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トヨタ副社長が「水素王におれはなる」と語るほど着目する天然水素(ホワイト水素)とは?
2025年6月2日 12:58
水素エネルギーの利点
スーパー耐久第3戦富士24時間レースでは、水素を燃焼して走る水素カローラが参戦するなど、カーボンニュートラル社会へ向けての実験的な取り組みが多数行なわれている。水素カローラを参戦させているトヨタ自動車は、水素カローラのドライバーであるモリゾウ選手こと豊田章男会長はじめ、佐藤恒治社長、宮崎洋一副社長、中嶋裕樹副社長兼CTOら首脳陣が参加。富士24時間を訪れるさまざまなゲストらと数多くのミーティングを行なっていたようだ。
また、その一環として報道陣に向けて説明会などを実施。小松製作所との燃料電池の商業利用に関する共同説明会では、中嶋裕樹副社長兼CTOから「できればコマツさんと日本で水素を掘り当てたい」と水素採掘に関する夢も語られた。
中嶋副社長は、「水素王におれはなる!!」とその夢を表現。日本のエネルギー問題に対して大きな注目を集めようとしている。
水素カローラが燃料として使用している水素は、原子番号1番、同位体でなければ陽子1個と電子1個からなる基本的な元素。宇宙に最も存在している原子といわれ、さまざまな化合物としても存在している。原子記号はHで、H2Oである水としてもおなじみの原子になる。
この水素が注目されているのは、優れた質量エネルギー密度と反応後に生成されるのが基本的に水であるというクリーンな点。水素を燃焼させても、問題となるのは空気に含まれるN(窒素)から生成されるNOx(窒素酸化物)で、NOxへと対策を絞り込める。
質量エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):39,400Wh/kg
圧縮気体水素(70MPa):39,400Wh/kg
液体水素(LH2):39,400Wh/kg(気体にして使用するため、圧縮気体と同じ)
石油系(ガソリンなど):約12,800Wh/kg
リチウムイオンバッテリ系:約250Wh/kg
体積エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):767Wh/L
圧縮気体水素(70MPa):1290Wh/L
液体水素(LH2):2330Wh/L
石油系(ガソリンなど):約9600Wh/L
リチウムイオンバッテリ系:約700~600Wh/L
(参考文献:GSユアサ 再生可能エネルギーの大規模導入に対応するためのエネルギー貯蔵・輸送技術[PDF])
数値を見れば誰もが分かるように、質量エネルギー密度はバッテリ系よりも文字どおり桁が違うほど優れ、現在主流となっているガソリンなどの石油系の3倍程度の能力を持つ。優れた質量エネルギー密度を持つために、ロケットに用いられ、地球の引力も脱出できるほどだ。
よく水素は爆発して危ないと言われるが、爆発して危ないものでないとエネルギー源としては使いにくい。リチウムイオンバッテリも爆発するし、ガソリンも爆発する。しかしながら、その爆発をコントロールする、つまり手の内化することで人はモビリティのエネルギー源として用いている。ガソリンなどはセルフスタンドという形で手軽に使われているのは誰もが経験しているところだろう。逆に言えば、バッテリはまだまだ爆発力(エネルギー密度)が足りず、それが航続距離の短さにつながっている。
水素の弱点は、常温では気体として存在するため、極端に体積エネルギー密度に劣ること。そのため、35MPaや70MPaなど高圧に対応するタンクに押し込み、なんとか体積エネルギー密度を向上しようとしている。
もう一つの方法が冷やして液体に相転移させることで、マイナス253℃(正確にはマイナス252.87℃)にすること。液体にすることで水素の体積は1/800となる。ただ、70MPaの高圧水素と比べると約1.7倍の搭載容量であり、これは70MPaの高圧水素では体積が1/450と、結構がんばって圧縮しているためだ。
高圧水素は70MPaに耐える特殊容器、液体水素はマイナス253℃を維持できる真空二重構造とそれぞれ専用のタンクが必要となり、その分だけ高価。水素やバッテリと比較すると、質量エネルギー密度、体積エネルギー密度に優れ、常温常圧の樹脂タンクが使用可能な石油系エネルギーの素晴らしさが分かる。ただし、石油系エネルギーはカーボンニュートラルの観点から行き止まりになっており、全世界が別の出口を探している状況にある。
この辺りが水素の物理的特性のメリット・デメリットになる。燃料電池によって水素は電気エネルギーになり、FCEVを実現している。逆反応を使う水電解ユニットを使えば電気で水素を製造でき、水素を余剰発電の電池としても使える。リチウムイオンバッテリなどのような化学電池と異なり、複雑な組成もなく、処理も非常に楽だ。
また、日本にとってのエネルギーメリットがあるのも水素になる。
天然水素によって日本はエネルギー資源国になれるのか?
小学校の教科書で習うように、日本はエネルギー輸入国である。石油やLPG(液化天然ガス)を輸入し、エネルギーとして使用し、クルマなど高度な生産品目として輸出して国を成り立たせている。石油やLPGであると、地域的に偏在している資源のため、ある地域の海峡が閉鎖されると輸入が難しくなり、○○危機といったことになる。水素であれば、さまざまな製造方法があるので地域の偏在が少なく、エネルギーの危機管理にも向いている。
そこで、注目されているのがトヨタ中嶋裕樹副社長兼CTOが「できればコマツさんと日本で水素を掘り当てたい」「水素王におれはなる!!」と語る天然水素。水素は製造方法によってグレー水素(CO2排出を伴う製造方法)、イエロー水素(原子力発電などによる製造方法、ウランの色から来ている)などいろいろ呼ばれ方があるが、天然水素は地下資源から作り出すことからホワイト水素と呼ばれている。
この天然水素は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が積極的に開発に動いており、2025年2月にはJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)、JAPT(石油技術協会)と共同主催、資源エネルギー庁後援で「天然水素ワークショップ(Natural Hydrogen Workshop in Japan)」を開催。国際的にも最先端の天然水素開発を目指している。
その理由は、かんらん岩と水が反応して蛇紋岩になる過程で水素を生み出す蛇紋岩化反応にある。この反応では300℃以下という比較的低温で水素が生成されることが分かっており、地下のかんらん岩によって水素が自然生成されている水素エリアが存在する。また、この反応を利用して、かんらん岩エリアに注水することで水素を作り出す研究も進んでいる。
天然に存在するため天然水素と呼ばれており、火山国である日本はこの蛇紋岩による地層が頻繁に見られ、JOGMECによれば長野県の白馬村は大きな可能性を秘めている場所として注目を集めているという。
日本がこの天然水素によってエネルギー資源国になれるかどうかは分からないが、水素を安価に製造できれば、そして水素製造関連で国際的にリードできれば、世界のカーボンニュートラル化の流れを加速できることになる。
トヨタ中嶋副社長の「水素王におれはなる!!」という発言は、この天然水素に注目を集めるために行なっている。本当に水素王になれるかどうかはともかく、天然水素の存在は、常にエネルギーを輸入に頼ってきた日本のポジションを世界的に変更できるかどうかの大きなチャンスであるのは間違いない。