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F1日本グランプリのタイトルスポンサー「レノボ」が支えるF1中継・ライブタイミング
2025年4月6日 08:19
F1世界選手権 第3戦「2025 FIA F1世界選手権シリーズ レノボ 日本グランプリレース」が、4月4日~4月6日の3日間にわたって鈴鹿サーキットで開催されている。
本年のF1日本グランプリのタイトルスポンサーを務めているのが、グローバルにPC、スマートフォン、サーバー機器などのITハードウェアを提供するビジネスを行なっているレノボ(Lenovo Group)だ。
レノボは、F1のプロモーターであるFormula 1(社名としてはFormula One World Championship Limited)のグローバル・パートナー(Global Partner)になる複数年契約を交わしており、本年がその契約の初年になる。
そのレノボは日本グランプリに先立つ4月3日、名古屋市内で記者説明会を開催し、同社がF1にどう関わっているのかに関しての説明を行なった。
世界最大のPCメーカーとなるレノボ。ThinkPadなどのPCや、モトローラのスマホ、サーバー機器などを提供
レノボは、PC、スマートフォン、サーバーなどのハードウェア機器をグローバルに提供するIT企業だ。PC製品では一般消費者向けのYoga/IdeaPadなどの製品、さらにビジネス向けにはThinkPad/ThinkBook(ノートブックPC)、ThinkCentre(デスクトップPC)、ThinkStation(ワークステーションPC)などの製品を提供しており、それ以外にもモニタやキーボード、マウスといった周辺機器なども提供しており、グループ全体で20~25%程度の市場シェアを持つ世界最大のPCメーカーになる。
日本では、レノボが2010年に買収したNECのPC事業(現NEC PC)、同じく2017年に買収した富士通のPC事業(現富士通クライアント・コンピューティング)も傘下企業としており、それらを合わせると、国内市場では40%弱のトップシェアを誇っている。
レノボが提供しているのはそうしたPCだけではない。スマートフォンに関してもモトローラという同社傘下のブランドでグローバル販売しており、国内でもモトローラブランドのスマートフォンが販売されている。
また、データセンター向けには、ThinkSystemのブランドでサーバー機器を販売しており、生成AIのシステムを構築するのに必要な水冷のGPUサーバーなどさまざまな製品をハイパースケーラーと呼ばれる巨大なデータセンターを抱えるクラウド・サービス・プロバイダーなどに提供している。
もともとレノボは、レジェンドという中国でトップシェアだったPCメーカーが母体になっており、2004年にIBMのPC事業を買収し、中国のローカルメーカーから多国籍でグローバルなPCメーカーに飛躍した。その後、日本でもNEC PCや富士通クライアント・コンピューティングなどの企業を買収したほか、IBM PC時代からノートPCの開発拠点となっていた大和研究所(現在は横浜市のみなとみらい地区に位置している)が、ビジネス向けPCの開発拠点として利用されており、ノートPCに関しては日本初の技術が多数利用されていることも大きな特徴だ。
レノボとF1との長い歴史、本年よりグローバル・パートナーとしてF1と協力
そうしたレノボとF1の関わりだが、実は歴史は長い。レノボがF1に最初に関わったのは、2007年にウイリアムズF1チームにスポンサーとして参画し、サイドポンツーンやリアウィングなどに「lenovo」ロゴが掲げられたのが最初だ。そのスポンサーシップは、2008年まで続けられ、2008年(とその翌年の2009年)には日本の中嶋一貴選手がドライバーを務めたため、レノボのロゴがついていたのを思いだすF1ファンも少なくないだろう。
その後、マクラーレンF1のテクニカルパートナーになっているなど活動の方向を変え、2022年からはオフィシャル・パートナー(Official Parthner)となり、Fomula 1に対してさまざまなハードウェアを提供してきた。
そのF1との関わりが、より強化されることが発表されたのが2024年の9月だ。ドイツで行なわれたレノボの製品発表会に、Formula 1 CEO ステファノ・ドメニカリ氏が呼ばれ、両社の協力体制がオフィシャル・パートナーから、グローバル・パートナーへと格上げすることが発表されたのだ。グローバル・パートナーはオフィシャル・パートナーに比べてもう一段階高い位置づけがされており、協賛企業になる。具体的なメリットは何であるのかなどは明らかにされていないが、分かりやすい特典としては、年間で何戦かグランプリのタイトルスポンサーになれる権利が与えられる。今回レノボがF1日本グランプリのタイトルスポンサーであるのも、そうした権利を行使したためだと考えられる。なお、レノボは今回の第3戦 日本グランプリと第14戦 ハンガリーGPでタイトルスポンサーを務める計画だ。
レノボは、Formula 1に何を提供しているのだろうか? 簡単に言えば、IT機器をFormula 1に提供し、それを活用してF1のライブ中継やライブデータ配信を支えているということになる。
