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台風被害の千葉県で日産「リーフ」が老人ホームの医療機器稼働に貢献

「電圧の安定したリーフの電気で精密医療機器が助けられた」

日産自動車のEV(電気自動車)「リーフ」が千葉県の大規模停電で給電をサポート

 日産自動車は2018年5月から、EV(電気自動車)を使って社会課題の解決に取り組む「日本電動化アクション」として「ブルー・スイッチ」活動をスタート。9月9日に千葉県千葉市に上陸し、強風によって千葉県を中心に関東一帯に大きな被害をもたらした台風15号の影響による大規模停電をサポートするため、EV「リーフ」計53台を千葉県内の各施設に貸し出している。

 この貸出先の1つである千葉県市原市の特別養護老人ホーム「市原園」で施設長を務める高橋博人氏から、リーフを借りることになった経緯や実際の利用状況などについてうかがってきたので紹介する。

リーフの給電サポートについて特別養護老人ホーム「市原園」(千葉県市原市)の施設長 高橋博人氏に聞いた

 市原園は社会福祉法人の「昭和村」が運営する特別養護老人ホーム。また、昭和村は同じ敷地内で介護度合いが比較的軽度な軽費老人ホームの「渓泉荘」も運営しており、現在の施設入居者は160人ほど。さらに職員40人~50人前後が昼夜のシフト別に勤務しており、常時200人ほどが施設内で生活。台風15号が上陸した9月9日も同様だったとのこと。

 市原園周辺では9月8日から強風が吹き荒れ、数か所の山林で倒木が発生。近隣の幹線道路となる県道160号が倒れた樹木によって通行不能となり、一帯は数日間にわたって陸の孤島状態になっていたという。さらに9月9日の朝方からは倒木で電線が引きちぎられて停電が発生。ただ、市川園では万が一の事態に備えて「非常用発電装置」を用意しており、これを活用して電灯や施設内のコンセント、水道代わりに利用している井戸水をくみ上げるポンプなどを稼働させることができた。

 しかし、この非常用発電装置はもともと火災発生時を想定して設置された設備で、スプリンクラーや非常誘導灯などを短時間働かせることを主眼としたもの。想定外の使われ方が1日、2日と続くうち、負荷が高くなるとオーバーヒート状態になったり黒煙を吐くようになったりと、そのまま使い続けていいものか高橋氏をはじめスタッフ一同で心配になったという。

市原園の施設屋上に設置された電源設備。左奥は変電所から届いた電気を降圧する「キュービクル式降圧受電設備」、右手前が「非常用発電装置」
非常用発電装置は想定外の使い方で大きな負荷をかけてしまったため、すでにオーバーホールを手配済み。1回のオーバーホールで100万円ほどの出費になるという
市原園では売電向けのソーラーパネルを設置しており、いざという時には自分たちでも使える構造になっているが、今回は導入後の取り扱い講習を受ける前で残念ながら利用できなかったという。今後は講習を受け、井戸水のポンプ用に使いたいとのこと

 そこで高橋氏は市原市役所に相談したところ、電力復旧まで発電機能を持つ「高圧応急電源車」を手配してもらえることとなった。だが、高圧応急電源車は多数の要望が出ており到着までどれだけかかるか予測できない状況だったため、高圧応急電源車が来るまでのサポートとして、市役所側の手配により相談翌日となる9月13日の昼ごろにリーフが市原園にやってきたという。

 リーフの活用は当初の予定になかったものだが、届いたリーフについて日産の担当者から説明を受けたところ、リーフに搭載されたバッテリーの電気を可搬型パワーコンディショナーを経由して給電すると、非常用発電装置よりも安定した電圧で利用できることが分かった。そこでリーフに蓄えられた電気を市原園で在宅酸素療法に利用している「酸素濃縮装置」、床ずれなどを予防する「エアマット」といった精密医療機器を動かすために使い、非常用発電装置にかかる負荷を分散した。

 また、精密医療機器は電圧の変動に弱く、3基が稼働している酸素濃縮装置は実際に非常用発電装置で動かすようにした直後に1基が不調になってしまった。このまま使い続けてすべて動かなくなってしまうことも不安要素となっていたが、リーフからの給電に切り替えて不安が解消され、とても助かったと高橋氏は語った。

在宅酸素療法に利用する「酸素濃縮装置」
床ずれなどを予防する「エアマット」のポンプ
精密医療機器に給電するため、リーフは入居者の居住スペースに近く、屋根があって雨で濡れないようにできる勝手口の前に置かれていたとのこと

 結果的に、高圧応急電源車は日付が9月14日に変わったころに到着。リーフが市原園で活躍したのは半日ほどのことだったが、高橋氏は入居者の健康と高価な精密医療機器を守ってくれたリーフには非常に感謝していると感想を口にした。

 日産では台風15号が上陸する1週間ほど前の8月30日に、日産グローバル本社(神奈川県横浜市)でブルー・スイッチの活動内容を紹介する説明会を開催したばかり。この説明会で登壇した日産自動車 日本事業広報渉外部 担当部長の大神希保氏は、2011年3月に発生した東日本大震災でリーフを貸し出した際、体制が整っておらず貸し出しまでにタイムラグが発生して歯がゆい思いをしたと語ったが、今回はこれまでのPR活動の成果から、まだ災害時の協定を結んでいない千葉県内の自治体とも連携してスピーディなリーフの配車を実現。今回の市原園での事例だけでなく、計53台のリーフによってブルー・スイッチで目指す「EVを使った社会貢献」が具体的な成果を挙げていると言えるだろう。

すでに市川園のリーフは返却された後だったので、リーフによる給電のイメージを8月30日の説明会で行なわれた給電デモの写真でご紹介。リーフのフロントノーズに用意されたポートにチャデモ形式のケーブルを接続。可搬型パワーコンディショナーと接続し、最大出力4.5kWを給電可能

 最後に、取材先の市原園までの移動中に目にした台風15号の被害跡と思われる光景を紹介したい。台風15号の通過からすでに2週間以上が経過しているが、千葉県を襲った強風の猛威の片鱗を感じていただけるのではないだろうか。

市川園の停電の原因になったと思われる倒木のあった杉林
杉林脇に半分ほどの高さで折れた電柱と、すぐ横に並んで立てられた真新しい電柱があった
倒木の中にはNTTのロゴマークが入ったボックスとケーブルが巻き付いたものも
倒木が当たったのか大きく破損したカーブミラー
国道沿いに設置されていた金属製の広告看板。支柱の根元からぐにゃりと折れ曲がっている
同じく国道沿いには、作業中なのかカバーを被せている鉄柱があった