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日産、新開発電動パワートレーン「X-in-1」の試作ユニット公開 バッテリEV用「3 in 1」、e-POWER用「5 in 1」の2種類

2023年3月9日 発表

新開発電動パワートレーン「X-in-1」の試作ユニットを公開

 日産自動車は3月9日、BEV(バッテリ電気自動車)とe-POWERの主要部品を共用化し、モジュール化した新開発電動パワートレーン「X-in-1」の試作ユニットを公開した。

 日産は2月27日に2030年に向けた長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の進捗について発表を行ない、電動化に向けた最新動向、テクノロジーの現地化、内製ソフトウェアによるSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウエア定義の自動車)の拡大といった項目について日産自動車 COOのアシュワニ・グプタ氏が説明を行なった。

 この発表の中で「Nissan Ambition 2030」当初の目標である「2030年度までに15車種のBEVを含む23車種の電動車を導入」を「2030年度までに19車種のBEVを含む27車種の電動車を導入」へとアップデートし、グローバルでの電動車のモデルミックスが55%になることがアナウンスされた。

 また、2020年度に全体で49機種のパワートレーン(4機種が電動パワートレーン、45機種が内燃機関)が存在したが、これを45%削減して2026年度には27機種(4機種が電動パワートレーン、23機種が内燃機関)に絞り込む。2030年度になるとさらにパワートレーンの種類を最適化して19機種(3機種が電動パワートレーン、16機種が内燃機関)まで絞り込むことが報告されている。さらに今後BEVとe-POWERの共用化を推し進め、モジュール化した新開発電動パワートレーンのX-in-1を用いてコスト削減と軽量化を行なっていくことも発表した。

 今回公開されたのはX-in-1の試作ユニットであり、2026年までに2019年比でコストを30%削減した同パワートレーンを採用することでBEVとe-POWERの競争力をさらに高めていく。

 X-in-1にはBEV用としてインバーター、モーター、ギヤ(減速機)からなる「3 in 1」、e-POWER用としてインバーター、モーター、ギヤ(減速機)に加えて発電機、ギヤ(増幅機)からなる「5 in 1」の2種類を設定する。

 X-in-1の特徴としては、パワートレーンコストを2019年比で約30%削減し、e-POWER用においては2026年までにエンジン車と同等の車両コストを目指すこと、ユニットの小型化と軽量化によって車両の走行性能や音振性能を向上させること、重希土類の使用を1%以下(重量比)まで削減した新開発モーターを採用すること、駆動部品や制御技術を共用してBEVとe-POWERのどちらも日産の電動車ならではの魅力的な運転体験を提供することが挙げられている。

BEV用「3 in 1」
e-POWER用「5 in 1」

e-POWERは2026年ごろまでにエンジン車同等のコストに

日産自動車株式会社 パワートレイン統括 専務執行役員の平井俊弘氏

 今回の発表では日産自動車 パワートレイン統括 専務執行役員の平井俊弘氏、e-POWER開発 全体統括の渋谷彰弘氏が登壇して説明を行なった。

 まず平井氏はe-POWERの生い立ちについて触れ、e-POWERはBEVから生まれた日産独自の電動化技術で、他社に先駆けてBEVの開発を進めてきた日産は早くから100%モーター駆動での運転体験の優位性を認識。より多くのユーザーにこの素晴らしい運転体験をお届けするべく研究開発を進めてきており、その過程でBEVの技術を軸に効率の良いエンジン技術を組み合わせる発想でe-POWERをリリースしたという。

 また、他ブランドの多くがエンジンをメインとして、電動モーターを補助的に組み合わせた車両の改善を図るといった多くのハイブリッドとは異なり、100%モーター駆動による運転体験の実現を元としてそこから合理的に適用拡大を図る、いわゆる逆算のアプローチでe-POWERが誕生したことを報告するとともに、2010年にリリースした初代リーフの誕生のタイミングで初代リーフに発電専用のエンジンを搭載した試作車を完成させたと述べる。

2050年のカーボンニュートラル社会を目指して
BEVとe-POWERの2本柱で電動化を推進
BEVから生まれたe-POWER
初代リーフに発電専用のエンジンを搭載した試作車。e-POWER車の祖ともいうべき存在だ

 そしてe-POWERが技術分類としてはハイブリッド車に属するものの、BEVと同様に100%モーター駆動することが従来のハイブリッドと異なるとコメントするとともに、「BEVはバッテリに充電した電力でモーターを駆動します。e-POWERは発電専用のエンジンと発電専用の高効率のエンジンとBEVよりもはるかに小さな容量のバッテリで構成されていて、燃料給油によってエネルギーを呼びます。発電所がクルマの中にあるBEVというイメージだと思います。このように、100%モーター駆動の良さを共通に持ちながら、市場に応じた多様なエネルギー源のニーズに応えることで、グローバルに電動車の魅力をお届けすることが可能になります」と説明する。

 平井氏は、これらの電動車で日産が届けたい価値は大きく2つあるとし、1つはストレスフリーの究極の運転体験を実現することで、100%電動駆動だからこそ実現できるワクワクする運転体験や、日々の運転で気づかないうちに蓄積してる潜在的なストレスをゼロにすることを目指しているという。2つ目はその電動車の魅力を多くの人に届けるために、エンジン車同等の価格を早期に実現すること。多様なニーズに対応する2つの電動パワートレーンで究極のコストを追求し、グローバルでの電動化を加速していくとした。

