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ニチコン、小型・軽量・高効率化を実現した第3世代のV2Hシステム「EVパワー・ステーション」発表会

2023年10月17日 開催

ニチコン株式会社 代表取締役会長 武田一平氏(左)とトークショーにゲスト出演した慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏(右)

コンデンサ事業で成長してきたニチコン

 ニチコンは10月17日、電動車(バッテリEV・プラグインハイブリッド)を家庭の電源として活用するV2H(Vehicle to Home)システム「EVパワー・ステーション」の新商品発表会を実施した。発売は2024年春の予定。

 ニチコンは1950年に京都で設立し、アルミ電解コンデンサやフィルムコンデンサ、電力用コンデンサ、小型リチウムイオン二次電池といったコンデンサ事業を軸に成長してきた企業。ニチコンのフィルムコンデンサは、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された実績を持つほか、現在はバッテリEV(電気自動車)にも多く使われている。

ニチコンの事業は「コンデンサ事業」と「NECST事業」の大きな2つの柱がある

 また、2010年には「NECST(Nichicon Energy Control System Technology)プロジェクト」を発足し、家庭用蓄電システムやV2Hシステム、EV用急速充電器、公共・産業用蓄電システムなどの開発にいちはやく着手。2012年にV2Hシステムの実用化に成功し、2019年には第2世代の系統連系型V2Hシステム「EVパワー・ステーション」を発売。これまでに国内シェア90%を占めるなど、現在はNECST(ネクスト)事業部と名称を変え、ニチコンの急成長事業となっている。

V2Hシステムとは

 発表会で登壇したニチコンの代表取締役会長 武田一平氏は、「2004年に新社屋を作ったとき屋上に太陽光発電機を付けたのですが、昼間に発電した電気が昼間にしか使えないはもったいないと思い、“蓄電して好きなときに使えるようにしたらもっと便利なのでは”と思い、太陽光の蓄電システムを開発したのがネクスト事業スタートのきかっけです。また、当時三菱の益子社長がバッテリEV『i-MiEV』の開発でOBC(ON-BOARD CHARGER)がネックになっているとのことから、車載用充電器の開発依頼を受けました。結果開発は成功してi-MiEVに初めて当社のOBCが使われました。そしてその技術を使って充電器や家庭用蓄電システム、V2Hの開発へとつながっているわけです」と、これまでの経緯を紹介した。

ニチコン株式会社 代表取締役会長 武田一平氏
NECST事業の変遷

 現在は家庭用のみならず、公共・産業用蓄電システムのほか、がんの治療に使われる医療用加速器電源なども手がけていて、2023年3月末時点でのニチコンの資本金は142億円、グループ28社の連結売上高は1847億円、連結経常利益152億円、連結社員総数は5408人という企業規模を誇っている。

第3世代へと進化したニチコンのV2H

 続いてニチコン NECST事業本部 執行役員本部長である桃井恒浩氏が登壇し、「2022年度のEV販売は約10万台でしたが、2023年は上期ですでに7万4000台を超えていて、最終的には15万台ともいわれています。また2030年には120万台が見込まれているほか、米国では600万台ともいわれていて、グローバルに見ても急成長しています」とEV市場の成長スピードの速さに言及。そしてEV市場の拡大と合わせて、V2Hも補助金などの効果も後押しして市場が急速に拡大していることから、今回3世代目へと進化させたと説明した。

ニチコン株式会社 NECST事業本部 執行役員本部長 桃井恒浩氏
第3世代へと進化したV2Hシステム「EVパワー・ステーション」。写真は据置タイプ
軽量化と小型化に成功したことで、壁掛けタイプも設定している

 新製品のパワーユニット本体は470×620×200mm(幅×高さ×奥行き)と、現行モデルの一体型ユニット本体の809×855×337mm(幅×高さ×奥行き)に対して大幅な小型化を実現しつつ、さらに現行モデルの91kgに対して新製品は42.7kg(据置タイプ・プラグホルダ含む)と半分以上の軽量化も達成。また、新製品はパワーユニット本体と操作部をセパレート(別体)とし、設置の自由度と使いやすさを向上させたという。

