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小泉進次郎議員「全国1700の自治体に電気自動車を配ろう」と日産に大胆提案! 「ゼロ・エミッションフォーラム2024」開催

2024年2月2日 開催

「電気自動車を普及させるためには乗ってもらうしかない。そのために、全国の自治体に1台ずつ電気自動車を配りましょう!」とパネルディスカッション中に発言した小泉進次郎議員

 日産自動車は2月2日、東京都港区の東京ポートシティ竹芝でカーボンニュートラル社会実現に向けた取り組みについて紹介する「ゼロ・エミッションフォーラム2024」を開催した。

 BEV(バッテリ電気自動車)のリーディングカンパニーを自負する日産は、単にBEVを量産して販売することにとどまらず、BEVの活用による社会変革や社会課題解決を目的とした“日本電動化アクション”「ブルー・スイッチ」の活動に2018年5月から取り組んでいる。当日はブルー・スイッチの活動で日産と連携協定を締結している企業や自治体などの担当者を招いて活動内容について説明したほか、YouTubeの「日産公式チャンネル」で会場の様子を一般向けにもライブ配信した。

会場では日産のBEV(バッテリ電気自動車)4モデルを車両展示。なかでも発表されたばかりの「クリッパーEV」は注目度も高く、休憩時間などを利用して内外装を見学する人も多かった

「ブルー・スイッチ」活動の現在地と今後の展望

日産自動車株式会社 執行役副社長 星野朝子氏

 今回で3回目を数える同フォーラムでは、最初に日産自動車 執行役副社長 星野朝子氏が登壇。5年以上に渡り続けているブルー・スイッチの活動内容と今後に向けた新たな取り組みについて解説したが、これに先立ち、1月1日に発生した令和6年能登半島地震で実施した活動について紹介した。

 日産と石川県は2021年12月に災害連携協定を締結。現地にある石川日産自動車販売、日産プリンス金沢の2社と連携して協定に基づいた支援を地震発生当日からスタート。BEV「アリア」8台を現地に派遣したほか、ポータブルバッテリー100台の貸与などを実施した。

 しかし、最大震度7を記録した今回の震災は想定を上まわる被害を発生させており、支援活動を通じて多数の教訓を得ることになったと星野副社長は説明。通信障害の発生で被害状況の把握が困難になり、現地の災害対策本部も混乱状態でどこにBEVを派遣するのが適切か判断できなくなっていたという。

石川県と締結した災害連携協定に基づき、令和6年能登半島地震でも支援を実施

 また、“走る蓄電池”であるBEVは道路の寸断に行く手を阻まれ、カーナビなどのプローブ情報を使った「通れるマップ」と衛星写真を活用して開通したはずの道路に向かってみても、実際には緊急車両以外は通行不可となっており、急なことでどこに申請を出せば緊急車両として登録してもらえるのかわからず右往左往するケースもあった。

 さらに初日以降も連日のように余震が続き、派遣したスタッフの安全をどのように確保するのか、どこまで行かせていいものかといった問題にも直面。現地でBEV派遣活動の拠点として想定していた日産ディーラーも被災しており、店舗の復旧に向けた活動とブルー・スイッチでの支援をどのような優先度で動くべきかなど、さまざまな問題が起きることを学んだとふり返った。ここで得た経験はサマリーとしてまとめ、連携協定の各締結先とも共有していくとのことだ。

最大震度7という大きな地震により、想定していなかったさまざまな問題が発生。この活動で得た経験を連携協定の各締結先とも共有して今後に生かしていく

 2018年5月に始まったブルー・スイッチの活動は、翌2019年9月に台風の影響によって千葉県で発生した大規模停電への対応が災害連携協定が拡大していく契機になったと説明。このときは50台のリーフが停電した地域に送り込まれ、各避難所のほか介護施設、保育園などで電力供給を実施。これが報道を通じて話題となり、その後は災害連携協定がスピード感を持って広がっていった。

 また、2020年10月に政府が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言したことで、災害連携協定に加えてSDGsの観点や地域交通の課題、サステナブルツーリズムなどを含めた包括的協定に進化しているという。

ブルー・スイッチは2019年9月の大規模停電への対応で拡大を加速させ、2020年10月からはSDGsの観点なども含めた包括的協定に進化している

 一方、日本国内における新車販売比率でBEVはわずか2.2%で、先進諸国でも最下位となっており、普及はまだまだ進んでおらず、日産ではBEVに注力して販売比率を11%強としているものの、まだ十分ではなくさらなる普及向上を目指しているという。