 また、頻繁なペダルの踏みかえや駆動系から伝わる振動、不要な音、細かなハンドル操作が必要といった蓄積すると酔いや疲れにつながる潜在的ストレスをなくす技術としてすでにe-POWERや最新の4輪制御技術「e-4ORCE」を導入しており、これらの技術を今後も進化させていくとするとともに、電動車をより多くのユーザーに届けるためのコスト追求について「従来のエンジン車は排気や燃費の規制厳格化に伴って、今後コストが上昇することが予想されます。一方、電動車は電池やe-POWERの技術革新によってコストを低減していきます。e-POWERは2026年ごろまでにエンジン車同等のコストとします。その鍵となるアプローチが共用化、モジュール化、コア技術の進化です。BEVについてもすでにお話していますように、全固体電池などのバッテリ技術の革新やクルマ全体での取り組みによってエンジン車同等を目指します」と述べた。

BEVとe-POWERでモーター、インバーターなどの主要部品と制御技術を共用
日産の電動車が届けたい価値
100%モーター駆動車ではワクワクする運転体験ができる
潜在的ストレスのゼロを目指して
究極のコストを追求
100%モーター駆動の普及について
ストレスフリー・究極の運転体験実現に向けて
エンジン車同等の価格を早期に実現することを目指す

X-in-1ではコスト削減にとどまらず、自動車に搭載する上での理想的なパッケージも追求

日産自動車株式会社 e-POWER開発 全体統括の渋谷彰弘氏

 一方、渋谷氏からはストレスフリーを目指した技術の詳細、究極のコスト実現を達成させる技術の詳細について説明が行なわれた。

 まず100%モーター駆動のアドバンテージについて、モーター搭載車ではアクセルオンするとトルク増の信号をインバーターに送り、その後モーターの電流を増加させることで素早く車両を加速させられるのに対し、エンジン車ではアクセルオン後にまずスロットルを開いて吸気量を増加させ、それに伴い燃料供給量が増加、ピストンスピードが増加し、結果として車両が加速するというそれなりの応答時間が必要になるという違いについて説明し、「ここまではエンジンとモーターの持つ原理的な違いというところですが、このモーターの持つアドバンテージをいつでも、どんなシーンでも感じていただきたいというのが、われわれが100%モーター駆動にこだわっている基本のところになります」とする。

100%モーター駆動のアドバンテージ

 また、現在ラインアップされる日産の電動車では高応答かつなめらかな加減速を実現するモーター制振制御技術(特許を多く取得)を採用していることを明かす。これはモーターに急に大トルクを与えるとドライブシャフトがねじれ、そのねじれが戻る際に振動が発生するが、その振動を抑えるための技術となる。他社の一般的なBEVではこの振動を抑えるためにモータートルクをゆっくり上げることで対処しているといい、それでは加速が鈍くなってしまう。そこで日産では最初にトルクを素早くかけ、その後トルクをいったん緩めてそこから再度トルクをかけ直すというコントロールを短時間で行なうことで振動を抑制しているという。

モーター制振制御技術について

 こうした100%モーター駆動のアドバンテージ、日産独自のモーター制振制御技術などによりペダルの踏みかえを減らす、どのようなシーンでもアクセル操作に対して遅れなく車速が追従する、高いトルク応答性によって悪路でも頻繁なペダル踏みかえをしなくて走行できる、駆動力による振動を発生させない、砂地や深雪など極端な路面環境の違いも制御が吸収して安定した走行を実現するといったことが可能になり、結果としてドライバーが気付かないストレスを低減させているとした。

100%モーター駆動のアドバンテージ、日産独自のモーター制振制御技術などによりストレスを低減

 一方、渋谷氏は今回のX-in-1について「モーター、インバーター、ギヤという要素の組み合わせをモジュール的にやろうとしています。BEVですとインバーター、モーター、ギヤ(減速機)を組み合わせて3 in 1、e-POWERですとこれに加えて発電機、ギヤ(増幅機)を組み合わせて5 in 1というモジュールを開発しました。これらのコア部品・技術を完全共有するということと合わせて、やはりコスト高の要因になるレアアースの使用量をいかに下げるかという材料技術のところに取り組んでおりまして、これらによって2019年比で30%コスト削減というのを進めてまいりたいと思います」。

「このX-in-1はコスト削減にとどまらず、自動車に搭載する上での理想的なパッケージも追求しております。インバーターの直接冷却技術、それからBEVにおいてはモーター、インバーターの一体化ということを進め、20%~25%の小型化というのを進めてきております。さらに今後X-in-1に向けてはここからモジュール化、合理化を進めながら10%小型化するということになりますが、これは単にサイズによって搭載性が良くなるというだけでなく、高剛性化することによって音振性能の改善にも寄与するということでこのような方向で進めていきたいと思います」と説明する。

エンジン車同等の価格を早期に実現する
インバーター・モーターの戦略的な共用化
X-in-1について。2019年比で30%のコスト削減を目指す
モジュール化によって実現する理想のパッケージ

 また、モーターについてはレアアースの使用量を削減する取り組みを行なっており、磁石材料の進化に加えて発熱量を減らすことにより、X-in-1では2011年比で重希土元素の使用量を1%以下に削減するほか、パワー半導体の進化を活かす高い電子実装技術によりインバーターの高出力密度化を図っていくとした。

 渋谷氏は最後に「日産は2010年にリーフ、2016年にノートe-POWERを発売して以来、BEVとe-POWER2つの電動パワートレーンを軸として共に進化させるということでやってまいりましたが、これからも多くの車種をリリースしてまいりたいと思います。今後もお客さまのニーズとか、各市場にあったソリューションということが大事だと思いますので、そのような形で電動化を進めながらカーボンニュートラルの早期実現を目指したいと思います」と述べプレゼンテーションを締めくくっている。

材料の進化によるレアアース使用量削減
部品・工法によるインバーターの高出力密度化
究極のコストを追求していく