ニュース

トヨタ製フィジカルAIロボットの強みは、トヨタ生産方式、AIモデル「LBM」、ロボットにも拡張した「拡張Arene(アリーン)」と中嶋裕樹副社長

トヨタ製フィジカルAIを搭載したロボットとして公開された「エリー」

トヨタ製フィジカルAI搭載ロボットの6つの強み

 トヨタ自動車 代表取締役副社長兼CTO(最高技術責任者)である中嶋裕樹氏は、欧州統括会社であるTME(Toyota Motor Europe、トヨタモーターヨーロッパ)において投資家向けに実施した技術説明会において、トヨタが2028年から年間1兆円(5.6Bユーロ)ずつ既存工場60か所の刷新とフィジカルAI搭載ロボットの導入のために投資し続けることを発表した。

 その中で中嶋副社長はトヨタ製フィジカルAIロボットの強みを説明。
トヨタ製フィジカルAIロボットの強みは、以下の6つのものがあると語った。欧州でのプレゼンテーションなので強みは英語で記す。

トヨタ製フィジカルAI搭載ロボットの強みについて語るトヨタ自動車株式会社 代表取締役副社長兼CTO 中嶋裕樹氏

1.Toyota Production Model
2.Foundation Model
3.Hardware
4.Factory Control Platform
5.Arene
6.Genba

トヨタ生産方式

 1つ目のToyota Production Modelは、トヨタ生産方式でありTPSとして世界中のものづくりの革新に貢献し、多くの企業が導入している生産方法になる。グローバルは、フォードが始めた流れ作業による生産方式(いわゆるフォードシステム)を高次元に引き上げたもので、生産工程の見直しにより生産在庫を極力持たないことからリーン生産方式とも呼ばれている。

 その中には行灯(アンドン)など、そのまま英語になっているものもあり、このTPSをソフトウェア生産に適用したものがアジャイル開発であり、ものづくりにおけるトヨタ最大の強みになっている。

 中嶋副社長は、フィジカルAIロボット導入はこのトヨタ生産方式を適用した上で工場に入れていくという。単なる人の置き換えなどではなく、まずは生産工程を見直し、生産の整流化を行なった上で必要な箇所にフィジカルAIロボット導入していく。

 一つの実例として、中嶋裕樹副社長は海外の生産工場を見学したときのことを挙げ、「自動化は本当に進んでます。人がいないでしょって言われるのですが、重厚長大な設備が入っているものもあり、本当にその設備が仕事の、正味の仕事をしているかというと、なかなかそうではない実態をたくさん見ています」と語る。フィジカルAIロボット導入というと、すぐに人の置き換えや無人化という話になりがちだが、トヨタではまずは生産工程を見直し、工程の整流化を実施し、その上で必要なところにフィジカルAIロボットを入れていく。

 例えば、「大型のエンジンを運ぶAGVがズラッと並んでて、人はいない。素晴らしいなって言うんですけど、我々からすると運んでいることに付加価値はないわけです。エンジンにどういう付加価値のある加工をしているかどうか、その工程を見ると何十もあるAGVのうちわずか数機しかそこで働いていないというようなことが見えたりする」とも言い、大量にロボットを導入し、無人化をすることが仕事ではないという。

 必要なのは「工程を作り込むこと」であり、「工程をしっかりと整流化していった上で自働化をする。自働化を入れたらそれで終わりではなく、改善を繰り返して、もっとそれをコンパクトにしていく」(中嶋副社長)と語り、トヨタにおけるフィジカルAIロボット導入の発想の大元は、生産工程をどれだけリーンにしていくかというトヨタ生産方式の考え方があり、そのリーン生産を高めるためにフィジカルAIロボットを導入していき、英語にもなっている「カイゼン」を繰り返していくとのこと。

 トヨタ生産方式の導入が大前提としてあり、フィジカルAIロボットはそこに導入する価値があるものとの考え方を示した。

ファウンデーションモデル、自社製AIであるLBM(大規模行動モデル)

 2つ目のFoundation Modelは、トヨタの先端研究開発会社であるTRI(Toyota Research Institute)が開発した生成AIであるLBM(Large Behavior Models、大規模行動モデル)を採用していることを指す。

 このLBMは、生成AI(generative AI)の一つであり、ChatGPTのような大規模言語モデルであるLLM(Large Language Models)の行動版にあたる。LLMがチャットによる言語の入力から、大規模な学習結果により出力を推定していくのに対して、LBMは大規模に振る舞いを学習していくことで、振る舞いの入力から次の出力を推定していく。

 これまでロボットを動かすには、ロボットのプログラミングが必要であったり、ティーチングという形で動きをそのまま教え込むことが必要であった。このLBMでは、言語は不要で、動きを何度も教え込むことで、動きの裏にある意味を推定。結果として、必要な動きを実現できるようになる。

