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HRC渡辺康治社長、F1日本GP決勝前に「目標は完走」と有言実行! バッテリにダメージを与える振動の原因なども説明
2026年3月31日 10:11
- 2026年3月28日~29日 実施
バッテリにダメージを与える振動の原因とは?
本田技研工業は、3月27日~29日に鈴鹿サーキットで開催された「2026 FIA F1世界選手権シリーズ アラムコ 日本グランプリレース(以下、F1日本GP)」に合わせてメディアツアーを実施した。
29日の決勝レース前にはHRC(ホンダ・レーシング)代表取締役社長の渡辺康治氏が登場し、「2021年にF1参戦を正式に終了し、その後レッドブルの技術パートナーとして2025年までRBPT(Red Bull Power Trains)のテクニカルサポートをしてきました。2026年からはAston Martin Aramco Formula One Team(アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワン・チーム)と組んで正式に再参戦しているのは、ご存じのとおりかと思います」とあいさつ。
そして、現在苦戦している原因について渡辺社長は、「言い訳になるのであまりいいたくはないのですが……」と前置きしつつ、「これまでF1にはかなりのトップエンジニアを使っていましたが、2021年のF1撤退と同時にカーボンニュートラル実現に向けたリソースに集中するため、先進技術や量産開発のほうに人員を戻しました。その後2023年4月にホンダの経営会議で“F1に戻りたい”と提案して承認を得たことで、そこからまた人員を戻し始める訳ですが、ジェット(飛行機)やロケットなどいろいろな領域から引き戻すのにだいぶ時間がかかってしまいました。その結果いろいろな開発のスタートが遅くなってしまった」と苦労を説明。
また、ハードルが高いのは開発だけでなく、予算の上限もあるとし、「決められた予算の中で開発はもちろん、部品なども購入しなければならないが、現状では予算の多くをリライアビリティ(信頼性・確実性)の部分に使ってしまっている」と厳しい状況を言及した。
続けてマシンに発生している振動問題については、「Sakuraのシミュレーションでは許容範囲内のレベルだったが、実際に車体へ組み付けてみると非常に大きくなった。その振動がバッテリにダメージを与えていて、通常は年間3基しかバッテリを使わないところ、最初は1レースももたない状況だった。本来は年間3つしか作らなくていいものなので、あまり在庫を持っていなかった。また、バーレーンでの2回(2月11~13日&2月18~20日)のテストを経て、開幕戦のオーストラリアGPまでの間に全くテスト走行ができなかった。考えられるあらゆる振動対策を施したところ、今は振動も相当消せていてバッテリも数レースはもつように仕上がってきた。ただしこれらは暫定対応なので、実際の振動が全部消せた訳ではなく、それがドライバーに対して不快に感じられるのが現状です。また、振動は当然エンジンから発生していますが、車体を通じて共振するので、エンジン側だけで直せる話ではなく、アストンマーティンとワンチームで取り組んでいます」と解説してくれた。
最後に渡辺社長は、「今日の目標は“まずはしっかり完走をする”というのが正直なところです。信頼性も上がってきていて、パワーユニットだけなら走り切ることはおそらくできるであろうという状態ですが、どこで何が起きるか分からないですし、まずはホームの鈴鹿で初めての完走をする。この後の中東(第4戦バーレーンGP、第5戦サウジアラビアGP)がキャンセルになったので、その時間を使いながら信頼性をしっかり上げて、今度はパフォーマンスのほうも高めていきたい」との展望を語って締めくくった。
その後の決勝レースでは、フェルナンド・アロンソ選手(14号車 アストンマーティン・ホンダ)が18位でチェカーを受け、有言実行で目標を達成した。
F1の観客が変化し始めている
メディアツアーで、VIPパスがないと入れないパドックを特別に案内してくれたのが、HRC UK(Honda Racing Corporation UK Ltd./ホンダ・レーシング・コーポレーション・ユーケイ・リミテッド)の戦略コミュニケーション・マーケティング担当の鈴木雄介氏。パドックでは各チームの特色あるピット入口が見れたり、ピレリのタイヤが展示されていたり、なかなか見ることのない景色が広がっていた。
