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トヨタ豊田章男会長、“普通のクルマ好きのおじさん”として東京オートサロン3日間をクルマ好きのために全力疾走
2024年1月15日 12:26
“普通のクルマ好きのおじさん”である豊田章男会長の3日間
東京オートサロン2024が、1月12日~15日の3日間の会期で行なわれた。ショップによるカスタムカーが多数出展される東京オートサロンだが、近年は自動車メーカーの出展も増え、プレミアムブランドであるスポーツブランドの訴求を行なっている。
TOYOTA GAZOO Racingとレクサスも東京オートサロンに出展。初日である12日9時30分から、トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏による「モリゾウから新年のご挨拶」と題したプレゼンテーションを実施した。
1日目(1月12日):朝はプレゼン、昼は練り歩き、午後は愛車座談会
2023年は、AE86のバッテリEVコンバージョンと水素コンバージョンの2つのカーボンニュートラルカーがメインテーマだったが、2024年は新型センチュリーSUVというプラグインハイブリッドは含むものの、ヤマハ ヴィーノやスズキ ジムニーを含むエンジン搭載車に全振り。モリゾウ選手という側面も持つ、豊田会長の愛車をリアルに紹介。トヨタの社長と自工会(日本自動車工業会)会長を退いた“普通のクルマ好きのおじさん”として、「クルマが大好き」「クルマ好きの皆さん!一緒に未来を作りましょう!」と強いメッセージを発信した。
その中で、「カーボンニュートラルに向けた現実的な手段として、エンジンにはまだまだ役割がある」と新型エンジン開発を明らかにし、自動車産業に従事する約550万人の中に含まれるエンジンの部品を作っている仲間たちにエールを贈る。
12時過ぎからは、ここ数年恒例になっている東京オートサロンの練り歩きを開始。北ホールから始まり、西、中、東と幕張メッセ全域を紹介しつつ歩き、解説し、新年のあいさつをしてまわる。ブース出展社の要望によっては、サインもし、記念写真にも応じる。クルマ好きの今を体で把握しようとしている。
そして午後は、プレスカンファレンスで明かされなかったモリゾウの愛車についての座談会。ヤマハ ヴィーノやスズキ ジムニーを含むモリゾウの愛車のエピーソードを楽しく紹介。ヴィーノについては、中古を8万円で購入したエピソードなどが明かされ、GRカローラについてはモリゾウエディションのダウングレード版であることなどが語られた。
朝からクルマの好きのために強く訴えかけ、昼は幕張メッセ全域を歩き(歩いているだけではないが)、午後は愛車の面白エピーソードを存分に語る“普通のクルマ好きのおじさん”であった。
2日目(1月13日):新型センチュリーSUVのオープンカー披露と、TPSの特別講演
実は2日目に豊田章男氏は、東京オートサロンの会場である幕張メッセにはいなかった。この日は豊田章男会長として両国国技館へ。新型センチュリーSUVを特別にオープンモデルとしたパレードカーを日本相撲協会に渡すお披露目式を行なった。
このパレードカーは、元横綱白鵬である宮城野親方のリクエストに豊田会長が応えたもの。豊田会長も、15日間戦い抜いた力士にふさわしいクルマとしてセンチュリーSUVオープンカーを特別に仕立てた。
そして午後は、日本の製造業のためにNPS研究会の総会において「『私とTPS』 ~現場に主権を取り戻す闘い~」と題した特別講演を実施。この講演は1時間を超えるもので、豊田会長はトヨタ自動車での歩みを多くのエピソードを用いて伝えていた。
3日目(1月14日):朝はラリーについての座談会、昼はデモラン、午後は体制発表会
東京オートサロン2024の最終日である1月14日、この日も“普通のクルマ好きのおじさん”としてフル稼働。10時からはラリーの魅力を語ろうというトークセッションがあったが、なぜかモリゾウさんは9時40分過ぎに登場。「場を温めに来ました」として前説で現われた。
