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DSオートモビル、国内全モデルにChatGPTを搭載 「オッケー、アイリス」で起動する操作性を試してみた

2024年3月22日 発表

DS 7の車内。ChatGPTは音声で操作する

 Stellantisジャパンは3月22日、国内で販売するDSオートモビル・ブランドの全モデルにChatGPTの機能を搭載すると発表した。全国のDSオートモビル正規販売店で販売する全車両に標準装備する。Stellantisジャパンでは「運転しながらChatGPTを使用できる国内で最初の自動車ブランド」だとしている。

既存の「DS IRIS システム」にChatGPT 3.5を統合して提供

 シトロエンから独立した「DS」ブランドへのChatGPTの搭載はすでに予定が発表されていたが、今回、正式に国内でDSオートモビルが提供するコネクテッドサービスにChatGPT 3.5を統合して提供することが発表され、提供が開始された。

DSは2014年に誕生したパリ発の自動車ブランド

 具体的にはSoundHoundが開発した音声認識プラットフォームと連携して提供するため、これまでのインフォテインメント「DS IRIS システム」でできることに加えて、ChatGPTからの反応を提供することになる。

 対象はDSオートモビルの国内全モデル(DS 3、DS 4、DS 7、DS 9)で、2024年3月以降の新規登録車両。以前の車両については当面利用できないが、今後、利用できるように準備をしていて別途案内予定だという。

 利用料金については利用申込後3年間は無償提供する。3年経過後は有償の予定。対応言語は現在のところ日本語を含む合計13の言語に対応する。日本語以外はヨーロッパ主要言語となる。

国内のDSのラインアップ
DSオートビルにおけるChatGPTのサービス概要

PCで使うChatGPTのようにさまざまな質問に答えてくれる

 搭載するChatGPTとはOpenAIが開発・提供する対話型の生成AI。膨大なデータを学習して自然な文章の作成や要約を行なって返答を返してくれる。PCのブラウザやスマートフォン・タブレットのアプリ、今回のようなChatGPTを利用するサービスなどから利用できる。

 ChatGPT機能を搭載したDS車でできることは、通常、生成AIとのやりとりで行なうような質問を投げかけて返答を得ること。キーボード入力と画面表示ではなく、質問、返答ともに音声でのやりとりとなる。

ChatGPTで対話型生成AI音声アシスタントを搭載

 一般的に生成AIの返答には間違いが含まれていることもあるため、利用するユーザーがよく認識した上で利用する必要がある。その点については、利用開始時に提示される利用規約にもその点が明記されている。

現在提供しているコネクテッドサービス

 実際にDS車でChatGPTを利用する方法は、DS IRIS システムの操作と同じウェイクワードとして「OK、IRIS(アイリス)」と声を発するか、ステアリングにあるボタンを押すことで音声の入力待ちとなる。音声で指示や質問をすると、ChatGPTからの返答が音声で再生される。

ステアリングホイールのボタンを押しても起動する

 これまでもDS IRIS システムとしてエアコンの温度設定や電話の発着信、天気予報の表示などの音声操作はできていたが、既存の音声操作以外の問いかけに対しては自動的に振り分けられて、ChatGPTがさまざまな返答をしていく。

 例えばクルマの運転に関しては目的地についてより深い質問をしたり、周辺のおすすめ観光地を聞いたりといったことが可能になる。ただし、現在のところカーナビゲーションシステムとの連携はとれておらず、おすすめのスポットをChatGPTが紹介した場合でも、連携してカーナビの目的地として設定することはできない。

 また、質問は目的地関係にとどまらない。小説のあらすじを訪ねることや、簡単な人生相談など、あらゆることについてChatGPTからの返答として音声で案内してくれる。ただし、リアルタイムな情報については、天気予報はもともとDS IRIS システムの機能として持っていたが、前日のスポーツの結果といった情報はChatGPTが対応しないため返答できない。

クルマで使うためにChatGPTを最適化

 一方で、自動車の車内での利用ということもあり、回答にはさまざまなチューニングをSoundHoundが行なっている。ChatGPTの回答は比較的長文になることもあるが、SoundHoundの技術で短く要約して返答することや、できるだけ不適切な回答がされないようにしている。また、医療分野など、回答を制限しているものもある。

