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ユビ電、ソフトバンクから独立したスタートアップ企業が展開するEV充電サービス「WeCharge」が描く電気の未来とは?

2023年7月4日 発表

発表説明会に参加した(左から)オリックス自動車株式会社 社長室 副室長 斎藤啓氏、ユビ電株式会社 COO 白井辰郎氏、ユビ電株式会社 代表取締役社長 山口典男氏、パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティー事業戦略室 DERMS タスクフォース 西川弘記氏

通信事業で起きた大革命を電力事業でも起こす!

 EV(電気自動車)充電サービス「WeCharge(ウィーチャージ)」を展開するユビ電は7月4日、福岡県福岡市にあるアイランドシティの既築分譲マンション「フォレストプレイス香椎照葉ザ・テラス」の駐車棟全429区画に対して、個別充電設備の導入が決定したと発表すると同時に、今後の戦略に関する説明会を開いた。

 ユビ電の代表取締役社長である山口典男氏は冒頭、「私はもともとソフトバンクの社員で、この30年間で固定電話から携帯電話へと通信事業が大きく変革した流れを目の当たりにしてきました。同時に10年ほど前、通信と同じ変革を電気事業にも起こせるのではないか? と考え、孫正義社長(※当時)に相談したところ、『おもしろいから。やってみよう!』と言われて計画がスタート。そして“電気の未来を描くんだ。”をスローガンに掲げ、新しいサービスを開発して、世の中に届けようと立ち上げました」と、あいさつに合わせてユビ電が起業するまでの経緯を紹介。

 なお、ユビ電とは、ラテン語の「Ubique(あらゆるところで)」が語源の「ユビキタス(=いつでもどこでも存在するという遍在性)」と「電気」を掛け合わせた造語となっている。

ユビ電株式会社 代表取締役社長 山口典男氏

 サービスの内容について山口社長は、「固定電話の時代は電話に出た人に取り次いでもらう必要があったが、携帯電話の時代になると直接つながるようになり、コミュニケーションも詳細になった。電力も昔は○○電力と契約し、毎月いくらくらい使っているか、合計金額だけで詳細は分からなかった。しかし、ユビ電では電力に対して“いつ、どこで、誰が、何に、どのくらい使った”と、詳細を求められる時代がくるはずだと考えました」と説明。

 また、「そんな電気事業サービスを考えているところに、ちょうどEVの普及が始まりました。EVは家電の中で一番電気を使ううえに家の外にある。つまりエネルギーの使い方に大きな変化が生まれている。これはもうユビ電の出番だと感じました。そして、どこで作られた電力が、どこのポートで、どのEVに、どのくらい充電されたのかまでが分かるサービスのWeChargeを生み出し、EVとエネルギーの新しい関係を作れると考えました」と、EVの普及がユビ電の目指す未来と合致したと語った。

ユビ電が目指す未来:エネルギー利用概念の拡張イメージ

 続けてユビ電の白石辰郎COOが登壇し、現在のEV普及状況や課題についての説明を行なった。白石氏によると、8000万台の自動車が登録されている日本国内でのEV普及率はわずか1%弱で、50~80万台という。また、EVを取り巻く事情について「鶏が先か? 卵か先か?」を模してよく言われる「EVが先か? インフラ(充電設備)が先か?」の議題については、「ユビ電ではインフラが先だと信じている」とコメント。

ユビ電株式会社 COO 白石辰郎氏

 EV普及の課題として「充電時間が長い」「航続距離が短い」「充電場所が少ない」「電力が足りない」とよく耳にする4つを挙げ、「実はEVに乗り換えたオーナーに聞くと、それらはまったく課題ではないと口をそろえて回答します」と白石氏は言う。その大きな要因の1つは「自宅に充電設備を持っているから」と語り、最近のEVは航続距離も400~500km以上(軽EVは除く)と長く、自宅から満充電で出発した場合、「片道200km圏内であれば往復が可能で、東京なら関東一円は充電スタンドを使わずに帰ってこれる」と説明した。

