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デンソー、2025年出荷予定の20倍高精度な次世代LiDARにAMDのZynq UltraScale+MPSoCを採用

2023年1月19日(現地時間) 発表

AMD Zynq UltraScale+MPSoCがデンソーの次世代LiDARに採用される

 アメリカの半導体メーカーAMDは1月19日(現地時間)、同社が提供している「AMD Xilinx Automotive Zynq UltraScale+multi-processor system-on-a-chip(MPSoC) platform」(以下、Zynq UltraScale+MPSoC)が、日本のティアワン部品メーカーであるデンソーが開発している次世代LiDARシステムの演算装置として採用されたことを明らかにした。

 AMDによれば、デンソーは「Single-Photon Avalanche Diode(SPAD) LiDAR」と呼ばれる次世代LiDARを開発しており、現在のLiDARと比較して20倍の高精度な処理を実現し、より小型化、低コストを実現することが可能になるとのことで、ADAS(先進運転支援システム)、自動運転、スマートファクトリーなどでの歩行者検知や物体検知などをより高精度で行なえるという。

AMDが買収したザイリンクス由来の車載向け製品でスバルのアイサイトXなどにも採用

 AMDは2020年にFPGA(Field Programmable Gate Array、プログラマブルな論理回路で利用者がソフトウエアなどで構成してさまざまな用途に利用できるロジック半導体のこと)のトップベンダーだったザイリンクス(Xilinx)の買収を発表し、現在はAMDの一部門となるAECG(Adaptive and Embedded Computing Group、適応型・組み込みコンピューティング事業本部)としてFPGAベースの製品を顧客に提供している。

 ザイリンクス時代からAECGは自動車事業に力を入れており、最近ではスバルのアイサイトXの心臓部としてZynq UltraScale+MPSoCが採用され、すでに新型「レヴォーグ」などに搭載されている。このZynq UltraScale+MPSoCはArm CPU(Arm Cortex-A53)、GPU(Arm Mali-400MP2)などのCPUやGPUという汎用プロセッサーに加えてFPGAを搭載しており、プログラム次第でFPGAをさまざまなアクセラレータとして利用できる柔軟性を備えている。通常のOSの動作はCPUに、描画はGPUに任せて、FPGAはAI推論に特化して処理を行なうといった使い方が可能になる。

 今回AMDが発表したのは、そのZynq UltraScale+MPSoCが、デンソーが開発している次世代LiDARシステムの処理エンジンとして採用されたということになる。

デンソーが開発中のSPADベースの次世代LiDARシステムは20倍高精度でより高い処理能力が必要となる

AMD Zynq UltraScale+ MPSoC

 デンソーが計画している次世代LiDARシステムは、SPAD(Single-Photon Avalanche Diode、単一光子アバランシェダイオード)LiDARと呼ばれ、より高精度な光検出が可能な半導体を利用したLiDARで、従来製品に比較して歩行者の検出を20倍(デンソーの研究所での計測)高精度に行なうことができるという。

 検出を高精度で行なえるということは、システム側が処理するデータ量もそれに比例して増大するため、その処理のためのSoCとしてZynq UltraScale+MPSoCが選ばれたことになる。AMDの発表によれば、デンソーのSPAD LiDARは10フレーム/秒の処理で300万ポイント/秒以上の処理が発生するが、Zynq UltraScale+MPSoCを採用することで、システムの温度が規定を超えたりすることなく正常に動作できるようになるという。

 今後自動運転システムなどのレベルが上がっていくと、カメラやレーダー、LiDARなどの搭載数は増えていくと考えられており、現在はやや大型でシステムの場所をとるLiDARの小型化は待ったなしの状況だ。AMDによれば、デンソーはZynq UltraScale+MPSoCを採用することでシステムを小型化することが可能になるということで、スペースの問題を解決するのと同時に小型化によりLiDARシステムのコストダウンも実現する。

 デンソーは、そうした次世代LiDARをADASや自動運転といった車載向けだけでなく、スマートファクトリーなどへの応用も視野に入れているとした。

デンソーの次世代LiDARは2025年に量産出荷予定、デンソーはスケーラブルでプログラマブルな点を評価

 デンソー センシングシステム事業部長 黒川英一氏は「AMDの高性能で、スケーラブルでプログラマブルな半導体により、弊社のLiDARセンサーアーキテクチャが要求する複雑なイメージ処理を実現可能にする。Zynq UltraScale+MPSoCは、われわれが必要とする、機能安全の厳しい要件を満たしており、それがAMDと協業する理由だ」とAMDのプレスリリースの中でコメントを寄せており、Zynq UltraScale+MPSoCの要求に応じてチップを選ぶことで性能を上げたり下げたりできる点、さらにはFPGAによりプログラムにより用途に応じたアクセラレータとして使える点、さらに車載向けとして重要な機能安全を実現していることを評価して採用を決めたと説明している。

 AMDによれば、デンソーの次世代LiDARシステムは2025年から量産出荷が開始される予定になっており、2025年に以降に出荷される市販車などに搭載されて市場に出回ることになる計画だ。