ニュース

TDK、中期経営計画の進捗とガバナンスの実効性などを説明する「TDK Investor Day 2025」開催

2025年11月28日 開催
「TDK Investor Day 2025」に出席したTDK株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 齋藤昇氏

 TDKは11月28日、中期経営計画の進捗状況やガバナンスの実効性などについて投資家や報道関係者などに説明する「TDK Investor Day 2025」を開催した。

 TDKでは“10年後に会社としてありたい姿”を示した長期ビジョン「TDK Transformation」を2024年5月に策定。この長期ビジョンを実現するため、「TDK Transformation」で示した10年後の姿からバックキャストする形で3年ごとの具体的な活動計画である中期経営計画を定めており、現在は2025年3月期~2028年3月期の3か年を対象とした中期経営計画の実現に向けて取り組んでいる。

 中期経営計画の柱として「キャッシュ・フロー経営の強化」「事業ポートフォリオマネジメントの強化(ROIC経営の強化)」「フェライトツリーの強化(未財務資本の強化)」の3点を定め、資本コストの低減と期待成長率の向上によってフリーキャッシュフロー(FCF)創出の最大化と企業価値の向上を図り、主力事業の収益力強化、課題事業への対策を行なって事業基盤を強化。具体的な数値目標として2027年3月期の売上高2兆5000億円、事業ROA8%以上、営業利益率11%以上を掲げている。

2024年5月に発表した長期ビジョン「TDK Transformation」
TDKが持つ先進技術をさらに進化させ、社会をトランスフォーメーションしていく
“10年後に会社としてありたい姿”からバックキャストして中期経営計画を策定
資本コストの低減と期待成長率の向上でフリーキャッシュフローを最大化し、企業価値を高める
今季の実績と次期以降の予想
営業キャッシュフローを大きく高めていく計画

AI市場向けの売上高は中長期で25~30%までの成長を見込む

2024年5月に開催されたTDK Investor Dayで齋藤社長が示したコミットメント

 最初に登壇したTDK 代表取締役 社長執行役員CEO 齋藤昇氏は、まず長期ビジョンのTDK Transformationと中期経営計画の概要についてあらためて説明したあと、中期経営計画で取り組んでいる「事業ポートフォリオマネジメント強化」の進捗状況について解説を行なった。

 中期経営計画では「先手の事業ポートフォリオマネジメント」を行なうべく、TDK内に約80あるBU(ビジネスユニット)をROIC(投下資本利益率)と事業将来性の2軸で階層化。2025年度からは「重点モニタリングCBU(キャッシュフロー・ビジネスユニット)数」を開示して、投資家とも計画の進捗状況や課題感などについて具体的に議論できるようにしている。

 数値目標として掲げているROE(自己資本利益率)15%以上、ROIC12%以上という目標を実現するため、「成長けん引事業のオーガニック成長・収益性改善」「重点モニタリング事業への対処」「インオーガニック成長」の3点を中核として設定。成長戦略ではAIに関連する各種アプリケーションを「AIエコシステム」と位置付け、この中で「産業機器の健全性監視と予知保全」や「半導体製造装置」、さらに「スマートグラス」といった領域における推進状況について解説した。なお、AI市場向けの売上高は現時点で全社売上の1割強に止まるが、中長期では25~30%まで大きな成長を実現できると見込んでいる。

TDK内に約80あるBU(ビジネスユニット)をROIC(投下資本利益率)と事業将来性の2軸で階層化。売上構成率も公表している
事業ポートフォリオマネジメントを2022年から段階的に進化させ、2025年度からは「重点モニタリングCBU数」も開示
「オーガニック成長」と「インオーガニック成長」の両輪で事業ポートフォリオマネジメントを推進
AIに関連する「AIエコシステム」で成長を目指す

 新事業となる「産業機器の健全性監視と予知保全」では、TDKが持つ各種センサーと先端AI、エッジコンピューティングなどを組み合わせた「TDK SensEI」の「edgeRX」「edgeRX Vision」を開発。AWS(Amazon Web Services)のIoTツールとセキュアなクラウドサービスとして統合しており、主要AWSサービスとの連携も可能となっている。これにより、世界中の産業機器を取り扱う会社に向けて機器の健全性監視、予知保全を提供していく。

