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ダイハツ車ラインアップ取材会で聞いた「アトレーデッキバン」「タントスローパー」など商用車・特装車・福祉車に込められたこだわり
2025年3月12日 07:00
ダイハツは自社のクルマ作りについて理解を深めてほしいという想いから、軽自動車を中心としたラインアップをそろえた「ダイハツ車ラインアップ取材会」を開催した。
ダイハツ車ラインアップ取材会はなかなか面白い試みで、普段見ることができない特装車や福祉車両の取材もできたので、本稿では開発者の方に聞いた商用・福祉車・特装車の装備や作り込みのポイントを紹介していく。
ダイハツの商用車、特装車について
2023年の自動車国内販売台数は約477万台。そのうち約174万台、全体の約37%を軽自動車が占めていて、さらにその中でダイハツのシェアは約3割の57万台となっている。
現状のタイプ別の推移については、乗用車の約半数をスーパーハイト系が占めているが、近年ではSUVタイプの人気も高まり販売台数を伸ばしている。そして軽トラック、軽バンといった商用車は全体の約2割という安定した市場となっているという。
ダイハツの軽商用車は「アトレー」「ハイゼットカーゴ」「ハイゼットトラック」があり、アトレーは商用車ながら乗用車的に乗れる装備を持ったモデル。ハイゼットカーゴはアトレーから装備を簡素化し、使いやすい荷室空間作りに特化した働くクルマとなっている。そしてハイゼットトラックは「トラック」というジャンルから唯一、堅牢なラダーフレーム(前モデルからのキャリーオーバー)を採用するクルマとなっている。
そして、これらをベースに業種ごとに機能を特化させたのが軽特装車。種類はダンプシリーズ、リフトシリーズ、保冷・冷凍シリーズ、配送シリーズがあり、ダンプシリーズであれば多目的ダンプ、ローダンプ、清掃ダンプ、土砂ダンプ、電動モーター式ダンプがある。
リフトシリーズには垂直式テールリフト、コンパクトテールリフトがあり、保冷・冷凍シリーズでは荷物の温度管理に合わせて数タイプの冷却能力や保冷力の設定がある。配送シリーズはハイゼットカーゴの2シーター、ハイゼットトラックベースのパネルバン、そして一風変わったスタイルを持つデッキバンという内容になっている。
なお、アトレー/ハイゼットシリーズは2名乗車での荷室全長がダイハツ商用ワンボックスカーの「グランマックス」より長くなっていることから(グランマックスが1760mm/2名乗車時、ハイゼットが1965mm/2名乗車時)、軽キャンピングカーやトランスポーターのベース車としても選ばれる傾向だ。
このようにコンパクトな軽自動車でありながら長いフロア長を実現しているアトレー/ハイゼットだが、その分、運転席と助手席が車体の前方に寄った作りとなっている。そのためタイヤハウスの出っ張りが足下にあることからアクセルペダルの位置がややセンター寄りになっている。ここは慣れないとペダル位置に違和感を覚えるかもしれない部分だ。
対してブレーキペダルはというと、ダイハツではブレーキペダルの位置をシートのセンターの延長線上になるようセットしているので、ブレーキペダルは自然な感じで操作ができる。
また、ステアリングとシートの位置関係だが、ここもステアリングのセンターとシートのセンターは同一線上にあるように設定されている。
ハイゼットデッキバンは配送シリーズの異端児!?
