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シャープとフォックスコン、基調講演でEV戦略を語るとともに「シャープのEVをできる限り早く市場に投入したい」
2024年9月18日 13:19
- 2024年9月17日~18日 開催
シャープが開催した技術展示イベント「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」の初日となる9月17日、「EVのグローバル動向とシャープのEV取り組み方針」と題した基調講演が行なわれ、シャープ 専務執行役員 CTO兼ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏と、シャープの親会社である鴻海精密工業(Foxconn:フォックスコン) EV事業CSO(最高戦略責任者)の関潤氏による基調講演が開かれた。講演の後半では、「EVの新たな価値創造」と題した2人よるクロストークも行なわれた。
関氏は、日産自動車の副COO(最高執行責任者)やニデック(日本電産)の社長を務めたのち、2023年2月からFoxconnグループのEV事業に参画している。シャープはFoxconnのEVオープンプラットフォームを活用してEV事業に参入することを発表しており、同氏は「シャープのEV戦略においても重要な役割を果たすことになる」と語る。
基調講演では、最初にシャープの種谷CTOが同社のEV戦略について説明。「なぜシャープがいまEVに取り組むのか、という質問をよく受ける。今回、EVに取り組む背景にあるのは、FoxconnグループがEVプラットフォームを確立し、台湾では相当な数のクルマを販売し、すでに多くのEVが街中で走っていること、シャープのテクノロジーがEVに新たな価値を付加できると考えたことにある」とし、「LDK+は、リビング、ダイニング、キッチンという自宅の部屋に、もう一部屋加えるという意味を持たせている。EVは人を移動させるツールであり、荷物を運ぶツールであるが、家で充電しているときは明日の稼働に備えて準備をしているに過ぎない。この時間、この空間を有効に利用できる可能性があるのではないかという発想から生まれたEVである。自動運転などが進展すると、EVの中でどう過ごすのか、どうリラックスするのかといったことがこれからの価値になる。移動すること以外での便利機器としての役割を果たすのがLDK+」と位置付けた。生活をするための便利機器である家電を提供してきたシャープだからこそ、移動すること以外でも便利機能を提供でき、それが「家電EV」を実現するというわけだ。
だが、「走りを犠牲にしてはいない」とも述べ、「走る安全、走るための機能、快適性を担保したFoxconnのEVプラットフォームを活用することでクルマの性能が担保できる。開発費を削減することができる。そこにシャープが空間デザインなどを行ない、価値に対する投資を行なうことができ、新たなEVを世の中に提供することが可能になる。スピーディな自動車づくりが実現できる」などと語った。
また、住空間とのつながり、人とのつながり、エネルギーとのつながりの「3つのつながり」が特徴であること、データを活用したりAIを活用したりすることで、新たなEVが実現できることを強調。さらに、B2CだけでなくB2Bの領域にも活用できる可能性も指摘し、「LDK+としての用途だけでなく、オフィス+やワークプレイス+といった用途の広がりにもつなげたい」と将来の方向性を示した。「シャープのEVをできる限り早く市場に投入したい」との姿勢も明らかにした。
続いて登壇した鴻海精密工業グループの関EV事業CSOは、「日産自動車で33年間務めたあと、日本電産での『高地トレーニング』を経てFoxconnに入った。心肺機能を相当あげている。これからの活躍に期待して欲しい」と会場を笑わせたあと、「Foxconnは、50年前にコネクタの企業としてスタートした。狐のようにすばしっこく動くコネクタ製造企業になりたいという思いから、Foxconnと命名した。スマホやゲーム機、サーバーなどの委託生産が中心であり、売上高は約30兆円(1980億ドル)、社員数は約100万人の規模を誇る。この規模を維持しているのは、委託を通じて市場から信用を得ている証である。だが、コロナ禍以降、ICTの委託生産の成長には限界があると判断した」と同社の現状について説明。「新たな5年間の中期経営計画で打ち出したのが3+3である。EV、デジタルヘルス、ロボティクスという3つの新たな事業領域と、それを支える新たな3つの技術領域としてAI、半導体、5G/6Gに取り組んでいる。中でも最も強化しているのがEV」とも述べた。
2023年12月から量産を開始したFoxconn初の乗用車EV「Model C」は、トヨタ RAV4や日産 エクストレイルと同じC-SUVのカテゴリーに含まれる車種だが、前後に172kWのモーターを搭載。「トルク換算すると4.5リッターV8エンジンと同じであり、それを前後に搭載しているようなもの。2.2tの車重があっても0-100km/hは3.8秒で走る」と胸を張った。現在は台湾でのみ販売しているが、2025年から米国市場への投入が決定しているという。
また、2024年末から量産を開始する「Model B」はピニンファリーナがデザイン。さらに2022年からはEVバスの「Model T」を発売しており、今後、台湾以外での展開も開始することを明らかにした。加えて10月8日から開始する「Hon Hai Tech Day(HHTD)」では、EVの新たなモデルとして「Model D」「Model U」「Model A」を展示する予定も公表した。