 BEVをさらに普及させてゼロエミッション社会を実現していくブルー・スイッチの活動は、これまでに240の協定締結を数えているが、今後はこの240の点を包括的につなげ、「エネルギーマネジメント」「サーキュラエコノミー」「サステナブルツーリズム」地域交通」「次世代教育」といったジャンル別に面として変化させ、さらに強固なものにしていきたいとの考えを示した。この直近の取り組みとして、北海道美瑛町と「持続可能な地域共創に向けた包括連携協定」を結び、広島大学では新しいエネルギーマネジメントサービス「ニッサンエナジーシェア」が導入されることになったことを説明。自身のプレゼンテーションに続き、美瑛町の角和浩幸町長と広島大学の越智光夫学長から導入理由や思いなどが語られると紹介した。

ブルー・スイッチの提携でBEVの普及も進んできたが、ゼロエミッション社会の実現にはさらなる普及拡大が必要だと星野副社長
これまでに締結してきた240の協定を点から面に変化させ、さらに強固なものにしていく
1月11日に日産、旭川日産自動車、美瑛町が「電気自動車を活用した美しい美瑛の未来と持続可能な地域共創に向けた包括連携協定」を締結
広島大学で「ニッサンエナジーシェア」が導入されることも発表された

 最後に星野副社長は、「地球温暖化の危機は待ったなしです。これまでブルー・スイッチの活動を軸にやってきましたが、この活動にとどまらず、皆さんとともに次のステージにステップアップして、一丸となって美しい日本づくりに貢献していきたいと思っております」とプレゼンテーションを締めくくった。

「地球温暖化の危機は待ったなし」と星野副社長

BIEI×NISSANブルー・プロジェクト~100年先の美しい美瑛の未来づくり~

北海道 美瑛町長 角和浩幸氏

 日産と美瑛町の新たな取り組みについては北海道 美瑛町長 角和浩幸氏が解説を実施。角和町長は自身と美瑛町について紹介したあと、将来世代に向けた責任を果たし、100年先でも豊かな環境を守り継いでいく町作りに向けた施策の1つとして日産と連携することになったと説明した。

 1月11日に美瑛町が日産、旭川日産自動車と締結した「電気自動車を活用した美しい美瑛の未来と持続可能な地域共創に向けた包括連携協定」は、能登半島地震における日産による支援のような目の前の課題に力を合わせて取り組みつつ、まだ見ぬ未来を想像しながらイノベーションをドライブしていく取り組みになることを強く望んでいると語り、「ブルー・プロジェクト」と名付けてさまざまな活動を行なっていくことを説明した。

「ブルー・プロジェクト」と名付け、美瑛町、日産、旭川日産自動車が協力してさまざまな活動を行なう

 これからの100年に向けたテーマとして「トランジション」(移行)と「リジェネレーション」(再生)を挙げ、テーマカラーとして美瑛町にある「青い池」をイメージしたブルーを設定。美瑛町の観光名所であり、大雪山国立公園の原生林内にある青い池は、水源として農村景観の根幹にもなっており、環境省の「ゼロカーボンパーク」の登録に向けて準備を進めているという。

 この青い池のある原生林を守っていくだけではなく、「リジェネレーション」(再生)として環境を新しく再生していくことを目指しており、BEVを活用するブルー・プロジェクトで「豊かな森プロジェクト」「美しい道プロジェクト」の2種類をスタートさせていく。

「青い池」の湖水をイメージしたブルーがテーマカラー

「豊かな森プロジェクト」は日産のBEVオーナーと「BIEI×NISSANの森」を育てていく取り組み。日産のBEV販売に応じて森を育てるサポートを行なったり、日産BEVオーナーが森作りに参加する、子供たちに環境教育する場として活用するといった取り組みについて日産と協議している。BEVが走行時にCO2を排出しないだけでなく、ダイレクトに森や環境を再生させていく取り組みにするべく日産とアイデアを出し合って、美瑛町としてもBEV普及に務め、再生可能エネルギーの導入にも力を入れていきたいと語った。