アトレー/ハイゼットにはボディの後方をトラックのようなデッキにした「デッキバン」が設定されている。このモデルは電気店の配送業務を想定したもので、後席部分は通常のカーゴスペースとして使用し、デッキ部分は車内に入らない背の高い冷蔵庫などを積むというものだ。
デッキバンは前モデルから設定されていたが、前モデルはバンタイプをベースにボディをカットしてデッキ部分を作っていた。それに対して現行型はデッキバン専用のボディパネルをプレス成形で作っているので、デッキバンらしい使い勝手はそのまま、剛性や安全面で進化したものとなった。
デッキバンはもともとは配送向けのクルマであるが、ほかに類似のクルマがない個性的なスタイルのため、個人ユーザーも多い。カーゴと比べると荷室は狭いが趣味の道具を積むのであれば十分な広さがあるし、デッキ部分は室内に入りきらない長物や濡れたたもの、汚れがあるものを積むのに適しているなど、趣味やスポーツのサポートカーとしても優れている。また、ラインアップにターボモデルや4WDがあることもホビー系のユーザーに選ばれるポイントだろう。
車いす利用者の外出をサポートするタントスローパー
高齢化社会になるにつれて注目度が上がっているのが車いす利用者を乗せられる車いす移動車だ。こういった車両は高齢者施設での需要はもちろんのこと、車いすを利用する家族がいる家庭では、病院への送り迎えのほか、買い物やレジャーといった生活を楽しむための外出にも活躍する「便利なクルマ」として選ばれるケースも増えているようだ。
ダイハツでは車いす移動車として3車種を販売。取材会に用意されたのは乗用車ベースである「タントスローパー」の「L」。なお、タントスローパーにはLのほかに「カスタムRS」「X」「Xターンシート仕様」「Lターンシート仕様」がある。
標準車のタントXの乗車定員は4名でこれはスローパーでも変わりがないが、車いすでの乗車をする場合は2列目シートをたたむことで車いすが載るスペースを作るので、その場合の乗車定員は前席2名+車いすで計3名となる。なお、2列目シートは丸ごと取り外しができるので、車いすを載せたときの足下を広く取ることも可能だ。
ベース車に対してスローパー専用に追加されている福祉機能を紹介しよう。
車いすはバックドア側から乗り込むので室内への動線としてスロープが追加される。スロープは200kgという耐荷重を持ちながら軽量な作りなので、展開する際もあまり力は必要としないものとなっている。実際にスロープを出したりしまったりもしたが、操作に必要な力は例えるなら床に置いた2Lのペットボトルを入れた袋を持ち上げるくらい。それも力を入れるのは最初だけで、少し持ち上がるとあとは力は不要。腕力が弱い女性でも操作できると思われるものだった。
スロープを展開したときの長さは1080mmと短めなので、乗り降りの際にクルマ後方のスペースを余計に必要としない。ただ、スロープが短くなると車体から下ろしたときの角度がきつくなりすぎて上り下りが大変にならないかが気になるが、その対策としてはラゲッジのフロア高を標準車よりも低くすることによってスロープの角度がつかないようにしている。ちなみにスロープの角度は13.5度となっている。
車いすの乗降時は電動ウインチを使用するので、サポートする人は乗降時に車いすを力一杯押したり支えたりする必要がない。ウインチの操作をするためのコントローラーは車いすをサポートしながら操作できるサイズで、ボタンもシンプルなので誰にでも使いやすく、操作ミスもしにくいものとなっている。
そして肝心の巻き上げるスピードだが、これも車いす利用者に不安がないようゆっくりとしたもの。サポートは車いすを軽く押す感じで十分だ。降りるときはウインチを逆回転させてベルトを徐々に伸ばしていくが、このときのスピードもゆっくりしたものなのでサポートの人も車いす利用者もどちらにもストレスを与えることはない。
誰でも無理せず安全に乗り降りできる装備も用意
もともとタントには助手席の左肩あたりに2列目の乗り込み時につかむためのアシストグリップが装備されているが、これは片手で握ることを前提とした形状であり、位置的にも身体を引き寄せるには適しているものの、そこからシートへ身体を送るには力が入れにくいものである。
今回撮影したタントスローパーには両手でつかまれる大型で安定感のあるアシストグリップの「ラクスマグリップ(助手席シートバック)」を装備。乗り込むときの身体の支え、身体をシート側に寄せるときの支え、そしてシートに座ったあとのさらに奥へ送り込むための支えという使い方がしやすい形状となっている。
車いすを利用する人でも長時間歩かないときは普通に2列シートを利用することもあるので、車いす移動車といってもその部分だけに化せず、2列目シートの使い勝手も高めてあるのは利用者にとって都合のいいことだろう。
また、こうした装備は子供や足腰の弱った方を乗せる場合などにも便利に使えるもの。助手席側ピラーレスのパワースライドドアを備えるタントならではの装備として、福祉車両のフレンドシップシリーズでなくても装着できるよう、実はタントシリーズ全車にオプション設定されている。
さらに、スロープがあると自転車なども積みやすくなるので、子供がいる家庭でもタントスローパーは重宝するクルマとして使えるのではないだろうか。そして将来的に家族の中に車いすを利用する人が出てきた場合も対応できるので、特装車ということを意識せず、普通のクルマ選びとしてタントスローパーを検討してみるのもいいかもしれない。