関EV事業CSOによると、EV市場においては自動車メーカー自らが開発、生産するのでなく、第三者が開発した低廉なEVによってビジネスを行ないたいという企業が増えており、そこに対してFoxconnは自ら開発したEVを提供し、委託製造を行なうCDMS(Contracted Design & Manufacturing Service)事業を展開するという。
また、コンポーネントやモジュールの販売、プラットフォームの提供、アフターサービスに関する体制を揃えており、EVに関して幅広い範囲で事業を展開していくことになるという。「自社製のバッテリ、モーターなどはまだ競争力が弱い。だが、競争力が高いものに仕上げていく自信はある。必要であればM&Aも行なっていく」とも語った。
だが、関EV事業CSOは「EVは高い、不便、儲からないという3つの痛みを抱えた事業である」と、厳しい見方をする。「世界人口のうち、新車を購入できる層は20億人であり、しかも、より高価なEVの新車を購入できる層は2億人しかいない。EVはバッテリそのものの価格が高いのが原因である。100kWのバッテリを作るのに2万ドルかかっており、円安の中ではバッテリだけで350万円もかかっていた。しかも、バッテリの大容量化の動きもある。さらにバッテリの耐久性には課題があり、ガソリン車よりも残価が下がりやすいという課題もある」とする。
また、「急速充電器が不足しているという課題もEVの普及には足かせとなっている。充電時間が長いことや、集合住宅や立体駐車場にクルマを置いている人は充電しにくいという課題もある。個人的にEVが抱える最大の課題は充電時間が長いという点だ。400Vで充電すると80%充電するのに28分かかる。ガソリン車に置き換えると60L入るのに48Lしか入らず、しかもそのために30分近くその場所にいなくてはならない。新たに登場している800Vであれば15分で充電できるが、それでも高速道路の充電設備の前で先に2台待っていたら、自分の充電が完了するまでに45分かかる」と指摘。そして「価格が高く、残価が少なく、不便であるからEVは儲からない」と繰り返して強調した。
現在、Foxconnで開発しているソリッドステートバッテリでは、90%まで充電するのに5分で完了し、充電時間の短縮を突き詰めていけば98%までの充電を3~5分で完了させられるという。「このレベルになるとガソリンスタンド並みの時間ですむ。急速充電に時間がかかるために誰も儲からなかったものが、お客さまが入るようになると第三者による事業投資が可能になる。いまの充電設備の多くは国やEVメーカーが投資して設置しているが、急速充電事業が成り立つ環境が整えば、充電設備が一気に増える。2027年から2030年にはこうした時代がやってくるだろう。だが、それまでは混沌とした時代が続くことになる。混沌とした時代を超えると、『昔はハイブリッドが良いといっていた時代があったよね』ということになる。そう言える時代が必ずやってくる。信用してほしい」と語気を強めた。
また、シャープのEVへの期待に対しては「『わぁぁ』と思える技術」であるとし、「シャープはシャープペンシルを作り出した。写メールを作り出したのもシャープである。液晶テレビの大画面化もリードした。そして、ディスプレイに2mmのカメラを埋め込むという技術も新たに開発している。これも『わぁぁ』といえる技術である」と述べた。
また、シャープのEV事業の着眼点にも触れ、「自家用車の平均稼働率は5%。つまり95%が止まっている。LDK+のコンセプトはここを捉えたものである。発想から『わぁぁ』に高める技術を持っているのがシャープである」と評価した。
さらに、「自動車メーカーは1つのクルマを作るのに長い時間をかけ、1000億円規模の投資をしている。年間10万台売らないとペイしない。だが、Model Cは2年弱の開発期間で市場投入でき、開発費用も少ない。Foxconnのプラットフォームを利用すれば、シャーシに対する投資が少なくて済み、その上の部分に投資ができる。シャープは従来の自動車メーカーの作り方に捉われずに開発費を圧縮し、質を高め、出荷台数が少なくてもペイする仕組みを採用してもらいたい」と期待した。
講演の最後ではSDV(Software Defined Vehicle)についても触れた。「SDVは、ひとことでいえばスマホと同じ」と前置きし、「最新のクルマには約4億行のコードが入っている。これらのすべてがアップデートできる。5年後に購入したクルマとも差が出ないようにできる。また、クルマの寿命を長くすることにも貢献する。これまでのクルマはハードウェアに重点が置かれ、新たなクルマを作るには新たな部品がたくさん必要になっていた。しかし、SDVではハードウェアにはほとんど変化がない。これが受け入れられる時代が到来している。iPhone10とiPhone16の外観はあまり変化がない。テスラのModel Sは2012年に登場したが、現在のModel Sと外観は一緒である。それでも古さを感じさせず、ソフトウェアは進化している。また、エンジンよりもモーターの方が劣化が遅く、信頼性が高まるというメリットもある。これからはロングライフになるだろう。SDV EVは残価が下がりにくい。ビジネスモデルが変わってくる」と予測した。
【お詫びと訂正】記事初出時のFoxconnの表記と一部表現に誤りがありました、お詫びして訂正させていただきます。