 半導体の製造装置では、これからAI半導体といった高機能な半導体製造に対応するため、後工程の高密度化、2.5Dや3D実装などを行なう高密度市場で成長が見込まれ、TDKでは高密度化や高精度実装に加え、高信頼、高放熱特性材料の使用などによって消費電力の低減に貢献。独自の競争優位性を確立してシェア拡大につなげていく。

 AIエコシステムで新たな成長アプリケーションと位置付けるスマートグラス向けビジネスでは、スマートグラスにAI機能を付加することで本体の軽量化、ユーザビリティの向上を図ることが可能で、スマートウォッチのような台数拡大が期待できるとの考えから、成長戦略の一環として米SoftEyeを2025年6月に買収。TDK内に「AR Platform BD」を設立し、開発を進めているフルカラーレーザーモジュールといった技術をソリューションとして提供すべく活動する方針としている。また、TDKが得意とするバッテリやセンサー、ピエゾハプティクス技術を用いた骨伝導スピーカーといった製品を組み合わせ、スマートグラスのエンジンとしてのソリューションを提供していく。

主要AWSサービスとの連携も可能な「edgeRX」「edgeRX Vision」を産業機器の健全性監視と予知保全のソリューションとして提供
AI半導体など高密度市場での需要に独自の競争優位性を確立してシェア拡大を図る
TDKが得意とするバッテリやセンサーなどの製品を組み合わせ、スマートグラスのエンジンとしてのソリューションを提供
データセンター向けの中型2次電池でも大きく売上を高める計画

 現有事業の軸となるビジネスカンパニーの取り組みについては、受動部品の分野でBEV(バッテリ電気自動車)市場の世界的な販売減速や産業機器市場の低迷が原因となってROICの当初目標が未達となったが、一方でAIサーバー向けとなる低消費電力製品の需要が拡大しており、合わせて高付加価値製品の生産能力の早期確立によって挽回していく。また、2026年9月にはアルミ電解コンデンサの生産能力を2025年3月期対比で約2倍に引き上げ、ターンアラウンドを図っていく。

 さらに前日の11月27日付けで発表した日本化学工業との戦略的提携により、MLCCなどの受動部品における材料技術を強化。自動車やAIエコシステム向けとなる高付加価値品がタイムリーに開発可能になるという。これらにより、xEV向け製品やAIエコシステム向けビジネスなどを拡大して中長期での成長を実現していくとした。

 エナジー応用製品では革新的新製品のタイムリーな市場投入によってROCI目標値を上振れする状況となっており、今後は高付加価値品や生産性改善による収益性の維持、ウェアラブルデバイス向けアプリケーションの拡大などを展開。中型電池事業については収益を安定させて成長事業に発展させるため、高出力パワーセルの製品ラインアップ拡大、データセンター向け中型電池のラインアップ拡大などを図り、データセンターインフラ向けとなる産業用電源についても、米QEIコーポレーションに対するM&Aと合わせて事業拡大を進めていく。一方、車載用電源製品については2026年4月を予定してAstemo(アステモ)に会社分割による事業譲渡を行なうことになっている。

受動部品の分野はBEV市場の販売減速や産業機器市場の低迷でROIC目標を未達
センサ応用品はTMRセンサの生産能力確立と販売拡大、MEMSセンサ事業の収益改善などによって計画に沿った成長を実現している
磁気応用製品はHDDストレージの需要拡大と製造拠点の最適化で収益性が改善HDDサスペンションが高収益事業に転換して、HDDヘッドの収益性拡大にも取り組んでいる
エナジー応用製品はさらなる収益性強化に向けて各種施策を進めているが、車載用電源製品はAstemoに事業譲渡することになった

 これらの活動と合わせて行なわれている、収益性の改善などを精査する重点モニタリング事業では、2024年5月時点で27だった対象ユニット数を27から29に増やし、ここからHDDサスペンションに続いて薄膜デバイスも収益性の高い「Profit base」に移行。また、前出のようにBEV用電源などを扱う車載用電源製品は、ROICの改善が見込めず事業譲渡を行なう運びとなった。HDDヘッドなど9のユニットについては再建によってターンアラウンドを目指し、ターンアラウンドに向けた施策を検討する実行議論中の9ユニットも中期経営計画の最終年度までに方向性を決定する予定と説明された。

重点モニタリング事業の取り組みで、2つのユニットが収益性の高い「Profit base」に移行。ROICの改善が見込めないユニットはベストオーナーに事業譲渡などを行なっている