BEV販売などで森を育てていく「豊かな森プロジェクト」

「美しい道プロジェクト」はオーバーツーリズムの問題解消を目指すプロジェクト。青い池もある「白金エリア」はSNSなどで「日本で最も美しい道」とも紹介されて話題を集めたことで、シーズンになると観光客、登山客で賑わって渋滞が発生。ゴミの投げ捨てなども問題になっている。この問題解決に取り組むため、プロジェクトでは白金エリアを「電気自動車推奨エリア」に指定。観光客にBEVで美瑛町の美しい道を走ってもらい、日本の未来に希望の光を見出してもらいたいという気持ちを込めているという。

「美しい道プロジェクト」では青い池もある白金エリアを「電気自動車推奨エリア」に指定する

 角和町長はかつて放映された日産の「スカイライン」TV-CMで全国的に知られるようになった美瑛町にある「ケンとメリーの木」が植樹から100年が経過したことを紹介。ポプラである「ケンとメリーの木」は樹木としては短命で、寿命は100年ほどであると言われており、遠くない将来に命を終えるときが来ると説明。この木から始まった100年の物語はそこで終わり、物語の第2章が「BIEI×NISSANの森」に引き継がれて新しい木々が芽吹いていき、「ケンとメリーの木」が担ってきた美しい農村の景観、観光への貢献といった役割も引き継がれて新たな100年の物語が始まると語った。

 ポプラはラテン語で「共同体」という意味を持ち、会場に足を運んだブルー・スイッチ活動の仲間とこれから100年の物語を一緒に紡いでいけたらこれほど心強いことはないと述べ、100年後、美瑛で、日本中で、世界中で豊かな森に囲まれて子供たちの笑い声が響いていればいいなと考えていると口にしてスピーチを締めくくった。

美瑛町には「スカイライン」TV-CMに登場した「ケンとメリーの木」も立っている

カーボンニュートラル社会実現に向けた広島大学の取り組み

広島大学 学長 越智光夫氏

 日産と広島大学の新たな取り組みについては広島大学 学長 越智光夫氏のスピーチ内で説明された。

 広島大学では2021年1月に、全国の総合研究大学として初めて「2030年までのカーボンニュートラル実現」を目指す「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」を発表。通勤・通学まで含めたキャンパス内で使用するエネルギーのカーボンニュートラル化を目指す高い目標設定となっており、この実現に向けてBEVカーシェア×エネルギーマネジメントなど、産学官のパートナーシップによるさまざまな取り組みを始めている。

 具体策として2022年8月に達成までのロードマップを作成。2023年4月から「エネルギーマネジメント」「研究推進」「人材育成」という3項目を柱とするアクションプランで取り組みを推進させている。

政府目標より20年先駆け、2030年のカーボンニュートラルを目指した「カーボンニュートラル×スマートキャンパス5.0宣言」の取り組みをスタート

 アクションプランの1つであるエネルギーマネジメントでは、2023年7月から広島県東広島市にあるメインキャンパスの東広島キャンパスにある70棟の建物と7か所の駐車場、駐輪場にオンサイト型PPA(電力購入契約)モデルによる太陽光パネルの発電設備を導入。合計出力は約6.5MWで全国の大学として最大級の規模となり、東広島キャンパスで使用される電力の約20%をカバーする予定となっている。これにより、東広島キャンパスにある3つの建物がZEB(Net Zero Energy Building)化も実現するという。

東広島キャンパスにある70棟の建物などに太陽光パネルを設置。合計出力は約6.5MWとなり、キャンパス内で使用される電力の約20%をカバーする予定
5月までに設置を完了させ、2024年度中に発電を開始する計画だ

 こうした取り組みに、日産とのタッグで新たに加わったのが「EVカーシェア・エネルギーマネジメント事業」。再生可能エネルギー、エネルギーマネジメント、モビリティといった新規性の高い事業を掛け合わせ、さらに学生や若者、スマートフォンアプリなどのデジタルツールを組み合わせることで、新たなエネルギーマネジメントのあり方を実証するユニークな取り組みになると越智学長は述べた。

 すでに東広島キャンパスでは日産の「リーフ」「サクラ」といったBEVが計10台、普通充電器7基、充放電器3基が導入されており、カーシェアリングなどと連携させてエネルギーマネジメントについて検証。車両の利用状況や電力の充放電のデータを取得し、学生や教職員が利用するスマホアプリと連動させて利用者の属性情報なども蓄積。広島大学で行なわれている「環境経済学」「交通工学」「建築・都市計画」「電気光学」「行動科学」といった研究でも利用され、その成果に基づく産学官連携を促進させ、基盤活用がカーボンニュートラルをけん引する社会変革に向けた実証に進展すると期待しているという。

