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クボタ、水素燃料電池トラクタの新たな試作機を公開

2024年3月28日 発表

クボタが公開した水素燃料電池トラクタ(FCトラクタ)の新たな試作機

 クボタは3月28、水素燃料電池トラクタ(FCトラクタ)の新たな試作機を公開した。「水稲や畑作の本格農作業が可能であり、パワフルかつコンパクトでゼロエミッションを実現するトラクタ」をコンセプトに開発しており、試作機としては2号機となる。

 クボタ 取締役専務執行役員 研究開発本部長の木村浩人氏は「FCトラクタは2021年から開発を開始し、2023年夏に試作機の1号機を開発したが、補助バッテリが大きく冷却性にも課題があり、実作業に適用できる状況ではなかったため、改善を進めてきた。今回の試作機では、農建機向けの水素燃料電池システムの研究促進、社会実装に向けた課題の抽出が狙いであり、日本だけでなく、世界を目指したFCトラクタになる。クボタの特徴であるコンパクトさを活かしながら、ゼロエミッションを実現したい」と述べた。

クボタ 取締役専務執行役員 研究開発本部長の木村浩人氏

 実用化の時期については「不確定な要素がある」として、明確には言及しなかったが、「今回の試作機を用いて実証試験を行ない、2、3年で技術レベルを高めたい。だが、法規制やインフラの問題が市場投入の際には大きな障壁になると考えている。これらの課題が解決し、市場投入できる状況になれば、即座に投入することを基本姿勢として、技術開発を進めている」と述べた。無人化および有人化の両面から実用化を検討する考えも示した。

 想定している市場としては、水素を供給するインフラが整い、カーボンニュートラルの意識が高い先進国が中心になるとしている。

 今回開発した試作機の目標性能は、出力は44.1kW(60馬力)であり、エンジン機と同等の作業性を持たせ、耕うんや運搬、施肥散布作業などに活用できるようにする。作業時間は平均負荷率60%で4時間となっており、現行のエンジン機の約半分だが、「午前中いっぱいは使える水準」とした。また、エンジン機に比べて3分の1の極低騒音性を実現。夜間作業や市街地での作業も行ないやすい。エンジン振動がなく居住性が高いことも特徴だ。

 さらに、エンジン機では300時間稼働時には11.3tのCO2が排出されるのに対して、FCトラクタではCO2排出量はゼロになり、排出物は水だけとなる。環境にも配慮したトラクタを実現できる。なお、重量エネルギー密度は、バッテリ機の3倍となるが、エンジン機の6分の1程度になるという。

 また、試作機では、シャーシやトランスミッション部分などの基本プラットフォームは既存のトラクタを使用。横幅やホイールベースに変更はないが、天井部分に大型タンクを搭載しており、燃料電池を搭載するために前方部分が伸びているという。なお、大型タンクにはトヨタのMIRAI向けの水素タンクを3本搭載し、70MPaの水素を使用。約10分で満タンにでき、満タンでも7.8kgと軽量であるため、天井部に配置できる。「FCトラクタ向けにプラットフォームを見直せば、さらに小型化できるだろう」とも述べた。

 一方、実用化に向けたいくつかの課題も示した。

 技術的な課題としては、FCシステム技術の確立とともに、車体設計についての大幅な見直しや、タンク容量や形状、機器レイアウトの見直しが必要だとする。さらに、水素の安全性や信頼性の向上も重要な要素だと指摘した。

「現時点ではエンジン部分を水素燃料電池に置き換えているため、最適な設計にはなっていない。電動に適した車体プラットフォームの検討を開始している。別途研究を進めている自律型農機の技術を活用することでキャビンレスが実現でき、キャビン部分にタンクを設置することも想定できるため、スマートなデザインになる」と述べた。

 また、法規制面の課題も多いとする。水素燃料電池に関しては、高圧ガス保安法や一般高圧ガス保安規則、道路車両運送法のほか、水素貯蔵については建築基準法の影響も受けることになる。「現在の制度では水素タンクの取り外しができず、それを持ち運んで水素タンクに注入できないといった課題もある」と指摘した。

 さらに、インフラ面の課題としては、地方都市への水素ステーションの設置や、農作業現場への配送および供給手段についても検討する必要があるという。

「技術、法規制、インフラの観点における課題解決や、まだ気がついていない課題解決のためには、社内研究開発の加速や、社外パートナーとの連携が必要である。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともに、燃料電池トラクタの実用化に向けた実証実験を2024年春から国内数か所で実施し、この成果も実用化に反映したい」と述べた。

 クボタでは、研究開発トレンドとして、自動運転技術やデータドリブンによる「スマート」、電動化や資源循環、エネルギー回収などの「サーキュラ」、将来の農業の形を前提としたスマートビレッジや新コンセプト製品の開発、外部連携による「イノベーション」に取り組み、それぞれの頭文字をとった「SCI」をテーマに掲げている。

 とくに、「サーキュラ」では、機械・水・環境の各分野における研究開発を進行させており、短期的にはバッテリ式農建機の開発に注力しているほか、液中膜を活用した下水や生活排水の再生、水田からのメタン発生抑制、都市ごみからの有価金属回収などに取り組んでいる。また、中長期的には、FC式農建機やバッテリ式農建機、排ガスCO2分離回収システム搭載農機、農業残渣からのバイオ炭製造、CO2吸着材などの研究に着手。「農建機のカーボンニュートラル化は重要なテーマになっている」と位置づけている。

 農建機の脱炭素化では、2023年にバッテリ電動領域において、小型トラクタを欧州市場向けに展開。2024年には建機の市場投入を予定している。また、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドエンジンの開発や、水素燃料電池によるFC電動、水素だけで稼働させる水素エンジン(HICE)などを開発。そのほか、バイオ燃料や合成燃料に対応したエンジンの開発も行なっている。今回発表したFCトラクタは、水素燃料電池を搭載したものとなる。

「BEV(バッテリEV)は、小中型機種向きであり、自動車向け車載技術が進化している領域である。だが、農建機に搭載するにはまだ開発要素が残っている。FCEV(水素燃料電池)は、中大型機種向きで、負荷が低い領域に適している。燃料やバッテリ、水素の重量に対して、出力する重量エネルギー密度が高いという特徴がある。また、高効率で、信頼性、快適性が高く、自動運転技術との相性も高い。先進国から普及していくことになるだろう。一方で、HICE (水素エンジン)は、中大型機種向きで、高出力を活かし、負荷率が高い過酷な環境に適応できるのが特徴となり、コスト面でのメリットもある。それぞれの技術の特徴を活かして製品化し、市場投入していくことになる」と述べた。