自動車事故対策機構、JNCAP(自動車アセスメント)の衝突試験を公開
ISO FIXチャイルドシート衝突試験や歩行者脚部保護性能試験も実施

公開されたトヨタ「プリウスα」のオフセット前面衝突試験の様子

2012年1月19日公開



 自動車事故対策機構(NASVA)は、茨城県つくば市の日本自動車研究所で、現在市販されている自動車等の安全性能について試験による評価を行う「自動車アセスメント(JNCAP:Japan New Car Assessment Program)」および、チャイルドシートアセスメントを報道機関向けに公開した。

 今回は、これまでのオフセット前面衝突と側面衝突試験に加え、ISO FIX(共通取り付け金具)を使用したチャイルドシートの衝突実験、今年から本試験となった歩行者脚部保護性能試験など、計4種類のテストが公開された。なお、当日は試験の様子のみが公開され、評価結果については4月25日に改めて発表される。

 また、2011年度より乗員および歩行者の交通事故実態を勘案し、自動車の総合安全性能評価をこれまでの1つ星~6つ星から、1つ星~5つ星と得点で評価されることとなった。

 「スターレイティング」(☆評価)については、乗員保護性能評価を100点満点、歩行者保護性能評価を100点満点、シートベルトリマインダー評価8点満点の計208点満点で5段階評価する。110点未満は1つ星、110点以上130点未満は2つ星、130点以上150点未満は3つ星、150点以上170点未満は4つ星、170点以上を5つ星とする。さらに最高評価となる5つ星の追加条件として、それぞれの衝突試験および歩行者脚部保護試験でレベル3以上が必要(後面衝突試験は2012年からはレベル4以上が必要)となった。なお、個々の評価については新旧の評価で同じ点数で比較できるとしている。

オフセット前面衝突試験
 最初に行われたのは、運転席と後部座席にダミー人形を乗せ、64km/hで車体前部の40%を障害物を模したアルミハニカムに衝突させるというもの。ダミー人形は、以前は成人男性型2体を前席左右に搭載していたが、2009年より1名を助手席側後席に移動し、成人女性型のダミーに変更している。

 試験車両には、2011年5月に発売されたトヨタ「プリウスα」を使用した。グレードは「S」で、フロントエアバッグ、サイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグを標準装備している。排気量は1,797cc、車両重量は1,450kg。駆動方式は2WD(FF)で、乗車定員は5名。なお、この試験にはハイブリッドカーのプリウスαが使用されたため、感電保護性能試験も行われた。

試験施設全景。左に車両の加速用エリアが設けられている障害物を模したアルミハニカム

 感電保護性能試験とは、ハイブリッドカーや電気自動車(EV)でのフルラップ衝突試験とオフセット前面衝突試験、側面衝突試験で実施される試験で、衝突時の「感電保護性能要件」「高電圧バッテリー(RESS)の電解液漏れの有無」「高電圧バッテリー(RESS)の固定状況」に加え、高電圧自動遮断装置が装着されている場合には、その作動状況も評価される。なお、感電保護性能の評価は2013年までは車室内のみ、2014年以降は車室外でも行われると言う。感電保護性能試験では、すべての要件に適合した場合はパンフレットに「SAFE」マークが表示されることになる。

 評価は、前後席それぞれのダミー人形の頭部、頸部、胸部、腹部(後部座席のみ)、下肢部に受けた衝撃や室内の変形をもとに、乗員保護性能を5段階で評価するもの。評価には、欧米等の自動車アセスメントで用いられている換算関数を用いて、各部位を4点満点で点数化、各部位の車体変形量0~-1点を足した上で、事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせ、12満点中6点までをレベル1、それ以上から満点までの間を4等分してレベル2からレベル5の5段階で評価する。

 試験車の加速には試験場の床に設置されたカタパルトを用い、クルマのイグニッションをONにし、ガソリンは入れずにダミー燃料を満タンにした状態で試験は行われた。衝突の状態は高速度カメラで撮影するため、車両は複数の照明に照らされていた。場内放送でカウントダウンが始まると、カタパルトの音が場内に響き、大きな衝突音とともにプリウスαがアルミハニカムに激突した。衝突時の速度は64km/hで、車体は一度つんのめるようにリアが持ち上がったあと、左にはじき返されて静止した。オフセット衝突とはいえ、フロント部分はほぼ原型をとどめないほどに破壊された。

 クルマが静止すると、まずボディー下部に油脂類やバッテリー電解液が漏れてないか確認してから、各所の損傷度合いを係員が撮影、記録する。また、トランクルームを開けて、後部座席下にある高電圧バッテリーがきちんと固定されているかを確認、トランクに設置してある計測機器をPCに接続して、ダミー人形や車体各所のセンサーからの情報をPCに吸い上げる。なお、高電圧自動遮断装置については、リアフェンダー部に専用のLEDを備え付け、そのLEDが消灯していることで自動遮断が正しく行われていることが確認された。

