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ダイハツ車ラインアップ取材会で聞いた「アトレーデッキバン」「タントスローパー」など商用車・特装車・福祉車に込められたこだわり

ダイハツ車ラインアップ取材会レポート第2弾。あまり触れる機会がない商用車・特装車・福祉車を紹介する

 ダイハツは自社のクルマ作りについて理解を深めてほしいという想いから、軽自動車を中心としたラインアップをそろえた「ダイハツ車ラインアップ取材会」を開催した。

 ダイハツ車ラインアップ取材会はなかなか面白い試みで、普段見ることができない特装車や福祉車両の取材もできたので、本稿では開発者の方に聞いた商用・福祉車・特装車の装備や作り込みのポイントを紹介していく。

ダイハツ車ラインアップ取材会には11車種が用意された

ダイハツの商用車、特装車について

 2023年の自動車国内販売台数は約477万台。そのうち約174万台、全体の約37%を軽自動車が占めていて、さらにその中でダイハツのシェアは約3割の57万台となっている。

 現状のタイプ別の推移については、乗用車の約半数をスーパーハイト系が占めているが、近年ではSUVタイプの人気も高まり販売台数を伸ばしている。そして軽トラック、軽バンといった商用車は全体の約2割という安定した市場となっているという。

 ダイハツの軽商用車は「アトレー」「ハイゼットカーゴ」「ハイゼットトラック」があり、アトレーは商用車ながら乗用車的に乗れる装備を持ったモデル。ハイゼットカーゴはアトレーから装備を簡素化し、使いやすい荷室空間作りに特化した働くクルマとなっている。そしてハイゼットトラックは「トラック」というジャンルから唯一、堅牢なラダーフレーム(前モデルからのキャリーオーバー)を採用するクルマとなっている。

 そして、これらをベースに業種ごとに機能を特化させたのが軽特装車。種類はダンプシリーズ、リフトシリーズ、保冷・冷凍シリーズ、配送シリーズがあり、ダンプシリーズであれば多目的ダンプ、ローダンプ、清掃ダンプ、土砂ダンプ、電動モーター式ダンプがある。

 リフトシリーズには垂直式テールリフト、コンパクトテールリフトがあり、保冷・冷凍シリーズでは荷物の温度管理に合わせて数タイプの冷却能力や保冷力の設定がある。配送シリーズはハイゼットカーゴの2シーター、ハイゼットトラックベースのパネルバン、そして一風変わったスタイルを持つデッキバンという内容になっている。

 なお、アトレー/ハイゼットシリーズは2名乗車での荷室全長がダイハツ商用ワンボックスカーの「グランマックス」より長くなっていることから(グランマックスが1760mm/2名乗車時、ハイゼットが1965mm/2名乗車時)、軽キャンピングカーやトランスポーターのベース車としても選ばれる傾向だ。

 このようにコンパクトな軽自動車でありながら長いフロア長を実現しているアトレー/ハイゼットだが、その分、運転席と助手席が車体の前方に寄った作りとなっている。そのためタイヤハウスの出っ張りが足下にあることからアクセルペダルの位置がややセンター寄りになっている。ここは慣れないとペダル位置に違和感を覚えるかもしれない部分だ。

 対してブレーキペダルはというと、ダイハツではブレーキペダルの位置をシートのセンターの延長線上になるようセットしているので、ブレーキペダルは自然な感じで操作ができる。

 また、ステアリングとシートの位置関係だが、ここもステアリングのセンターとシートのセンターは同一線上にあるように設定されている。

ハイゼットカーゴ。グレードはデラックス。ボディカラーはトニコオレンジ
スライドドア開口部の高さは1210mm。スライドドア開口部の幅は785mm
2列目シートを起こした状態
2列目シートをたたむとラゲッジのフロアと同じ高さになる
2列目シートを出した4名乗車状態での荷室長は1005mm。荷室幅は1410mm
2列目シートをたたんで2名乗車の状態。荷室長は1915mm。荷室幅は1270mm
前席下のフロアも荷室のフロアと同じ高さとすることで荷室長を稼いでいる
2列目シートを倒し前席を前にスライドさせると身長が高い人でも足を伸ばして寝転ぶことができる
デラックスグレードに天井トリムは付いていないので横方向のバーがむき出しになる。ここにはネジ止め用のユースフルナットがあり、用途に応じた荷室のアレンジがしやすい
天井と壁面の境目は壁面の内側がちょっとしたポケット状になっている。もの入れとして設定したわけではないがここに仕事用の小物を入れておく人が多いという
タイヤハウスのせり出しでアクセルペダルがセンター寄りになるためブレーキペダルとの間隔が近くなるが、もし誤って2つのペダルを同時に踏んでしまった場合、ブレーキを優先するブレーキオーバーライドの機能を持っている

ハイゼットデッキバンは配送シリーズの異端児!?

