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STI、先ごろ発表された新型「WRX STI」のニュル24時間参戦車両を公開

2013年の雪辱を晴らすべく富士スピードウェイでシェイクダウン

2014年1月23日公開

 STI(スバルテクニカインターナショナル)は1月23日、晴天の富士スピードウェイにおいてニュルブルクリンク24時間レースに参戦するマシンのシェイクダウンを行ないメディアに公開した。この公開に伴い、2013年から引き続きチーム総監督を務める辰己英治氏、監督の小澤正弘氏、ドライバーの吉田寿博選手、佐々木孝太選手が参戦への意気込みを語った。なお、公開されたマシンは先日開催された「東京オートサロン2014」で世界初公開された新型「WRX STI」だ。

 なお、2014年のニュルブルクリンク24時間レースは6月21日から22日(現地時間)にかけて決勝レースが行われる。それに先立ち、STIは4月12日と5月17日に同じコースで実施されるVLNレース(ニュルブルクリンク長距離選手権)にも参戦してマシンセッティングから最終調整まで行って万全の体制を整え、2013年にわずか54秒の差で取り逃がしたSP3Tクラス(2000cc以下のターボ車)で優勝を狙う。

写真で見る新型WRX STI(ニュル24時間レース参戦車両)

車両名:SUBARU WRX STI NBR チャレンジ2014
全長:4890mm
全幅:1835mm
全高:1395mm
ホイールベース:2650mm

旧型に比べてホイールベースが長くなった新型WRX STIはニュルブルクリンクにおいて有利だと辰己監督は語った
エンジンはEJ20型水平対向ターボエンジン(1994cc)、最高出力250kW(340PS)/5500rpm、最大トルク461Nm(47kgm)/3000rpm。エアリストリクター径は38φ
フレキシブルタワーバーが装着されていた
エアインテーク・アウトレット付カーボンエンジンフード
フロントグリル
カナードが装着されたフロントバンパー
カーボンエンジンフードは中央にインタークーラーを冷却するためのエアインテーク、両サイドにエンジンルーム内の熱を排出するエアアウトレットを設置
リアウイング
リアウインドー
テールレンズ

 今回のシェイクダウンで走行したのはもちろんニュル参戦車両だが、このマシンは右ハンドル仕様で2.0リッターエンジンを搭載。北米仕様の市販モデルとして公開されている左ハンドル仕様とは内容が異なり、まだ正式発表されていない日本仕様のWRX STIの姿が垣間見えるようだ。

給油口は右側
ドア開口部
ドア内張(カーボン)と軽量ドアウインドー
ステアリング
インパネ全体
シーケンシャルミッション初採用
カラフルに色分けされたスイッチ類
メーターパネル
フロント:ストラット/リア:ダブルウイッシュボーンを採用する足まわり。マフラーは昨年同様フジツボ製、リアサスペンションのサブフレームはグループR4用だ
トランク内にはバックビューカメラが3点支持で固定され、奥には燃料タンクが見える
ブレーキはブレンボ製でフロント6ポッド、リア4ポッドだ
タイヤはダンロップ 260-660R18でホイールはBBSの18×10J。タイヤに関しては特に低温時の特性を考えて改良を進めてきたとのこと

チームスタッフとマシン開発

 今回のチームは総監督、監督、そして4人のドライバー全員が昨年と同じ布陣であり、スバルのディーラーメカニックがピット作業や車両整備に臨むのも前回同様だ。

2014年ドライバー
吉田寿博選手(日本)ニュルの経験も豊富なベテランドライバー
佐々木孝太選手(日本)ニュルは今回で4回目の挑戦となる
カルロ・ヴァン・ダム選手(オランダ)吉田選手とともにスバルで2度のクラス優勝を経験
マルセル・ラッセー選手(ドイツ)昨年より加入

 なお、マシン開発は作業の大部分が辰己総監督の元で行われ、ドライバーはある程度の完成をみてから最終調整に加わるという珍しいスタイルだ。これは辰己総監督自身がスバルで長年に渡り車両開発に携わってきたことと、全日本ダートトライアルのトップドライバーだった経験によるところが大きいが、そのほかに昨年いっしょに戦ったドライバーとの意思疎通ができており、ドライバーの要望をすでに把握していることも一因だろう。実際に2人の日本人ドライバーもこの開発スタイルに対して肯定的で、昨年同じ経験をしたメンバーだったからこそ、まだ発売もしていないマシンの短期間による開発が可能だったようだ。

 また、今年のデトロイトショーで発表された市販型のWRX STIは一般的なHパターンの6速MTを搭載しているが、今回の参戦マシンには6速のシーケンシャルギアボックスが採用された。この件について辰己総監督は「今までは量産車のトランスミッションをそのまま使っていたが、ノートラブルで今日まで走りきったことで量産型の耐久性は証明できたと考えた。また2人の欧州ドライバーが慣れない右ハンドル車のH型シフトで戦ってきたことを考えれば、シーケンシャルにすることで疲労と危険度が軽減されると考えた」とのこと。

辰己英治総監督
小澤正弘監督
吉田寿博選手
佐々木孝太選手
昨年と同じドライバーラインアップ
新型「WRX」のプロジェクトマネージャーの高津益夫氏
2014年もディーラーメカニックがチームに加わる

ニュルに向かってシェイクダウン開始

 多くのメディアスタッフの見守るなか、富士スピードウェイでシェイクダウンが始まった。占有された広いコースで、ただ1台の新型マシンが時折ピットに入りながらも粛々と周回を重ねていく。吉田、佐々木両ドライバーもこれが初走行だ。

富士スピードウェイを走行するWRX STI
吉田選手、佐々木選手ともに新型マシンを初ドライブ

 なお、佐々木選手はこれまでに2012年モデルをベースに最新マシンに搭載されるパーツを組み込んだ車両を使って走行テストを行っているが、その時点でもすでに2013年のマシンからタイムアップしていたようだ。今日乗ったマシンの印象もよく、今まで以上の車速でコーナーに進入してもその後のマージンが従来のマシンより大きく、好みのセッティングに仕上がっていると感想を語る。

 ただし、今回のシェイクダウンで総監督はじめチームのスタッフやドライバーが常に口にしていたのは、昨年クラス優勝を逃した敗因の1つと考えられている24時間全体でのレースコントロール(戦術)だ。それだけに、マシンの仕上がりがよかった今日の走行後も決してレースを楽観視するムードはなく、2013年の雪辱に燃え、再び勝利を勝ち取ろうとする意欲が1日を通じて感じられた。

 年に1度だけのレースだが、あくまで量産車のポテンシャルにこだわる「STI NBRチャレンジ」は2度の優勝に甘んじることなく、挑戦し続け、そして勝ち続けることに意義があるスバル、STIにとって非常に重要なレースなのだ。本番を迎えるまでに残された時間は約5カ月。我々がまだ見ぬ新型WRX STIを磨き上げ、3度目の勝利をぜひ手にしてほしいものだ。

(高橋 学)