ブリヂストン、3Dヘルムホルツ型消音パターン採用フラッグシップタイヤ「REGNO GR-XT」【試乗編】
これからの時代に求められる要素を、より高い次元で実現


 ブリヂストンが2月1日に発売する「REGNO GR-XT(レグノ ジーアール・エックスティー)」。技術要素については、前編の説明会編で触れたとおりだが、後編では同社のテストコース「ブリヂストンプルービンググランド」(栃木県那須塩原市)で行われた試乗会の模様を、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏によるレビューでお届けする。

転がり抵抗を低減し「ECOPIA」ロゴが刻まれたREGNO GR-XT
 ブリヂストンのREGNOといえば、30年の歴史を持つ同社乗用車用タイヤの最高峰ブランドだ。先代のGR-9000が登場したのが2007年7月なので、3年あまりが経過したことになる。その3年の間に、「環境」という要素など自動車というものに求められるものが変わってきたことがあり、当然ながらタイヤに求められるものも変わってきた。

 そうした新しい時代の要素を採り入れたフラッグシップ製品の名称は「GR-XT」。先代の数字型番から変更された名称の由来については、【説明会編】で紹介したとおり。自分としては、ここからREGNOが新世代に突入したといったイメージを受けた。

 実際、このGR-XTには、ラベンリング制度に対応したエコタイヤとなったこともあってか、同社のエコタイヤのブランドである「ECOPIA(エコピア)」ロゴが刻まれている。タイヤブランドであったECOPIAが、タイヤの性格を表す意味合いで使われていたことには、ちょっと驚いた。

 発売は2月1日とまだ先だが、一足早くブリヂストンプルービンググランドと、その周辺の一般道でその性能を試すことができた。

体感で分かる転がり抵抗の小ささ
 試乗会は、転がり抵抗の小ささを試す実験から始まった。8度に傾斜したトラックの荷台からフリーフォールさせたマークXは、GR-9000装着時は57.5m進み、GR-XT装着時は91.9m進んだ。強めに吹いていた追い風の影響もあって、どちらもかなり距離が伸びたのだが、GR-XTは、もう止まりそうに見えたところから、まださらにグングン伸びたように見えた。

 同社が別の機会に行ったテストでは、GR-9000が43m、GR-XTが59mとのことだったので、転がり抵抗の小ささは、強い風の恩恵をより大きく受ける結果になったと言える。

栃木県那須塩原市にあるブリヂストンプルービンググランド8度のスロープから車を滑り落とす
一番手前がGR-XTの停止点。奥にスロープが、その手前にGR-9000の停止点が見える当日は強い追い風が吹いていた。そのこともあり、大きな差となったようだ

 続いて、GR-XTを装着した車両で公道を試乗。試乗に用いたのはメルセデス・ベンツ E250 ステーションワゴン。装着されていたのは、225/55 R16のGR-XTで、空気圧は前後とも260kPa。

 GR-XTでウリとなっている転がり抵抗の小ささは、公道で普通に運転していても感じ取ることができる。とくに、アクセルを軽く踏んだ際の加速における走り出しの軽さと、アクセルOFF時の空走感に、その恩恵が感じられ、空気圧を高めて接地面積の小さくなったタイヤに似た感覚ながら、それでいてグリップ力はしっかり確保されているというべき印象である。

 走り出してすぐに、“これは静かなタイヤだな”と思えた。試乗した車両はワゴンのため、キャビンと荷室の間に仕切りがなく、走行音の進入に対してセダンより不利となる。メルセデスの場合、ワゴンといえども静粛性については比較的上手く仕上げられているわけだが、それでもなかなかセダンと同等とはいかない。

一般道、高速道路の試乗にはメルセデス・ベンツ E250 ステーションワゴンを選択。後方からの音を、よく知りたかったため一般道を走行中

 ところが、GR-XTを履いたEクラスワゴンは、後方から入ってくる音のレベルが小さく、前席と比べても遜色ない。走行音が気にならない感覚があった。これは、ヘルムホルツ型消音器をタイヤに多数刻んだ3Dノイズ抑制グルーブにより、タイヤ自体の発する音がとても小さくなっていることにほかならないからだろう。

 もう1つ感じたのが乗り心地のよさだ。走り出した直後の、熱の入っていない状況でもゴムの硬さを感じさせない。タイヤというのは、冷えているときは硬いので、乗り心地も硬く、走行して転動すると、路面との摩擦でやタイヤの変形に伴う運動で熱を帯びて柔らかくなるもの。しかしながらGR-XTは、走り出したときと、その後のフィーリングがほとんど変化しなかった。

東北自動車道に入り、高速道路での走行性能も確認してみた東北道(上り)を走行中。走行車線と追越車線の舗装の違いが分かるだろうか。GR-XTでは、舗装の違いによる影響が小さい黒磯PA(パーキングエリア)で一休み

 発着地に戻ってタイヤの表面を触ってみても、ほとんど熱を持っていないのだ。通常のタイヤコンパウンドだとかなり熱を持ってもおかしくないが、GR-XTは冷えたまま。いくら12月の寒い気候、気温が低めの那須といっても、これほど熱を持たないというのは予想外であった。