 アトレー/ハイゼットにはボディの後方をトラックのようなデッキにした「デッキバン」が設定されている。このモデルは電気店の配送業務を想定したもので、後席部分は通常のカーゴスペースとして使用し、デッキ部分は車内に入らない背の高い冷蔵庫などを積むというものだ。

 デッキバンは前モデルから設定されていたが、前モデルはバンタイプをベースにボディをカットしてデッキ部分を作っていた。それに対して現行型はデッキバン専用のボディパネルをプレス成形で作っているので、デッキバンらしい使い勝手はそのまま、剛性や安全面で進化したものとなった。

 デッキバンはもともとは配送向けのクルマであるが、ほかに類似のクルマがない個性的なスタイルのため、個人ユーザーも多い。カーゴと比べると荷室は狭いが趣味の道具を積むのであれば十分な広さがあるし、デッキ部分は室内に入りきらない長物や濡れたたもの、汚れがあるものを積むのに適しているなど、趣味やスポーツのサポートカーとしても優れている。また、ラインアップにターボモデルや4WDがあることもホビー系のユーザーに選ばれるポイントだろう。

アトレーデッキバン。4WDのターボモデル。ボディカラーはオフビートカーキメタリック
荷室の一部をオープンデッキとした独特のボディ形状。ボディパネルはバンタイプの車体を切断加工したものではなくて、デッキバン専用のボディパネルを製作している
デッキ部は880mm×1360×610mm(長さ×幅×ゲート高)
ゲートはこのように開く。開き具合を途中で止める機構はない。荷台には純正アクセサリーのマットが敷いてある
アフターパーツとして設定される補強バーに見えるが、ロープなどを引っかけるためにあるもので補強の意味合いはないとのこと
スライドドアの開口部高は1190mm(デッキバンLは1210mm)。開口部幅は685mm(デッキバンLは785mm)。パワースライドドアとなり、スライドドアイージークローザーも標準で装備される
デッキバンの運転席まわり。デザイン、機能とも通常のアトレーと変わりはない
運転席、助手席シートも通常のアトレーと同じタイプが装着される
リクライニングのレバーは運転席、助手席の間にある。運転席から助手席の前倒しが容易にできるので、荷室に積んだものに運転席からアクセスしやすい
2列目シートはリクライニングがなく、折りたたむとフロアと段差のないラゲッジとなる。通常のバンボディより荷室は狭いが、プライベートユースならむしろちょうどいいかも?
サスペンションセッティングは通常のアトレーと変わりはない。なお、デッキバンは乗車定員は4名なので最大積載量は250kg。ちなみにアトレーは2名乗車と4名乗車の両方で届出されているので2名乗車なら最大積載量が350kg。4名乗車の状態は250kgとなる

車いす利用者の外出をサポートするタントスローパー

 高齢化社会になるにつれて注目度が上がっているのが車いす利用者を乗せられる車いす移動車だ。こういった車両は高齢者施設での需要はもちろんのこと、車いすを利用する家族がいる家庭では、病院への送り迎えのほか、買い物やレジャーといった生活を楽しむための外出にも活躍する「便利なクルマ」として選ばれるケースも増えているようだ。

 ダイハツでは車いす移動車として3車種を販売。取材会に用意されたのは乗用車ベースである「タントスローパー」の「L」。なお、タントスローパーにはLのほかに「カスタムRS」「X」「Xターンシート仕様」「Lターンシート仕様」がある。

 標準車のタントXの乗車定員は4名でこれはスローパーでも変わりがないが、車いすでの乗車をする場合は2列目シートをたたむことで車いすが載るスペースを作るので、その場合の乗車定員は前席2名+車いすで計3名となる。なお、2列目シートは丸ごと取り外しができるので、車いすを載せたときの足下を広く取ることも可能だ。

車いす移動車のタントスローパー。グレードはL。ボディカラーはホワイト
標準車のLと比べてリアバンパーの形状が違っている
車いすでの利用がないときは4名乗車となる。スローパー独自の機能として、使用しないときはじゃまにならないよう収納できる
車いすを載せるときは2列目シートはこのように折りたたむ。なお、2列目シートは取り外しができるので外して車外へ降ろすということもできる

 ベース車に対してスローパー専用に追加されている福祉機能を紹介しよう。

 車いすはバックドア側から乗り込むので室内への動線としてスロープが追加される。スロープは200kgという耐荷重を持ちながら軽量な作りなので、展開する際もあまり力は必要としないものとなっている。実際にスロープを出したりしまったりもしたが、操作に必要な力は例えるなら床に置いた2Lのペットボトルを入れた袋を持ち上げるくらい。それも力を入れるのは最初だけで、少し持ち上がるとあとは力は不要。腕力が弱い女性でも操作できると思われるものだった。