これは、モリゾウさんの思いとして、リアルな場所に来た人には少しでもメリットがあるべきというのがあり、ステージの開場を待っている人に楽しんでもらいたいという。配信で見られるように配慮しているが、現場にいる人には、現場にいる人ならではの楽しさがあってほしいと思っている。
結構早く出てきてしまったために、司会の富川さんが途中で連れ戻す場面も。おかげであまり打ち合わせが進まなかったようで、本編にはそんなエピソードが見られる部分がある。
モリゾウさんは、このラリーの魅力を語ろうの中で、25歳以下に向けた「MORIZO Challenge Cup」の創設を発表。全日本ラリー選手権の中で若手ラリードライバーの育成を後押ししていくという。
そしてお昼はデモラン。レーシングスーツに着替えたモリゾウさんは、「最初はスバル」とスタッフに声をかけ、スバル インプレッサでデモラン。次に開発車であるGRヤリスでデモランと、激しいデモランを繰り返していく。
15時には、小倉クラッチのブースでルーキーレーシングの体制発表会。15時スタートのはずだが、ここでも前説として登場。場を和ませつつ、お客さんを集めという前説の仕事をきっちりこなしていた。
この体制発表会では、14号車、28号車、32号車の体制を発表するとともに、富士24時間レースにカッレ・ロバンペラ選手が参加することもサプライズ発表。会場は大きな驚きに包まれた。
16時半には、TOYOTA GAZOO Racingブースでドライバーお悩み相談室。ここでは天の声として声で参加していたが、最終的にはブースに小林可夢偉選手と登場。SUPER GTを戦うドライバーとともに、各ドライバーの個性を多くの観客に伝えようとしていた。
近年、トヨタではレーシングドライバーの体制発表が早まっているが、これはTOYOTA GAZOO Racingオーナーであるモリゾウさんの意志によるもの。体制をしっかり決めて正月を迎えてほしいというドライバーへの配慮とともに、年明けに行なわれる東京オートサロンでしっかりドライバーを紹介できるとというのもある。そして多くのファンにドライバーを知ってもらうことで、モータースポーツを盛り上げていきたいと真に願っている。
モリゾウさんは、豊田章男会長は、“普通のクルマ好きのおじさん”なのか?
ここまで“普通のクルマ好きのおじさん”を自称するモリゾウさんの3日間の動き(実は、これ以外にもサプライズサイン会なども開催している)を、記者が目にした限りで紹介してきたが、“普通のクルマ好きのおじさん”というのに無理があるのは事実だろう。
トヨタにお願いして新たにエンジン開発プロジェクトを立ち上げ、宮城野親方の要望に応えてパレードカートして新型センチュリーSUVのオープンカーを用意する。企業経営者のためにTPS(トヨタ生産方式)に関する講演を行ない、若手ラリードライバー育成のためにMORIZO Challenge Cupを創設する。そして、デモランをぶいぶい行ない、2年連続WRC(世界ラリー選手権)チャンピオンの富士24時間への招聘など、“普通のクルマ好きのおじさん”ではなかなかできない(普通じゃなくてもなかなかできない)ことに取り組み続けている。
それはすべてモリゾウさんの「クルマが好きだ」という思いと、「クルマが好きですか?」という呼びかけに現われている。いろいろな形でクルマ業界を発展させたい、クルマの面白さを知ってほしいという思いが突き動かしているものだ。ただ、“普通のクルマ好きのおじさん”でいたいというのも心からの思いで、ドライバーや来場者とのクルマ談義ではクルマ好きならではの会話が聞けた。
クルマ業界は「100年に一度」と言われる変革期にある。その対応は必須だが、対応以上に必要なのは、クルマがいつまでも愛される、必要とされる商品であることだろう。モリゾウさんは、その基本のところを3日間で、文字どおり体を張って訴求し続けていた。