衝突の瞬間。フロント部のパーツが飛散している様子が分かるまず油脂類や電解液の漏れがないかを確認し、それを受ける青いトレイが床に置かれる液類の漏れの確認が終わると、係員が状態を写真に記録しはじめる
トランクに設置された計測機器にPCを接続して衝突時のデータを吸い上げるトランクの計測機器。車体各部やダミー人形の衝撃などのデータが記録される
車体全部とアルミハニカム。どちらも激しく破損している別アングルから。手前に落ちているのは左ライト。エンブレムも飛散している

 次に、乗員の救出が試みられた。運転席ドアはフロント部分の変形によりスムーズには開かないが、係員が力を入れることで開けることができた。また、車体の変形によって乗員が挟み込まれていないか、シートベルトの引き込み量なども確認され、乗員を無事に救出できることなども確認された。

エンジンルームは大きく変形し、衝撃を吸収したことが分かるフェンダーが歪んでいるためドアは開きにくくなっているが、係員が力を入れることでドアは通常の位置まで開けることができた室内左側のケーブルはシートベルト繰り出し量を計測するもの
車外に取り付けられた高電圧の自動遮断装置作動確認用LEDランプ。消えているので遮断装置はきちんと作動しているようだ運転席のダミー人形。車体などに挟まれてはおらず、車内からの救出が可能なことが確認された後部座席の女性型ダミー人形。こちらも救出可能とのこと。頭部右上に後部座席撮影用カメラが見える
後部座席用カメラは天井の一部を切って取り付けられているカタパルトが床に設置された加速エリア。床に走る2本のラインがカタパルトの走行するレール

場内のテレビモニターで再生された衝突の瞬間の後部座席の様子
ちなみにこちらは2011年前期に試験された日産「リーフ」のオフセット衝突の様子
リーフのオフセット衝突。高速度撮影
リーフのオフセット衝突。車内高速度撮影
リーフのオフセット衝突。前面から高速度撮影。ルーフ部で光っているのは衝突の瞬間を示すもの

ISO FIXチャイルドシート前面衝突試験
 続いて、別棟に移動してISO FIX(共通取り付け金具)チャイルドシートの前面衝突試験が行われた。チャイルドシートは台車に固定され、その台車を55km/hで打ち出すことで、自動車が前面衝突したときと同様の衝撃を発生させるというもの。試験に使用されたチャイルドシートは、2011年7月に発売された乳児/幼児用タカタ「taka04-i fix」で、体重18kgまで対応する。

 チャイルドシートには、3歳児程度の身長95cm、体重16kgのダミー人形を搭載。そのときのチャイルドシート取り付け部の破損状況や、ダミーの頭部や胸部に加わる合成加速度、頭部の前方への移動量、ハーネスやシールドなどの拘束によってダミーに与えられる加害性などを計測する。

 これらの結果を3段階または2段階で評価し、それに基づく評価を「優」「良」「普通」「推奨せず」の4段階で表す。なお、衝突時の頭部の移動量と衝突によって頭部に生じる合成加速度は、新基準による評価値となっている。

試験場全景台座前部に計測機器が搭載されている。右側に打ち出し用のエアシリンダーが見える衝突の瞬間。チャイルドシートがイス(オレンジ色の部分)から浮き上がっているのが分かる
台座が静止すると記録用の撮影が始められる撮影が終わったら一度台座を押して元の位置に戻されたほかの試験と同様、記録機材にPCを接続してデータを吸い上げる
試験では車両への取り付けも試される。使用するボディーは日産「エルグランド」

 台座にはほかの試験同様にデータ収集用の機材が搭載され、チャイルドシート試験では台座を高圧のエアシリンダーで打ち出して試験を行う。また、ほかのテスト同様、試験は高速度カメラで撮影するために複数の照明に照らされる中で行われた。

 なお、写真では見えないが、子どもの頭部にはマーキングがしてあり、衝撃による移動量も分かるようになっていると言う。打ち出した台車が止まると、まず係員が各部の状態をカメラ撮影して記録を行う。そのあと台車ごとを元の位置に戻して、PCに接続してデータの吸い上げを行い、高速度カメラでの撮影画像を合わせて評価が行われる。

歩行者脚部保護性能試験
 今回から本試験に追加されたのが、歩行者の脚部を保護する性能をテストする歩行者脚部保護性能試験。バンパー下端の高さが425mm未満のクルマに適用される。試験車両は、2008年10月に発売されたスズキ「スプラッシュ」。フロントエアバッグとサイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグを標準装備する。排気量は1,242ccで、車両重量は1,050kg。駆動方式は2WD(FF)、乗車定員は5名となっている。

 試験は、大人の男性の脚部を模したダミー「脚部インパクタ FLEX-PLI」を衝撃装置に試験車のバンパーに向けて40km/hで発車し、脚部の各部分での障害値を計測する。このインパクタは日本が主導で開発し、アメリカのダミーメーカーで生産している。外部に巻かれたカバーで肉部を、インパクタの中にあるグラスファイバーの芯で骨の曲がりを再現していると言う。この脚部インパクタは現在、国際的な使用が検討されているとのこと。

