くのバッテリEVを投入できるわけ
佐藤プレジデントは、このようにバッテリEV開発を加速でき、PHEV、HEV、FCEV(燃料電池車)、ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車、そして水素燃焼エンジンや代替燃料エンジン車など、全方位戦略が行なえる背景として開発の効率化があるという。
「全方位戦略を採り続ける前提として、二つわれわれが努力をしてきていることがございます。一つはやはり開発の効率化です。開発効率をかなり上げてきている。従来の方法と比べた上で、3割から4割くらい効率が上がっているのです。これは、TNGAという基盤作りを数年にわたってやってきてることが大変大きく効果を現わしていると思います。そういった今後のEVの拡大を図る上での基礎体力をまずつけてきている」
「加えてもう一つは、やはりブランディングだと思っています。今日発表しましたように、レクサスがBEVをリードしていく形を採っていきます。ブランドの特徴があってという話はしましたが、やはり先進技術をレクサスがフロントランナーとしてやっていくと。コーポレートの中でのブランドの役割をより明確にしていく。一方、Gazooレーシングが、水素エンジンの話も先ほど出ましたが、モータースポーツを起点にしながらカーボンニュートラルフューエルの可能性に対しても挑戦を続けていくことで、それぞれのプラントが強みを活かしながら、幅広い技術の探索を同時に行なっていくと。ということがわれわれの強みとなっておりますので、そういった背景もあって、全方位戦略を続けていこうと考えています」
トヨタの企業規模は日本有数の企業規模になるが、2022年3月期見通して売上高30兆円、本業のもうけを示す営業利益は2兆8000億円。営業利益率は9.3%になる。コロナ過前のトヨタであれば、営業利益率は8%前後であったため確かに効率化が図れている部分があるのかもしれない。
しかし、一歩海外に目を向けるとハードウェア販売も行なうIT企業であるアップルの2021年会計年度第4四半期12か月の売上高は3658億ドル(トヨタは予測を110ドルで算出しているため、トヨタとそろえるために110ドル換算で約40兆2380億円)、営業利益は1089億ドルとなる。水平分業タイプではあるもののハードウェア製品を発売するアップルとの利益率の差は一目瞭然だろう。儲け過ぎとも言われるトヨタだが、今後の研究開発費負担、そして電動化に対する製造設備刷新の投資などを考えると、企業規模が大きいだけに少し舵取りを間違えると容易ならざる事態に追い込まれていくのは間違いない。今後戦っていくかもしれない相手を考えると、さらなる開発の効率化は必然となる。
ワクワクドキドキするようなクルマ作り
ただ、佐藤プレジデントはトヨタやレクサスの基本は、ワクワクドキドキするようなクルマ作りだという。
「BEVに限らずわれわれはクルマという商品を通じて、お客さまにすてきな体験をお届けしたいクルマであるということをすごく大事に思っています。今のガソリンエンジンもハイブリッドも、やっぱりワクワクドキドキするようなクルマを作っていきたいです。例えば社長の豊田が申し上げているように、ガソリンエンジンのオイルのにおいだったり、エンジンサウンドだったり、そういうワクワクドキドキが今の内燃機関にももちろんあります。ただBEVにはそこにはないワクワクドキドキがあるんじゃないかなと思ってます」
「BEVというのは、やはりバッテリ・モーターが返してくる、そのレスポンスのよい動きであったり、あるいは滑らかなスムーズな加減速であったり、あるいは静けさであったり。いろいろ今のガソリンエンジンにはない付加価値があると思うのです。特にラグジュアリーセグメントなどは、加速性能に対するお客さまの価値観が非常に高いです。ガソリンエンジンで出し切れない加速性能というのをモーターであれば出すことが可能かもしれない。私、実は今、機が熟したと思ってます。トヨタのマスタードライバー(豊田章男社長)の元で、10年ぐらい1000本ノックを受け続けて、体育会の部活みたいなことして、トヨタの、あるいはレクサスらしいクルマの味はということをずっとやってきているんです」
「先ほど映像でも見ていただきましたように、やっとですね、10年かかって豊田章男が少し笑顔になれるBEVの可能性が出てきたということです。新しい可能性に向かって挑戦をするという意味では、BEVはまだまだクルマを面白くできるんじゃないかと思います。特に駆動力、豊田社長も先ほどコメントの中で話してましたけども、いろんな駆動力をコントロールすることでもっとクルマの動きを面白くしていくっていう意味では、やっぱり電動化の技術がものすごく有効なのです」
「そういう意味で、ワクワクドキドキするクルマを作れるかもしれないという期待感を持って、レクサスは特にBEVのほうにシフトしていきたいと思ってます。BEVはわれわれにとってどういう存在なのかというご質問に対しては、ワクワクドキドキする未来を提供してくれるオポチュニティなんじゃないかなというふうに思っています」
新世代レクサスのバッテリEVであるレクサス「RZ」はこれから明らかになってくるが、佐藤プレジデントが語るワクワクドキドキ、そしてそれを実現する電動モーターならではの制御がどうなるのか。マスタードライバーである豊田章男社長も、「今までのトヨタのEVには興味がなかった。これから作るEVには興味がある」と質問に対して回答しており、これからのトヨタ自動車のクルマ作りが問われている。その中で、最先端を走るレクサスは急速に電動化を進めていくことになる。