 TRIのCEOであるギル・プラット博士(Dr.Gill Pratt)が来日時に、このLBMについていくつか深い討議をすることができたが、画像生成AIや映像生成AIに用いられる「Diffusion Model(拡散モデル)」が使われていると語っていた。つまり、動きをイメージで捉えてパラメータとして保存。大量の動きによって調整されたパラメータを用いることで、新たな動きに対する新しい動きを予測(したように見える)しているのだろう。

 これまでのロボットのように、空間座標を取得した動きを繰り返すのではなく、AIによる動きの予測を行なっているというのがポイントになる。

 特にメリットとして挙げるのは、これまで言語化や数値化が難しかった匠(TAKUMI)と呼ばれる超熟練工の技を再現できること。超熟練工がフィジカルAIに動きを教えることで、フィジカルAIはその動きを学習。動きの裏にある法則を見つけ出し、熟練工の溶接や組み立て、塗装などができるようになる(だろう)。

 まったく横道にそれるような話だが、トヨタ車の生産精度は世界的に高いことで知られている。チリと呼ばれる部品の合わせ目の管理などが、1980年代から世界でもトップクラスにあり、特にドアまわりなどは生産車として美しく仕上がっていた。

 個人的に古い話だが、ほかのメーカーの日本車を購入したときに、新車購入後そのメーカーの特別なフェア(点検フェアでしたっけね)がオートバックスであった。新車を購入して1週間以内にもかかわらず、そのメーカーの営業マンに、「あー、これ(ドアまわりの)スキマが大きいですね。事故車ですか?」と言われたことは一生覚えているだろう(新車であるにもかかわらずドアの取り付けゆがみがあり、高速走行時にはハデな空気の吸い出し音が発生。複数回ディーラーに持ち込んで直した)。

 閑話休題、つまりトヨタ製のフィジカルAIロボットはトヨタ製のAIを搭載しており、それにはトヨタの匠の生産の技が搭載可能となっている。世界でもトップクラスと言われる、トヨタの生産技術がフィジカルAIロボットによって適用できる可能性を中嶋副社長は語っていた。

世界で最も信頼されているトヨタ自動車のハードウェア

 3つ目のHardwareについては、説明の必要もないほどだろう。トヨタ自動車の作るクルマで、最も評価されている点を挙げよと言われたら、「信頼性」が真っ先に出てくるほど、そのクルマづくりの定評は高く、トヨタが世界でもトップクラスの販売数を誇っている一つの要因になっている。

 本格SUV「ランドクルーザー」に代表される機械としてのタフネスさ。世界的なベストセラーとして全世界で販売され、その信頼性を誰もが知っている「カローラ」など、トヨタのハードウェアの信頼性は高い。

 もちろんトヨタ自身も、自社のハードウェアにおける信頼性の高さは理解しており、TS(トヨタスタンダード)として必要な作り込みを行なっている。

 トヨタ製のフィジカルAIロボットは、その信頼性を背景にしたものであると中嶋裕樹副社長は語った。

ファクトリーコントロールプラットフォーム

 4つ目のFactory Control Platformは、トヨタではお客さんの注文から生産・サプライヤーまで一気通貫につながっていることが強みだという。TPSにつながる部分もあるが、「生産指示というものが、我々の工場で作るものをいつどこに運んでくればよい。そのためにサプライヤーさんはいつどのタイミングで物を作ればよいっていうのは、全部情報が一気通貫でつながっています」と語る。

 また、トヨタでは交通事故ゼロを実現するために、人、クルマ、インフラを三位一体で協調させる取り組みを行なっており、その中には自動運転車が街中でお見合いしたときに、そこを解決するトラフィックコントロールの仕組みを作り上げようとしている。

 中嶋副社長は、こうしたトラフィックコントロールの取り組みは、サプライチェーン全体に適用できるものであるといい、ファクトリーオートメーション3.0を実現するためのファクトリーコントロールプラットフォームをトヨタは用意するという。

クルマのOSとしてスタートした「Arene(アリーン)」が、トヨタ製フィジカルAIロボットを担うプラットフォームに

 トヨタ自動車のアリーンと言えば、当初は将来のトヨタ車を支える車載OSとして発表され、現在は位置づけを変更し、「ソフトウェアづくりプラットフォーム『Arene』」として説明されている。

 実際の採用車種は、トヨタ初のSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義車両)である新型RAV4からはじまり、徐々に採用例が増えている。このアリーンが適用されている場所は、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems、先進運転支援システム)と、IVI(In Vehicle Infotainment、車載インフォテイメント)の部分になり、第4世代トヨタセーフティセンスといった安全面、コクピットやナビ画面まわりといった情報面のアプリケーション開発を支えている。

 車載OSからソフトウェアづくりプラットフォームになった時点でアリーンの役割は拡大。開発キットであるアリーンSDK、データ収集分析基盤であるアリーンデータ、ソフトウェアの検証・評価を行なうツール群であるアリーンツールズからなるとしており、「アリーンを通じたもっといいクルマづくり」を行なっていくと発表している。