社外取締役4人との対話でガバナンスの実効性などについて紹介

TDKの社外取締役を務める4人も登壇

 説明会の後半にはTDKの社外取締役を務める岩井睦雄氏、中山こずゑ氏、山名昌衛氏、勝本徹氏の4人が登壇し、質疑応答のようなスタイルで来場者と対話する時間が用意された。

 これまでに行なわれた社外取締役による発信の中で、BUごとに意識に差があり、これをベストプラクティスとして共有していく必要があると語られていたが、その発信から歳月が経過して現場にどのような変化が出ているのか、また現状の課題はどのようなものがあるのかについて問われ、これについて岩井氏は「私の印象としては、とくにエナジー(応用製品)では先んじていろいろと手を打っていく。これはよいときもわるいときも、そして先に向けて新製品の開発などもスピード感を持っていて、また利益達成に向けた意欲もしっかり意識している。こういったところをほかの事業部も学習していただきたいと取締役会でも提言していました」。

「実際にECBC(電子部品ビジネスカンパニー)の人がエナジーの方に行って、どんな風に開発のスピード感を上げたりしているのかを学びにいっているようなことも出ています。また、組織の縦割りではなく新しいものを生み出すには横連携が必要になります。例えばTDK Venturesのように最先端でやっているところと各事業部が横連携をしていろいろなことをやっていく。それをコーポレートのR&Dで引き受けて開発を行なっていく、それからM&Aようなところも積極的に進めていくといった動きもかなり出てきているのではないかと思います」。

「課題は細かいところではいくつもあると思いますが、私としては現在の地政学的なリスクといったところにどうやって対処していくか。これは非常に難しい問題です。そういったところを逆にチャンスに変えられるように、どうやれば変えていけるかというところが大きな課題ではないかと思っております」と回答。

社外取締役 岩井睦雄氏

 また、同じ質問について山名氏も答え、「TDKのよいところは、事業形態がそれぞれ違うところでグローバルな人材が持つ能力を最大限に引き出していて、これがTDKの力であり、これまでの成長を引っぱってきたところです。そんなよいところは今後も維持していかなければいけませんが、今、変わりつつあるところは3点ほどあって、1つはキャッシュフロー経営を徹底するようになったところ。そして今日の説明でも出ているように、ポートフォリオ管理をハードルレートまで設けて進めていて、課題のある事業も出てきつつ、いかに成長する方向に全体でもっていけるか、全体最適の議論を浸透させてきたこと。さらに成長領域において、AIエコシステムが代表的ですが、TDKが持つ各事業ごとの技術を掛け合わせたり、それにソフトやアプリなどをエコシステムと考えて、3年、5年で成長させていこうということを浸透させていく。これで今までのように遠心力で引き出してくるという流れから、全体でパワーを結集させて、さらなるプラスアルファを生んでいく方向に向かいつつあると感じます」。

「一方で課題ですが、2つ3つありまして、1つは社会に対する価値を自ら能動的に作り出して、ソフトも組み込んで、アプリもとなると、これまで強みとしていた人材面の強化が必要になります。技術についてはベンチャー投資などを先に向けていろいろと手を打っていますが、形にして成果まで持っていく人材という部分については検討中というのがまず1点目。また、(売上高で)3兆とか5兆ぐらいの規模感を考えると、経営全体でのグローバル化をどのように進化させていくか。事業面でも横串というものは必要ですが、縦方向の強さを維持しながら、どの機能についてはグローバルヘッドクォーターから求心力を発揮して進めていくのかといったグローバル経営の真価が求められるステージに入ってきているところ」。

「そして、少しテーマから離れますが、私は3年~5年での成長領域で卓越した技術を磨くというあたりにかなり力を付けてきていると思いますが、やはり中国のようにさまざまな新興企業がコスト競争力だけじゃなく、成長分野で圧倒的に技術力を高めつつあることが現実的だと考えると、すべての領域ではなく、確実に卓越した領域を持っていたとしても、そういった事業ですら新たな競争に晒される。そこでトータルでのコスト競争力をDXやAIを使いこなして会社として1段高いところでトータルのコスト競争力を高めていくところが課題であると認識しています」とコメントしている。

社外取締役 山名昌衛氏

 TDKが長期ビジョンのキーワードとしているトランスフォーメーションという点について、ハードウェアとソフトウェアの融合といった点について取締役会でどのような議論、またはアドバイスなどを行なっているのかという質問に対しては勝本氏が回答。