「EVカーシェア・エネルギーマネジメント事業」の概要
東広島キャンパスでは日産の「リーフ」「サクラ」といったBEVが計10台、普通充電器7基、充放電器3基を導入
カーシェアリングでのBEV運用のデータを広島大学での研究にも利用している

「Nissan Energy Share」~EVを活用したエネルギーマネジメントサービス~

日産自動車株式会社 専務取締役員 遠藤淳一氏

 日産自動車 専務取締役員 遠藤淳一氏からは、同日発表されたニッサンエナジーシェアに関する解説が行なわれた。

 複数のBEVを導入している法人や自治体向けサービスとなるニッサンエナジーシェアは、環境経営の推進を後押しするソリューション。これまでに日産が取り組んできた実証実験で培った知見を活用して、BEVの導入から導入後の活用による充電コストの削減、BCP(事業継続計画)対策といったニーズに対応して地域貢献を果たす「脱炭素ワンストップサービス」となっている。

ニッサンエナジーシェアは電気を賢くシェアする「脱炭素ワンストップサービス」

 ニッサンエナジーシェアでは、建物における電力の消費状況とBEVのバッテリー残量や使用状況を把握して、BEVの充電タイミングを最適制御。BEVが一斉に充電することでピーク値を高め、電気料金の基本料金が増加しないよう分散充電させる「スマート充電によるピークシフト」、建物での電力需要が高まったときにBEVの走行用バッテリに蓄えた電気を建物側に戻して施設電力のピークをカット。電力使用量を抑え、電気料金の削減にも貢献する「放電マネジメントによるピークカット」、建物などに太陽光パネルが設置されている場合、太陽光発電と連携して発電量が多いときは積極的にBEVに充電。蓄えた電力を曇天時や夜間に建物で使い、太陽光の発電状況に応じた受給電を効果的に実施する「再生可能エネルギーの有効活用」といった技術的特長を備えている。

「Nissan Energy Share」サービス解説(3分28秒)

 また、BEVを導入する検討段階から相談に乗り、充電器や充放電器を活用するエネルギーマネジメントサービスの利用、各種機器の施工、運用体制、アフターサービスなどを含めたトータルでのコンサル型販売サービスをワンストップで提供する。

 遠藤専務は最後に「日産では2021年11月に、モビリティを切り拓き、その先を目指すことを誓う新たな長期ビジョン『Nissan Ambition 2030』を発表しました。このニッサンエナジーシェアで皆さまとともに切り拓いて、モビリティとその先へ進んでいきたいと思います」とコメントしている。

BEVとエネルギーマネジメントについて任せられるコンサル型販売サービスとなる

基調講演「カーボンニュートラルの実現に向けて」

衆議院議員 小泉進次郎氏

 また、同フォーラムでは環境大臣、気候変動担当大臣を務めた経歴も持つ衆議院議員 小泉進次郎氏による基調講演も行なわれた。

 小泉議員は「私はプライベートでもBEVに乗っていまして、国会で取り組んでいる政策の1つに『ライドシェアを日本に導入する』という交通に関わる政策も手がけています。BEVとライドシェアの導入を論じるときに共通する点があると感じます。とくにより多くの人に理解を得ようとしたときに共通することですが、『乗ったことがないとよさが理解されない、されにくい』ということです。そもそもライドシェアというサービスはまだ日本にありませんので、海外に行ったときに利用した経験がある人はよさを理解してくれますが、利用したことがない大半の人は『安全性はどうなのか』といった実態に基づかない批判や意見を口にして、なかなか理解を得ることが簡単ではありません。ただ、限定的にはこれから進んで行く方向になりましたので、本格的に導入していきたいと考えています」。

「BEVでも、乗ったことがない人、日常的に使ったことがない人には『充電スタンドがなかなか見つからないんじゃないか』『航続距離が短いんじゃないか』と難色を示されて理解を得ることは簡単ではありません。しかし、私自身は菅政権で環境大臣を務めたときに『2050年のカーボンニュートラル実現』という方向性が打ち出され、2035年移行は新車販売を100%電動化したものにするという大きな方向性を示した当時の閣僚の1人でした。それから今でのずっと考えているのは、もちろん、環境問題も大切なのですが、私の中ではとくに、日本が世界での競争力を失わなずにいられるかは、これまで日本の自動車業界を挙げて世界のマーケットを獲ってきて、日本の稼ぎ頭の産業でいてくれたこと。それがこれからも同じように日本に富を、次世代がより豊かになれるような産業であり続けられるかの分水嶺は、日本のBEVが世界で売れるかどうかにかかっている。だからこそ、そのシフトを政治のリーダーシップで仕掛けなければいけないという思いで当時動いていました」。

