日産、栃木工場で生産する新型「シーマ」の取り組みを公開 塗装工程、組立工程、品質検査工程で“匠”の技を披露 |
工場長の黒澤良二氏 |
日産自動車は、新型「シーマ」の生産を担う栃木工場の見学会を開催し、同工場の取り組みや、新型シーマにおける品質向上への取り組みなどを公開。工場長の黒澤良二氏がその概要を説明した。
栃木工場は東京から約100km、宇都宮から約15kmに位置する栃木県河内郡上三川町にあり、敷地面積は約293万m2(約92万坪)と、ディズニーランド6個分の規模を誇る。1968年にアルミ・鉄の鋳造部品の生産を、1969年にアクスルの機械加工・組立を開始し、1971年の組立工場の完成に伴い車両の最終組立までを行う一貫生産体制を確立した。さらに実験部や全長6.5kmの高速耐久テストコースなども敷地内に含まれるとともに、高い技術力や生産能力を誇ることから同社のマザープラントに位置づけられる。
鋳造工場では、シリンダーヘッド、サスペンションメンバー、ナックルステアリング、デフケース、カムシャフトなど、エンジンやアクスル関連部品の生産を行う。また、車軸工場ではサイドギヤ・ピニオンメイト、デフケース、ファイナルドライブを含むリアアクスルモジュールの加工・組立が行われている。
組立ラインは2本で、第1ラインで13万5000台/年、第2ラインで12万5000台/年の車両を生産している。第1ラインではGT-R、スカイライン/スカイライン クーペ、フェアレディZのほか、海外向けのG37/G37 クーペ/G37 クーペ コンバーチブルなどが、第2ラインではフーガ/フーガ ハイブリッドのほか、インフィニティブランドのM/FX/EXなどが作られる。なお新型シーマは第2ラインで生産されることになる。
入り口には「NISSAN」と「INFINITI」のロゴが掲げられる | 栃木工場ではGT-Rの生産も行われている |
同社は2016年に世界市場シェア8%、営業利益率8%という目標を掲げる中期経営計画「日産パワー88」を発表しており、目標達成のための戦略として「ブランドパワーの強化」「セールスパワーの向上」「クオリティの向上」「ゼロ・エミッション リーダーシップの有効活用」「事業の拡大を通じた成長の加速化」「コスト リーダーシップ」の6つの柱を軸にしている。
この目標を達成するために、栃木工場においては「ブランドパワーの強化」「セールスパワーの向上」「クオリティの向上」「コスト リーダーシップ」の4点を重要課題に挙げている。
特に、日産ブランドがグローバルで自動車業界のトップ・グループに入ること、またインフィニティブランドがラグジュアリー・ブランドのリーダーになるためには製品品質の向上は欠かせないとし、「つまらない不具合でお客様の期待を裏切らないことを念頭に置いている」と、黒澤氏は言う。また、「品質No.1」を勝ち得るための施策として、車体の生産~出荷で役目を終わらせるのではなく、ディーラー、日産車を購入したユーザーまで目を向け、不具合のみならずどういった点に不満を感じているのかを現場で聞き、「それを四の五の言わず“超速”で改善する」(黒澤氏)取り組みを行っていると言う。
また、コスト リーダーシップを目指す取り組みとして、これまで生産部分を見てきた工場長が、2012年度からは部品の購入、部品輸送、生産、車両輸送など、すべての活動のリーダーとなって牽引していくことになると言う。
品質検査を受けている新型シーマ |
■最高級車「シーマ」で行われる特別な取り組み
当日は新型シーマで行われている、「最高品質」を実現するためのさまざまな取り組みについて紹介された。
同社の中でも最高級車に位置づけられる新型シーマでは、プレス工程、車体工程、塗装工程、組立工程、品質検査工程で特別な取り組みが行われており、これらは「匠」と呼ばれる同社の高技能者だけが担うことができる。今回の取材では、塗装工程、組立工程、品質検査工程の作業現場を見学することができた。
一枚の平らな鋼板をクルマのボディーに加工するプレス工程では、新型シーマのデザインコンセプトである「勢」「艶」を具現化すべく、型製作段階から工場に圧型を持ち込み、匠がミクロン単位の歪みを修整すると言う。
また車体工程では、ラインに乗るシーマをハネダシ(ラインから外してチェックを行うこと)をし、外観のチェック、建付けの微調整などを行う。建付けの確認はレーザー測定で行われるが、これらの作業はすべてのシーマで実施されている。
塗装工程も力が入る。塗装面は、デコボコしていると光の反射が均一にならないため美しく仕上げることが難しい。塗装の表面には「短波長」「中波長」「長波長」と3種類の波が存在するそうで、それぞれの波がなくなるほど塗装面が鏡のようになる。鋼板に前処理を施し、電着、中塗り、上塗りと重ねるにつれて光沢がでるのは、細かい波の振幅が減少するからだと言う。しかし、新型シーマの両サイドの上部は複雑な面で構成されるため、「ロボットがこれだけ曲がりくねったところを同じ力で平坦に磨いていくということは、非常に難しい」(黒澤氏)。
そのため、従来の下塗り→第1中塗り→第2中塗り→ベースコート→トップクリアコートという塗装工程の第2中塗りの後、匠による水研ぎ作業を追加した。この水研ぎはシーマだけで行われる作業で、塗装の平滑性を高めるために行うと言う。ちなみにこの作業を行えるのは栃木工場にも4名しかいないそうだ。
塗装工程では、従来の下塗り→第1中塗り→第2中塗り→ベースコート→トップクリアコートという塗装工程の第2中塗りの後、匠による水研ぎ作業を追加した。水研ぎ用のペーパーには1000番が使われる。最後の写真に写っているシーマ本体のピンク色の個所が水研ぎ作業を行う部分となる |
組立工程では、車体が組み上がった最後に特別点検を行う。この特別点検を行う作業者は、品質評価システム「VES(Vehicle Evaluation System)」の上級認定者の手によって行われ、点検ラインから外して点検ないしはリペア修正を行い、その後さらに全数建付けを測定をすることで出荷保証している。建付けの計測は新型シーマから採用されるデジタル計測器が使われ、全車108個所の計測が行われる。余談だが、かつては「プレジデント」でも同作業が行われていたと言う。
組立工程の最後に行われる特別点検の様子。当日は女性の上級認定者が点検を実施。点検時間は約1時間かけて行われ、目視とともに実際に車体に触って確認したり、ウインドーの挟み込み防止機能が作動しているかどうかの確認などを行っていた。女性作業者の確認の後に、さらにデジタル計測器による建付けの計測も行われていた |
そして最後の工程となる品質検査工程では、全車「匠」による2名評価で点検とテストコースでの走行評価が行われる。この点検は、匠の中でも栃木工場で10名しかいないと言うグローバル評価認定者が実施し、最終チェックを工場長の黒澤氏が行った後、問題がなければ高品質の証である「品質検査確認書」に黒澤氏が直筆でサインする。
実走行による特別点検の様子。この点検もシーマ全車で行われ、匠2名により実走行に不具合がないか、また後席に座って建付けに問題がないか、異音などがしないかのチェックを受けていた。この特別点検を受け、無事合格した車両には工場長の黒澤氏が直筆でサインした「品質検査確認書」が載せられる |
(編集部:小林 隆)
2012年 4月 25日