 スロープを展開したときの長さは1080mmと短めなので、乗り降りの際にクルマ後方のスペースを余計に必要としない。ただ、スロープが短くなると車体から下ろしたときの角度がきつくなりすぎて上り下りが大変にならないかが気になるが、その対策としてはラゲッジのフロア高を標準車よりも低くすることによってスロープの角度がつかないようにしている。ちなみにスロープの角度は13.5度となっている。

車いすを積んだ状態。スロープの長さは1080mm。スロープの幅は640mm(内寸)
スロープの長さを抑えつつ角度が急にならないようにするため、ラゲッジのフロアを低くして、リアバンパーの中央部がスロープと一緒に開閉する機構になっている
スロープを使用しないときはフロアに収納可能。スローパーはもともとラゲッジのフロアが低いのでスロープを収納しても標準車よりラゲッジは広い感じだ
スロープは立てた状態でロックもでき、このままバックドアを閉められる。この状態であればラゲッジのフロアはさらに低いので背の高い荷物も入れられる点は標準車より便利かもしれない
この角度から見るとラゲッジのフロアが低いことが分かるだろう。スロープを収納してもこれだけのスペースがある

 車いすの乗降時は電動ウインチを使用するので、サポートする人は乗降時に車いすを力一杯押したり支えたりする必要がない。ウインチの操作をするためのコントローラーは車いすをサポートしながら操作できるサイズで、ボタンもシンプルなので誰にでも使いやすく、操作ミスもしにくいものとなっている。

 そして肝心の巻き上げるスピードだが、これも車いす利用者に不安がないようゆっくりとしたもの。サポートは車いすを軽く押す感じで十分だ。降りるときはウインチを逆回転させてベルトを徐々に伸ばしていくが、このときのスピードもゆっくりしたものなのでサポートの人も車いす利用者もどちらにもストレスを与えることはない。

2列目シート下にウインチがある。使用するときはラゲッジ右後端にあるベルトフリーボタンを操作し、ロックを解除して引き出す。車いすのフレームにフックをかけたあと、コントローラーのボタン操作で巻き上げる
コントローラーは、テレビのリモコンのように無線式となっている。電源ボタンを押してから上(巻き上げ)、下(伸ばし)それぞれのボタンを押して動作させる。安全のためボタンはプッシュ&ロック式ではなく押し続けないと動作しないようになっている
固定ベルトはロック解除&ロックが簡単に操作できるリトラクタ式で、ここは他社にはない使いやすい機能とのこと。固定ベルトをかけたあとは再度ウインチを巻き上げてベルトのたるみを取る
車いす用シートベルトも装備。3点式ELRシートベルトだが、車いすに座った状態でベルトが身体に沿うようにするため肩と腰と別体になっている。画像のような車いすでは、アームレストの下をとおし、車輪のスポークの間をとおすことでベルトが身体に沿うよう締められる

誰でも無理せず安全に乗り降りできる装備も用意

 もともとタントには助手席の左肩あたりに2列目の乗り込み時につかむためのアシストグリップが装備されているが、これは片手で握ることを前提とした形状であり、位置的にも身体を引き寄せるには適しているものの、そこからシートへ身体を送るには力が入れにくいものである。

 今回撮影したタントスローパーには両手でつかまれる大型で安定感のあるアシストグリップの「ラクスマグリップ(助手席シートバック)」を装備。乗り込むときの身体の支え、身体をシート側に寄せるときの支え、そしてシートに座ったあとのさらに奥へ送り込むための支えという使い方がしやすい形状となっている。

 車いすを利用する人でも長時間歩かないときは普通に2列シートを利用することもあるので、車いす移動車といってもその部分だけに化せず、2列目シートの使い勝手も高めてあるのは利用者にとって都合のいいことだろう。

 また、こうした装備は子供や足腰の弱った方を乗せる場合などにも便利に使えるもの。助手席側ピラーレスのパワースライドドアを備えるタントならではの装備として、福祉車両のフレンドシップシリーズでなくても装着できるよう、実はタントシリーズ全車にオプション設定されている。

 さらに、スロープがあると自転車なども積みやすくなるので、子供がいる家庭でもタントスローパーは重宝するクルマとして使えるのではないだろうか。そして将来的に家族の中に車いすを利用する人が出てきた場合も対応できるので、特装車ということを意識せず、普通のクルマ選びとしてタントスローパーを検討してみるのもいいかもしれない。

助手席の肩にあるのが通常のグリップで、背面にあるのが追加されたラクスマグリップ(助手席シートバック)
両手でつかまれて体重をかけられる作り。乗り降りのときだけでなく、走行中の身体を支えるためのグリップにもなる。複雑な形状だがこれは実際にお客さまの声を聞いて使い勝手のよさを追求した結果のもの
助手席用のラクスマグリップも専用品。背の低い人でも使いやすいようグリップの取り付け位置を低くしつつ大型化。また、握りやすさを追求するために指の裏が当たる凹凸の間隔やサイズまでいろいろ試して形状を決定したというこだわりが詰まった装備だ