 開発陣にこの点を尋ねると、「低燃費(転がり抵抗の小さい)ゴムは、熱を持つことが非常によくないので、発熱しにくくしている。硬いゴムが(走行によって)柔らかくなるのではなく、最初から計画して柔らかくしている。こうすることで、グリップと低転がり抵抗=低燃費を両立できる」とのことだった。

テストコースを使ってGR-9000とGR-XTを比較
 次いで用意されたプログラムは、ブリヂストンプルービンググランドの周回路に設定されたコースを、まったく同じ車両で、GR-9000とGR-XTを履き替えて、フィーリングの違いを体感するというものだ。

 ここでは、より厳密にGR-9000とGR-XTの違いを感じ取ることができた。GR-9000は、快適性、操安性、静粛性とも、かなりハイレベルなタイヤだと認識していたのだが、GR-XTに履き替えると、ノイズレベルが全体に低く、音の発生源が遠くにある感じがした。

 また、GR-9000では若干感じられた乗り心地の硬さが、GR-XTではなくなった。高機能舗装路を模した路面では、高周波部分が減り、相対的に低周波部分が強調されるはずだが、そこでのノイズが耳障りに感じる印象も小さい。うねりのある路面や、段差を通過しても、キャビンに伝わる衝撃がより緩和されており、ゆすられる感覚も少ないものがあった。

 今回、スキール音が鳴るような走り方は一切しなかったが、ごく短距離のコースを走った直後のタイヤ表面を見ても、GR-XTのほうがだいぶ柔らかいことが見て取れた。

 ちなみに、コーナリングパワー(単位角度あたりのタイヤに発生する横力。単位はN/deg)については、柔らかめのゴムを使っていることもあり、微少角度においてはGR-9000比で若干落ちているが、コーナリングフォース(タイヤに発生する横力。単位はN)の最大値については同等と言う。CPがあまり下がると、たとえば高速道路のレーンチェンジでステアリングに対する反応が鈍くなったりなど不安感につながるので、確保には努めたとのことだった。

テストコースを走行して、GR-9000とGR-XTを履き比べる高速周回路の一部では高速域を、そのほかの区間では低速域の違いを確認ブリヂストンプルービンググランドにはさまざまな路面が用意されている。色の濃い手前の部分が、建設当初から舗装の手直しを行っていない、荒れた路面
履き比べテストは、GR-9000→GR-XT→GR-9000の順で行い同じ車両を使用。そのため、ブリヂストンのスタッフが短時間でタイヤ交換を行うGR-9000とGR-XTの違いを、ボイスメモを取りながら確認中転がり抵抗のみを体感するための3輪車もあった。GR-XTのほうが、明らかに転がり抵抗が小さいと分かる
レクサス LSを使っての特殊舗装での走行この特殊舗装路面は、とくに荒れたものになっている
GR-9000のトレッドパターンとその拡大写真
GR-XTのトレッドパターンとその拡大写真

 GR-XTは、ラベリング制度のウェットグリップ性能表示で「b」を得ているタイヤ。ウェット性能については、今回試すことができなかったが、GR-9000と同等の性能を確保していると言う。これについては、いずれ改めてお届けしたいと思う。

 GR-XTには、同社が手がけたタイヤ新技術であるサイドウォールの「非対称形状」がGR-9000同様採用されている。この技術は、タイヤの内側の剛性を高くすることで、高い直進安定性を確保しつつも、外側は剛性を落とすことで、外乱入力による横力変動を抑えるというもの。路面からの入力に対して、タイヤを介してクルマ側で起こる挙動変化が小さくなり、いい意味で“鈍感”になるという効果が期待できるのだが、ごく短時間の試乗枠の中でも、その恩恵を感じることができた。

 長距離をドライブしても疲労感は小さくてすむ半面、ソリッドなフィーリングが薄れる面もなくはなく、この辺りは好みの分かれる部分。強いダイレクト感のある走りを求める人にとっては、少々物足りない面があるものの、REGNOのコンセプトである快適性と運動性の両立を求める人にとっては、より静粛性を向上させたGR-XTこそ最良の選択肢となるだろう。

 2月1日より順次発売となるサイズラインアップでは、フィットをはじめBセグメント車で主流となっている175/65 R14や、レクサス LSに代表される大型高級車に多い245/50 R18など、30サイズが用意される。

 REGNOという高性能ブランドでありながら、14インチや15インチのラインアップが10サイズと充実しており、愛車のダウンサイジングを図る高年層のユーザーにとっても選びやすい設定となっているのも特徴だ。これもGR-XTのキャラクターを表す、1つの側面と言える。

 GR-9000では、乗り心地や静粛性などの快適性を十分に保ちつつ、操安性などパフォーマンスに注力した印象を受けたが、GR-XTは逆に、絶対的なパフォーマンスを確保しつつも、主たる性格を低転がり性能と快適性に振ったという印象を受けた。

 これまでのGR-9000も素晴らしいタイヤで、あらゆる要素を高い次元で達成したオールマイティなタイヤであることは、今でも重々承知している。ただし、環境性能や快適性、あるいはタイヤとしての「高級感」の演出など、これからの時代に求められるプレミアムタイヤとしての要素を、より高い次元で身に着けている製品としては、GR-XTに軍配を上げられるのではないかと思う。

 タイヤというものの進化の速さを再認識するとともに、タイヤだけでこれほど走りが変わることを、あらためて痛感した次第である。


(岡本幸一郎)
2010年 12月 27日