 勝本氏は「かなり頻繁に出る話題で、執行側の皆さんともよく話し合うテーマです。これまでのようにBtoBで部品をメーカーに納めるビジネスでは先方とスペックについてやり取りをして、その要求を満たすような部品やデバイスをミートするようなコストと納期で納めるようなやり取りになります。スマートフォンで使われるような部品でも、実際に使い人の要望ではなく生産する会社の担当者が指定するスペックにミートするように開発して製品にするようなパターンが多かったと思います」。

「ただ、これからスマートグラスなりSensEIといったような製品を出していくにあたっては、例えばSensEIを工場などの生産現場に導入する顧客の価値やニーズを的確に掴んでおかないと、デバイスなりソリューションなりがニーズに合うような構成に仕上げることができません。使い勝手のよい製品にすることが難しくなると思います。現在、センサー系のビジネスをしている部門の人はアプリケーションに近い部分の顧客が増えていて、実際には最終商品に近いところのニーズに触れる機会が増えてきているとも思いますので、そういった活動を増やしていくことが大事になっていくと考えています」。

「販売やセールス、マーケティングを担当している人の考え方も切り替えていく必要があって、これまでのように納品先の要望に対応することとは異なり、自らスマートグラスやSensEIが顧客の使い方でどのようなところがポイントになるか、それを実現するために、どのような部品やソフトが必要で、どんなコストで作るかを考えることが非常に大事になっていきますので、そこがTDKがトランスフォーメーションしていく大きなテーマになります。技術的なところとセールスマーケティング的なところで大きなポイントになると思っていますので、その点などの話をよくしています」と説明した。

社外取締役 勝本徹氏

 TDKがトランスフォーメーションによって変化していくため、これからの経営陣にどのような人材が求められていくと考えるか、どのようなところを変えていかなければならないと考えているかなどを質問され、これについては指名諮問委員会の委員長を務めている中山氏が回答した。

 中山氏は「指名諮問委員会の委員長をしていて感じるのは、『人間は促成栽培できない』ということに尽きます。ただ、ある年齢のところでいろいろなことを経験してもらうと、先ほどの山名さんや勝本さんの回答にもあったように非常にダイナミックな人材に育っていく可能性が非常に高いです。TDKには10万人の従業員がいますが、日本にいるのは1万人だけです。グローバルで見るともの凄いポテンシャルがあります。それに対して各層できちんとした教育プログラムが整備されて、私はとくに委員長なので、実際に教育プログラムを受けているところを見学して『この人はいいな』とかチェックしながら、われわれ4人が多角的な目で見ている最中です」。

「これからのことを考えたときにはあまり型にはめて考えず、ボラティリティの高い世の中でどういった人材がよいのか、われわれ自身も勉強しながらやっていかなければならないと思っております。期待していてください」と回答。自分たちも含めて変化させていく姿勢を示した。

社外取締役 中山こずゑ氏

 社外取締役4人との対話が終わったあと、最後のまとめとして齋藤社長が再び登壇。「統合報告書などで説明しているガバナンスの内容より、実態というか、実効性という部分のご理解を深めていただけたようなら幸いです」。

「私自身は常日ごろから新しいブランディングについて口にしていて、それは『In Everything,Better』という言葉です。ベストは永遠に来ない、だから常にベターを、永遠のベターを目指して行こうじゃないかという思いを込めて、『TDKユナイテッド』の10万人のチームメンバーに常に語りかけています。『TDKユナイテッド』で成長戦略の実行、ガバナンスの強化によって、長期ビジョンを実現したいと考えています。本日ご説明した中期経営計画の進捗、長期ビジョンの達成に向けた道筋も決してベストではないと思っています。まだまだ改善の余地はあります。投資家の皆さまとの対話、また共同活動をより活発化させていくことでベターな施策、戦略を練り上げていくことが長期的な企業価値の向上にとって非常に重要ではないかと考えています」。

「そのためにも、本日のイベントに限ることなくさまざまな場で社外取締役、執行側も含めて今後も継続的に投資家の皆さまと建設的な対話、そして共同活動を続けていきたいと考えておりますので、引き続きご支援のほどよろしくお願い申し上げます」と説明会を締めくくった。

「In Everything,Better」の考えでさらなる改善を目指していく
TDK Investor Day 2025(1時間34分17秒)