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トヨタ、ウーブンシティのスマート信号機は交通事故ゼロの起点となるのか? 各種センサー盛りだくさんのスマートポール

ウーブンシティに設置されている信号機。信号機に詳しい方ならいろいろ興味深い点が多い。富士山とともに

「永遠に未完成の街」であり、「未来のモビリティのテストコース」であるウーブンシティ

 ウーブン・バイ・トヨタがトヨタ自動車とともに構築している未来のモビリティのテストコースであるウーブンシティ(Toyota Woven City)。Phase1と呼ばれる一部公開が行なわれたが、そこで目についたのは特殊な機構を持った信号機になる。

 ウーブンシティは、2020年に米国ネバダ州ラスベガスで開催された世界最大のテックイベント「CES2020」のトヨタ自動車プレスカンファレンスで豊田章男社長(当時)が構想を発表。そのきっかけとなったのは、ウーブンシティのある裾野市の東富士工場を閉じる際に行なった豊田社長と従業員との対話で、従業員の質問に答える形でウーブンシティの原型である「コネクティッド・シティ」構想を語っている。

ウーブン・バイ・トヨタ株式会社 隈部肇CEO(中)、同 近健太CFO(左)、豊田大輔SVP(右)

 2025年の「CES2025」では、会長となった豊田章男氏が5年ぶりにCESのプレスカンファレンスに登壇し、ウーブンシティの詳細をプレゼンテーション。モビリティのテストコースとして、ウーブンシティの位置づけを語っている。

 今回の竣工式のあいさつでは、「ウーブンシティは進化し続ける、『永遠に未完成の街』であり、『未来のモビリティのテストコース』です」と語っており、よりウーブンシティの役割が明確になったように見える。

豊田章男会長がCES2025で示したウーブンシティの役割

 未来のモビリティのテストコースという言葉にはさまざまな意味が込められており、トヨタはウーブンシティを通じて2018年のCESで豊田章男氏が宣言したモビリティカンパニーへのモデルチェンジを図っていく。

 明確には語られていないが、その目標の1つは交通事故ゼロを目指すことにあるといっても間違いないだろう。

 豊田章男氏は、CES2018で自動運転車「eパレット」を発表。CES2020ではeパレットが走る街としてウーブンシティを発表していた。

 また、2024年10月31日にトヨタ自動車 代表取締役社長の佐藤恒治氏と日本電信電話 代表取締役社長の島田明氏が共同で発表した「交通事故ゼロ社会」に向けたモビリティAI基盤構築では、ヒト・クルマ(モビリティ)・インフラによる「三位一体」のインフラ協調型の取り組みが必要だとしており、インフラの実験場としてウーブンシティが位置付けられているのは間違いないだろう。

交通事故ゼロの起点となる、ウーブンシティの特殊な信号機 スマートポールに各種センサー

ウーブンシティの信号表示器。位置や角度が可変できるようになっている。よく見ると信号灯まわりに穴があいており、フィルターなどが取り付けられるのだろうか?

 コネクテッドシティとして当初構想され、自動運転車も走る街であり、当然ながら交通事故ゼロを目指しているであろうウーブンシティには、特殊な信号機を各所で見ることができる。

 ウーブンシティには地上の道路のほかに、自動運転車のテストもしやすいような地下の道路もあるが、地上の道路では歩行者やニューモビリティとの混合交通を行なうため、その導線がクロスするところには信号機を設置してある。

こちらは歩行者用の信号機。カメラやスピーカーがスマートポールに取り付けられている

 ある意味当たり前の風景ではあるのだが、その信号機は各種のセンサーや信号機を取り付け可能なスマートポールに取り付けられており、スマートポールには電源やエッジコンピューティングを行なう演算装置(つまりコンピュータですね)、演算結果を伝送するネットワークが接続されている。

 このスマートポールは4本のスライドレールを束ねたポールの用な構造となっており、そこに三協高分子や日本信号製の各種信号機を設置。スライドレール構造となっているため、信号機の高さは自由に設定でき、歩行者から見やすい位置、自動運転車から認識しやすい位置などを確認していくとのことだ。信号機の表示器もフレキシブルな構造となっており、位置や道路に対する迎え角などを調整できるようになっていた。

スマートポールに取り付けられたカメラ(下向きの全周レンズを持つデバイス)。2個が組み合わされているように見える。手前のきのこの山のようなものがGNSSアンテナ。右下の四角い白い箱がGPSSアンテナ
スマートポール基部には電源ユニットや通信線が用意されていた。上のブロックは電源系と思われ、USB-AやUSB-C PD、AC。下は通信系で、RJ-45と3PのAC。この中でエッジコンピューティングをすると説明しており、RJ-45はスイッチングハブではなく、パケット監視のためのダムハブにつながっているのかもしれない。3P ACとなっているのは、ノイズ対策のためだろうか?
こちらもスマートポールに取り付けられていたユニット。形状からは下向きに電波を吹くか受信するように思われる。ビームフォーミングを伴うMassive MIMO対応5Gアンテナにも見えるのだが……。確認し忘れました
一般的なセルラー系のアンテナ群は、左の建物の屋上のような場所に設置してあるのを見受けられた。密度はとても高かったような気がする

 また、スマートポールには360度撮影可能なカメラが2機もしくは3機接続され、おそらく死角をなくすような形でサラウンド撮影を実施。そのほかシスコ製のWi-Fiユニットがついているものがあるほか、GPS受信用アンテナや、GNSS受信用アンテナまで装備されていた。GNSSアンテナまで装備されているというのは珍しく、QZSS(準天頂衛星みちびき、Quasi Zenith Satellite System)やRTK(Real Time Kinematic)などを使ったセンチメートル単位の高精度測位を行なっているのだろう。

 そこまで正確な位置を信号機が持つのは、どう考えても自動運転実験に向けての位置決めであり、デジタルツインで作られているバーチャルなウーブンシティとの整合性を撮っていくものと思われる。

 そのほか、スタッフによる説明ではカメラで撮影した映像は、スマートポールに内蔵された演算装置で個人情報などは削除されてデータ化されているとのこと。サーバーに個人情報データを送らないようにするため、エッジコンピューティングでデータのクレンジングとダウンサイズを行なっていると語っていた。

ウーブンシティの道路ではニューモビリティも受け入れる。人、クルマ、そしてニューモビリティの理想的な共存を研究していくようだ

 ある意味、このウーブンシティは達成目標を明確にしていないため、「これでトヨタはどうやって稼ぐのか?」「投資効率は?」のような質問も出ることが多い。しかしながら、ウーブンシティのインフラを見ていくと「交通事故ゼロを達成していく」という強烈な意思を感じる部分がある。

 ウーブン・バイ・トヨタの隈部肇CEOは、この信号機の点灯周期を可変することで人の動きの変化をデータとして収集していくとも語っており、人とクルマの結節点となる信号機を重視している姿勢を見せている。

 2024年の交通事故死者数は2663人、1日あたり7人以上が死亡している形であり、交通事故は29万792件と1日あたり794件以上発生している計算になる。高い水準にあるだけに、改善効果は劇的になるかもしれない。

 トヨタはNTTとともに交通事故ゼロという高い目標に挑んでいくが、ウーブンシティはその最前線になっていくものと思われる。信号機などインフラの革新に取り組んでいくウーブンシティが交通事故低減に影響力を発揮するならば、それは投資効率などを超えた価値を社会に提供していくのではないだろうか? ウーブンシティの挑戦と社会へのフィードバックに強く期待したい。