鈴木氏は2012年にホンダへ入社し、2016年に広報部へ配属。商品広報とモータースポーツ担当を経て、2017年にF1の現場担当としてイギリスに駐在し、当時かなり厳しかったマクラーレン・ホンダ時代から2021年の撤退まで全戦に帯同。そして1度ホンダを退職して、2022年から2025年12月まではレッドブル・レーシングの一員として継続してF1に帯同。2026年1月から再びホンダへ戻り、HRC UKの広報とマーケティングを担当するなど、ここ10年間のF1すべてを見てきた人物。
鈴木氏の説明によると、「アストンマーティン・ホンダの場合、サーキットのピット内に約50人、ファクトリーにもおよそ50人、走行データなどをチェックしているSakura Mission Room(サクラ・ミッション・ルーム)に10~15人、そのほかマーケティングや広報などのスタッフもいれると全部で120人ぐらいが関わっているかと思います。各チームが120人~150人くらいいるのでパドックエリアにはメディアも含めて約2500人ほどいるかと思います。またタイヤは、1レースにつき1台あたりドライが13セット(52本)、ウェットが7セット(28本)の計20セット(80本)。ドライバーが2人いるので各チーム160本、11チームあるので全部で1800本ぐらいがイタリアから鈴鹿サーキットへ送られてきた訳です」とレース規模の大きさを紹介。
続けて、「ホンダは結構メカニックが多く、SakuraのメンバーとUK駐在メンバー、UKローカルメンバーで、割と若い子(20代後半)を送り込んでローテーションしていますが、特にミスが許されない領域なのでSakuraの中でも選りすぐりのメンバーでまわしています。エンジンの部品点数は1万点以上あり、普通は2人でやるのですが、ここに来ているメカニックは1人でそれをすべて組み付けられる能力を持っています。締め付け順やトルクなどは1つでも間違えると当然やり直しになる世界ですが、そのあたりも全部頭に入っているし、交換するのに必要な時間もすべて把握していて、何かトラブルが起きたら、次の走行枠までの時間とやれる作業を考えてプランを組み立てます。設計するエンジニアも、作業するメカニックも、自分のミスでリタイヤしたり、故障したら、億を超える損害になりかねませんので、ものすごいプレッシャーの中で動いています」とF1界の厳しさを語ってくれた。
また、F1ファンは世界的に増えているほか、視聴環境もかなり変わってきていて、熱心にサーキットへ足を運ぶファンだけでなく、ハイライト動画だけ見たり、毎日ソーシャルメディアを見たりとか、スポーツというよりも総合エンターテイメントとして広がってきているという。
加えて、自動車メーカーやサードパーティをはじめ、ビザやマスターカード、ディズニーといったスポンサーも、みんな将来的なお客さんになる“ジェネレーションZ”にリーチするために参入していて、F1好きになる手前の興味を持つ、さらにはロゴが目に入るだけでもいいといった感じの企業もあるとのこと。
最近のF1ファン増加について鈴木氏は、「F1グループCEO(最高経営責任者)であるステファノ・ドメニカリさんの手腕がすごくて、スポーツ業界の中でも最先端にいっていると思います。特にアメリカは顕著で、Netflixだけで終わらずハリウッド映画も作ったことで、僕のまわりでも『F1はよく知らないれけど映画は見たよ』といわれますし、実際にアメリカや前戦の中国GPも若い観客が増えている。アメリカは特に若い女性の観客が増えているように感じます。最近は各F1チームのマーケティングメンバーも、サッカーやラグビーやクリケットなど、異なるスポーツ界のマーケティング専門家を呼んで、コンテンツを作ったりしているようです」と最新動向を教えてくれた。
続けて鈴木氏は、「昔はホンダやフェラーリ、メルセデスといった自動車メーカーを応援するのが観客のスタンダードでしたが、最近はドライバー個人を応援するファンも増えていたり、ハリウッドスターのブラッド・ピットさんが、角田裕毅選手に声をかけた話とかもう世界的なスターですよね。日本人アスリートのSNSフォロワー数の1番はメジャーリーガーの大谷翔平選手で、2番目が角田選手といわれていますが、大谷選手は日本人フォロワーが多くて、角田選手は外国人フォロワーのほうが多いといった現象も、F1の影響力の特徴かもしれません」と説明。
最後にアストンマーティンとホンダの関係について鈴木氏は、「雰囲気はピリピリしてないの? などよく聞かれますが、現場のエンジニアやメカニックは目の前の仕事に向き合っているし、チーム全体で今よりもよくすることだけに集中しています。ただ、仕事のやり方や進め方はチームによって違いがありますので、一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど関係性はよくなっていくものだと思います」とメディアツアーを締めくくった。
【お詫びと訂正】記事初出時、F1のチーム数に誤記がありました。お詫びして訂正させていただきます。





