「当時はBEV推進に対して、『BEVとハイブリッドのどちらがエコか』というネガティブキャンペーンをかなりやられました。あれから歳月が経過して、今ではあんな論争をする人はほとんどいないと思いますね。今日は多くの自治体の方、大学などの関係者さんなどさまざまな人と一緒に、日本を成長させるためにも、将来に向けて競争力を失わないためにも、小さなことでもいいからやってみようという思いを共有できる時間にできればと考えています」とBEV普及に込めた思いを説明。これに関連して「1枚だけ皆さんと共有したい資料があります」とデータをまとめた資料を紹介した。

国内企業のEV導入状況と将来的な導入目標

「これは日本国内で展開している代表的な企業で、とくにBEVを積極的に導入している企業のリストです。これは各社がホームページなどで公表している情報を元にしたもので、最新情報はもう少し数字に変動があるかと思いますが、だいたいこのような感じだとご理解ください。私がこれに注目したきっかけは、アストラゼネカの取り組みを知ったことです。このデータでアストラゼネカは1116台と書かれていますが、本国からアストラゼネカの会長が来たときに取り組みについてお聞きしました。すると、1000台のハイブリッドカーをすべてBEVに変更したというので、燃料費がどれぐらい下がったのか気になってデータを出していただいたら、1台あたり4380円/月で、これが1000台で438万円/月、年間では5000万円以上が燃料費で下がったという話でした」。

「私自身もBEVに乗っていて、個人所有のクルマをBEVに切り替えていくための政策による後押しとして、私が大臣をしていたときは当時BEVの購入補助金が40万円でしたが、倍増してくれと言って80万円に変えて、自宅や仕事場などに充放電設備を設置した場合も補助金が出るようにして、個人に対する購入のインセンティブは強化しました。しかし、私1人が買っても1台、ですが、企業が動いたときにはこの資料にもあるようにケタが違います。日本国内にある多くの企業が社用車、営業車を持っていて、ここにBEVシフトのドミノ倒しを起こすことができればボリュームが一気に出るぞというのが私のシンプルな発想です」。

「そのためにはどうしたらいいか、環境問題、カーボンニュートラルはもちろん大事です。しかし、これまで私がいろいろな企業と議論して向き合ってきた経験からすると、日本でこのシフトを起こそうとするなら、必要なのはいかに経済合理性に適うかです。企業にとっては『コスト面でもむしろプラスなんだ』としっかり打ち出していく必要があります。企業の経営陣の中核に環境問題やカーボンニュートラルに対して強い思いを持っている人がいれば別かもしれませんが、導入すればコストを下げられますよといった説明はわかりやすい切り口の1つだと思います」。

「また、企業の多くは車両をリースで手に入れます。このリースに対する補助金のあり方も、最低4年はリース利用しなければ補助金が出ない、しかも4年間で分割して補助金が出るような仕組みだと、企業としては一気に変えようとはならないとも聞くので、これを1年目のところでまとめて4年分の補助金を出すような運用に変えることで、企業が次の更新時に一気にBEV化する。そのほうが株主にとっても企業にとってもいいんだ、そして環境にとってもいいんだという方向にならないかと盛んに言っているところです」と説明。今後は企業などのBEV化にも国としての支援を拡充することが、さらなるBEV普及に必要となるのではないかとも考えを示した。

パネルディスカッション「EV×エネルギーマネジメントの必要性と可能性」

直前に基調講演を行なった小泉議員など4人によるパネルディスカッションを実施

 フォーラムの最後には、国際環境経済研究所 理事 U3イノベーションズ 共同代表の竹内純子氏がモデレーターを務め、ここまでに登壇した小泉議員と越智学長に加え、日産自動車 常務執行役員 総合研究所 所長 土井三浩氏の3人がパネラーとして参加したパネルディスカッションが行なわれた。