東京起点なら関東一円、大阪起点なら関西一円を往復できるとしている

 あわせて、自宅で充電ができれば移動中に充電する必要がないので、「充電場所が少ない」「充電するのに順番待ちがあった」といった課題に遭遇することもないと語る。

 さらに「急速充電ではなく普通充電では時間がかかるのでは?」と思われることもあるが、白石氏は、「実際にEVに乗っているオーナーに聞くと、1日に20km程度しか走らないのであれば、普通充電でも約1時間でその分は充電できるし、そもそもバッテリ残量が0になるまで充電しない状況もほぼなく、日々の就寝中といった、自宅に止めてあり、乗らない時間に充電していれば、充電時間が長かったり、充電されるまで待たされたりする感覚にはならない」という。

残量0%の60kWhのバッテリを満充電にするのにかかるおおよその充電時間。ただし、0から充電するユーザーは少なく、実情はスマホのように日々継ぎ足し充電をしていて、朝乗るときはほぼ満充電になっているそうだ

 しかし、日本では特に人口の多いところはマンションやアパートが並び、日本全体では約4割、東京都にいたっては約7割が共同住宅住まいのため、駐車場に充電施設がないのは事実。共同住宅には個人で勝手に設置できず、共有用に数個充電設備があったとしても、EVの台数が増えれば順番待ちが発生してしまう。

 そこで、ユビ電は、マンションやショッピングモールなどの大型施設を含め、すべての駐車場に対して個別の充電設備を設けるためのサービスとなるWeChargeを立ち上げたという。

日本に住んでいる約4割は共同住宅のためマイカーのためだけの充電設備が持てず、その結果、EVへの乗り換えも難しくしている

 ここで再び「EVだらけになったら電力が不足するという話は? ただでさえエアコンを控えて省エネと注意喚起しているのに大丈夫なの?」と思う方もいるだろう。しかし、白石氏の解説によると、「現在日本の年間の総需要電力量は8800億kWhあり、そのうち家庭で使用されるのは約30%。先述したとおり現在国内のEV登録数は50~80万台で、仮に2030年までに飛躍的に普及して500万台になったとしても、使用する総EV需要電力量は80億kWhと、全体の約1%にしか満たない」という。

全日本総EV需要電力量

 また、ユビ電が展開しているEV充電サービスのWeChargeは、コンセントに接続しているEVすべてをクラウドで制御できるのが特徴の1つで、接続されているEVを蓄電池ととらえ、電力がひっ迫している状況であれば、バッテリが満充電で動いていないEVから電気を供給できるようにすることも視野に入れているという。この場合は接続しているEVが多ければ多いほど、電気の蓄えも増えて逆供給できる電気量も増え、ひっ迫している電力網に貢献できる想定だ。

「適時」のEV充電によりグリッド需給調整役にもなれる

 ほかにも大型マンションで全車両がEVの場合は、さすがに全台が同時に充電すれば電気料金が値上がる可能性や、朝になっても満充電にならない車両が発生してしまう可能性も否定できない。しかしユビ電のシステムは、電力網の電力需給状態を見ながら、使用量の少ない時間帯や電気料金の安い時間帯に充電するといったコントロールが可能。また、全車両をまずは80%まで充電したり、毎朝保育園へのお迎えがある家のEVを優先的に充電したりと、その施設特有の条件を設ける「ポリシーベース充電」という考え方や、今後は課金したユーザーには優先的に充電するといったサービスも検討しているという。

 また、WeChargeは、充電設備に貼ってあるQRコードを読み込むことで充電がスタートし、そのユーザーIDに対して請求が発生するので、夜自宅で充電できなくても、会社や出先にWeChargeがあれば、そこでも充電できるなど、フレキシブルでスムーズな充電環境を構築できるのもポイントとなっている。

WeChargeが創る、EVとエネルギーの新しい関係図

 ユビ電はこの日、福岡市アイランドシティの既築分譲マンション「フォレストプレイス香椎照葉ザ・テラス」の駐車棟全429区画に対してWeChargeの導入が決定したことを発表している。実は九州地方は太陽光発電と風力発電が盛んで余剰電力があるという。そのため、ユビ電のWeChargeを使えば、効率的にEVの充電を行なえ、理想のEVライフが構築しやすい環境にあるとしている。