ChatGPT搭載について説明するStellantisジャパン株式会社 プロダクトマーケティング部 プロダクトマネージャーDSの田村明広氏

 クルマそのものの操作もしないようになっている。例えばエンジンをかけて、といった操作はもちろんできず、ライトやワイパーなどの操作もできない。前述のカーナビとの連携についても現在はできず、今後、どのようにしていくかは検討しているという。

 また、ChatGPTの機能提供はSoundHoundのサーバーを通して行なっているため、今後、もし、日本語に特化した生成AIの登場などがあった場合に、生成AIの連携先の変更や追加などもありえるという。

 現時点ではChatGPTが有利であり、最新のバージョン4.0ではなく3.5を選択した理由も、現時点ではコストと機能のバランスを考慮してのことだという。

ChatGPTの連携について説明するSoundHoundのソリューションズ エンジニアリング ダイレクター アン・セヨール氏
SoundHoundのAIを採用するブランド

 なお、Stellantisジャパンでは、今回のChatGPT搭載にあたり、国土交通省とも話をしているとのことで、クルマの構造に変更がなく走行操作にも関わっていないため特に意見はなかったという。ChatGPTの搭載は現在のところ雑談のできるカーオーディオというような位置づけになるそうだ。

DS 7の車内でChatGPTを使ってみた

 実際にDS車の車内でChatGPTを使ってみた。今回使ったのはDS 7 E-TENSE 4×4で、パワートレーンは1.6リッターガソリンターボエンジンと電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車。十分な充電容量があったので、エンジンは回ることなくChatGPTを試すことができた。

音声操作中は画面に表示が出るが、文字などが出るわけでもないので、画面を見る必要はない

 まず、エンジンのスイッチをONにしてから、指示を出すときは「OK、アイリス」と発声するか、ステアリングホイールにあるボタンを押すと起動する。ただし携帯電話の電波が届かないとエラーになるか、ChatGPTのようにネット接続が前提のコンテンツは動きが制限される。

「OK、アイリス」またはステアリングホイールのボタンを押すと、画面に横長の表示が出て音声の強弱に合わせて変化する

 今回、試乗は携帯電話の電波が届かない地下駐車場からのスタートとなったため、クルマの電源をONにしていてもすぐには使えず、携帯電話の4Gの電波が届きやすい屋外に出るまでChatGPTの利用はできなかった。

 DS IRIS システム自体は一部オフラインでも動作するものもあるため、電波状況がわるいときでも「OK、アイリス」とウェイクワードを発しても指示は可能となるが、圏外のときはChatGPTをはじめネットワーク側に依存するものは返答されない。電波が届く地上に出てしばらくするとChatGPTの利用が可能になる。

 ChatGPTの利用は走行中でも可能。音声操作については画面にも反応を示す表示は出るものの、発した音声を表示することもなく、返答内容は画面表示もされない。画面を凝視してわき見運転をすることがないようになっている。

Car Watchのサイトについても答えてくれた
お台場がどんなところか聞き、目的を言うとおすすめのスポットを返答

 また、ChatGPTの返答は会話形式になっているため、直前に聞いた内容に関連して回答を出すようになってはいる。ただし、セキュリティやプライバシーの問題から、生成AIがドライバーの好みやふるまいを学習させる設定にはなっていないという。

 例えば、何回か質問したあと、その内容や傾向を、しばらく時間がたったあとの質問に反映させるようなことはない。クルマでの生成AIの会話というとナイトライダーの「ナイト2000」のAIのようなものを想像するが、AIがドライバーの好みや性格を知って気遣うような関係性の発展はないという。

 便利かそうでないかは、運転中に音声操作に慣れるとカーラジオにかわるものとして、車内の時間潰しにも便利に使えそうだ。初めての場所にドライブに行くとき、目的地が名所旧跡なら説明させることもでき、関連情報を質問していけば、次々と調べて喋らせることも可能だ。ただし、SoundHoundの技術で回答がコンパクトにまとめられていることは便利だが、長い説明が必要となる回答の場合は尻切れ感が若干あるように感じた。

 いずれにしても、音声でChatGPTを自在に操るためにはChatGPTの癖などを踏まえた上で命令する「プロンプト」になじむ必要があるが、慣れれば運転中の有能な相棒でありエンタテインメントとして活躍してくれそうだ。