モデレーターを務めた国際環境経済研究所 理事 U3イノベーションズ 共同代表 竹内純子氏

 このなかで、モデレーターの竹内氏からなぜ自動車メーカーがエネルギーマネジメントに取り組むことになったのか理由について質問された土井所長は、自身が初代リーフの開発に携わっていたときに、上司から「日産がどうして電気自動車を開発するのか、日産としてのコンセプトがどんなものか考えろ」と命じられて作成したという1つのイラストを後方のスクリーンに映して説明を始めた。

日産自動車株式会社 常務執行役員 総合研究所 所長 土井三浩氏

「これが、私が15年前に『なぜ変えるのか』と考えた結論です。言わずもがなですが、われわれの生活はすべてお天道さまのエネルギーで支えられています。それ以外にわれわれのエネルギー源はないわけです。それが動物や植物を育て、死んで埋まったものが地中で何億年ものサイクルでできあがるのが化石燃料なわけです。それを人類は100年ほどの期間で使い果たそうとしているという話です」。

「これが例えば植物由来のエネルギーであるバイオ燃料なら、1年のサイクルでエネルギーがまわることになり、太陽光発電なら太陽が照った、風力発電なら風が吹いた次の瞬間にはエネルギーに変わるサイクルです。その意味では、もちろんカーボンニュートラルという目的はありますが、自分たちがやっていることは、よりサイクルの短いエネルギーにシフトする、イコールでそれが再生可能という言葉だと考えて描いたのがこの絵です。もう15年経っていますが、私は今でもこれ以上の絵を見たことがないと自負しています」。

15年前に土井所長が描いた「日産がどうして電気自動車を開発するのか」を示すイラスト

「私は研究所の所属なので、リーフが発売されたころには電池の開発は私の段階では終わっています。リーフが世に出たときに『その先は何だろう』と考えたのがこの絵だったのですが、クルマは単独の個人が所有するものから社会財に変わってきていると思います。電気自動車は電気を通じて社会とつながる、小泉さんとは別の場で自動運転についても話をさせていただきましたが、自動運転も個人にとって便利な機能でありながら、将来は社会財になるだろうということで、社会に近付くという部分を考えると、電気自動車をエネルギーとして使う、電気の系統につながって、受け取るだけではなく送り返すということも、当然のやり取りとして将来考えられます」。

「それが、1台が10台、さらに100台、1000台と増えていくことで、まさに広島大学さんの取り組みのように、地域でネットワークを作ることによってより大きなエネルギー源として活躍できるようになる。そこにデジタル、AIといった技術が入って自由にエネルギーをやり取りできるようになってきた。すべてがつながりつつある『入口』の部分にいるのかなと思います。例えばそこに目を付けていただいた広島大学さんのような最先端を行くところが、それを社会で実装しようじゃないかと、次の100年、次の世界を作っていく取り組みが動き始めたと感じています」と語った。

日産がBEVを配る意義について力説する小泉議員

 また、カーボンニュートラルに向けたBEVの普及拡大に必要となるきっかけはどのようなものか問われた小泉議員は、「ここは日産さんのイベントですが、今日は高い球を日産さんに投げさせてもらいたいと思います」と土井所長を見ながら前置きして発言を開始。「1度使ってみなければわからない商品を売るために有用なのは、やっぱり配ることですね。1700ある自治体に1700台(のBEV)をとにかく配る」。

「私の地元である横須賀には横浜DeNAベイスターズの2軍拠点があって、ベイスターズがうまいなと感じたのは、ファンを増やすためにただで帽子を配ったんです。(土井所長から帽子とクルマでは金額が違いすぎると指摘されて)いや、塵も積もれば山となるで、ベイスターズは神奈川県内の全小学生に帽子を配ったんですよ。とてつもない帽子の数です。それによって世の中の景色が変わるんです。(ベイスターズのことは)何も知らなくても、通学するときにベイスターズの帽子を被ってるんです。そうすると自然にファンになっちゃうんですよ」。

「呼ぶんじゃなかったと思われるかもしれませんが、某日本の有名な経営者も、これからインターネットを普及させたいと思ったときにルーターを配ったりしたじゃありませんか。発想としては同じですよ、買わなければ利用価値がわからないなら、ただで配ったらいいんです」と土井所長に向けて大胆な提案を投げかけた。この言葉に土井所長もタジタジだったが、「とりあえず持ち帰ります」と回答している。

日産「ゼロ・エミッションフォーラム2024」カーボンニュートラル社会実現に向けた新たな取り組み(2時間13分27秒)