 中嶋裕樹副社長は、このソフトウェアづくりプラットフォームであるアリーンをトヨタ製フィジカルAIロボットにも拡張するという。クルマづくりで使われているアリーンが目指す開発環境としては自動運転車のソフトウェア開発があり、自動運転車では「認知、判断、行動(認知・判断・制御とも)」(英語では、perception、planning、action[control])が大切になってくる。

 外の状況をどのように認識し、その結果どのように判断し、その結果どのように行動するのか、といったどのようにという部分を開発する必要があり、そこが開発ポインとなっている。

 実はこれは、自律型のロボットも同様で、自動運転車とロボットは最後の部分がモビリティなのかアクションなのかが異なる程度。制御による現われ方が異なっているだけで、ソフトウェア的には同じ手法が適用できる。

 そういった背景もあってか、トヨタは交通事故死ゼロに向けて開発しているアリーンをロボットのソフトウェア開発プラットフォームとして拡張。さらにこの拡張アリーンでは、1社だけの1チップ車載(ロボット搭載)半導体であるSoC(System on a Chip)だけでなく、複数社(種類)のSoCに対応していくことも明らかにした。

 この拡張アリーンによってフィジカルAIロボットのアプリケーション開発がしやすくなり、しかもトヨタはロボットの頭脳となる半導体の選択が広がるほか、半導体の仕様変更に伴うメンテナンスも楽になる。このメンテナンスが楽になるのは、10年20年と製造機械を使っていく産業において非常に大切な要素で、拡張アリーンを組み込むことでこの辺りの柔軟性も上げていく。

トヨタはGenba

 中嶋副社長がトヨタ製フィジカルAIロボットの強みとして最後に挙げたのは「Genba(現場)」。実際にクルマを生産する工場という現場を持っているのが強みだという。「ファクトリーオートメーションを導入して終わりではなく、その後どんどんどんどん人が改善していく。その改善の結果またファクトリーオートメーションの変革につなげていく」と、終わりなき改善を行なっていくという。

フィジカルAIロボットの40万台導入と、ロボットの外販

 これだけのビジョン、そして新組織「トヨタ ロボティクス」をもってトヨタは40万台のフィジカルAIロボットを、2028年から年間1兆円を投資して60の製造工場に順次導入していく。

 中嶋副社長は、現在多くの企業がトヨタ生産方式を学びに来ていると語り、それらの企業に向けてもトヨタ製フィジカルAIロボットを販売することはできるという。

 トヨタとしてもこれだけの投資を行なうため、フィジカルAIロボットの外販は視野に入れており、ものづくりを行なう企業においても、トヨタの生産知識が埋め込まれたトヨタ製フィジカルAIロボットは魅力的に映るだろう。しかも、それらのロボットは拡張アリーンが搭載されており、QRコードを生み出したカンバン方式のノウハウが詰まったトヨタ製ファクトリーコントロールプラットフォーム(アリーンのような名前があるかどうかは未確認)で結ぶことができる。

 これまでフィジカルAIロボットというと、どうしても二足歩行ロボットという外見に注目が集まりがちであったが、中嶋副社長はトヨタの6つの強みを持つフィジカルAIロボットを、まずはトヨタ生産方式によって工程の整流化を図り、しかる後に導入していくという。

 自社グループへの導入、そして外販など詳細なスケジュールは発表されていないが、トヨタ生産方式によって世界的なものづくりをリードする会社のフィジカルAIロボット導入は注目されるだろう。

ロボット産業は世界最大の製造業になるとNVIDIAのジェンスン・フアンCEO

 ちなみに、フィジカルAIという概念を世界に広めた一人であるNVIDIA ジェンスン・フアンCEOは、7月の来日時にフィジカルAIの方向性として、「次の製造業はおそらくロボット産業、それまでは自動車が世界最大の産業」と発言。フィジカルAIが搭載される最初の大きな産業が自動運転などの自動車産業となり、その後、それを超える規模にロボット産業がなると語っている。

 具体的には、記者がトヨタとの提携拡大について質問したときに、「ご存じのとおり自動車産業は世界最大の製造業です。次世代はロボティクスになることを期待していますよね? (自動車を運転する)人口はせいぜい10億人しかおらず、誰もがクルマを運転する必要はないので、製造すべき自動車は1億台程度になります。しかし、ロボットの数はもっと多くてもおかしくありません。家庭にも多くのロボットがあり、職場にも多くのロボットがあり、工場にはさらに数え切れないほどのロボットが存在します。ですから、次の製造業は恐らくロボット産業になるでしょう。そうですね?」と答えてくれており、最後にフアンCEOは、「Toyoda-san is, Toyoda-san is pretty incredible」(豊田さんは、本当にすごい)と付け加えていた。

 7月の時点では、これはCES2025の基調講演で豊田章男氏に革ジャンを選択してもらって以来の親交と解釈していたのだが、もしかしたらトヨタ ロボティクスに関連することだったかもしれないなと、今は考えている。