 脚部の障害値を計測する場所は、試験車によって2~6個所と異なっている。評価には、3分割した各試験エリア内でもっとも障害値が高いとい思われる1点または2点を選定し、試験により得られた障害値を得点化して4点満点中2点までをレベル1、それ以上から満点までの間を3分割してレベル2からレベル4の4段階で評価する。

 この試験は国の基準導入に先駆けて評価を開始したもので、国の基準導入後は試験速度を1割増しの44km/hにすることを検討していると言う。なお、インパクタを脚部だけにし、クルマではなくインパクタをクルマにぶつける方法を採っている理由については、試験の再現性を重視した結果としている。

試験場の様子。車体を固定してそこにインパクタを打ち出すため、試験場は狭い縦に赤いものがインパクタ。その右にあるのが打ち出すためのエアシリンダーあっという間に試験は終了
試験後すぐに状況を記録していく高速度カメラによる衝突直後の様子インパクタ内部に記録された衝突時のデータをPCで吸い上げるのはほかの試験と同じ
試験後、バンパーを取り外して衝突の状況を解析する手前にあるのが現在使用しているインパクタ。使用時には赤い緩衝材が巻かれる。奥にあるのは単純な構造の従来型インパクタ
内部にグラスファイバーの芯(アルミ製のフレームの裏に見える白い部分)が入っている係員が自分の足と並べて解説して下さった。長い方がすね側になる

側面衝突試験
 最後に、ふたたび大型の試験施設に移動して、前面衝突に次いで障害程度の大きな衝突形態とされる側面衝突の試験が行われた。

 試験では、運転席側にダミー人形を乗せた静止状態の試験車の運転席側に、乗用車の前部に見立てた一般的な乗用車と同様の堅さを持つアルミハニカムを付けた、950kgの台車を55km/hで衝突させるもの。この台車衝突時に、ダミー人形の頭部、胸部、腹部、腰部に受けた衝撃をもとに、乗員保護性能が5段階で評価される。

 試験車両は、2011年1月に発売されたアウディ「A1」で、グレードは1.4 TFSI スポーツパッケージ。フロントエアバッグ、サイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグを標準装備する。排気量は1,389cc、車両重量は1,190kg。駆動方式は2WD(FF)、乗車定員は4名。

試験会場の様子試験直前にボディーサイドに衝突検知用のセンサーを取り付ける前面にクルマの前部を模したアルミハニカムが装着された台車。重さは950kg
試験直前に台車はカタパルトで引き離される衝突の瞬間。エアバッグが作動し、部品が飛散しているのが分かる車両が完全に停止すると、記録のための撮影が開始される
トランクに搭載した計測機器にPCを接続、データを吸い上げて確認ボディーサイドの様子。ドアは完全にへこみ反ってしまっている。ドアウインドーは割れていないが、ドアから外れている真横から。ドアミラーは外れてサイドカーテンエアバッグが展開しているのが見える
室内の様子前方から。運転席の前にあるのは衝突の瞬間に光るランプクルマの前部を模したアルミ製ハニカム
ただのハニカム構造ではクルマに矩形に力が加わってしまうため、薬品で先端に行くに従ってアルミが薄くなるように加工しているアルミハニカム背面のパネルには穴があけられ、ハニカム内の空気が逃げるように配慮されている

高速度カメラによる衝突の瞬間の様子
トヨタ「ヴィッツ」による側面衝突試験の様子
高速度撮影による衝突の様子
衝突時の室内の高速度撮影動画
正面からの高速度撮影

 アルミハニカムを付けた台車は、オフセット前面衝突試験と同様に試験設備床面に設置されたカタパルトで加速し、カウントダウンとともに試験車に衝突。すると、場内に大きな衝突音が響き、試験車の側面には巨大な凹みができ、試験車は衝撃で大きく動いて停車した。試験車が完全に停止すると、ほかの試験と同様、係員による記録撮影が始められる。トランクルームには各種計測機器が搭載され、車体やダミー人形の衝撃データなどが記録されている。試験車で計測した値をPCで解析するのはもちろん、台車でも衝撃などが計測されこちらのデータもPCに吸い上げられ、試験車の各種データとともに解析されると言う。

 最後に質疑応答が行われた。自動車アセスメントと国土交通省による認可時の審査を同時に行えないのかという質問が挙がったが、国土交通省での審査は市場に出る前の試作車によるもので、市販車を使った自動車アセスメントとは性格が違うものであることが説明された。審査では、必要最低限の安全性が確保できるかを試験し、それをクリアできないものは世の中に出してはならないというものに対し、自動車アセスメントではより高いレベルで試験をして安全性能を評価するものであるため、同時には行えないと言う。

 また、すべてのクルマで自動車アセスメントと同様の試験を行えないのかという質問には、「国土交通省の審査ではクルマに条件の厳しい、一番性能のわるい部分のテストを行うものに対し、自動車アセスメントではユーザーのニーズにマッチするという観点で、世の中の売れ筋で、ユーザーに購入されているクルマをピックアップしてテストするという目的などが異なるため、一緒にはできない」と解説された。

(平 雅彦)
2012年 1月 20日