2023年度中に駐車棟全429区画にWeChargeが設置される予定
九州電力管内の需給実績

 山口社長に聞くと、まだ設置工事中の案件が多いため、現状WeChargeの利用者はまだ数千人レベルだが、2023年末には内定している分も含めてマンションやアパート、ビルを中心に4000ポートまで拡大させる見込み。「WeChargeは設置されて、ユーザーがEVに乗り換えてからがスタートなんです」と山口社長は語る。

 また、山口社長はユビ電が「インフラ(充電設備)が先」と考えている裏付けとして、実際にEVのなかったマンションの駐車場にWeChargeを設置したところ、「EVへの買い替えスピードが4倍くらい早くなった事例もあります」と明らかにした。

2023年末には4000ポートまで数を伸ばす見込みという

考え方が同じベクトルにあるパナソニックとも協業

 ゲストとして登壇したパナソニック ホールディングス モビリティー事業戦略室 DERMS タスクフォースの西川弘記氏は、「パナソニックは100年前にインフラに使われていた電燈を家庭で使う電気・電力に変換したり、自転車のヘッドライトや扇風機(インバータ)など暮らしの便利を提供する事業からスタートしました」と会社の歴史を紹介。

 続けて西川氏自身は、宮古島(沖縄県)で島全体を100%再生可能エネルギーにするプロジェクトや、多治見(岐阜県)でソーラーカーポートを200台ほど設置し、約40台のEVを運用するビジネスを手掛けてきたという。「実はこの多治見のプロジェクトで、SBテクノロジーと協働したことから、ユビ電ともつながった」と振り返る。

パナソニック ホールディングス株式会社 モビリティー事業戦略室 DERMS タスクフォース 西川弘記氏

 現在パナソニックは日本での基礎充電器やコンセントで70%のシェアを持っていて、西川氏は「ソーラーガレージとか太陽光ビジネスでいろんなことを考えていますが、職場やマンションはまだまだ少なく、ここを広げると同時にコントロールできる電源にしたい。また、電力会社の電気料金計算で使われているデマンド値(=最大需要電力)もなくしたい」と語る。

 同時に「日本のEVの商品力を高めてグローバルで勝てるEVが必要になるし、インフラについても世界に売り出せるシステムを構築する必要がある。そしてエネルギーの自給率を上げて脱炭素を実現しなければならない。さらに、充電装置やコードはもっとコンパクトなほうがいいし、最終的には系統の安定が図られたほうがいい」と西川氏は説く。

 続けて「ユーザーを育てていく必要もあるし、クルマは7~10年で乗り換えても、建物は30年以上は維持する必要がある。これを長期間一緒に実現できるパートナーが必須。そして電気が双方向に流れるようになれば、安全性やそれに見合った蓄電池も必要になってくるし、新しい制度も必要になる。パナソニックもそれに合わせた新しい世界を作っていきたい」と締めくくった。

充電器設備から見た課題
EVの機能を考えていくと
パナソニックが考えるnEVにおける社会的価値と顧客価値

オリックス自動車の営業車による事例を紹介

 最後にオリックス自動車 社長室 副室長 斎藤啓氏が、自社で営業車にEVを使用した際の実例を報告した。

 斎藤氏によると、導入当初は外部に設置されている急速充電施設を利用する運用を行なったところ、使用者からはEVに対しての不満がないどころか、静かで質感が高く、疲労も少ないと好印象だったものの、充電設備に関しては遠方利用があると2日に1回充電が必要となり、外出先で急速充電施設を探すのに苦労したほか、並ぶことも多々あり、時間のロスが発生してしまい、施設によっては充電以外に駐車場代が発生するなど、課題のほうが多かったと説明。

オリックス自動車株式会社 社長室 副室長 齋藤啓氏

 そこで、会社の駐車場にWeChargeを導入したところ、待機や探すといったストレスがなくなり、充電に関する課題はすべて解消。基本的には営業所で毎晩充電すれば足りなくなることはほぼなく、急速充電については外出中の「緊急充電や継ぎ足し充電用」と、運用方法ががらりと変わったという。

 また、WeChargeはクラウド管理によりダッシュボード機能も用意されていて、誰がどのくらい利用したかなどが細かく確認でき、管理の正確さも増したと実例を紹介した。

オリックス自動車の導入事例
WeChargeのダッシュボード機能画面