新型「V2H」の進化ポイント1
新型「V2H」の進化ポイント2

 この小型化を実現させた要因は、CLLC双方向コンバータを用いた新電力変換回路とニチコン独自の制御技術を組み合わせた新回路システムの採用で、効率化を高めたことで発熱量を抑制、その結果外部ファンが不要となり、大幅な小型・軽量化を実現したという。あわせて、SiC MOS FET(Silicon carbide metal-oxide-semiconductor field-effect transistor:シリコンカーバイト金属酸化膜半導体電解効果トランジスタ)の採用と、インバータ回路の最適化による損失低減を図り、軽負荷時も現行モデル比で約10%の効率アップを達成。さらに今回は「小型自動切替開閉器」も新たに開発。専用分電盤を小型化したことで1つの分電盤の中に収められるようになり、家庭で停電が発生しても自動的にEVからの給電に切り替わるようにしたという。

 そのほかにも、セパレート式にしたことでプラグホルダが軽くなり壁掛けにも対応したほか、「シルバー」と「ブロンズ」の2色を設けて好みの色を選べるようにしている。さらに沖縄など海が近い塩害地域への設置対応もオプションとして初めて用意。そして、これまで12年間のV2H販売で培ったノウハウにより、信頼性の高い回路システムを構築できたことで10年保証も設定している。

現行モデルと新製品の仕様比較

 最後に桃井氏は「今回V2Hと同時に、発展型太陽光パワーコンディショナ(パワコン)ESS-E1も開発しまして、最初にこのパワコンを買って、後から蓄電池ユニットやV2Hシステムを購入しても使える便利なEVレディパワコンとして、新たなライフスタイルを提案していきます」と締めくくった。

 なおニチコンは、この第3世代の「EVパワー・ステーション」や「発展型太陽光パワーステーション」を、ジャパンモビリティショー2023に出展。会場で実物を確認できるので、ぜひ足を運んでみてほしい。

パワーコンディショナ「ES-E1」(左)、7.7kWh蓄電池ユニット「ES-E1L1」(右)
発展型太陽光パワーコンディショナ(パワコン)ESS-E1の特徴1&2
発展型太陽光パワーコンディショナ(パワコン)ESS-E1の特徴3
発展型太陽光パワーコンディショナ(パワコン)ESS-E1の特徴4&5

「12年以上前からやっている先見性は本当にすごい」と岸教授

 発表会ではトークショーも行なわれ、ニチコン武田会長と慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏が登場。V2Hのメリットを聞かれた岸氏は、「政府の今のもくろみでは6年後の2030年に発電全体の36%~38%を再生可能エネルギーにするとしていて、当然その中で一番大きい割合は太陽光発電になります。でも太陽光発電の割合を増やす観点からいうと、太陽光パネルを増やすだけでなく発電した電気をためるという部分が非常に大事になる。それを家庭レベルで実現できるのはとても素晴らしいし、また日本は世界と比べてEVの充電インフラが遅れているので、その観点から見てもすごくイイと思います」と回答。

 続けて岸氏は武田会長に「どうしてV2Hを製品化しようと思ったのでしょうか?」と質問。武田会長は、「EVが積んでる電池は家庭用蓄電池と比べて5倍とか10倍ぐらいの容量がある。でも実はEVを含め自動車は90%ぐらいは駐車場で止まっていることが多いので、EVから電気を取り出せる製品を作れば、その電気を家庭で有効に使えるし、災害時にも使えると思い開発を始めました」と説明した。

慶應義塾大学大学院教授 岸博幸氏

 それを聞いた岸氏は、「このV2Hにつながるプロジェクトを始めたのは2010年ですよね。2010年は東日本大震災の前年。当然まだ太陽光ブームは始まっていないころ。翌2011年に東日本大震災で福島原発の事故があって、再生可能エネルギーが非常に注目されるようになり、2012年からFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)が始まり、いわゆる太陽光ブームにつながったわけです。要はそういうブームが起きる前からV2Hシステムに取り組んでいた。V2Hという単語も世間的に広がりだしたのは最近ですので、V2Hを12年以上前からやっている先見性は本当にすごい。そしてその技術の実績があるからこそ、小型で使いやすい製品を出せたんだなと。世界で最初にV2Hを出して、リードしてきた成果だと思いました」と感想を述べていた。