F1では、世界中のテレビ局に対して動画を配信する国際映像、さらには(日本では提供されていないが)「F1 TV」と呼ばれる公式の動画配信サービス、さらにはAndroidとiOSに対して提供が行なわれるアプリ「Formula 1」でのライブタイミング(ラップタイム、セグメントタイム、タイヤ選択などをリアルタイムに配信するアプリ)データの提供など、ファンがレースを楽しめるような工夫がされている。
動画データやサーキットで収集されるデータ(チーム無線、ラップタイムなどのデータ)は、一度サーキットにあるETC(Event Technology Center)に集められる。ETCは、サーキットに28台設置される人間が操作する中継カメラ、ヘリコプターカメラ、路面埋め込みカメラ、さらには車両に設置されているオンボードカメラ……など無数のカメラからの動画データは一度ETCへ集約される。
ETCに集められるのはそうした動画だけでなく、同時にライブタイミング用にラップタイム、セクタータイム、タイヤ情報、さらにはFIAからのレース運営情報などさまざまなデータもETCに集約される。
ETCに集められるデータは、2回線用意されている10Gb/秒の光ファイバー回線(1回線はバックアップのためで、メイン回線に障害がある場合、瞬時にバックアップに切り替えて中継が続けられるようになっている)。そうした回線は、英国ロンドン郊外のビリン・ヒルにあるMTC(Media & Technology Center)に送られて、編集作業(実際にはスイッチングや、チーム無線の放送に適さない言葉にピーなどを入れ少し遅れて流す)をした後に、国際映像として各国のテレビ局に、F1 TVへのストリーミング映像として配信されることになる。
DAZNのような動画配信なら事業者側でエンコードされて配信され、フジテレビNEXTのような放送局なら電波に乗せられてユーザーの手元に届く。
余談だが、こうした経路を経てユーザーの手元に届くので、ストリーミングだとライブタイミングから数十秒~1分程度遅れている。ETCからMTCに送られる段階では数百ミリ秒しか遅延は発生していないそうだが、そこから放送衛星を使うと数秒、ストリーミングなどの場合には動画の圧縮率を上げるために再エンコードというプロセスが入るので、それで数十秒の遅れがでるということだ。その辺りは放送局や動画配信サービスのシステムに依存することになる。
なお、実際にサーキットで見ていると、ライブタイミングでも実は1~2秒程度遅れているので、放送はさらに遅れているということになる。
Formula 1の関係者によれば、1つのグランプリレースで、収集されるすべてのデータを合計すると500TBになるという。なお、一般的なノートPCに搭載されているストレージの容量が256GB(約1/4TB)なので、500TBはノートPC約2000台分という計算になる。わずか3日間のイベントで、それだけのデータ量のデータが生成されストレージを消費するのだから、いかにF1の1つのイベントで生成されるデータ量がものすごいか、想像できるのではないだろうか。
F1中継やライブタイミングを支えるレノボ、ETC/MTCのデジタル機器の90%以上がレノボ製
レノボが4月3日に開催した記者説明会では、レノボの関係者がF1との関わりについて説明を行なった。レノボ グローバル・スポンサーシップ&アクティベーション ララ・ロディーニ氏は「Formula 1のグローバル・パートナーは本年からだが、レノボにとっては顧客や、メディア関係者、そして一般消費者のお客さまなどの新しいユニークな体験をお届けするいい機会だと考えている」と述べ、Formula 1と提携してさまざまなマーケティング活動を行ない、顧客や一般消費者などにレノボの技術活用のショーケースとして活用する機会だと説明した。
「弊社がFormula 1と提携する理由は2つある。1つはFormula 1にさまざまなデジタル機材を提供することで、デジタル変革を進展させるお手伝いをすることだ。もう1つは、弊社は顧客中心主義、Formula 1はファン中心主義と角度は違うが、いずれも顧客を大事にするという考え方では共通しているということだ」と、F1のデジタル変革に、機器の提供を通じて貢献していくことで、Lenovoは顧客に対して、F1はファンに対してメリットを提供していくと説明した。
なお、レノボがETCやMTCに対して提供している機材は、PC(ノートPC、デスクトップPC、ワークステーションPC)やモトローラブランドのスマートフォン、さらにはETC/MTCの双方に設置されているデータセンターにサーバー機器など多数に渡っている。ETCの担当者によればすでにETC/MTCなどで利用されているデジタル機器の90%以上はレノボ製とのことで、F1の中継やライブタイミングなどF1ファンにおなじみのコンテンツの背後にはレノボあり……ということだ。
また、レノボが提供するビジネスPCブランド「ThinkPadシリーズ」の開発責任者であるレノボ・ジャパン合同会社 執行役員 副社長 開発担当 塚本泰通氏は、「中国グランプリでは、われわれの新製品であるThinkPad X9シリーズを、Formula 1の関係者に現場で使っていただき、その耐久性や性能などを高く評価いただいた」と述べ、同社が提供するAI PCと呼ばれるAIアプリケーションの処理をPC上のプロセッサで行なうノートPCの可能性に関しても、Formula 1との取り組みを開始していると述べた。
塚本氏によれば、中国グランプリの段階で実際にそうしたAI PCの機能が使われたという訳ではないということだが、今後両社が協力してそうした取り組みを行なっていく可能性が高いと説明した。